69 / 75
第二部 出会いと再会編
元転移転生魔術師、懐かしむ 後編
しおりを挟む
僕は一枚の布を、手に掴んだ。
その薄く細長い布には、金属製の留め具がついている。
さらに、その裏地にはテープがついていた。
この世界には無い形状で、何度でも使えそうな、どこか蛇を思い浮かべそうな見た目をしている。
「ファスナー? 何だよデウディーン……また場違いな物を転移しやがって……。そんな物出す暇があったら、ルーラン押さえる手伝い位……」
たかしが言い終える前に、僕はファスナーを口に張り付けた。
そして、ファスナーを動かし、離れていた留め具を繋ぎ合わせ、固定した。
「んん! んー! んー!」
たかしが何か喋ろうと、もがいている。しかし唸り声ばかりで言葉を発せない。
「たかし、悪いけど、しばらく黙っててもらうから」
僕は低い声で、たかしに吐き捨てた。
たかしのチート能力で腕の筋力を強くして、ファスナーを引き剥がそうとしている。
しかし、びくともしない。
これこそ、ファスナー☆お口チャックの効果だからだ。
この転移道具を相手の口に張り付ける事で、言葉を完全に発せなくさせてしまう。
一度ファスナーを付けられ、留め具を固定されてしまうと、完全に口を閉ざされてしまう。
本人の力では何をやっても開けられないし、剥がせない。僕自身でファスナーを動かし留め具を開放するか、転移道具を消滅させるしか方法は無い。
当然、詠唱も無理だし、テレパシーすら不可能。言葉を封じられてしまうからね。
「大丈夫かい、ルーラン。たかしはあのまま、反省してもらうつもりだから。それより、同人誌の件、一緒に取り組もう」
こうして、僕たちが中心となって、エルフの村で同人誌即売会が開かれる事となった。
今までの難解な魔術書と違って、絵と物語によって分かりやすく取っ付きやすくなり、大盛況。
近くの町の冒険者や、魔術や魔法の研究者達が買いに来る程度だったけど、それでも村の財政は潤ったみたい。
ルーランも喜んでいたよ。
後日、予知魔法を使ってみたら、荒廃した未来が無くなっていたって、言っていたからね――
※※※※※※※※※※※※
簡易基地を抜け、道中、ワシの家までの間。
ワシらは、過去の話で盛り上がっておった。
ワシの実体験と、ルルが母となったルーランから聞いた話を交えながら。
「あの即売会、ワシが死ぬまで続けておったそうじゃったの。どうじゃ、あれから規模は大きくなったかの?」
「ううん。南の国に取られちゃって、村では相変わらず小規模のまま。けど良かったと思います。規模が大きくなっても、私達に扱いきれなかったでしょうから」
そうか。ワシの死後千年、続けてくれていたんじゃな。
ワシとたかしとルーランとの思い出が残っておるのは、感慨深いものじゃのう。
「母は感謝していました。デウディーン様がいたからこそ、村を荒廃から避けられたって。デウディーン様との旅は忘れられない思い出だったって」
「褒めすぎじゃ。たかしが提案してくれたから、村が儲けられたんじゃ。ワシら三人、誰か欠けても上手くいかんかったじゃろうて」
「母はこうも言っていました。デウディーン様との旅は、どこかロマンがあったって。二人きりで歩いていたあの時を思い出すと、胸が切なくなるって」
「嫌じゃなあ。そんな素振り、無かったけどなぁ。それに、たかしも一緒じゃったぞ? 二人きりの機会とか、ほとんど無かったぞ?」
「そんな母ですが、また、予知魔法で見たそうなんです。村が滅ぶ様子を……」
何と。ソレはつまり、ルルの故郷が失われるという事か。
何か、手がかりは掴んでおるんじゃろうか。
「母が言うには、焼けて村が無くなっていたそうです。そんな中、即売会の看板を見たって……。ソレは当日じゃないと、表に出ない物ですから……」
「つまり、即売会当日が肝、か。それでルルが、ワシに知らせに来てくれたんじゃな」
「はい。ただ私、道中の記憶が無くて……。私に付けられたダークアラクネの刻印も、覚えがありませんし……」
「なる程。刻印を付けた犯人と、予言の出来事。関係があるかもしれんの」
「母が、【デウディーン様は頼りになる】って、連日何度も予知魔法を使って、ようやく場所を特定出来たんです。デウディーン様の活躍、二人で旅した時の頃を、今でも鮮明に思い出すって……」
「いやまあ、当てにしてくれるのはいいんじゃぞ? けど、二人じゃないじゃろ? 何度も言うように、たかしも……」
ここでワシ、気がついた。
さっきから、ワシが【たかし】の名前を出す度に、首を傾げている事を。
違和感はあったんじゃ……。旅の人数について、話が噛み合っておらん気がしての……。
「ルルよ、聞きたい事があるんじゃが」
ワシは意を決した。
「【田中たかし】を知っとるかの。眼鏡を掛けた異世界転移者で、ワシとルーランの三人で旅しとったんじゃが……」
「……? いたんですか、そんな人? 母からは聞いた事無かったんですけど……」
やっぱりか!
たかしの事、知らんかったか!
ワシは躓くような石が無いのに、なぜかズッコケてしまった。
************************
【サージャ】≪『第三十六話をお読みいただき、ありがとうございます』
【サージャ】≪『今回は、マスターの過去話が中心でした』
【サージャ】≪『ルーランとの旅は、エルフの村以降も続いていました。幾人の冒険者等と一緒に行動して』
【サージャ】≪『マスターに限らず、どの仲間とも、かけがえの無い思い出のはずなのですが、田中たかしは例外だったようですね』
【サージャ】≪『魔法と魔術の表記についてですが』
【サージャ】≪『どちらも、同じ意味として捉えてもらって構いません』
【サージャ】≪『冒険者に魔法使いという職業があり、それ以外の魔法を使う者を魔術師と、一般的に呼ばれています』
【サージャ】≪『現在はともかく、千年前は厳しく分けられており、魔術師と呼ばれる者は冒険者として評価が低い、もしくは認められていませんでした』
【サージャ】≪『ルーランも冒険者として認められるため、魔法と道具でモンスターをいかに倒していくか工夫しながら戦っていたのです』
【サージャ】≪『当時、マスターがいかに認められていなかったか、片鱗が伺えますね』
【サージャ】≪『それでは、次回をお楽しみに』
その薄く細長い布には、金属製の留め具がついている。
さらに、その裏地にはテープがついていた。
この世界には無い形状で、何度でも使えそうな、どこか蛇を思い浮かべそうな見た目をしている。
「ファスナー? 何だよデウディーン……また場違いな物を転移しやがって……。そんな物出す暇があったら、ルーラン押さえる手伝い位……」
たかしが言い終える前に、僕はファスナーを口に張り付けた。
そして、ファスナーを動かし、離れていた留め具を繋ぎ合わせ、固定した。
「んん! んー! んー!」
たかしが何か喋ろうと、もがいている。しかし唸り声ばかりで言葉を発せない。
「たかし、悪いけど、しばらく黙っててもらうから」
僕は低い声で、たかしに吐き捨てた。
たかしのチート能力で腕の筋力を強くして、ファスナーを引き剥がそうとしている。
しかし、びくともしない。
これこそ、ファスナー☆お口チャックの効果だからだ。
この転移道具を相手の口に張り付ける事で、言葉を完全に発せなくさせてしまう。
一度ファスナーを付けられ、留め具を固定されてしまうと、完全に口を閉ざされてしまう。
本人の力では何をやっても開けられないし、剥がせない。僕自身でファスナーを動かし留め具を開放するか、転移道具を消滅させるしか方法は無い。
当然、詠唱も無理だし、テレパシーすら不可能。言葉を封じられてしまうからね。
「大丈夫かい、ルーラン。たかしはあのまま、反省してもらうつもりだから。それより、同人誌の件、一緒に取り組もう」
こうして、僕たちが中心となって、エルフの村で同人誌即売会が開かれる事となった。
今までの難解な魔術書と違って、絵と物語によって分かりやすく取っ付きやすくなり、大盛況。
近くの町の冒険者や、魔術や魔法の研究者達が買いに来る程度だったけど、それでも村の財政は潤ったみたい。
ルーランも喜んでいたよ。
後日、予知魔法を使ってみたら、荒廃した未来が無くなっていたって、言っていたからね――
※※※※※※※※※※※※
簡易基地を抜け、道中、ワシの家までの間。
ワシらは、過去の話で盛り上がっておった。
ワシの実体験と、ルルが母となったルーランから聞いた話を交えながら。
「あの即売会、ワシが死ぬまで続けておったそうじゃったの。どうじゃ、あれから規模は大きくなったかの?」
「ううん。南の国に取られちゃって、村では相変わらず小規模のまま。けど良かったと思います。規模が大きくなっても、私達に扱いきれなかったでしょうから」
そうか。ワシの死後千年、続けてくれていたんじゃな。
ワシとたかしとルーランとの思い出が残っておるのは、感慨深いものじゃのう。
「母は感謝していました。デウディーン様がいたからこそ、村を荒廃から避けられたって。デウディーン様との旅は忘れられない思い出だったって」
「褒めすぎじゃ。たかしが提案してくれたから、村が儲けられたんじゃ。ワシら三人、誰か欠けても上手くいかんかったじゃろうて」
「母はこうも言っていました。デウディーン様との旅は、どこかロマンがあったって。二人きりで歩いていたあの時を思い出すと、胸が切なくなるって」
「嫌じゃなあ。そんな素振り、無かったけどなぁ。それに、たかしも一緒じゃったぞ? 二人きりの機会とか、ほとんど無かったぞ?」
「そんな母ですが、また、予知魔法で見たそうなんです。村が滅ぶ様子を……」
何と。ソレはつまり、ルルの故郷が失われるという事か。
何か、手がかりは掴んでおるんじゃろうか。
「母が言うには、焼けて村が無くなっていたそうです。そんな中、即売会の看板を見たって……。ソレは当日じゃないと、表に出ない物ですから……」
「つまり、即売会当日が肝、か。それでルルが、ワシに知らせに来てくれたんじゃな」
「はい。ただ私、道中の記憶が無くて……。私に付けられたダークアラクネの刻印も、覚えがありませんし……」
「なる程。刻印を付けた犯人と、予言の出来事。関係があるかもしれんの」
「母が、【デウディーン様は頼りになる】って、連日何度も予知魔法を使って、ようやく場所を特定出来たんです。デウディーン様の活躍、二人で旅した時の頃を、今でも鮮明に思い出すって……」
「いやまあ、当てにしてくれるのはいいんじゃぞ? けど、二人じゃないじゃろ? 何度も言うように、たかしも……」
ここでワシ、気がついた。
さっきから、ワシが【たかし】の名前を出す度に、首を傾げている事を。
違和感はあったんじゃ……。旅の人数について、話が噛み合っておらん気がしての……。
「ルルよ、聞きたい事があるんじゃが」
ワシは意を決した。
「【田中たかし】を知っとるかの。眼鏡を掛けた異世界転移者で、ワシとルーランの三人で旅しとったんじゃが……」
「……? いたんですか、そんな人? 母からは聞いた事無かったんですけど……」
やっぱりか!
たかしの事、知らんかったか!
ワシは躓くような石が無いのに、なぜかズッコケてしまった。
************************
【サージャ】≪『第三十六話をお読みいただき、ありがとうございます』
【サージャ】≪『今回は、マスターの過去話が中心でした』
【サージャ】≪『ルーランとの旅は、エルフの村以降も続いていました。幾人の冒険者等と一緒に行動して』
【サージャ】≪『マスターに限らず、どの仲間とも、かけがえの無い思い出のはずなのですが、田中たかしは例外だったようですね』
【サージャ】≪『魔法と魔術の表記についてですが』
【サージャ】≪『どちらも、同じ意味として捉えてもらって構いません』
【サージャ】≪『冒険者に魔法使いという職業があり、それ以外の魔法を使う者を魔術師と、一般的に呼ばれています』
【サージャ】≪『現在はともかく、千年前は厳しく分けられており、魔術師と呼ばれる者は冒険者として評価が低い、もしくは認められていませんでした』
【サージャ】≪『ルーランも冒険者として認められるため、魔法と道具でモンスターをいかに倒していくか工夫しながら戦っていたのです』
【サージャ】≪『当時、マスターがいかに認められていなかったか、片鱗が伺えますね』
【サージャ】≪『それでは、次回をお楽しみに』
31
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる