聖戦の鎮魂歌

信濃

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本編

第六話~恨むもの~

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私は憎んでいる国がある。それは信濃連邦共和国だ。20年前、私が6歳だった頃の戦争でノストランド国から私の故郷、コールネイ諸島は信濃連邦に割譲された。派遣されてきた統治部隊の振る舞いといったら散々たるものだった。ろくに仕事もせず朝から遊び歩き犯罪者の取り締まりもせず、金持ちやお偉いさんと癒着し企業による搾取を黙認、挙げ句の果てには民間人に対する故意の発砲、これに抗議する市民の徹底的な締め上げ、そのせいで一時期テロが横行した。そのテロ取り締まりは苛烈なものだった。その後に知ったこときよれば信濃連邦本国では全くこの事は取り上げられていなかったようだ。やはりいくら平等な市民を謳っていようが私達のことは下に見ていたようである。テロのゴタゴタのせいで私は友を家をそして両親を失った。
11歳のときウェストランド本土の祖父母の家に引き取られた。屈辱的だったのは私がコールネイ諸島出身だと知ると周りが哀みの視線を向け腫れ物扱いしてきたことだった。祖父は元軍人で極度の嫌信だった。毎日それはもう耳にタコが出きるぐらい、信濃連邦は悪の巣窟だの人の形をしたあくまだのと言われ続けた。だがそれは私にとっても同じことだったのだ。奴らがやっていたことはよほど人の所業とは思えなかったのだ。いや、人が人であるがゆえの所業だったのだろう。だが私にとってはそんなこと関係無い。だから、、、

「だから信濃に復讐をする、ねぇ。なるほど確かに君の祖国で軍人になるより我がナポーズドで外士(外国人士官育成制度)で士官になった方が都合の良いのは分かるよ。」

私の目の前でコーヒーを啜りながらその男は言う。本当は少し隠していること脚色していることがあるが言う気はない。

「しかしねぇ」とその男は続ける。

「君ら北部ラヘラス民族を長年弾圧してきた国に協力する気になるのは何かあるんじゃって勘ぐっちゃうよ。」

「別に民族弾圧は気にしてませんよそれにそれも50年前までの話です。僕らの世代には関係ありません。伝統の潜水艦隊を失ったノストランド海軍は今やみる影も無い程に落ちぶれました。ならば我々と同様に信濃を嫌うナポーズドで軍人になった方が復讐は容易、そういう話です。」

「ふーん?まぁ君は我々にとっても有用な駒だ存分に活用させてもらうよ。ハルドラ君。」

「ありがとうございます。バーベリ准将、失礼、少将」

そう呼ぶと目の前の男は残ったコーヒーを一気に飲み干しニヤッと笑った。

「君も意地が悪いね。」

「私も今回のクーデターに加担して中佐に昇進してますからね。」

「准将は私の所感ではありますが非好戦派だと思っていたのですが好戦派だったのですね。」

「あんな腰抜け達と一緒にされちゃぁ困るね。」

「失礼しました。」

そう、クーデターだ。今ナポーズド政府は軍部の好戦派と一部の極右勢力によって占拠されている。政権は大統領を拘束。与党を極右政党に"委譲"させ、議会と司法の権限をほぼ独断で停止。軍部はほとんどが好戦派が掌握、そして海軍の非好戦派は先日の信濃近海海戦で壊滅した。

「例の海軍非好戦派掃討案の立案者は確か君だったね、非好戦派の所属艦をまとめあげて信濃連邦近海で演習と言う名の威嚇を実施、信濃連邦海軍籍の艦艇が出動して緊張状態にさせ撤退させる、、、と言うのは非好戦派連中に伝えた内容だ。その実緊張状態に持ち込んだ後、潜り込ませていた好戦派によって偶発的戦闘を開始。私たちからしたらいつ反乱を起こすか分からない連中を始末できてなおかつ敵に少しでもダメージを与えられる可能性のある一石二鳥の作戦。欲を言えば非好戦派連中を丸々乗っ取りたかったんだがねぇ。」

「国民への情報統制とプロパガンダは今のところどうですか?」

「僕はその道のプロじゃないから詳しくは分からないけど、プロパガンダがある程度功を奏したみたいでね、政権の委譲後の支持率の伸びは良いそうだ。元々勢力の強い党でもあったからね。」

「なら良かったです。」

「フォルテッツァとプロスティでもうまく行ったみたいでね。予測よりも参戦が早かったよ。FNUC加盟国の大半はこの三週間以内に信濃及びOSMP加盟国とその相互独立保証国と戦闘を開始。順調だよ。」

「そうですか。」

予定よりも順調なのは良いことだ。

「君のズメイだが今度は信濃北東海域での通商破壊作戦だったよな?」

「えぇ」

何故今その事を?と聞こうとしたが辞めておいた。おそらく何かあるのだろう。

「第五艦隊の無力化も行うとあったが本気なのか?」

なるほど、その事か。とても正気の沙汰とは思えないのだろう。だが、

「別に第五艦隊を相手どって艦隊丸ごと沈めるわけではありません。しばらくの間眠っててもらうだけです。」

「なら良い。」

「それでは私はこれで。」

「あぁ」

敬礼をして部屋を出る。今回の作戦はある程度今後の戦略に影響を及ぼす可能性すらある。事前準備はするに越したことはない。廊下を歩きながらふとバーベリ少将について考える。何を考えているのか分からない。こちらの心を見透かしたような発言をよくするためたまに冷や汗が出る。なるほどやはり魑魅魍魎の中央で生き残ってきただけはある。だがいずれは出し抜かなくてはならないときが来るかも知れないのだ。この作戦が始まる前から未来のことで少し億劫になってしまった。だがまぁとりあえずは

「しばらくは掌で踊ってもらうぞ信濃連邦」
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