空想

NAKU

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第3章

目覚め

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 霧の濃度がいつまで経っても変わらない。どれほどの時間を飛んでいるのか。流石に心配になってきた。そもそも目覚めるかもわからない。まさかこのままずっと...?全神経を耳や目に集中させても何も聞こえない、見えない。いっそのことこのままでも良いのではないかと思い始めた。いまの状況なら無駄なことを無駄に考える必要もない。今の自分の心境に1番合っているかもしれない。こんなことを思い始めたのに現実はそうもいかない。霧の濃度が低くなり始めてしまった。また悩みながら生きていくことになりそうだ。次はどんな現実かな。そっと目を閉じてなにかが起きるのを待つことにした。
 しばらくすると気のせいかもしれないが空気感や匂いが変わった気がした。もう変わったのかもしれない。だが、今のところ嗅覚しか異変に気づいていない。視覚や聴覚の異変はまだだろうか。そんなことを考えているとどこからか声がした。いや、すぐ近くで聞こえた。
「~~輩!~先輩!起きてくださいよ!出撃命令です!」
...先輩?出撃命令?何を言っているんだ?まだ夢を見ているのか?体を揺さぶられて夢では無いことを実感する。
「やっと起きた...」
「昼寝も良いですけど仕事はしてもらいますよ」
仕事ってなんだ...?
「なぁ...」
「なんです?」
「夏の優しい風はどこだ?」
「?」
「夏の空気はどこだ?」
「何言ってるんですか...」
「全く...」
「寝ぼけてないで早く準備してくださいよ!」
今までのは全部夢だったのだろうか。あの記憶は全て夢だったのだろうか。あの景色や懐かしい声も全て夢だったのか?あぁ...そうか。あの風景は全部今はもう存在しない

全て僕の空想だったんだ...

今のこれが現実か。窓の外を見てみる。荒れきった街や砂漠が延々と続いている。お世辞にも美しいとは言えない光景だ。こんな世界に仕事などあるのか?
「なぁ」
「なんです?」
「仕事ってなんだ?」
「何をするんだ?」
「またですか...」
「またってなんだ?」
「過去に同じ説明を何度もしてるんですよ」
「本当か?」
「本当ですよ」
「"音"をよく聞いてみてください」
「...音?」
耳を澄ましてみる。すると遠くの方から爆発のような音が聞こえてきた。
「爆発?」
「そうです」
その後聞こえた言葉に耳を疑った。
"今日も生きて帰りましょうね"と。
たしかにそう聞こえた。死ぬのか?どの世界に行っても救いはどこにもないようだ。いや、救いが無ければ作ればいい。ー今日も救いを求めて彷徨うとするかー
「仕事内容をもう一度教えてくれ」
「またですか...」
「...分かりましたよ」
「じゃあ...これ」
受け取ったものを見て驚愕した。
•••これは銃か?しかもよく改造されている。まるで...。考えたくないがどう見ても人を殺す専用の武器だ。もしかして仕事内容って...。
「なぁ...」
「なんです?」
「仕事内容って人殺しか?」
「まぁ生きていくにはそうするしかないので」
「生きていくには...?」
「外を見たでしょう」
「今、この世界には資源が圧倒的に足りないんですよ」
「人口に対して資源は減っていく一方」
「そうなると人類は奪い合うしか道は残されてないんですよ」
なるほどな。生きていくには仕方ない...か。しょうがないのかもしれない。
「これからどこ行くんだ?」
「近くの集落を奇襲して資源を"頂きに行きます"」
どうやらこんな寂れた世界でも人類は誉れを失っていないらしい。実に誇らしい事だ。いや、奇襲自体誉れとは程遠いことかもしれない。でもこの行為をなんと呼ぶのかは自由だ。偽善でもなんでもない生きるには仕方のない行為だ。
「行くか」
「はい」
「先輩」
「うん?」
「お帰りなさい」
「何言ってんだ?
「はは」
なんだか自分を見失っていたようだな。変な夢を見ていたせいだろうか。いや、あれは夢ではなく空想だった。あの世界は自分が知らずのうちに望んでいたのだろうか。たしかに平和な世界も良いとは思っていた。だが•••いつしか
  人を殺すのが楽しいと感じた。
勝手に指が動いて引き金を引くかのように...
「先輩ってなんで呼ばれてるか知ってますか?」
「なんだそれ」
「戦場の鬼って呼ばれてますよ」
鬼...?そこまで怖いのか?
「戦場での先輩はすごいですよ。」
「狙った獲物は必ず仕留める」
「しかも...」
顔を指差して話を続ける。
「撃つ時は必ず笑ってますよ」
「それは鬼だな」
「でしょう?」
その時サイレンが鳴った。
「準備ができたみたいですよ」
いよいよ出発のようだ。楽しみと思ってしまっている。
「行くぞ」
「あ、ついでに」
「ん?」
「先輩が関わった作戦って必ず敵が全滅するんで」
「…死神とも呼ばれてますよ」
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