麻布・外資系にお勤めの日本人

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麻布・外資系にお勤めの日本人

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はじめに
  この物語はフィクションであり、登場する人物・団体等は実在のものではない。
 ただし、著者が慣れないもので「朝日新聞社」を「夕日新聞社」というような安易な言い換えしか考えられず、本編に登場する人物の本名が北山だったら、南川という名前にする程度の発想しかできなかった点、ご了承頂きたい。
 時代はかれこれ30年前、バブル絶頂期のころの話である。

【朝】
  その朝、西麻布にあるアメリカ資本の外資系医学専門出版社の営業部に定刻より30分遅れていつものように出勤した北よねは、自分のデスクに着くなりコンパクトを取り出して化粧を始めた。(あ、いけない。つい本名を出してしまった。出だしからこれじゃ駄目だ。『単語登録』をして、北よねと打っても東いねと出るようにしておこう)
  眉毛を描くのに大きく口を開けて顔を左右に振っている東いねを見て、営業課長の須藤はわざとらしく大きな咳をして、東いねの隣の席に座っている栗田に声をかけた。
  「栗田君。日経薬業さんの見積りはどうなっているかね」
  本当は東いねを怒鳴るか、もうみんなは仕事態勢なんだぞと厭味のひとつも言ってやりたいところなのだが、須藤はそれができなくていつもこのような言い方で周りの部下に声をかけるのだった。
  「えーっ、それはぼくじゃないですよぅ」
電話をかけようとしていた栗田が間延びした声で応えた。 
  「そうか、そうか、じゃ小柳君。日経薬業さんの見積りはどうなってるかね」
  「私じゃありません」
  びしっと言って小柳は営業に出かけるため、立ち上がった。
  「あー、そうか、そうか、悪かったね。えーと」
  「一昨日、提出しましたよ」
  やってられないという声で課長補佐の須藤が答えた。課長の須藤と同姓のため、社内ではジュニアと呼ばれているが本人は気に入らない。映画インディジョーンズを観てショーンコネリーがハリソンフォードをジュニアと呼んでいたのにかぶれた課長の須藤が、彼のことをジュニアと呼ばせるようにしたのである。そしてあわせて自分のことを須藤パパと呼ぶように通達した。ジュニアという言い方は口調のよさもあって割りと広まったが、須藤パパのほうは誰もそう呼ばなかった。
  「あー、そうか、そうか、出てたっけね」
  ほとんど愛想笑いを交えながら須藤パパが言った。
  「ハーだ」
  東いねが、また馬鹿言ってるわという声をだした。彼女はこれが自分に対する厭味なのは充分知っていたが、いつものように須藤の知能の悪さを露呈しているものだと思った。はっきり、自分にむかって遅刻するんじゃないって怒ればいいのに情け無いやつぅ、と軽蔑した横目で須藤を見た。明日はどんなパフォーマンスを演じて自分を笑わせてくれるのかしらね、麻布の外資系にいるんだからもうちょっとセンスのある言い方をしてくれれば私だってやさしくしてやるのに、会社の帰りに松戸のストリップを観てるようなおじさんじゃね。と、パチンと音をたててコンパクトを閉じると、「さーて」と声をあげ立ち上がった。仕事にとりかかるためでなく、台所で自分用のコーヒーをいれに行くためである。
  彼女が部屋から出ていったあと、須藤が残った部下に聞こえるように言った。
  「なんだ、あの女はいつも何をしに会社へ来てるんだ」
  もっとも、彼女がマグカップの縁からコーヒーを床にこぼしながら席に戻って来たときには、須藤はうつむいて書類を読む振りをしていた。
  こうしていつもの朝が始まった。


【就業】
  10時になって、こちらもいつもの時間通りに社長のホワイトが出社した。ホワイトの場合、社長だから何時に来ようと問題はないし、自分が来たときには社員が全員出社しているので彼は満足している。
 「グッドモーニング」、にこにこ笑顔を振りまきながらホワイトは社長室へ向かった。
 「グッドモーニング、東サン」。東いねにウィンクをして通り過ぎた。
 「ハウアーユー、スドーサン、グッド?」。須藤にもあいさつをして自分の親指を立ててみせた。陽気なアメリカ人なのである。
 「グッドモーニング、ミスターホワイトさん」。須藤があごを前に突き出すようにして大声で言った。「ミスター」と「さん」がだぶっているのに須藤はずーっと気づいていない。なにごとも丁寧なほうがいいと思っている男である。
  他の若い社員は、ホワイトが自分に言っていると思っていないから黙っている。
 「モーニン、ジョージ」。慣れた口調で東いねがホワイトにあいさつした。英語は副社長の吉原の次に彼女ができる。若いときにアメリカに留学していたというのが彼女の自慢である。名前から想像がつくように、東はそれほど若くない。40歳を過ぎているのは明らかだが、50歳まで行っているようには見えない。ただ、アメリカ留学もプロペラ機で行ったというようなことを本人が何かの折りに洩らしたことがある。それが、何年前のことか知ってる人間はいないし、彼女の正確な年齢を知ろうとする者もいないから、東いねは50歳前後だろうということですんでいる。
 独身である。
 アメリカ留学中に激しい失恋をして以来独り身を通していると本人が言っているが、社内の若い男性への接し方を見るかぎり真意のほどは疑わしい。
  ホワイトは東からジョージと呼ばれることを気にしている風はないが、須藤からすれば自分がうまくしゃべれないこともあって、彼女がそんなしゃべりかたをするのが気に入らない。社長に対してそんな口を利くのじゃない、と一度東に注意したことがあったが「外資系だし、ジョージが気にしてないんだからいいじゃない。アメリカでは当たり前のことよ」と一蹴された。
 たしかに、ホワイトと吉原はおたがいをジョージ、ミツオ、と呼び合っているが、吉原はホワイトがアメリカにいたときからの付き合いだと聞いているし、立場も社長と副社長だから不自然さを感じないが、東の言うことはどうも納得がいかなかった。
  英語の能力と外国人に対するコンプレックスもあり、須藤は東がホワイトに取り入っているようにずーっと感じていた。絶対に自分のほうが仕事ができるのだし、東は会社で遊んでばかりいるのだとホワイトに言いつけたかったが、そんな英語力は須藤にはなく、せめて吉原に訴えておきたいと思っても吉原は海外出張が多く、たまに日本にいるときにそんなことを訴えたら、部下の管理も充分にできないのかと逆に自分が査定の対象になるような気がして、須藤はなにも言えなかった。
  自分が英語ができるようになりさえすれば、東に好き勝手はさせないぞ、と、あるとき決心して個人レッスンを習おうとしたが、講師としてやって来たのが小錦の女性版のようなアメリカ人で、おまけにひどい腋臭持ちだったので、あわよくばいい仲になってベッドで英語を教わろうと夢見ていた須藤の意欲は消滅した。英語を習おうと本気で思っていたのか、金髪の女性と仲良くなることを期待していたのか、とにかく須藤は英語を習うことを断念した。
  ホワイトが社長室に入った後を追うように、東がコーヒーカップと受け皿を右手と左手にそれぞれ持って、社長室に入って行こうとしていた。彼女は社長と副社長にだけコーヒーを持っていく。立場からいけば須藤が直属の上司なので須藤にお茶をいれてもいいのだが、一度衝突してから須藤に対する態度を馬鹿にすることに決めてしまったのである。
  もともとこの会社は女性のお茶くみなどという制度はない。台所にあるコーヒーメーカーから各自が勝手にコーヒーをいれて飲むのである。社長といえども同じである。立食パーティふうに歩きながらコーヒーを飲む人間もいるからコーヒーがよく床にこぼれる。東もトレイにのっけて持って行くということをしないから、コーヒーをよくこぼす。いまも、社長室に入る直前にコーヒーをこぼしかけ、あわててカップに口をつけ少し飲んだ。それを上目遣いに須藤は見て、思わず「きったねえなあ」と声を上げた。
  「須藤さんが飲むんじゃないから関係ないでしょ。消毒よ、消毒」  そう言って、東は社長室に入って行った。 部屋の中から「オーサンキュー、ヒガシサーン」という大きな声が聞こえた。すぐに部屋から出てくればいいものを、何を話し込んでいるのか東はなかなか出てこない。ときおり二人の笑い声などが聞こえてきて、須藤は気が気でなかった。仕事のことで東が社長と話すことなどないはずである。
 新し物好きのホワイトはコンピュータがお気に入りで、会社に来るとすぐにラップトップ型のパソコンで通信を始める。東も個人的にニフティというパソコンネットワークに入っているので、パソコン通信ということでは熟練している。おそらくホワイトとはそんな話をしているのであろう。もっともホワイトが東を気に入っているとは思えなかった。ホワイトは英語が話せる人間と朝の雑談を楽しんでいるだけで、あとはただ気持ちよく日本人社員と仕事をしたがっているだけである。
  東がなかなか社長室から出てこないので、須藤はいらいらしていた。得意先に持って行く精算見積書を、東にワープロで打ってもらわなければならないからだった。須藤は御多分に漏れず、ワープロが打てない。コピー機の操作もいまだにできない。一度自分でコピーを取ろうとしたとき、先に使った人間がソーターにセットして解除せずにいたため、須藤がコピーしようとしたとき何回やっても目の前にコピーされたものが出なかったので、「最近のマシーンはだめだね」と大声でやって、見に来た栗田に笑われて以来、コピーも自分では取らない。そもそも自分ぐらいになれば、そんなことは下の人間にやらせるべきだと思っているのである。東に代わって若い女の子が入社してきたら、絶対に自分にお茶をいれさせてやろうと彼は思っていた。
  東が社長室に入ってもう30分にはなっている。
 相変わらずなかからはときおり笑い声が聞こえてくる。須藤が精算見積書を得意先の会社に届けるのは午後一番の約束である。11時過ぎには書類ができ上がっていないと落ち着かない。しびれをきらして須藤は社長室をノックした。
  ドアを少し開けて顔だけ突っ込み、そこでパソコン画面を見ながら楽しげにしているホワイトと東の両方を見て須藤はまたむっとした。椅子に座ってキーボードを操作しているのは社長のホワイトで、東はなんとホワイトの座っている椅子の肘掛けに自分のでかい尻をのっけて画面を見ているのだった。
 須藤を見てホワイトは「カムイン、スドーサン」と言った。須藤は愛想笑いしながら「サンキューミスターホワイトさん、バット」と言ってから、東にむかって「東さん。済みませんけど、至急のワープロがあるんですがお願いできませんでしょうか」と言った。
 「え、急ぎですか。午後じゃいけません?」と東。
 「午後一で持っていかなきゃいけないものなんですが」
 「そんなこと、いま、急に言われても」
 「昨日、東さんが帰ったあとにクライアントさんが電話してきて、5時ちょっと過ぎですけどね、今日の午後一番で持って来てくれと言うことになったんですよ」。
 須藤はさりげなく5時ちょっと過ぎという言葉を入れた。俺たちゃおまえさんみたいに5時になったら直ぐに帰るなんてできないんだよ、と暗に匂わせたのである。
 「ちょこちょことやってくれませんかね」。
 もう一度須藤は言った。二人のやりとりを聞いていたホワイトが東に何か言った。東がぺらぺらとまくし立て、ホワイトは大仰に肩をすぼめた。
 「ジョージが別にそんな仕事は急ぐことないって」
 東が須藤に言った。むっときた須藤は
「本当にミスターホワイトさんはそう言ってるんですか」
  須藤のこの言い方が気にいらなかったらしく、東は肘掛けから尻を降ろすと
「そんなんだったら、須藤さん自分で聞いてみたらいいじゃない」
 そう言って、ホワイトになにごとか言い、笑い声を上げて部屋を出ていった。
  残された須藤はあっけにとられたが、ホワイトはにこにこ笑顔を見せながら須藤が話し始めるのを待っていた。 何か説明しなければとあせった須藤は、東がホワイトに何と言ったのか考える余裕もなく、ただ「アー、エー、ミスターホワイトさん、アイアムソービジー、アンド、アイキャンノット、エー、アー、エクスプレス。サンキュー」
 怪訝な顔をしているホワイトに笑顔を見せて、須藤はあわてて社長室を出た。エクスプレイン(説明)という単語がエクスプレス(急行)になっていることなど気づきもしなかった。
  自分の席に戻った須藤はコホンとひとつ咳をしてから、階下の編集部に内線を入れた。
「あー、もしもし須藤ですが、山田部長ですか。こんにちは」
  みょうな会社である。朝のおはようは当然としても昼間は昼間で社員がこんにちはと言い合うのである。数時間前に須藤と山田は会社の入り口でおはようの挨拶を交わしていた。ただ、電話の向こうでも山田部長が同じようにこんにちはと言っているにちがいなかった。
  「ひとつお願いがあるんですが、お忙しいとは存じますがどなたかワープロのできる方が編集部にいらっしゃいませんでしょうか。ええ、ええ、何度も同じようなことをお願いするのは何なんですが、ちょっと東さんのほうも忙しくて都合がつかないものですから」
 ちらっと横目で東を見ると彼女は大きなあくびをしながら英文タイプのキーをつまらなさそうに叩いていた。  ワープロの方は電源も入れていない。しかし、電話のなかに東という名が出てきたときにじろっと須藤を見ると、「須藤さん、私やったげてもいいわよ」と、電話口の山田部長に聞こえるような大声で言った。
 こんどは須藤のほうでそれを無視して山田部長と話していたが、山田から東さんやってもいいと言ってるじゃないですかとでも言われたのだろう。「はあ、そう致します」と力なく受話器を置き、「それじゃあ、東さんすみませんねえ」と、本当は腹だたしいのだけれど下手にでて、手書きの精算見積書を東に渡した。
  「なーにこれ、須藤さん。ちゃんと清書してくんなきゃ、読めないわよ。会社の書類なんだから、こんな勘亭流みたいなんじゃだめよ。ま、私だから読めるけどね」
  須藤は勘亭流というのがどんな文字か知らなかったが、東が言うのだからどうせろくでもない書体にちがいないと思った。が、とにかく得意先に見積書を持って行く時間が迫っていた。
  「あははは、そうですか。カンテイリュウですか。やっぱり政治家向きかね。私は。あはは」
  須藤は勘亭流を官邸流と理解したようだった。

  「あ、栗田君。東さんは?」
  手洗いから戻ってハンカチで手を拭きながら、須藤が聞いた。
  「さあ、食事じゃないですか」
  「そんな。書類はどうなってるんだ」
  須藤は声を荒らげた。さっき須藤がトイレに行くときはたしかに東は自分の席でワープロのキーボードを叩いていたのである。いま見ると、東の姿はなく、すでにワープロのスイッチは切ってある。須藤は、もしや打ち出された書類が自分の机に置かれているのではないかと思ったが、なかった。
  時刻はもう12時になろうとしている。いま出かけないと得意先に約束の時間に間に合わない。
須藤はあせった。
  「なにやってんだ。本当に、あの女は」
  ぶつぶつ言いながら、須藤は東の机の上を探した。書類が乱雑に置かれ、どれがどれだかまったく分からない。 書類の間に大判の女性雑誌が紛れ込んでいる。
  「本当に何考えてんだ、こいつは」 
  突然、須藤が声をあげた。
  「あー、こんなとこに」
  栗田は須藤が探していた書類を見つけたのかと思った。
  「あったんですか」
  「違うよ。ちょっとこれ見ろよ。この前、みんなで大騒ぎして探してた写真じゃないのか」
  「あー、そうだ。竹本薬品さんのパンフに使うんで入稿しようとして、失くなっててみんなで大騒ぎしたやつだ」
  「あのときだって、東さんもいたよな」
  「ええ、いましたよ。もっとも、一緒に探したりはしませんでしたけれど・・、でも、こんなとこにあったんですか。ひどいなあ」
  栗田も口をとがらせた。
  「とにかく、今は精算見積書だ。栗田君、きみも探してよ」
  須藤と栗田が二人して東の机の上の雑誌や書類をかきわけかきわけしたが、探し物は見つからなかった。
  「ちょっとお、ひとの机かってにいじらないでくれる」
  いつの間にか東が二人の後ろに立って、口をとがらせていた。
  「あっ、あっ、あっ、ごめんごめん」
  虚をつかれてどぎまぎした須藤は、まず謝ってしまったが、すぐに態勢を立て直した。
「東さん。頼んどいたワープロやっていただけました?」
  「やったわよ」
  「えっ、そうですか。もう出かけなきゃいけないんで、下さいませんか」
  言いながら須藤は、なんで課長の俺がこんな口の利き方をしなければならないんだと思ったが、腹が立つことがあってもクライアントを怒らせてはいけないという話し方が営業として身についてしまっていたので、彼は部下に対してもまともに怒ることができない。もっとも、須藤は人一倍ストレスが溜まりやすいたちなので、ときおり下請け業者を怒るときもあるが、それも面と向かっては怒れずに電話で怒鳴るだけである。
 「私、須藤と申しますが、はい、こんにちは。ところで、ちゃんとやったらどうなんだ」と、丁寧表現と罵倒表現を混在させた彼としては精一杯の怒りを示すのである。
  いま、東に対しても(どこに置いてあるんだよ、このバカ女め)という気持ちなのだけれど、口調だけはいつもどおりだった。
  「ちゃんと須藤さんのデスクに置いたわよ」
  「えっ、どこですか」
  須藤は自分の席にもどり、机の上を見回した。
  「ほんとに困るのよね。かってに人の机をいじられちゃ。午後の仕事ができゃしない」
  東はぶつぶつ言いながら、引き出しからタバコを取り出して火をつけた。            
「東さん。東さん。どこでしょうか、見つからないんですけど」
  気弱そうな声で須藤が言った。もう出かけねば間に合わない時間だ。
  東は黙って須藤の座席まで来ると、机の上のフロッピーを指でつまんで須藤の目の前でひらひらさせた。
  「ちゃんと見てよね」
  須藤は真っ赤な顔になった。怒ったのである。
  「な、な、な、な、なんですか。これは」
  「言われた書類を打ったんでしょ。それに入ってるわよ」
  須藤は口をとがらせて、東に何か言おうとしたが言葉が出てこなかった。
  「こ、こ、こ、これが書類ですか」
  明らかに須藤はあきれかえって怒っているのだが、口調だけは丁寧であった。
  「東さん。申し訳ありませんが、私、これじゃ読めないんでひとつプリントアウトをしていただけないでしょうか。お願いしますよ」
  「私、もう昼休みなんだけどなあ。プリントぐらい須藤さんだってできるでしょ」
  東がタバコの煙を天井に向かって吹きつけながら言った。
  須藤ができないのを知ってのことである。
  「ああ、そうですか。お忙しいですか。困りましたね。やっていただけないんですか。栗田君。どっかこの辺にワープロサービスのお店はなかったかね」
  売り言葉に買い言葉、須藤もひとこと厭味を言って栗田に声をかけた。
  ええ?という感じで栗田が須藤を見た。
  それを聞いて、じゃあ自分の仕事は終わったもう関係ない、という態度で東は自分の机に戻った。
  「そんなばかなこと。須藤課長。プリントぐらい僕がやったげますよ」
  栗田が言った。
  「あ、なんだ栗田君、君はワープロができるんですか」
  「いえ、打つのはできませんけどプリントぐらいなら、紙をセットしてスイッチを押すだけですから」
  「そうなんだよね。簡単なんだよね。じゃ、ひとつお願いしますよ」
  そうやって栗田が出した見積書を須藤は鞄に入れると、急いで社を飛び出して行った。
 
  須藤があわてて出ていった後、東はまた騒動を巻き起こしていた。
  須藤や東たち営業部と社長室はビルの7階にあり、編集部は6階にあった。
  編集部のスタッフには10名の日本人と2人の外国人女性がいた。
  外資系の会社だから、英語を全員がしゃべれるかというとそんなことはなく、むしろ日本人はほとんどが話せないというほうが正しかった。
  顧客のほとんどが日本の企業であるから、営業部で英語を必要とするのは社長のホワイトと話すときだけで、それもほとんどが副社長の吉原がやっていたのだが、編集部のほうでは海外の医学学会を取材して原稿を作成しているという建前からある程度の英語力が求められていた。ところが、10名いる日本人スタッフのなかで本当に英語がしゃべれるのは部長の山田と、米本という女性編集部員の二人だけで、残りの日本人は編集者としての経験は豊富であったが、英語に関しては須藤と似たり寄ったりだった。営業が得意先から海外での仕事を取ってくるときは、うちは外資系ですから編集部は全員英語がペラペラです。などと出まかせをいうものだから、編集部員が先方と打ち合わせに行くときなど意味もないのにワシントン・ポスト紙などを小わきに抱えていなければならないのである。
 相手の会社が日本の企業ならそれで済むが、同じような外資系の場合には、先方の担当者が外国人のときもある。そのようなときは、山田か米本が出かけていくしかなかった。
  そんなことで仕事に困らないのかというと、それが困らないのである。海外の学会取材といっても、現地ではテープ録音をするだけで、それを日本に持って帰って外注の業者に翻訳させ、それを素材に編集すればいいのだから英語など話せなくても充分仕事はできるのである。ただし、仕事を取ってくる建前上、全員英語に堪能だということになっている。
  どの程度の語学力かというと、編集部員の中根が残業をしているときに7階のホワイトから内線で山田部長に電話がかかり、たまたま電話を取ってしまった中根は、すでに山田は帰宅していたのでそれを言うつもりで「ヤマダ、ゴー、ホーム」と、どこかのシュプレヒコールのようなことを言ってしまったのである。そしてその電話を切ったあとで隣の席の村山から「中根さん、今の英語おかしいよ。ヒー、イズ、ゴーンと、過去完了形で言わなきゃ」と指摘され、「あ、そうだった」というどっちもどっちの程度なのである。ちなみにヒー、イズ、ゴーンは、彼は戻れないところへ行ってしまった(彼は死んだ)と言う意味になる。
  さて、編集部のなかの二人の外国人とは、リンダとリズというアメリカ人とイギリス人で二人とも二メートル近い大女であった。その名前と体型から二人はLLシスターズと呼ばれていた。
  日本人スタッフが充分に英語が分からないのをいいことに、彼女らは大きな声で朝からぺちゃくちゃおしゃべりをするのが日課だった。部長の山田はにがにがしく思っているのだが注意はできない。彼は外国人に弱いのである。そして何より金髪に弱い。山田は須藤に劣らず根が好き者で、海外出張のたびにいかがわしい場所に行き、すでに二度ばかり泌尿器科の世話になっている。機会さえあれば一度LLシスターズのどちらかと、などと考えている男である。
  LLシスターズが仕事中におしゃべりをすることに対して、若い編集部員が一度山田に苦情を言ったことがある。英語の内容は分からなくても、ケラケラ笑い声が会話の中にあれば仕事の話じゃないことぐらい誰だって分かる。
  その若手部員が山田になんとかしてくれ、と言ったとき山田はこう言った。
  「社長が外人だし、外人同士の結び付きは強いんですよ。いくら我々が正しくてもリンダがミスターホワイトに何か言ったら、私が睨まれてしまうんですよ」
  これを聞いて別の若手部員が、「じゃ、俺が言いますよ」と、ある朝LLシスターズがしゃべっていた時に突然立ち上がり「シャラップ」とやった。ところがその日にかぎってどういうわけか彼女らは仕事の打ち合わせをやっていたのである。山田があわてて飛んで来て、「馬鹿野郎」と、その若手を怒鳴り、LLシスターズに対しては「どうか怒らないでくれ」と頼んだのである。
  その後、日本人編集部員だけを集めて山田は言った。「通訳でも何でもするから、どうか彼女らを怒らせないでくれ。君たちは、あまりにも外資系の会社を知らなさすぎる」
  山田も部下に人望がない。
  LLシスターズは日本が長い。かなりの日本語が分かるはずなのだが、会社ではけっしてしゃべらない。分からないふりをしている。
 
  7階から書類を持って東が下りて来た。東は編集部員の藤川に惚れている。藤川は東より一回以上若い。戦前、戦後という分け方をするなら、東が戦前生まれで藤川は戦後も戦後、先の東京オリンピック以後の生まれぐらいの差がある。年齢差から来る貫祿もあろうが、入社して間もない藤川は気が弱く、押しの強い東から何か言われると断れない。
  「藤川君。今日あいてる?」
  大きな尻を藤川のデスクに乗せて、足をぶらんぶらんさせながら東が言った。
  「えっ?、あっ、はっ?」
  急なことで、でまかせの言えない藤川はどぎまぎして言葉にならなかった。いつもこうである。
  「ちょっと、付き合ってくんない。話があるのよ」
  周囲の耳も気にせず、藤川の引き出しから勝手にタバコを取り出しながら言った。藤川がうつむいたまま黙っているのをどうとらえたのか
  「大丈夫よ。私だって山田部長とおんなじダンコンの世代だから、男女の関係になんか君とはなかなかならないわよ」
  (ダンコン?・・・男根?)
  藤川の頭はパニックになってしまった。
 「東さん。それも言うなら団塊の世代じゃないですかね。それに同世代じゃないと思いますけど」
  山田が面白くもなさそうに言った。
 「あーはっ、はっ、はっ。そうか字が似てんだもんね。魂と塊で。はーっ、はーっ」
  大胆な笑い声を上げて、東は鼻からタバコの煙を二筋だした。
「じゃ、五時でいいね」
  勝手に決めつけて、東はタバコをもみ消した。
 そのままタバコを箱ごと持ち去ろうとする。あわてて、藤川が言った。
  「あ、あの、ぼく今日はちょっと」
  「ちょっと何よ」
  「今日は、大学のときの同窓会があるんです」
  「同窓会?何時からだよ」
  東は急に機嫌が悪くなり、男言葉になった。
  「六時半です」
  「どこだよ」
  「新宿です」
  「なーんだ。じゃ、それまでには解放してやるよ」
  「え、でもこの前も東さん、そんなこと言ったけど、結局終電まで付き合わされたじゃないですか」
  「昔のこったろ。根に持つなんて男らしくないぞ。とにかく五時ね」
  こうして颯爽と言い残し、からだを揺すりながら東は消えた。
  この東の態度にLLシスターズが、騒ぎ立てた。はやりのセクハラだというのである。東が藤川に対して仕掛けているというのである。
  彼女たちが日本語が分かるというのは、さっき述べた。彼女らは男根という難しい熟語も分かったのである。これは決して彼女たちの語学能力が特別に優れているということを表しているわけではない。
 一般に外国語を覚えるとき、最初は「おはよう」「さよなら」といった単純なあいさつであり、その次が「アイ・ラブ・ユー」関係である。そして、それから派生してというか興味のある単語としてセックス用語と罵倒用語を知るのである。英語で言えば「ファック」だの 「ガッデム」である。
  当然、LLシスターズもそのような道筋を歩んで来ている。
  以前なら彼女らも、社内で日本人が卑猥な冗談を言っていても無視していた。日本語が分からないふりをしていたほうが楽でもあったし、自分の周辺で話す日本人の雑談からいろいろな情報を吸収してもいたからである。日本語が分からないと思い込んでいるから彼女たちのそばで、上司の悪口や仕事の不満、失敗をいう日本人編集部員。それとなく聞いていて、何かのときにミスターホワイトに御注進に及ぶのである。それに卑猥な話題というのはそれなりに面白いものだった。
  ところが、時代はセクハラである。裁判が日常茶飯事のアメリカでも3大ネットワークのTV局が中継するほどの話題性・時代性である。遅れている日本人どもにも知的制裁を加えるときであろう。自分たち欧米人がいかに進歩的か示さねばならぬ。と、思ったかどうかは知らないが、東が藤川の席から7階に戻って行ったか行かぬか分からぬうちに、LLシスターズは顔を見合わせて二言三言語り合わせると、そろって大股に山田部長の席に向かった。
  腕組みをしたLLシスターズが二人して山田を見下ろすように立っている。
  両脇から見下ろされて山田はいい気持ちはしなかった。最近とみに頭が薄くなってきていて、気にしているのである。
  もっとも、今はそんなことを気にしているひまはなかった。さんざんわめき散らしたLLシスターズが、こんな環境じゃ仕事ができない、東をどうにかしろ、そうじゃなきゃ、自分たちは会社を訴えると言いだしたのである。
  東をなんとかしろと言われても、彼女は営業の人間であり、いくら部長という立場でも、部署のちがう編集のほうから直接本人に抗議するわけにもいかない。そもそも、あの程度の会話は日本人からすれば、セクハラでもなんでもなくむしろ笑いをさそうことである。ましてや、今回は明らかに言葉の言い間違いである。若い編集部員の中には、自分のデスクの前に公衆電話ボックスの中から取ってきたピンクちらしを貼っている者もいるのだ。LLシスターズはそれについて、今までなにも言ったことはない。
 表現はおかしいが、時節がら東がひっかかったとしか言いようがないいちゃもんであった。
  山田はとりあえず、須藤から注意をさせるからと言ってその場を収めようとしたが、なぜ須藤経由なんだ、私たちが問題にしているのは東なんだから東に直接注意しろ、と言ってきかない。山田は、自分が須藤に伝えるからということで彼女らが納得すれば、須藤にも言うつもりはなかった。とりあえずその場さえ納まればよいと思っていたのである。
  大きな胸を揺すりながら、両脇で二人ががなりたてる。(おっ、リンダはノーブラだ)などと思いながら、山田は山田にとっては取るに足りない話をまじめくさった顔をして聞くふりをしていた。
  そのうちリズのほうが、山田がちゃんと東に言わないんだったら、ミスターホワイトに言いつけると言いだした。そのひとことで山田はパニックになった。東のことだけを言いつけるのならいいが、きっと自分のことも編集部の長として失格だとかなんとか言いつけるにちがいないと思った。そして、自分がズボンのベルトをしていないことや、よく鼻を擦ることなどもセクハラだと言いつけるにちがいないと確信した。
 山田は両手を大きく広げ、「OK,OK」と言い、その場で内線をかけた。
  「あー、東さん。山田です。こんにちわ」
  つい5分ほど前に下りてきた東と話したばかりなのに、この挨拶である。
  「東さん、申し訳ないですけど、ちょっと来てくれませんか」
  山田が電話しているあいだじゅう、LLシスターズは、あれもセクハラこれもセクハラと、社員のだれかれの名を上げて言い合っていた。

  「なーに」
  気楽な調子で東が下りてきた。
  このときすでにLLシスターズは自分たちの席に戻っていたが、耳だけはしっかり山田の方に向けている。
  (どうしてこの女は、いつもこんな口の利き方をするんだ。なんでしょうか山田部長、と、どうして言えないんだ)
  「あー東さん。須藤さんが今お出かけのようなので、私からひとこと申し上げておきたいのですけどね。会社内でさっきのような発言は控えてくれませんか」
  東はぽかーんとした表情になった。特別意識してしゃべったりしていないから、さっきのことなどと言われても彼女にはなんのことやら見当がつかない。しかし、自分が注意されたことだけははっきり分かる。こういうことにはすぐ反撃する。なんでもいいから、申し訳ありませんでした以後気をつけます。などと言う処世術はない。
  「一体なんのこと?私が何言ったって」
 ことば強く山田に言った。
  「藤川君を誘ったこと?はーん、なんだ山田さん妬いてるの」
  東は鼻の穴をふくらませながら、おかしそうに山田に言った。しかし、冗談めかして言いながらも目には炎がちらちらしていた。やくざが、本気で怒る前にやさしい口調で語りかけるのと同じだった。
  不幸なことに山田は、東の鼻のふくらみを見ていなかった。
  「ばか言うんじゃありませんよ。私はね、東さんが誰と付き合おうといっこうに気にもしてませんよ。ただね、会社内で卑猥なことを言わないでいただきたいと言っているだけです。品性を疑われますよ」
  「品性? バカ言わないでよ。なんで私がそんなことを山田部長から注意されなきゃなんないのよ。冗談じゃないわよ」
  思わぬ口調に山田が目を上げると、東の鼻の穴がさらに大きくふくらんでいた。
  「だいたいさあ、海外出張して帰ってくるたびに、泌尿器科に行ってるのは誰なのよ」
 「ひ、東さん。どうしてそんなことを」
  山田はあわてた。
  「抗生物質のお世話にならなきゃならない人が、ひとのことを品性がないだのよく言えるわね」
  「東さん。そんな大声を出さないで」
  ここにきて山田の戦闘意欲は失われた。LLシスターズをはじめ、他の編集部員がみんな聞き耳を立てているところに泌尿器科の話題を持ち出されたのでは、完全に山田の負けである。山田はLLシスターズがこの件をミスターホワイトに言いつけるに違いないとあせった。
  山田が黙り込んでしまったので、東は意気揚々と尻をふりながら帰って行った。そのとき藤川に(ごらんよ、私勝ったわよ)というふうに笑顔を見せて行ったので、藤川はぞっとした。そして東が自分に親し気な態度を示せば示すほど、自分は山田ににらまれて立場が悪くなると確信じた。
  残された山田は上目遣いにLLシスターズをこっそり見たが、二人とも知らん顔をしてデスクに向かっていた。ホワイトに言いつけられないためにも、今夜二人にごちそうをしておいたほうがよいだろうか、山田は考えていた。

  一週間後の朝、経理から須藤に呼び出しがかかった。
  戻って来た須藤はまっさおな顔をして、自分の席につくなり東を呼んだ。
  「今、ちょっと手が離せないの。あとにしてくれる」
  「来てくださいと言ったら、来てください」
  須藤にしてはめずらしい強い口調であった。言いながら須藤の声は震え、くちびるの両端もぴくぴく痙攣していた。
  「もう、しょうがないわね」
  キーボードをひとつポンと叩いてから、よっこらせと東は立ち上がった。
  「東さんね、あんた大変な事をしてくれましたね」
  「はあ?」
 「はあ、じゃないでしょが。私はね、いまね、経理でね、さんざんね、しぼられてきたのですよ」
  「猫じゃないんだから、ね、ね、言わないでくれる」
  「ばっ、ばか言ってんじゃないですよ。本当に私は怒っているんですからね」
  「ふ~ん。ちょっと栗田君。一本ちょうだい」
  東は栗田に向かって指を二本突き出し、ちょきちょきの型をした。
  栗田は須藤の怒りが尋常でないのを見て取り、どうしたものかとちゅうちょした。
  「タバコなんかやらんでいい」
  須藤が怒鳴った。
  「私だって忙しいんだから、さっさと言ってよね」
  指をちょきの型で栗田にむけたまま、東が須藤に反撃した。
  「ちょっと、そこに座んなさい」
  「忙しいって言ってるでしょ」
  「すぐに済むからとにかく座んなさい」
  「いやよ」
  「いいから、座れ」
 「なんで座んなきゃいけないのよ」
  「とにかく座れ」
  座れ、座らないで話が進展しないので、見かねた栗田が自分の椅子を前に押しやって、
「じゃ、東さん。とにかく僕の椅子にでも座って下さいよ。それならいいでしょ」
  自分に都合の悪そうな話らしいので、座れ座らない論争に争点をすり替えてその場の話をうやむやにしようと図った東であるが、第三者の栗田からそう言われたのでは仕方ない。ここで栗田にまで食ってかかったのでは背後にも敵をつくることになり、論争には不利である。栗田を心情的に味方につけておいたほうがいい。
  「どうもありがとう」
  めったにない丁重さで栗田に礼を言ってから、東は栗田の送ってよこした椅子に半身になって腰を下ろした。
  コホンとひとつ咳をして、須藤は話を始めかけたが、座れ、座らないの言い合いで多少気力を削がれてしまったので、すぐに言葉が出てこなかった。
  「東さんね。私はね。いま経理でさんざん油を絞られてきたのですよ」
  斜にかまえたまま、東は黙っている。それで、とも、だからどうした、とも何にも言わない。黙って半分目を閉じた半跏思惟像のポーズで、須藤の口もとを見つめている。
  「ええっ、分かりますか。あなたのせいで怒られていたんですよ。ちょっとは反省したらどうですか」
  「何をさ」半跏思惟像がおごそかに口を開いた。
  「何をさ、だって?、大体ね、あんたはね、どうしていつもそんな口の利き方をするんですか。私はあんたの上司だよ」
  「あんたってことはないでしょ」
  「あんたで悪いのかね」
  「当然でしょ。会社を何だと思っているのよ」
  「あんたに、会社うんぬんを言われる覚えはないですよ」
  「また、あんたって言ったわね」
  「あー、あー、悪かったですよ、東さん。くそっ」
  「なによ、男らしくないわね」
  「お願いですよ、勘弁してくださいよ」
  聞いていた栗田がほとほと呆れかえった表情で言った。
  座れ、座らないから、今度は、あんた論争である。
  須藤はこの調子でいつも東のペースに巻き込まれてしまい、結局、言いたいことを言えないうちに話が終わってしまうのである。
  「あー、じゃあね、東さん」
  今回も引っ掛かりかけていた須藤であるが、栗田の再度にわたるホイッスルに、少し冷静さを取り戻した。
  「東さん。経理で私がさんざん怒鳴られて来たことは言いましたね」
  「別にめずらしくもないでしょ」
  「な、なん」
  何だその言いぐさは、という言葉を思わず飲み込んで、須藤は続けた。ここでまた東の言葉に反論していたのでは、話が進展しないのに気づいたのだ。
  「なぜ、怒鳴られたかというとですね、東さん。いいですか、あなたに原因があるのですよ」
  「なんでよ」
  「な、ん、で、す、か」
  当然ながら東は繰り返さなかった。
 こいつには言ってもしょうがないか。須藤は続けた。
  「いいですか、東さん。この前、あなたが打ってくれた精算見積書ね、あれに間違いがあったのですよ、東さん。とんでもない間違いですよ」
 ここで一度東の反応をうかがうように間を置いた。
「あのね、桁が違ってたんですよ。いいですか、小学生でも間違えないようなバッカなことを東さん、あなたはやってくれたんですよ」
  須藤は、バカに力を入れて言った。
  「一万と十万を間違えたなら、まだ救いがありますよ。もちろん、それだって恥ずかしいことですけどね。百万と千万の単位を間違うとは、これ、一体どういうことですか。ええ? ましてや、受注時の見積書じゃなくて、精算見積書ですよ。何千万円の損をするとこだったんですよ.いったい,どう、責任をとるつもりですか、始末書もんだよ」
   東は反撃した。
  「ちょっと待ってよ。なにが始末書もんよ。あたしが何をしたって言うのよ、冗談じゃないわ。あたしはね、須藤さんの原稿どおりに打ったんですからね。あのきったならしい原稿を昼休みもつぶしてやったげたんじゃない。それを何よ、始末書ですって、ばか言ってんじゃないわよ。感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはないわよ。だいたいどうして、経理が見積書の金額をどうこう言えるのよ」
  「あのね、あの日届けた見積金額と後で届けた請求書の桁が違うから、先方さんが驚いてうちの経理に今朝一番で電話してきてくれたんですよ」
  「あ、そう。じゃ、よかったじゃない。須藤さんのミスがカバーできて」
 半跏思惟像が笑って足を組み替えた。
 「なあに言ってるんですか、あんたは。先方さんが言ってきてくれたからいいようなものの、あの精算見積書の金額どおりに支払われても、こっちは何にも言えないんですよ。分かってるでしょうけど、あれには社判が押してある正式なものなんですからね。分かってんのかい、本当に」
 最後のほうを、須藤は吐き出すように言った。
 「あのさあ、須藤さん。繰り返すようだけど、あたしは須藤さんから渡された原稿どおりに打ったのよ。絶対に間違いないわよ。自信あるもん」
  「自信があろうとなかろうと間違ってたんだよ。だから、先方さんが言ってきたんでしょ」
  「あ、そう。じゃ、いいわよ。百歩ゆずって打ち間違ってたとしましょ。そんなはずないけどね。でも仮りに違ってたとしても見積書でしょ。請求書じゃないんだから見積書の金額を先方が支払うわけないじゃん」
 半跏思惟像の瞳に飛雄馬に似た炎が出始めた。断りもなく栗田の引き出しを開けるとタバコを取り出し、火をつけた。 
  「あのね、あなたは知らんのでしょうけど精算見積書の金額で先方さんは出金の準備をするのですよ。それが、桁が違ったおかげで何千万円かの予定外の出金になるわけですよ今度は。うちの精算見積書を信じて伝票を回した先方の担当さんの立場を考えなさいよ」
  「むこうのことなんか知らないわよ。担当の立場って言うんなら、あたしの立場はどうなのよ、こんな言いがかりをつけられて。だいたい、チェックもせずに持って行ったのは誰よ。チェックすべき立場の須藤さんが、やらなかったのが悪いんじゃないの」
  「ああ、おっしゃるとおりですよ。だから私が経理から怒られて来たんでしょ。もちろん、あんたがワープロの打ち間違いをしたんだなんて経理で言いやしませんよ」
  「当然じゃない。なに、それってもしかしてあたしをかばって言わずにいてやったんだぞって言ってるわけ?」
 不動明王に変身しつつあった。 
  「いや、そういうことじゃないですけどね」
  (実際、そのとおりだろうが。会社勤めしてるんだったらたとえ自分のミスじゃないと思っても、すみません御迷惑かけましたぐらいのこと言えないのか)
  須藤は、腹のなかでこう思っていた。しかし、口をついて出たのは別の表現だった。
  「そういうことじゃないですけどね。たださっきから言ってるように幸い何の被害もなかったとはいえ会社の信用をなくしたわけですから、始末書を出すべきだと思っているわけです」
  「それで、あたしに出せっていうの」
  東の鼻の穴が大きくふくらんだ。
  「いや、あなただけに出させはしません。私と連名で出しましょうと言ってるんです。私の監督不行き届きですから」
  「あ、須藤さんて、あたしの監督をしてたんだ。へーえ」 
  いかにも馬鹿にした口ぶりで言った。
  「それは知らなかったわ。監督ね。ま、どっちにしてもあたしは嫌だからね。だれが始末書なんか書くもんですか。須藤さん一人で出してよ、いいでしょ。大体、あたしらみたいな平社員が書いてもしょうがないでしょ」
  東はフーッと煙を吹き出すと須藤の机の上の灰皿にタバコを押しつけ立ち上がった。
  ぽかんと口をあけ、須藤は東を見つめていた。
  やがて、須藤の顔は赤色から青色に変わり、そしてまた赤色に変化した。須藤はどもって怒鳴りながら立ち上がった。
  「ひ、ひ、ひがしーっ、一体おまえは、おまえは、よーし分かった。どうしてもわしの言うことが分からんのだな。よーし、いいよ、いいよ、ミスターホワイトさんに言いつけてやる。待ってろ」
  須藤は額に汗を浮かべ、突然耳に鉛筆をはさむと腕まくりして立ち上がった。興奮しながらも須藤は、そういう格好がやり手のビジネスマンだという印象を他人に与えると信じていた。もっとも、東と話していたときに無意識に自分のすねを掻いていたようで、立ち上がった須藤のズボンは片足分がひざの上までめくれて毛ずねが見えているという不細工なものだった。
  須藤が勢い込んで社長室へ入って行ったあと、東は栗田に話しかけていた。
  「ね、あんまりだわよね須藤さんは。そうでしょ。人に無理やり仕事させといて、ちょっとしたミスを大騒ぎして。それだって自分のミスだのに。私がワープロで間違うわけないじゃないのよねえ。始末書だって。冗談じゃないわよね」
  懸命に栗田の同意を求めようとするのだが、栗田はあたりさわりなく「東さんも大変ですね」と言うだけである。
  「ちょっと、もう一本ちょうだい」
  栗田からタバコをもらい、火をつけてから大きくあくびをした。
  「本当にどうしょうもない人だわ、あの人は。私、転職しようかな、ね、一緒に辞めない?」
  「ええ? そりゃいいとこがあれば考えますけどね」
  栗田は、ここでもあたりさわりのない答え方をした。
  そのとき、社長室のドアが開きホワイトが須藤と話ながら出てきた。
  ホワイトの声が聞こえたか聞こえないかの瞬間、東は咄嗟にタバコをもみ消すと、自分の机に突っ伏した。
  須藤と話ながらやって来たホワイトは、びっくりした顔で東の後ろに立つと、「ヒガシサーン」と呼びかけたが、それにたいして東は、雨に濡れた犬が体を震わせて水を切るように、大きな体をぶるぶる震わせた。椅子がミシミシなった。
  ホワイトは肩をすぼめてから、いったいどうしたのだと、再度、東に話しかけた。
  のろのろと顔を起こしてホワイトを振り返った東の目には、ひとつぶの涙があった。それはさっきあくびをしたときに出たものだったが、それを知っているのは栗田だけでホワイトと一緒に出てきた須藤すら信じられないものを見る表情だった。
  東はそのまま泣きそうな表情で「ジョージ」と、ひと言だけいった。
  効果は充分だった。
  仕事上のことで泣く女性などというものは、外国人には信じられないに違いない。ホワイトは大仰に両手を広げ、須藤の顔を見つめた。そこには須藤を非難する目があった。しかし須藤にはわけがわからなかった。青天の霹靂だった。この女がなんで泣くんだ、社長に言いつけたというのがそんなにショックだったのか。最初の感想はそうだった。そして、ざまあみろという気持ちも味わった。しかし、どんな男も女の涙には弱い。さらに職場で泣く女というのは煩わしいものである。須藤もどうしていいか分からず、当惑してホワイトの顔を見返した。
  勢いこんで社長室に入っていったものの、どれぐらい正確に須藤がその意思をホワイトに伝えることができたかは疑問である。おそらく、ホワイトは、会話の断片から須藤と東の間に何かトラブルがあったということぐらいしか分からず、そのあまりの剣幕にとりあえず部屋を出てきたのであろう。
  ところが当事者の一方の東に事情を聞こうとして来てみれば、この状態である。東と須藤が衝突したのだろうということは分かっても、須藤の英語を聞いただけではその原因が分からない。仕事が原因で会社内で泣くということは理解できないから、結局、ホワイトはこれは痴話喧嘩のたぐいだと判断してしまった。そして、それだったら自分は関与したくもないので、彼は冗談めかして須藤に「セクハラ?」と言い、東にも「私は社内でそんな顔は見たくないよ」と言ってウィンクをして社長室に引き上げてしまった。
  残された須藤にとっては、とんでもない判決であった。自分の英語力のなさは分かっていたが、叱ってもらおうと訴えた自分が、東の涙を見せた演技力によって、よりにもよってセクハラはいけないなどと注意をされたのである。英語で言われてもセクハラの単語は分かったが、社長の冗談加減は須藤には通じていなかった。   
 「分かった?そうよ、ジョージの言うとおり須藤さんのは私に対するセクハラなのよ。やっぱり、社長ぐらいになる人はちゃんと見てるのね」
  ホワイトが社長室に入ったのを見届けてから、おたおたしている須藤に向かって東は自慢気に言った。
  返す言葉もなくへなへなと須藤は自分の席に戻った。東のかさにかかった言いぐさよりも、社長にセクハラだと言われたことの方が大きなショックだった。
  東の言うセクハラは単に社長の言葉のしり馬に乗っただけだから気にもしないが、ミスターホワイトさんの言い方は本当だった。社長は自分のことをそんな男だと思ったのだ。いままで自分と社長とはいい関係を保ってきたはずだ。英語はうまくできないけれど仕事をしっかりやる奴だと思ってくれていたはずだ。だのに、もう駄目だ。公私の別がはっきりしてる外資系だ、私事を持ち込んだと思われたに違いない。あー、もうおしまいだ。ちゃんと弁解をしたいけどできない。なんてこった、おまけによりにもよってこんな女とセクハラと言われるなんて。どうしたら、ミスターホワイトさんは分かってくれるだろう。鉛筆を耳にはさんだまま考え込んでいた須藤は、しばらくして思いついた。
  (そうだ山田部長から事情を説明してもらおう)
  須藤は内線で山田に電話を入れた。ところがあいにくと山田は出張校正に出かけていて今日は戻って来ないという。どうしよう、どうしよう。須藤は仕事が手に付かなくなってしまった。
震える手でタバコに火をつけて、東の席を見ると東がいない。
  また、6階の藤川のところで油を売ってるなと思ったが、5分経っても10分経っても戻って来ない。
  「あー、栗田君。東さんどーした?」
  余りにも遅すぎる。もしかして、ミスターホワイトさんのところへ行ってるんじゃないか。突然沸いた想像に須藤の心臓がどきどき脈打った。あの女のことだ駄目押しに行ったんじゃないか。そう思ったらそうに違いないと思えてしまったのだ。
心の動揺を見せないようにして聞いたつもりだったが、声が震えてしまった。
  「東さんならさっき帰りましたよ」
  「帰ったあ?」
  「ええ、須藤さんとのやりとりで気分が悪くなったから帰るって。須藤さん気づきませんでしたか」
  「何で俺に言っていかないんだ」
  ホワイトのところに行ったのでないのに安心はしたが、そうと分かると勝手に帰ったことに腹が立った。
  「いや、年休が残ってるから帰るって。そんで須藤さんが何か言ったらセクハラもいいかげんにしないと訴えるよって言っといてって言ってました」
  「ば、ばかやろう」
  須藤は怒ったが、あの女なら本当にやりかねないと思った。ただ、部下の栗田のてまえ
「よーし、あいつがその気ならこっちにも考えがあるぞ」
  と言ってはみたが、その実、須藤になにも考えなどあるわけがなく、せいぜい明日朝はやく出社して、山田から何とかホワイトにとりなしてもらうことを考える程度だった。
  「よーし、今日は俺も家で作戦を立ててくる」
  栗田に力強く言い置いて、須藤は鞄を下げた。
  「栗田君、石場製薬さんの所に寄って直帰するからね」
  (須藤さん帰りは松戸のストリップだな)
  栗田は、元気に声をかけた。
  「行ってらっしゃい。おつかれさんでしたー」


 「中根さん。三金玉さん、もう来ました?」
 「まだじゃないか。原稿封筒がカウンターにまだ置いてあるし」
 「あ、そうか。なら、よかった。写真差し替えが入ったんで」
 トレペをかけた写真に定規で赤鉛筆を走らせ、トリミングしながら村山が言った。
 「でも、中根さん。印刷所ってなんか三の字が付くところが多いですね。なんででしょうね」
 「そういやそうだね。うちに来ているだけで、玉田さんの三金印刷、三竹社、三角舎とか・・・」
 「三仁印刷、報三社」。
 「きっと、あれだよ。三越とか三井とかと同じで三の字が何か縁起が良いことを示してるんじゃないかな」
 「そしたら、あれですか、一とか五とか七とかもそうじゃないですか」。ほら、七五三とかシメ縄とか、第一勧銀や第七十七銀行とか、と村山が続けたところに三金印刷の玉田が現れた。社内編集部の男たちは、当初金玉さん金玉さんと言っていたが、さすがに女性もいる部内で露骨すぎると山田から注意が出て、三金玉さんと変わった。
 「まいど」
 本社のある関西からの転勤で、東京に来てもう5年近くになるのだが関西弁が抜けず、いつもこう言って玉田は入ってくる。用事がなくても毎日顔を出す。そんなに毎日来なくていいよなんかあったら電話するからと言っても、大阪では二日顔ださんかったらえらいご無沙汰やな入院でもしてたんか言われます。と、玉田。何もなくても顔を出すのが関西風の営業のようだ。
 玉田が来るようになって、編集部の男たちは「もうかりまっか」「ぼちぼちでんな」のやりとりを玉田と繰り返して笑っている。何が面白いのだか。
 玉田が持ち帰る原稿は毎夕宅配便で関西の本社に送り、そこから写植とレイアウトに廻しているという。書体にこだわる人間の多い村山たち編集部では、書体が写研でなくモリサワなのがいまひとつで、かつ、簡単なレイアウトは写植フィルムを使いながら自分たちでしていたので、フィルムと合わないモリサワの三金印刷を使うことに否定的であったが、「そんなことを言うならあんたらいま倍数尺を使ってんのかい、時代は変わっていってんだよ、あんたらの趣味で作るんじゃなくてクライアントさんを最優先で考えてよ。クライアントさんは書体なんか気にしないんだから、会社員なら費用削減ということを最初に考えてくれないかな」と、昔印刷所にいたという営業主任の意見が強く出て、さらにレイアウト用紙はこっちで準備しますからという三金社の申し出があったものだから、発注も少しずつ三金社に移りつつあった。
 たしかに書体を気にしなければ、東京の印刷所に出すより安く出稿も早かった。が、後日渋谷の居酒屋でこの営業主任が玉田から封筒を受け取っているのを山田は見かけている。当然のように山田はその席に加わった。 
 カウンターの封筒を見て、これもらっていきます。と玉田が帰りかけたので、あわてた村山が、ごめん写真差し替えと言って一度封筒を取り返し、中の写真を取り替えた。
 いつ出る?来週には初校出しますけど何部ですか。3部お願いします。
 ほな。と言って玉田は帰って行った。

 IBMが世界の巨人と呼ばれていた時代である。
 パソコンなんて言葉もなく世間ではまだワープロが主流であったが、会社は外資系で社長は米国人である。本国からの指示があったかどうか知らないが、社内も経理部門を皮切りに徐々にパソコンへの移行が始まり、ある日社員全員にパソコンが配布された。配布されたからといってすぐに使いこなせるわけでもなく、社員のほとんどがワープロ機能しか使っていなかった。ウインドウズが出る少し前のDOS時代で、画面はモノクロである。業界ではデザイナーが率先してパソコンを使っていたが、そのパソコンは立ち上げ時にピエロが箱から飛び出すMACが主流であった。 
 中根たち編集部員には、コンパックというメーカーのパソコンが支給された。ワープロである程度キーボードには慣れていたこともあり、せっかくなので原稿受領の礼状をパソコンで打って出そうとしたら、手紙は手書きで万年筆じゃないと失礼だと言い張る日本の出版社からの転職組も大勢おり、俺、悪筆なのにとぶつぶつ言いながらも、手書きが正しいことを否定できない中根がいた。
 インターネットの概念が広まるのはまだ先の話で、ウェブは蜘蛛の巣のことだとか、シリコンバレーは何かすごいということが雑誌で特集され始めていたころである。通信と言えば電話かファックスであったが、ホワイトだけは音響カプラーを使ってのニフティ通信で本国とやりとりをしていた。  
 パソコンについては意外と医学の世界では進んでいたようで、医者からの原稿がフロッピーディスクで届くことも増えつつあったが、それとて、社内のパソコンでは2DDというものしか読めないことが多かったので、上位の2HDのディスクで原稿が届くとお手上げだった。そのため、「原稿はフロッピーでもいいですが、その際プリントも必ず付けてください」と、執筆依頼をしていた。なんのことはない、プリントの方で原稿整理して入稿するのである。印刷所もその原稿を見て写植作業をし、校正紙を出していた。
 
 営業の岡林が須藤と一緒に6階に下りてきて、山田の前に座った。岡林が出入りしている長崎に本社のある成瀬薬品工業から新規の仕事が取れたというので、その打ち合わせである。
 「来月の米国リウマチ学会なんですけど、成瀬薬品さんの新薬に絡んでの発表を長崎大学の先生がするので、それを取材して原稿作成してほしいとのことです。だれか派遣してもらえますか」
 「いいですよ。中根君に行ってもらいましょう」
 中根君、と呼んで来月頼むねと言ったが、ヤマダ ゴー ホームの中根である。えーっ、俺、英語できないっすよ。勘弁してくださいよ。パスポート持ってないし。それにリウマチなんか知らんですよ。と言ったものの、大丈夫だよ録音取ってくるだけだし、相手は日本の先生なんだから。でも・・。はい業務命令。で押し切られた。海外取材はこの会社では特別な仕事ではなかったし、山田が言うとおり録音して来るだけだったから、だれでもよく、中根も作業内容がわかっているからとくに強く断わりもしなかった。
 席に戻った中根は村山にアメリカなんかいやだなあとこぼしたが「中根さん英検3級とか言ってませんでした」と言われると、「まあね」と少しうれしそうな顔をした。

 帰国後の中根の話である。
 取材はうまく行ったんですかと村山から聞かれ、
「いやあ、講演が60分だったんだよね。でも、俺普段から音楽用のテープ買ってるもんだから47分のものしか持っていってなくて」
 頭をかきながら中根が言った。
「えっ、大変じゃないですか」
「でも、幸いオートリバースにしてたから・・」
「ああ、よかったですね」
「でも、そのまま録音続けたもんだから2回もオートリバースになっちゃってさ」
「えっ?」
「講演が終わってからも録音状態だったのに気づいて、あわてて止めたけど講演の最初のとこの音声ないんだわ。これ内緒ね。それよりか、俺そこそこ英語に自信持ったよ。リウマチ学会だからかなあ年寄りの話題が多かったけど、リアルなばあちゃんがどうのこうのと講演で言ってるのわかったもん」
 「やっぱ、中根さんすごいわ」と、村山は心底感心したが、どうやらバーチャルリアリティのことであったらしい。
 そんな状態の録音であったから、テープ起こしは満足のいくものでなく、それを元にでき上がった原稿もまともなものでなかった。
 一番の失敗はクライアントの薬剤を間違ったことである。
 海外講演では日本の薬剤名で述べても海外の医者にはわからないので、世界で通用する一般名で話すのが普通である。バファリンと言わずにアスピリン云々と言うのである。しかし仕事として受けた原稿作成のときは、他社の薬剤表記については一般名のアスピリンでもよいが、クライアントの薬剤は、その会社の商品名で表わすというのが、社内の決まりであった。そうでなければクライアントも金を出す理由がない。どこのものかわからない薬剤を宣伝する必要はないからである。ところがところが、中根が作成した原稿ではこともあろうに、成瀬製薬工業のライバル会社である薬剤の商品名を出してしまったのである。商品名バファリンはひとつしかないが、その同じアスピリン成分を持つ薬剤は何社も出しており、それぞれで商品名を付けている。中根は、成瀬製薬工業の売っている商品薬剤名で原稿作成すべきところを間違ったのである。
 早く作れ速報性が大事だ、と、営業とクライアント双方から言われてあせっていたこともあり、クライアントに原稿をチェックさせる前に、講演した長崎大学の医師に校閲依頼をしてしまったのが騒ぎの原因である。医師の校閲は済んだのである。普通なら勝手に修正すれば済むと思われようが、この分野の業界では一度医者が見たものについてはいじってはいけないという不文律が存在した。医者に会うために製薬メーカーの部長以下が大勢で何時間も立ったまま廊下で待つ世界である。医者の行ったことが最終決定である。医者と製薬会社との関係は殿様と出入りの商人で、一度殿様が見たものに修正を加えることは恐れ多くてできないのである。もちろん内容が完全に間違っているのであれば、修正を申し出る。ただし恐れながらと下手に出る。その場合は、医者の方も自分の名前で出る印刷物だから、間違いの指摘はありがたいことであるが、自分のミスは認めずに善きに計らえとのたまう。 
 今回の場合は、一般名と商品名の違いなど医者には関係ない。薬剤としては同じものなのだから内容の間違いではない。だから、恐れながらとは言い出しにくいのである。
 いずれにしても、クライアントのチェックを済ませたものをもってして医者に見せるべき工程を経なかったのが原因である。
 力関係として製薬会社は医者には頭を下げるが、発注先の出版社には強気で出る。金を払うのだから当然のことである。それなら、製薬会社が直接医者に依頼すればいいではないかと思われようが、先に述べたように医者は殿様、製薬会社は商人である。医者にへそを曲げられたら自社の薬を使ってくれない。同じ成分の他社の薬剤はいくらでもあるからである。だから何時間でも廊下で立って待ち、どうかひとつと接待攻勢をかける。これに対して医者にとっての出版社はというと、自分の名前を売ってくれるところである。医者が出版社に、どうかひとつとまでは言わないが、よろしくねくらいは言う。医者と製薬会社と出版社はグーチョキパーの関係で持っている。

 営業担当の岡林と須藤が中根を伴って成瀬製薬工業に謝りに行った。そこで須藤はこのたびは申し訳ありませんでしたと言ったすぐ後に「こいつがやりました」と中根を指差した。思わず、中根と岡林は顔を見合わせた。
 成瀬製薬工業の担当者は小さく舌打ちしながら
「あたんはなんば言いよっとね。ちぇちぇわしか」
 意味は不明であったが、須藤に呆れているのは分かった。
 結局、医者の所には成瀬製薬工業の人間が大きな菓子折りを持参して修正の許諾を取り、印刷物は出版社側が費用全額負担で刷り直しすることで話がついた。
 成瀬製薬工業からの帰り道、須藤は笑いながら
 「どうだい。うまくいったろう。中根君がやったとみんなで責めたから、相手も同情してくれたんだぞ。一件落着だ。あ~あ、タイアドBだねぇ」
 「?」
 「ちかれたび~」
 「はいはい。疲れました」
 昭和のギャグにため息をつきながら中根は答えた。
 「中根君は若いからまだまだだけど、世の中は、奈良の観音駿河の観音だからね」
 「?」
「君らの時代じゃわからんか。ならぬ堪忍するが堪忍」
 岡林が、じゃあ僕は竹本製薬さんに行きますんで、と、鞄を少し持ち上げて離れて行った。ああ、ご苦労さん、と、須藤。
 須藤さんと一緒に会社に戻るの嫌だなあと中根は思ったが、須藤は一向に気にしている様子はなく、お茶していこうかと誘う。今日は自分のミスの詫びで付き合ってくれたのだから、仕方ないか。「はあ、いいですけど」と、すぐそばにあったルノアールに入るのかと思ったが、じゃあと須藤は歩き始めた。途中喫茶店は何軒かあったが、そこを素通り。コーヒー飲むのにどこまで行くんだと思ったころに、ここここと派手な作りの店のドアを須藤が押した。店内は明るい照明だが、若い女性が全員そろいの赤い制服のミニスカートで働いている。
「げっ。何ですかここは」
「ここはさ、おたくの山田さんが教えてくれたんだよね」
「山田部長ですか」
「そうそう」
「ノーパン喫茶ですか」
「古いねえ中根君。いまどきそんな店はないよ。みんな履いてるよ、残念だけど。ミニが異常に短いだけですよ」
嬉しそうに須藤は言って、注文を取りに来た女の子にいやらしい笑い顔を見せて、キスオブファイアちょうだいと言った。君のね。アハハと。
「え?まだ昼間ですよ。会社戻らないんですか」
「戻りますよ。昼間っからって言ったって、LLシスターズなんかランチにアントニオでいつもワイン飲んでるじゃない。外資系は許されるんだよ。それよか君は何にするの。待ってるよ」
 トレイを持った女の子が小首を傾げて立っていた。キスオブファイアだあ?。須藤さん普段は新橋の焼き鳥屋で飲んでると言ってたのに、何エロ親父丸出しにしてるんだ。ここは喫茶店かもしれないけど高いんだろうなと思ったので、「ぼくはコーヒーください」。中根は無難な注文にした。注文を聞いた女の子が去ると、「ほらほら見てごらん」と、他のテーブルに飲み物を置く女の子を須藤は嬉しそうにあごで示した。
「彼女たちはね、物を置くときひざを曲げないんですよ。お尻がいいでしょ」。  
 結局とくに仕事の話をするでもなく、須藤のニタニタ顔に30分ほどつきあうだけだった。店を出てから
「須藤さんて笑顔を絶やさないジャックニコルソンみたいですね」
 バットマンのジョーカーを想像しながら嫌味を言ったが、須藤にはわからなかったようで
「営業はさ、口は閉じても目は笑い続けなきゃいけないんだよ」
と言うので
「鼻を閉じたら息ができませんものね」
と返した。
  
 「須藤さん。すみません。今日ちょっと相談できますか」
  朝一番で藤川がやってきた。
 「いいけど、何?」
  周囲を素早く見回した藤川が、あのぅ東さんのことでと小声で言った。定刻出勤時間に出社などしているはずもない東だから普通に話してもいいようなものだが、妙におびえている。
 きっと東の悪行に違いないと確信した須藤は、喜んで、と、どこかの居酒屋で聞くようなセリフを力強く言った。そして藤川が6階に戻るのと入れ替わるように東が出社してきたときは、難しい顔をつくろいながら内心は笑って(腹に一物、手に荷物)と繰り返していた。

「須藤さん、東さん何とかしてもらえませんか」
 昼休みの会議室でドアに使用中の札を出して、須藤と向き合うなり藤川が泣きついた。
「どうしたの」
 つい明るくなりそうな声を抑えつつ、深刻そうな顔をして須藤は尋ねた。
「この前、ぼく、大学の同窓会があった日なんですけど、東さんに付き合わされたんです」
「ふむふむ」
 セクハラ騒動のことを山田から聞いていた須藤は、あの日のことだなと思い至った。
「で?」
「東さんとの付き合いは、いつもぐだぐだ終電までなんで嫌だったんです。本当に同窓会に行きたかったし」
「・・・」
「まあ、付き合いたって大人だから、嫌なら断ればいいんでしょうけど」
「・・・」(早く本題に入らんか) 
「あの日も結局新宿で終電なくなっちゃって、それで、それで」
「それで」
 辛抱強く須藤は待った。急に藤川はいじいじし始めた。
「あの、あの、東さんに誘われたんです」
「何を」
「ホテルに行こうって」
「どこの?」
「は?」
「いや我々は外資系に勤めてるんだから、最低でもシティホテルじゃないと・・・」
「えっ、そうなんですか」
「そりゃそうでしょ。事件になってうちの会社名が出たときクライアントさんから、御社はそのレベルですかって思われたら恥ずかしいでしょ」
 ホテルに行くことは須藤の中では、普通に「アリ」であった。
「そうなんですか。知らなかったです。勉強になります」
「で、どこなの」
 なにか違うなぁと思いつつも藤川は答えた。
「えっと、東さんに引っ張られて行ったから、よく覚えてないですけど、たしか新大久保の駅裏の・・」
「玉手箱か?」
「名前は覚えていませんが、入口に乙姫さんと大きな亀の絵が・・」
「じゃあ、そこだ」
「須藤さんは、何で知ってるんですか?」
 それにはこたえず、
「ダメだね。あんなとこじゃ。一泊いくらだと思ってるの。なぜ普通の」
「あ、いえいえ。ぼく泊まってません。勘弁してくださいって何度も言って、最後は土下座して許してもらったんです」
「ふ~ん。よくあの女が我慢したね」
「はい。藤川君てそんなタイプだったんだって言って、尻を蹴飛ばされましたけど」
そうか。残念。東の痴態を聞き出して何かの折に物笑いの種にしてやろうと思ったが、それはかなわないようだ。
「で、俺にどうしてほしいの?」
 ここまでの話では東を追及するには弱い材料だ。どうせなら襲われりゃよかったんだ。こいつにしても据え膳が食えんかったのか。なよなよと軟弱な男だなあ。こういうやつを蛸を切ったような男と言うんだと思ったら、須藤は急に寿司が食べたくなった。
「これってセクハラになりませんか」
 泣きそうな小声で言う。寿司ネタから現実に引き戻された。
 おお、そうだそうだ。東には前歴がある。LLシスターズにさんざん訴えられたはずだ。あのときはうやむやになったらしいが、今回は証人がいる。いま一度蒸し返してやろう。
「なるなる」 
 勢い込んで答えた。
「でも、おんなじ社内だし、東さんも女の人だからホテルの話はお互いに恥ずかしいと思うので、上司の須藤さんからこっそりやんわりと、注意してもらえませんか。ぼくだって、東さんに恨まれても困るし」 
藤川にとっては恥ずかしい話だろうが、須藤には痛くもかゆくもない。東をとっちめられるなら利用できるものはする。あとは、いつこの話題で対決するかだった。
「大丈夫だ。君は証人保護法で守られる」 
 
 「まいど」。玉田が入ってきた。「村山さん、色校でましたよ」。
「どげな?」「それ、関西弁ちゃいますよ」
 渡された校正紙を村山は藤川とチェックすることにして声をかけた。この制作物の担当者は村山で、ここまで一人で作業してきたが、最後の段階は二人体制でチェックすると決まっている。二人体制の場合、いままでこの原稿を見たことのない人間に最後の素読みをさせる。新鮮な目で読ませると見落としていた部分に気づくことも多いからである。ただ、今回はもう責了にしないと納期が間に合わない。この段階では絶対の間違い以外は赤字を入れないのが基本だ。幸い差し替えた写真も4色分解がきれいにできていて版ずれもなさそうであった。赤字がなければ校了としそうなものだが、なぜか校了と書くことはなくて、無理やり汚れとかピンホールとかを探して責了と書くのが普通であった。
 四面付けされている校正紙を、ぐるぐる回しながら黙って読んでいた藤川が 
 「村山さん、犬って歯ぎしりするんですか?」
 今回は獣医師向けの薬剤を販売している会社の原稿だった。
 「さあ、どこにある」
 「ここですけど」
 藤川が示す。
 「知らん。放屁はするけどな。もう著者校も全部終わってるんだから無視」
 「飼い主は億万長者で治療費が、という表現があるんですけど、億万って単位はないんじゃないですか」
 「無視」
 「額が広くて利発そうって何ですか」
 「山田部長のことだよ。額が広すぎて理髪が必要ないってこと」
 「あのう」
 「無視。最終段階でごちゃごちゃ言わない」
 こうやって校正は終わったが、一ヵ所誤字があった。最初の原稿整理の段階で見逃されたようだ。最初に通してしまうと通した人間が何度校正しようがそのまま素通りになるのは当然で、最後まで気づかないことは多い。だから、校正作業は複数でやらねばならないのだ。今回は藤川が「用量」が「容量」になっているのに気づいた。
 参ったなあ、と村山が校正紙を隅から隅まで探し始めた。
 「何してるんですか?」
 「どっかに用の字があればそれ使えるし・・」
 そこに
 「藤川君。何してんの」
 東が入ってきた。
 「あ」
 藤川は声が出ない。
 この段階で相手にしていられない村山は東を無視すると、三金玉さん呼んで来てと藤川に言いつけた。あら、おじゃまかしらという顔をしたものの東は出て行かない。入口で待っていた玉田が藤川と一緒に入ってきた。
 「玉田さんね」
 少し難しい顔をして村山が色校を示した。
 「ごめん。一ヵ所だけ赤が入った」
 「どこですか」
 示された赤字部分を見た玉田が、先刻村山がやっていたのと同じように校正紙を見渡していたが、
「う~ん。ストリップですね」
 「ストリップで行けますか。青焼き出ます?」
 ストリップとは、一文字二文字ていどの極々短い部分の修正を、ストリップフィルムというもので修正することである。
 その場の雰囲気を感じることなく藤川が早く解放されることを心待ちにしていた東は、そのような用語も意味も知るはずもないが瞬間うれしそうな顔をした。  
 「なあんだ。編集部ってみんないやらしいのね」
 村山は東の顔を一瞥したがとくに何も反応せず、よろしくと校正紙を返し、ほな、と玉田は東にも営業笑いを見せていそいそと帰って行った。
 「意外と村山さんも好きなのね、藤川君」
 東がここでも笑った。でも、青焼きって何だろう。この前の週刊大衆に載ってたかしら。あとで教えてもらおう。
 「藤川君、今日は何時に上がるの」
 このひとことで須藤がまだ東に注意してくれていないことを藤川は知った。


【退社後】
 毎年会社のクリスマスパーティは、狸穴のロシア大使館横のアメリカンクラブを借りて行われる。社長のホワイトが米国人だからこそできる催しである。年度の締めが12月なので、このパーティ時期には売り上げが確定している。今年のホワイトは機嫌が良かった。同じ米国資本の製薬メーカー東京支店長に弟が就任してきて、そこの仕事がかなりの金額で廻ってきたからである。だから、今年のパーティには妻だけでなく弟夫妻も特別に招かれていた。通常の宴会では不参加が多いが、場所の興味もあって社員の参加は多い。
 「隣のロシア大使館を盗聴するために、ここを作ったんだ」
 「ここの酒蔵から地下トンネルがロシア大使館の下まであるんだぞ」
「内緒だがホワイトさんも本当はCIAの人間だ」 
というような話を新人にこっそり教えるのも恒例だった。
 宴もたけなわになり、イスとテーブルが部屋の隅に寄せられると、日本人バンドがジャズを演奏し始めた。
 ダンス曲である。それにあわせて、ホワイト夫妻、弟夫妻が踊り始めた。部屋の中央に出たホワイトが踊りながら社員にウインクして、妻の背中越しに指で来い来いと呼びかけた。
 真っ先に気づいたのが山田である。社長が言っている。さあ、みんなも出て行って踊りましょうよと声をかけはじめた。
 ダンスの経験など普通の日本人にはない。だから、ほとんどはグラスを持ったまま、それでも少しうらやましそうに外国人の踊りを眺めているだけである。あるいは談笑に集中している。そんな日本人従業員の態度にはホワイトも慣れているから気にしてはいない。だが、山田は社長の覚えを異常に気にする人間である。自分の部下が誰も出ていかない。パーティの雰囲気を壊しているかもしれない。みんなどうしたんですか、踊りましょうよ。中根君、藤川君、岡林君、と声をかけ続けたが、笑っていやいやされてしまった。そこにカモン山田さんとホワイトから声を掛けられ、切羽詰まった山田は突然リンダの手を取った。
 リズと語らっていたリンダは突然引っ張られて、つんのめりながらグラスをリズに預けると中央に出て行く羽目になった。しかし、さすがに経験か素養かわからないが、またたく間にリンダが山田をリードする形になった。山田はと言えば、勢いで飛び出したはいいが経験が乏しい。外掛け、内掛けを繰り返すような踊りしかできず、やがて急に巴投げの初動のような動きをしたので、リンダはサバ折りで山田をおとなしくさせた。 
 リンダと山田の格闘ダンスを見て興奮したわけでもあるまいが、アルコールで顔を真っ赤にした東が須藤に近寄ってきて「シャルウィダンス?」と笑顔を見せた。
 それに気づいた藤川は、咥えていたチキンを思わずシャンパングラスに突っ込んだ。いくらクリスマスとはいえ、なんなんだこの第三種接近遭遇はと驚くばかりだったが、さらに須藤が「ノーノー、バット、レッツゴー玉手箱」と返したのを聞くに及んで、自分の隠し玉を須藤が脅しに使ったに違いないのを確信した。
 こうして麻布外資系にお勤めの日本人の一年が終わろうとしていた。 

                                                    

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