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1巻
1-3
しおりを挟むそこには木造の小屋が、数十軒あった。
俺は目立つオオケダマウサギとホブゴブリンを小型化して、肩の上に乗せておく。一応、警戒のためにダークウルフはそのままにしておいたのだが、どうやらその必要もなさそうだ。
小屋から男性が出てくるのが見えた。
もちろん、ここで意思疎通ができなかったり、人食いの村だったり、犯罪者の隠れ里だったり、あらゆる危険が潜んでいる可能性は否定できない。しっかりと用心する必要があるのだ。
けれどすっかり疲れていた俺は、とりあえず話だけでもしに行くことにした。
なにより、人恋しかったのかもしれない。
ダークウルフも小型化し、森から抜けると人里のほうへと一人、歩いていく。
怖がらせないように小型化したのだが、正解だったようだ。
「そこの者、どこから来た!」
と、男の声が聞こえた。
スキル「大陸公用語」のおかげで、会話ができるようだ。ほっとした。身振り手振りでは、とてもじゃないが意思の疎通などできる気がしない。
「森から! 迷ってたんだ!」
「ふうむ。犯罪者ではないようだが」
「もちろんだ! 昨日から彷徨い歩いて、なにも食べていない。ここはどこなのか、教えてほしい」
自分から犯罪者と名乗る犯罪者はいないだろうが、ともかく話くらいは聞いてもらえることになった。
というわけで、村の人々が何人か出てくると、俺はちょっと距離を取ったあたりで、切り株に腰かける。この距離がお互いに丁度いいだろう。急に切りかかることもできないし、声は聞き取れるくらいだから。
そうして、戸口から見守るいくつかの視線を浴びつつ、俺たちは会話をすることになった。
始めに口を開いたのは、長老と思しき爺さんだ。その目は三体の魔物に向けられている。
「……おや、魔物使いの方でしたか」
名称など知りもしないが、とりあえず合わせておく。
「えっと……あまりよくわかってないんですが、彼らを従えていることに関しては、その通りだと思います」
「謙遜なさるな。若くして三体もの魔物を従えておられるとは、相当な苦労があったのでしょう」
どういうことだろうか。
昨日初めて魔物を従えただけだし、苦労したと言えばしたけれど、そう言われるほどでもない。
記憶喪失ということにでもしておこう。調子を合わせるのにも限界が来てしまいそうだ。
「本当によくわかっていないんです。どうにも頭を打ちつけてしまったようで、記憶が曖昧で……」
「それはそれは。では語るとしましょうか」
それから彼は親切に説明してくれた。
どうやら魔物使いというのは、主従契約のスキルを持つ者を指すらしい。しかし、本人には戦闘能力がないため、危険がつき纏う戦いについていけなくて、やめる者も少なくないという。
それゆえに、ただでさえ希少であり、さらに魔物を三体も引き連れる魔物使いとなれば滅多にいないそうだ。
うーん? でもすぐに三体目を使えるようになったぞ。
俺自身、成長しやすいんだろうか。才能があるとかじゃなくて、ゲームの主人公だから。いやそもそも主人公なのかどうかもわかってないけど。
なんにせよ、普通の人たちはスキルが一つあればいいほうということだから、初めからこんなにスキルを持っている俺は珍しいんだろう。ちなみに、小型化は魔物を従えると自動で取得できるスキルらしく、魔物使いなら誰でも持っているようだ。
また、老人の話には魔物合成の話は出てこなかった。だからおそらく、魔物使いが一般的に持っているスキルでもないんだろう。
迂闊なことを言わないよう静かに聞いていたところ、彼のほうから話を変えた。
「……見たところ、お疲れのご様子。コボルトどもとの戦いがあったとお見受けしますが」
「ええ。かなり多いようですが、なにかあったのですか?」
「おお。奴らの襲撃を切り抜けられたのですね。どうにも最近、リーダー格の個体が生まれたらしく、コボルトどもが調子に乗っているのです。山菜を取りに行った者は何度も襲われておりますし、この前は村にまでやってきて、女を攫っていきました」
「それはひどい……」
「魔物使い殿、どうか今しばらくは、ここにいていただけませんか」
老人は頭を下げた。
なるほど。俺に親切にしていたのは、コボルトから守って欲しかったのが理由だったのだろう。
俺としては願ったり叶ったりである。
「私にできることはほとんどありませんが、微力ながらお手伝いさせていただきたいと思います」
「ありがとうございます!」
老人は地にこすりつけんばかりに平伏した。
それから、俺には掘っ建て小屋が与えられることになった。俺の希望でそうしたのである。
謙虚なところをアピールするのも理由の一つだが、ここはほかの者たちの小屋から離れている。なにかあったとき、逃げやすいのだ。俺の従えている魔物がなにかするかもしれないし、逆に向こうからなにかしてくるかもしれない。
というわけで、適度な距離を保つことにしたわけである。
ぼろではあるが、雨風さえ凌げればなにも問題はない。
しかも、俺には温かな食事まで提供された。雑穀の飯に、山菜のスープ。具はあまり多くないが、これは最近、山の中に人が入れなくなったからだという。とはいえ、人間らしい食事ができることに俺は感動していた。
魔物たちにも食事を与えているが、どういう原理になっているのか、小型化している状態で餌をやれば、ほんのちょっとで満腹になるようだ。
質量を考えればおかしなことになるのだが、疲れているので細かいことを考えるのはやめた。とにかく、ここならばまともな生活ができそうである。
明日からは、コボルトたちを倒しながら、のんびりこの世界のことを知るとしよう。
……それにしても、俺も慣れたものだ。たった一日しかたっていないのに、随分長く過ごしたような気がしている。
ああ、そういえばブラックベアーの話をするのを忘れていた。いや、でもあそこが禁断の地とかだった場合、俺は間違いなく追い出されるよなあ。知らなかったことにでもしておくか。幸い、ここからはかなり距離がある。
そもそも、教えてもどうしようもないかもしれない。コボルトでさえ持て余しているのだから。一応、都市のほうに救援を求めたが、なかなか来てくれそうもなかったとのことなのだ。
なんにせよ、来たばかりの俺が悩むことではないだろう。
飯を食い終わると、少し休憩してから、俺は再び外に出た。
働かざる者食うべからず。俺は根っからの日本人的な気質なので、早速働き始める。
コボルトでも倒してこようか。
村を歩いていくと、二十代半ばほどの女性がこちらに気がついた。あまり若者はいないようだから、これくらいの年齢の者は珍しい。
彼女は駆け寄ってくる。
うーん、なんか用事でもあるんだろうか? まあ、魔物使いらしいからね、俺も。頼りにされるのも悪くないか。
「あの……その鎌、見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ。これがなにか?」
「……どこで手に入れたものです?」
「森の中ですね。確か、向こうに進んでいったところだったと思います」
女性は悲痛な面持ちで、鎌の柄をなぞっていた。よく見れば、文字のようなものが描かれている。俺は読めないから、てっきり紋様だとばかり思っていたんだが……しかし、言葉は通じても文字は読めないんだな、不便だ。
「これは、夫が使っていたものなのです」
あー……そういうことね。俺の予想、全然違ってたじゃないか。
「ではお返ししますよ」
彼女はその鎌を俺から受け取ると、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「いえ」
俺はそれ以上続けることができなかった。彼女の事情なんか知らないし、なにを言っても不適切な気がしたから。
そんなことがあったので、出鼻をくじかれた気分である。去っていく彼女を見て、俺まで沈んでしまう。
しかし、暗くなってもいられない。
きっと、こういうことはこれから先、いくらでもあるだろう。だからこそ、強くならねばならない。そして、できることならハーピーとかマーメイドとか、綺麗な女性型魔物を侍らせたい。ケダマウサギも可愛いといえば可愛いが、俺が求める可愛さとはそういうのではないのだ。
そうなれば、「主従契約」のレベルを上げていくしかない。
「よし、やるか」
俺は気合を入れて、再び歩き始めた。といっても、戦うのは俺じゃないんだが。
魔物たちを引き連れて森を進んでいく。先ほど来た道を戻っているだけなので、迷うことはない。けれど、ただ道を戻るだけでコボルトに遭遇するんだから、やっぱりその数は多いということだ。
鎌を拾った地点に到着してから、辺りを探索してみる。
しかし、これといったものは見つからない。彼女の夫が行方不明になってから結構な時間がたっているということなのだろう。
それでもなにか無いかと探すのは、慰めになればと思ったからだ。傷心の女性に近づいてあわよくば、なんて考えがないこともないが、見知らぬ世界で独りなのは物寂しかったのが大きい。
結局、コボルトとの戦いが延々と行われるだけで、その日は終わっていった。
手持ちの魔物が怪我をしたので村に帰り、俺は長老に今日の収穫を見せた。
「コボルトが落としていった物と、何となく食べられそうな果実を取ってきたのですが」
「おお、奴らを打ち倒してくださったのですね……ところで、ギルドには所属しておりますか?」
「ギルド?」
「ええ。その調子ですと、御存じないようですね。我々国民の多くは、働く際に商業、工業、農業などのギルドに所属することで、税を納めております。所属しない者もおりますが、諸々の手続きが複雑になるほか、扶助が受けられないなど、不都合が多くなります」
どうやら、普通の組合のようだ。世帯主が死亡したとき、家族の扶養などを行ったりもするらしい。
入っておくに越したことはないんだろうが、どうすればいいのかわからない。
「魔物使いでしたら、傭兵ギルドに入られるのがよろしいかと思います。仕事があれば、割り振られますし、国難でもない限り、受諾は任意です。人頭税だけで済みますし、素材の売買も許可されております」
「なるほど、そうなのですね。ありがとうございます」
重税をかけないのは、強い傭兵をできる限り国内に残しておきたいからのようだ。彼らが魔物の駆除を自主的に行ってくれれば、常備軍に無理がなく、この上なく楽になるのだろう。
俺は街に行こうと思いつつ、今日はここに泊まることにした。いつまでもいてよいとのことだが、何年も居座る気にもなれない。そんなにたったらおっさんになってしまうし、ただでさえ少ない出会いが激減してしまうではないか。
そうして掘っ建て小屋に寝転がると、今までの疲れがどっと襲ってきて、横になるなり眠りに就いたのだった。
◇
夜、目が覚めると、戸口のところに、置手紙とともに飯が置いてあった。親切にも、文字ではなく絵で説明してくれている。俺が文字を読めないことを知っている人と言えば、あの女性くらいだ。
どうやら、鎌のお礼に持ってきてくれたものらしい。
もう冷めてはいるが、俺は空腹だったので、次々と腹に収めていく。
外を覗いてみれば、周囲はすっかり寝静まっていた。かなり長い間、眠ってしまっていたらしい。こんな時間に出ていってもやることもないし、怪しまれるのも嫌である。
ごろごろと寝転がってはいるものの、木製の床は硬い。集落の中なので、オオケダマウサギも小型化しているのだ。誰も入ってこないような自宅なら、別に通常の大きさでもいいんだが、あくまで借りている場所なのである。なにかあったら困る。
なにをするでもなく、俺はステータスを眺める。
《シン・カミヤ Lv6》
ATK16 DEF15 MAT12 MDF13 AGI15
【スキル】
「大陸公用語」「鑑定」「主従契約Lv2」「魔物合成」「小型化」「ステータス還元Lv1」「成長率上昇Lv1」「バンザイアタック」
《オオケダマウサギ Lv6》
ATK20 DEF27 MAT15 MDF25 AGI15
《ホブゴブリン Lv4》
ATK23 DEF22 MAT10 MDF9 AGI17
《ダークウルフ Lv3》
ATK24 DEF15 MAT11 MDF12 AGI25
確かに、俺たちは強くなった。そこらの魔物に負けることはないはずだ。
しかし……ブラックベアーに勝てるか、と言われれば、まったくそんな気がしないのだ。
もし今、奴に遭遇すれば、俺は決断を迫られるだろう。
こいつらをけしかけて気を引き、そして一体に「バンザイアタック」を使用して敵に張りつかせる。その隙に、二体の魔物を連れて逃げるのだ。それしか、生き延びる方法はない。
そのとき、どいつを犠牲にすればいいのだろうか。
ダークウルフはいろいろと役に立つから、おそらくホブゴブリンかオオケダマウサギだ。これらは合成で作ることができるため、失ってもそこまで痛くはない。
そうわかってはいるんだが……
すやすやと寝息を立てているオオケダマウサギを見る。きっとここが日本だったら、小さくてキーホルダーみたいに可愛いと人気になるんだろうなあ。
「はあ、やめだやめ」
小難しい倫理的なことは考えないことにする。
何度考えたって答えは出ないし、なによりいざというときに判断が鈍りそうだった。
そうして寝転がっていると、なにやら外が騒がしくなった。
俺は扉から身を乗り出して、様子を探る。
「コボルトだ! コボルトが出た――ぎゃあ!」
魔物が襲撃してきたようだ。俺は小屋を飛び出し、叫び声があったほうを見遣る。
コボルトが二十体ほど。
やれるかやれないかで言えば、なんとかなるだろう。こちらは三体とはいえ、コボルトに後れを取りはしない。魔物たちもすっかり傷は回復している。
俺は手持ちの魔物たちに合図を出し、魔物の側面から襲いかかれるよう移動する。なにもない村だが、闇夜に乗じれば、そこまで目立ちはしない。今宵は雲がかかっており、星明かりが届いていないのだ。だからこそ、相手も襲撃してきたのかもしれない。
そうして近づいていくにつれて、中に大きなコボルトがいることに気がついた。
《コボルトリーダー Lv8》
ATK23 DEF20 MAT10 MDF9 AGI22
どうやら奴が、コボルトどもを束ねているらしい。こちらのホブゴブリンと強さはおおよそ同じ。レベル差はあるが、1から育てている分でステータス差は埋められているようだ。
あのコボルトリーダーが、村人たちの言っていたコボルトの襲撃を扇動していたのだろう。奴らは一軒の小屋に群がって、扉をこじ開けようとしている。
しかも、コボルトリーダーは武器を持っていた。おそらく人から奪ったもので、先端に刃物をつけた簡素な手槍だ。
村人たちの中に、戦える者はそう多くないようである。なんとか敵に抵抗すべく集まろうとしているが、準備が整う前に、コボルトは住民を攫っていってしまうだろう。
「ウルフ、合図を出したらあのリーダーを狙え。槍を持っている左腕を噛むんだ」
と、あらかじめ命令を出しておき、俺はいよいよ号令をかける。細かい命令は伝わらないし、意味がないのだ。
「突撃! 奴らを蹴散らせ!」
オオケダマウサギが勢いよくごろごろと転がって、コボルトの群れに突っ込んでいく。奴らはなにが起きたのかわからずに、騒ぎ始めた。
そこにホブゴブリンが棍棒を持って飛びかかる。
空いた道を利用して、ダークウルフがコボルトリーダーへと接近、見事に腕を噛んだ。しかし、それだけでは奴は止まらなかった。
槍を落としつつも、思い切り腕を振ってダークウルフを放り投げる。
だが、そちらに気を取られている間は無防備だった。俺は木の棒を小脇に抱えたまま、コボルトリーダー目がけて体当たりをかます。
確かな手ごたえがあった。衝撃で木の棒が折れたが、しっかりとダメージは通ったようだ。
奴は一瞬怯んだが、すぐに俺目がけて拳を繰り出す。
俺は咄嗟にコボルトリーダーの落とした槍を掴んで後退。
数の差があるため、仕方なく俺も戦闘に加わったとはいえ、ステータスの差がある。真正面から打ち合うのは御免だ。
「撤退! 撤退だ!」
奇襲に成功した以上、コボルトの群れの中にとどまって戦い続ける必要はない。
三体の魔物が無事戻ってくると、俺はそのまま敵から距離を取る。案の定、コボルトリーダーは血眼になって追ってきた。
しかし、コボルトたち全員に命令がうまく伝わっているわけではない。半数くらいはその場に倒れたままだったり、いまだに扉に張りついていたりしていた。
コボルトリーダーとコボルト、合わせて十体ほどがこちらに向かってくる。
この程度の数ならいけるだろうかと思ったところ、コボルトの一体が投石によって倒れた。村人の一人が、手助けしてくれたようだ。
「よし、奴を倒すぞ、反転! 突撃!」
ホブゴブリンがコボルトリーダーに当たるよう命令を出す。
体格的にもあまり差がないため、左腕を負傷した状態ならホブゴブリンでも仕留められるはずだ。
その隙に、俺は槍を振るってコボルトを仕留めていく。戦いにも慣れたものだと我ながら感心してしまう。多少武道くらいは習ったことがあるとはいえ、お遊びみたいなものだ。それが今、魔物を倒しているというのだから、環境が異なればなんと人は変わるものか。
しかし、予想に反して情けない声が聞こえてくる。見れば、ホブゴブリンが押し倒されていた。このままでは流れが変わってしまう。
コボルトリーダーは好機と見て、一気に畳みかけんとしていた。
俺は素早く主従契約を発動させる。魔法陣が放たれると、コボルトリーダーは咄嗟に退いた。
抵抗しようとすればできるものだが、やはり食らえば多少のタイムラグが生じるらしいため、足止めに使えないこともないのだ。といっても、一度見て心構えができてしまえば、意味はない。
村人も加わって、コボルトと戦う中、俺はコボルトリーダーと対峙する。
奴は息も上がっていたが、俺を敵と見なして激しい怒りを向けてくる。
「そんなにじっと見つめるなよ、お前みたいな犬面に見られたって、嬉しくねえから」
近づいてこようとするコボルトリーダーを槍で牽制する。
そして準備が整うと、俺は咆哮を上げながらコボルトリーダーに飛びかかり、奴は迎撃する態勢に入った。
しかし、そこで俺は素早くバックステップする。
打ち合うつもりなんざ、端からありゃしないのだ。
そしてコボルトリーダーは俺へと一歩を踏み出した瞬間、ホブゴブリンが放つ棍棒の一撃を背後から食らって転倒した。
俺の役目なんて、相手の意識を引きつけるくらいだろう。
リーダーを失うと、いよいよコボルトたちは統率を失って、次々と仕留められていく。そもそも、一対一なら俺の配下が負ける道理はない。
俺は倒れた敵の姿を見回して、それから小屋の扉が開いていないこと――村人の防衛に成功したことを確認する。戦いが終わると、俺は魔物たちを小型化した。
「魔物使い殿。御助力、誠に感謝いたします」
「いえ、微力ながら、ともに戦えたことを喜ばしく思います」
村の若者たちに駆け寄られる中、扉が開いて女性が出てきた。俺はあっと息をのんだ。
彼女は昼間、話をした人だったから。そして小さな女の子の手を引いていた。
「お助けいただき、ありがとうございます」
頭を下げる女性。女の子はオオケダマウサギに興味津々だ。俺がケダマをすくい上げて掌に乗せると、彼女は触ってみたり、突っついてみたり、楽しげである。
「……今日で襲撃も終わりだな」
一人の男が満足げに言った。
ということはおそらく、俺がこの村に滞在する理由はなくなっただろう。用もないのにただ飯を食い続けるのは、厄介者でしかない。
ともかく、話は明日することにして、俺は掘っ建て小屋に戻った。
魔物たちは傷ついていたが、休めば治るだろう。俺はやり遂げたことを思い、少しだけ自信がついたのだった。
3
あれから数日。
コボルトも大人しくなって、この村には近づかなくなった。それから、あの女性となにかあるかなあ、なんて期待していたんだが、そんなことは微塵もなく。
あーあ、世の中そんなもんだよなあ。ちょっとした出会いから、お付き合いに持っていけるのなんて、一部のイケメンくらいだ。
そんなわけで俺は出立の準備をしていた。といっても、水と食料を袋に入れればお終いだ。
ここから半日も歩けば、都市に着くという。
長老いわく、もっと長くいてもよいとのことだったが、やはり街のほうが安心できるので、そちらに赴くことにした。
「では、お世話になりました」
「近くに立ち寄ったときは、またいらしてください」
「はい。お元気で」
そんな簡単なあいさつの後、村人に見送られながら、俺は都市に向かって歩き始めた。
一人旅はどうにも寂しいものがあるが、都市に着けばもう少し、ましな生活ができるだろう。皿洗いでもなんでもいいから、適当に金を貯めて、温かなベッドで寝るんだ。
応援ありがとうございます!
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