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7-3 許嫁
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「カトレア。それはどういうことだ⁉」
シオンが間髪を容れずに聞いた。
離れた場所でグリプスの訓練をしてたはずなのに、お前もか。
「お兄ちゃんがヤスさんに言ったんでしょ。私と一緒になってほしいって。あのゴブリンみたいな男に、ヤスさんがそう言ったのを聞いたわ」
カトレアに指さされたルドベキアが、ゴ、ゴブリン? と呟く。
そういえばカトレアを人質として残したとき、ルドベキアを説得するために言ったな。
シオンは僕の胸ぐらを掴んで、
「オレはそんなこと言った覚えはないぞ。貴様、勝手なことぬかすな!!」
カトレアを娶るつもりはないけど、嘘つき呼ばわりされるのは心外である。
ほら穴で眠る前のことを詳しく説明すると、シオンは、
「あぁ、あれか。あれはオレが死んだらの話だ。オレの目が黒いうちは、妹は誰にも渡さん」
「お兄ちゃん。そんなこと言ってたら、あのゴブリン男にセシリアさんを取られちゃうわよ」
「大丈夫。あんなゴブリンに、オレが負けるわけがない。セシリアさんは誰にも渡さん」
兄妹にゴブリン扱いされ、顔をひくつかせているルドベキア。
「二兎を追う者は一兎をも得ずよ。それにシスコンは異性に好かれないんだから。セシリアさんに嫌われてもいいの?」
「それは本当か。お前もシスコンの男は嫌なのか?」
「もちろんよ。それに二股なんて誠実さに欠けるもの」
なんか僕のことを言われているようで耳が痛いんだけど。
「だから私のことはヤスさんに任せて、お兄ちゃんはセシリアさんのことだけを──」
「ふん。アンタたちでは分不相応よ」
モモちゃんが、横槍をいれてきた。
「そうだぞ、カトレア。お前は、ヤスにはもったいない」
「シオン、バカでしょ。アタシは、自分たちの身の程をわきまえなさいって言ってるのよ」
「はぁ? 貴様、オレの大切な妹を虚仮にするつもりか。それともお前の目は節穴なのか? わかったぞ。オレの可愛い妹に嫉妬してんだろ」
「アンタの妹なんて大したことないわ。アタシのお姉ちゃんに比べたらね」
「へん。比べるまでもない。ゴブリンの姉なんて、見なくてもたかが知れているからな」
どうやらシオンは、モモちゃんがルドベキアの妹だと勘違いしているようだ。
「何してるの? モモ」
「お姉ちゃん」
そこにゴブリンの姉が襲来、もといセシリアがやってきて声を掛けた。
お、お姉ちゃん? と呟き、目をぱちくりさせながら、姉妹を交互に見やるシオン。
「モモがルドさんに背負われて、ヤス様のところに向かったと聞いたから、気になって来てみたの。なんか揉めてたみたいだけど、妹はお転婆なので御迷惑をおかけしたのでは?」
「迷惑だなんて、とんでもないです。それにしてもまさかセシリアさんの妹だったとは。驚いたな。どうりで可愛いはずだ。ははは……」
作り笑いで誤魔化すシオン。
僕はシオンの絵にかいたような手のひら返しに驚いたよ。
「モモ。曾祖父様の許可なくヤス様たちに接するのは禁じられてたはずよ」
「だって、ヤスさまがやって来たときに、ルドが殺そうとしたって聞いたから、謝らせようと思ったんだもん」
「いや、それは仕方なかったんだ。村に奴隷狩りが来るのを防ぐために……っていうか、お前がセシリアのことでお礼を伝えたいからって、此処に──」
「余計なこと言うな、この筋肉バカ!」
モモちゃんに、左脛を蹴られて蹲るルドベキア。
仕方ないわねといった面持ちのセシリアは、
「モモ、ルドさん。ヤス様たちの邪魔になるから、戻りましょ」
ああ、と言って踵を返すルドベキアを、
「ルド、おんぶ」
と、モモちゃんが呼び止めた。
「もう、一人で歩けるだろ。あんだけ思い切り蹴られるんだから」
「お姉ちゃん、ルドが意地悪する。アタシ、昨夜まで死にかけていたのに」
そういわれると、セシリアは妹に甘くならざるを得ないのか、両手を合わせて、
「ルドさん、ごめんなさいね。お願いできるかしら」
「もちろん。小娘一人くらい、どうってことない」
と、マッチョポーズで屈強さをアピールする筋肉バカ。
彼に背負われたモモちゃんは、
「もっと嬉しそうにしたらどうだ。こんな美少女に密着されているのだからな」
「何をいまさら。幼いころからおんぶしているし、それにずっとペッタンコで変わらな──ぐ、ぐるじい。やめろ」
モモちゃんに首を締めあげられ、腕をタップするルドベキア。
「うっさい。アタシだって3年もすれば、お姉ちゃんみたいに柔らくて立派なオッパイになるんだから」
「ちょっと、モモ。何言ってんの⁉」
不意に引き合いに出されて、困惑する姉。
「だって、湯上りにお姉ちゃんのオッパイに顔をうずめると、モチモチで気持ちいいんだもん」
「それでいつも風呂上りに、抱きついてきてたのね。てっきり甘えてるだけかと思ったから抱きしめてあげたけど、もう一緒に入ってあげないわ」
セシリアは顔を赤く染めて、恥ずかしそうに一人で先に行ってしまう。
「ごめんなさい、お姉ちゃん。もうしないから許して。ルド。なに鼻血出して、ぼーっとしてんだ。早く後を追え」
頭を小突かれて、我に返ったルドベキアは、鼻血を手で拭うと、
「こ、これは、お前が首を絞めたからだ。決してイヤらしいこと考えてたわけじゃないからな」
語るに落ちる、筋肉バカ。
そしてもう一人、妹の前にもかかわらず鼻血を垂らす兄バカ。
去っていく二人の後ろ姿を見ながら、ふと思った。
”将を射んと欲すれば先ず馬を射よ”とばかりに、ルドベキアはモモちゃんを味方につけようとして、甘やかしすぎたのではないか。
その結果、彼女をつけあがらせてしまったのなら、ルドベキアの自業自得だな、と。
彼らの姿が見えなくなると、僕たちは訓練を再開した。
シオンが間髪を容れずに聞いた。
離れた場所でグリプスの訓練をしてたはずなのに、お前もか。
「お兄ちゃんがヤスさんに言ったんでしょ。私と一緒になってほしいって。あのゴブリンみたいな男に、ヤスさんがそう言ったのを聞いたわ」
カトレアに指さされたルドベキアが、ゴ、ゴブリン? と呟く。
そういえばカトレアを人質として残したとき、ルドベキアを説得するために言ったな。
シオンは僕の胸ぐらを掴んで、
「オレはそんなこと言った覚えはないぞ。貴様、勝手なことぬかすな!!」
カトレアを娶るつもりはないけど、嘘つき呼ばわりされるのは心外である。
ほら穴で眠る前のことを詳しく説明すると、シオンは、
「あぁ、あれか。あれはオレが死んだらの話だ。オレの目が黒いうちは、妹は誰にも渡さん」
「お兄ちゃん。そんなこと言ってたら、あのゴブリン男にセシリアさんを取られちゃうわよ」
「大丈夫。あんなゴブリンに、オレが負けるわけがない。セシリアさんは誰にも渡さん」
兄妹にゴブリン扱いされ、顔をひくつかせているルドベキア。
「二兎を追う者は一兎をも得ずよ。それにシスコンは異性に好かれないんだから。セシリアさんに嫌われてもいいの?」
「それは本当か。お前もシスコンの男は嫌なのか?」
「もちろんよ。それに二股なんて誠実さに欠けるもの」
なんか僕のことを言われているようで耳が痛いんだけど。
「だから私のことはヤスさんに任せて、お兄ちゃんはセシリアさんのことだけを──」
「ふん。アンタたちでは分不相応よ」
モモちゃんが、横槍をいれてきた。
「そうだぞ、カトレア。お前は、ヤスにはもったいない」
「シオン、バカでしょ。アタシは、自分たちの身の程をわきまえなさいって言ってるのよ」
「はぁ? 貴様、オレの大切な妹を虚仮にするつもりか。それともお前の目は節穴なのか? わかったぞ。オレの可愛い妹に嫉妬してんだろ」
「アンタの妹なんて大したことないわ。アタシのお姉ちゃんに比べたらね」
「へん。比べるまでもない。ゴブリンの姉なんて、見なくてもたかが知れているからな」
どうやらシオンは、モモちゃんがルドベキアの妹だと勘違いしているようだ。
「何してるの? モモ」
「お姉ちゃん」
そこにゴブリンの姉が襲来、もといセシリアがやってきて声を掛けた。
お、お姉ちゃん? と呟き、目をぱちくりさせながら、姉妹を交互に見やるシオン。
「モモがルドさんに背負われて、ヤス様のところに向かったと聞いたから、気になって来てみたの。なんか揉めてたみたいだけど、妹はお転婆なので御迷惑をおかけしたのでは?」
「迷惑だなんて、とんでもないです。それにしてもまさかセシリアさんの妹だったとは。驚いたな。どうりで可愛いはずだ。ははは……」
作り笑いで誤魔化すシオン。
僕はシオンの絵にかいたような手のひら返しに驚いたよ。
「モモ。曾祖父様の許可なくヤス様たちに接するのは禁じられてたはずよ」
「だって、ヤスさまがやって来たときに、ルドが殺そうとしたって聞いたから、謝らせようと思ったんだもん」
「いや、それは仕方なかったんだ。村に奴隷狩りが来るのを防ぐために……っていうか、お前がセシリアのことでお礼を伝えたいからって、此処に──」
「余計なこと言うな、この筋肉バカ!」
モモちゃんに、左脛を蹴られて蹲るルドベキア。
仕方ないわねといった面持ちのセシリアは、
「モモ、ルドさん。ヤス様たちの邪魔になるから、戻りましょ」
ああ、と言って踵を返すルドベキアを、
「ルド、おんぶ」
と、モモちゃんが呼び止めた。
「もう、一人で歩けるだろ。あんだけ思い切り蹴られるんだから」
「お姉ちゃん、ルドが意地悪する。アタシ、昨夜まで死にかけていたのに」
そういわれると、セシリアは妹に甘くならざるを得ないのか、両手を合わせて、
「ルドさん、ごめんなさいね。お願いできるかしら」
「もちろん。小娘一人くらい、どうってことない」
と、マッチョポーズで屈強さをアピールする筋肉バカ。
彼に背負われたモモちゃんは、
「もっと嬉しそうにしたらどうだ。こんな美少女に密着されているのだからな」
「何をいまさら。幼いころからおんぶしているし、それにずっとペッタンコで変わらな──ぐ、ぐるじい。やめろ」
モモちゃんに首を締めあげられ、腕をタップするルドベキア。
「うっさい。アタシだって3年もすれば、お姉ちゃんみたいに柔らくて立派なオッパイになるんだから」
「ちょっと、モモ。何言ってんの⁉」
不意に引き合いに出されて、困惑する姉。
「だって、湯上りにお姉ちゃんのオッパイに顔をうずめると、モチモチで気持ちいいんだもん」
「それでいつも風呂上りに、抱きついてきてたのね。てっきり甘えてるだけかと思ったから抱きしめてあげたけど、もう一緒に入ってあげないわ」
セシリアは顔を赤く染めて、恥ずかしそうに一人で先に行ってしまう。
「ごめんなさい、お姉ちゃん。もうしないから許して。ルド。なに鼻血出して、ぼーっとしてんだ。早く後を追え」
頭を小突かれて、我に返ったルドベキアは、鼻血を手で拭うと、
「こ、これは、お前が首を絞めたからだ。決してイヤらしいこと考えてたわけじゃないからな」
語るに落ちる、筋肉バカ。
そしてもう一人、妹の前にもかかわらず鼻血を垂らす兄バカ。
去っていく二人の後ろ姿を見ながら、ふと思った。
”将を射んと欲すれば先ず馬を射よ”とばかりに、ルドベキアはモモちゃんを味方につけようとして、甘やかしすぎたのではないか。
その結果、彼女をつけあがらせてしまったのなら、ルドベキアの自業自得だな、と。
彼らの姿が見えなくなると、僕たちは訓練を再開した。
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