個生院の患者のみなさん

さとう たなか

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久しぶりに目覚めの良い朝を迎えることができた。
患者服は着心地が悪くて、持ってきた替えのジャージを着て眠った。
枕元においたスマホをを見る、午前9時半。
学校と部活があったら確実に遅刻している時間だ。
でも今は気にしなくていいんだ。
ベッドから降りてカーテンを開けると温かい朝日の後に雲一つない青空が目の前に広がった。
施設の三階西側の個室に部屋を割り当てられた。
青空に誘われて窓を開けると楽器の音色と共に綺麗な歌声が聞こえてきた。
こんな朝早くに誰が歌っているんだろう。
窓から体を乗り出して下を見ると、建物と庭の間に小さなプールがあった。お金持ちの家にある自宅用のプールくらいの大きさ。そのプールの中に人が泳いでいる。すぐ近くにもう一人座っている。あの二人が歌っているのかな。
部屋の扉をノックする音が聞こえた。
扉を開けると先生がボードを抱えて立っていた。

「おはようございます。澄田さん」

昨日初めて会った時と変わらない、先生がいた。

「あ、おはようございます」

「問診に来ました」

そう言えば、昨日、先生に自分が入院する部屋へ案内される途中、朝9時半頃来ますと言っていた。
そういう所は病院みたい。

「体調はどうですか?」

「とくに、普通です」

「はい。お熱は測りましたか?」

「あ、まだです、」

「じゃあ、ここで大丈夫なので、測ってくださいね」

先生が白衣のポケットから体温計を取り出す。渡された俺はその場で立ったまま体温計を脇に挟める。
学校でも秋になるとよく熱を測って先生に報告したりしていたっけ。

「あの…熱って、測るの意味あるんですか」

ボードに何やら書いていた先生が顔を上げる。

「お互いにわかりやすく、体に異常がないか確認できる一番の方法かなと思いまして。建物内にいる方には全員にお願いしています」

建物内という言葉が引っ掛かったが、ここ以外にもう一つ施設があるのかなと思った。確かに自分は平気でも、体温が高ければ先生も気に留めやすいし、自分も安静にしていようと行動しやすくなる。

「6度丁度ですね。澄田さん、平均は6度前後ですか?」

「あまり熱測らないので…わからないです。でも今はどこも痛いとかはないです」

「それは良かったです」

先生がにっこりと微笑んで「少しでも心配なことがありましたら、枕元のナースコールか、携帯にご連絡くださいね」と言ってくれた。
先生はボードに色々記入し終えると「そうだ」と、なにか思いついた様子で俺の方に顔を向けた。

「これから他の患者さんの問診に向かうのですが、どうでしょう?施設の案内がてら、澄田さんを他の患者さんにご紹介できればと思ったのですが…」

昨日はカドルを探していて施設をくまなくは見ていない、トイレも自分の部屋以外どこにあるかもわからないし、
「ぜひ、」と俺は先生にうなずいた。
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