戦場に告ぐ

信濃

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第2話

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「と、陣地発見」

前方300m位の場所に陣地を発見した。うちの中隊は大隊ごと予備戦力として後置してあったはずなので別の大隊か連隊の部隊だろう。

「どこのだ?」

「第2大隊とかじゃないのか?」

「誰か知り合いいないのか?」

「そんなこと言われても……」

とイアンと話していると

「誰か!」

と後ろから誰何が聞こえた。歩哨の奴に見つかってしまったらしい。どこかで聞いたことのある声だったが誰だろうか。

「撃つな、第1大隊第1中隊のクルト・ハーネス一等軍曹だ。偵察から帰投しているところだ」

そう言いながら振り返る。一度どこかで見たことはあるが名前までは知らない。

「それは失礼した。」

そう言いながら相手の先頭の同い年位の歩哨は銃を下ろした。こんなことならちゃんと道を歩けば良かったな。

「第1大隊は今どこに?」

ついでなので中隊の所在地を聞いておいた。もう迷うのは御免だ。

「後方2キロ程度の場所です。」

「ありがとう」



~~~~~~



「ハーネス一等軍曹以下10名帰還しました」

目の前の上官に敬礼をする。ここは第343師団第851連隊第2大隊第1中隊中隊本部、気心知れた上官だが形式は大事だ。

「あぁ、ハーネス一等軍曹ともう一人。そうだな、ポール二等軍曹残れ、それじゃ解散」

指名を受けた僕とイアンは残りそれ以外の8人はそそくさと本部テントを出た。

「で、どうだった?」

中隊長のゴトー・ハンス中尉、ルーツが極東だとかシアルだとかなんだとか聞いたことがある。年齢は22歳、中隊じゃ最年長クラスの年齢なのだからどれだけ戦況がひっ迫してるのかがよく分かる。僕らとは中央線線にいた時からの上官で、よく知ってるしよく知られている。士官ではあるが、いわゆるインスタント士官の一人で少年兵上がりに最低限の教育を施した泥縄式も良いとこの人なのだが、まともな人なのでみんなに好かれている。

「最初聞いたときは木造の橋みたいな話でしたけど、鉄筋製でご丁寧に2本も架けてありました。車両も見かけました。あそこが敵の兵站の大動脈ですね」

「鉄筋製か、厄介だな」

「これ、スケッチです」

横にいたイアンがメモ帳に描いていたスケッチを手渡す。カメラなんて高級品持ってるわけ無いのでスケッチは風景を伝えるのに重要な手段なのである。

「どれ」

そのスケッチを見てしばらくすると中隊長の顔が歪む。

「これを破壊しろって……」

と呻いている。

「それは工兵の仕事では?」

横のイアンが突っ込みを入れる。橋を爆破するならそれは工兵のお仕事だ。

「それがな、上が防衛戦だか突破戦だか知らないが第2線の方で作戦があるって言って工兵隊を引き抜きやがったんだよ。爆薬の設置ぐらい知識が無くてもできるだろってさ、読み書きも出来ない奴がいるレベルなんだけどなこっちは」

「師団、じゃないですね。軍団レベルですか」

「だろうな」

しばらく重苦しい雰囲気が立ち込める。僕らは環境が恵まれた方だった。孤児院の先生が文字の読み書きを教えてくれたので読み書きが出来るが、そうじゃない所は読み書きなんて出来ない奴はざらにいる。そう考えると先生たちはやっぱり偉大だった。

「補給だが、補充人員はネール少尉のとこで受け取ってくれ、それと物資はこれがリストだ。それじゃ解散」

「「了解」」

敬礼をしテントを出る。戻ってきたばかりだがやることはたくさんある。

「イアン、補給はお前がやっといてくれ。人手は2、3人呼べばいいだろ」

「あいよ、じゃあ新人君のお迎えはお前が?」

「そのつもり」

イアンと別れて少し歩く。すると小隊長のテントが見えてきた。

「小隊長、補充兵の受け取りに……」

そこにいたのは威厳の無いデレッデレの顔で子供と遊ぶ一人の女の子だった。

「何やってんすか小隊長」

「ふぇっ!?」と変な声を出して飛び上がった。相変わらず頼りの無い人だがこんなんでも着任時よりマシなんだから大目に見よう。うん。

「いやー、そのー」と少女は目を泳がせながら恐る恐る中腰の体勢から起立する。

うちの小隊のアリス・ネール少尉は343師団編成時に着任した士官の一人だ。年齢は僕らの一つ上の16歳。実は促成枠のため、完全インスタントのゴトー中隊長よりも士官教育は受けている。いつもおどおどしているがやるときはやる人なのでみんな生暖かい目で見ている。

「あー、補充兵の受け取りだったよね」

「はい」

「おいで二人とも」と言い、さっきまで一緒に遊んでいた子供二人を抱き寄せる。

「この人がさっき言った君たちの班長さんでお兄ちゃんだよー」

「辞めてくださいその言い方」

そうニヤニヤしながら言ってくる。確かに中隊は家族と言うし分隊長はなるほど確かに兄かもしれないがそれはそれとして毎度そう言うので何故かむず痒いからそう言っておく。

「嫌だよ」

「なんでですか」

やっぱり即答された。だけど今回は少し喰い下がろうと思い理由を聞くことにした。

「私のこと戦場知らずのお嬢様って言ったの忘れてないから」

「すいませんでした」

これは平謝りするしかない、これに関しては僕が100悪い。もう1年も前の事だが、この人が着任した時にこれを兄貴分のような人に言ってるのを聞かれてしまったのだ。

「よろしい」

満面の笑みでしてやったりと言う顔をされた。これ以上言っても分が悪くなるだけなので話を切り上げることにする。

「取り敢えず僕らは戻るので」

逃げるように言うと両側にいる兵士と言うにはあまりに幼すぎる二人の手を取る。すると後ろから隊長が声をかけてくる。

「そういえば、少しは元気になったみたいだね。偵察に出る前より随分顔色が良いよ」

「えぇ、まぁ、いつまでも落ち込んでられないので」

「私は君があそこまで落ち込んでるのは初めて見たかな」

「、、、あんなミスここ一年してませんでしたから」

「私から言えるのは気負いすぎないことってだけかな」

「では」

「あー、これ忘れてる」

「あっ、すいません」

これはうっかりしていたと差し出された1枚の紙を受けとる。たかが紙切れと侮ることなかれ子の紙には小隊長が補充兵の情報を書いてくれているのだ。ありがたい。

(えーと、どれどれ)

字が書けないのはいつもの事。孤児院で、僕らのように勉強を教えてくれるのはごく僅かだ。故に少年兵の新兵の識字率は著しく低い。兵器の扱いは良し、2人とも大人しめ、それと年齢は11、平和な時代だったらただの子供だ。もっとも、人の事は言えないが、そこで気がついた。はて、この中隊に正規軍人はいるのだろうか。………考えても無駄なことだ。そんなことを考えていると分隊員が建てたテントが見えてきた。

「それじゃ二人に色々と紹介しなきゃね」
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