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クラス日誌
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同窓会に出席するため、私は電車に乗っている。高校生の頃、毎日のように使用していた地下鉄。
私はいつもドアに近い角の椅子に座り、金属の細い手すりを掴む。毎日の癖だった。
同窓会は母校の教室で行われる。最寄り駅に着く頃、私は少しウトウトとしていた。
遠くの方でアナウンスが聞こえる。
「次は〇〇、〇〇お降りの方は、」
あぁ、私の降りる駅だ。睡魔に抗えないような、そんな気分。
「乗り過ごすよ。南さん」
誰かが私の名前を呼んだ。
意識がはっきりして、声の主を見上げる。
そこには綺麗な女の人が立っていた。
「あ、え、ありがとうございます」
「南さんだよね?私、日向琴美だよ覚えてる?」
日向と名乗る女は私の同級生だったという。
彼女も同じように同窓会へ行くために電車に乗っていたのだ。
しかし、私は彼女のことを少しも覚えていなかった。同じクラスではなかったと思うのだが。
話を合わせながら、二人で学校へ向かう。
懐かしの通学路だ。
日向さんはよく喋った。明るくてはつらつとしている。
(もしかしたら日向さんは、学生の頃は静かだったのかな。今と雰囲気が違ったのかも)
心の中でそんなことを考える。
5分ほど歩いたころで、正門にたどり着く。
十年以上ぶりに見るその門は、記憶よりも寂れているようだった。
同窓会はそれぞれ三年生の頃の教室に集まる。
私は3-Aの教室へ向かう。そして日向さんも。
彼女も同じクラスだったようだ。全く覚えていない。
私達が着く頃には、もう殆どの人達は来ていて楽しそうに談笑していた。
隣りにいる日向さんに対しては、皆私と同じような何とも言えない反応を返していた。
皆も覚えていないんだ。
当時の担任の挨拶が終わり、自由に話し合う時間が来た。
学生時代の話をしたり、今の仕事や家庭の話、どこも同じような話題だった。
トイレに行こうと教室を出たところで、声をかけられた。
当時好きだった加藤くんだ。彼は、
「南、あの日向さんって誰だっけ?」
私も分からないの。一緒に来たのはたまたま電車で会っただけで、何も覚えていない。
そんな会話を5分ほどしていた。
彼もトイレに行くからと二人で歩く。
少し、ドキドキしていた。
「結婚してないの?」
「彼氏と別れたばっかり」
「俺もだよ」
年甲斐もなくときめいていた。
教室に帰ると、異変に気づいた。
皆が日向さんを囲うようにして話している。
皆の中心に居て、まるで昔もそうだったように。
何だかそれがとても不気味だった。
「南!私達この後日向さんの家に行こうと思うの。一緒に行く?」
恐ろしくなった。先程まで誰か分からないと言っていたのに。家に行くなんて。それに、いい大人が数人で彼女の家に?
同窓会がお開きになり、散り散りに帰る。そう思っていた。
私と加藤くんだけ残されて、他のみんなは日向さんの家に向かった。
私達は最後まで日向さんの事を思い出せなかった。
教室にポツンと残された私達は冷や汗を流しながらただ押し黙るだけ。
ふと、担任が教室に戻ってきた。
「あれ、みんな帰ったのか」
タイミング悪くやってきた担任は、当時のクラス日誌を抱えている。
「せっかくだから、これを見せようと思ったんだけど」
「クラス日誌?見たい見たい!」
二人きりで日誌を読む。何だかロマンチックだ。
ペラペラとめくり読む。クラスみんなで順々に日誌を書いている。
また、冷や汗が頬を伝う。
日向さんの日誌がない。彼女の名前がどこのページにも残っていない。
「これ、書いてない人居たっけ?」
「居ないよ。みんな書いてた」
担任はそう返す。
ページをめくる。
そこは私の日誌があった。
私も、覗くように見ていた加藤くんも目を見開き絶句してしまう。
「日向琴美を信じるな」
ただ、それだけ書いてあった。
「先生、日向琴美って誰だっけ」
担任は何も言わない。
二人で彼の方を見ると、教室を出ていくところだった。
彼は口を開くと、こう言い放った。
「今から日向さんの家に行くんだ。お前たちも行くか?」
私はいつもドアに近い角の椅子に座り、金属の細い手すりを掴む。毎日の癖だった。
同窓会は母校の教室で行われる。最寄り駅に着く頃、私は少しウトウトとしていた。
遠くの方でアナウンスが聞こえる。
「次は〇〇、〇〇お降りの方は、」
あぁ、私の降りる駅だ。睡魔に抗えないような、そんな気分。
「乗り過ごすよ。南さん」
誰かが私の名前を呼んだ。
意識がはっきりして、声の主を見上げる。
そこには綺麗な女の人が立っていた。
「あ、え、ありがとうございます」
「南さんだよね?私、日向琴美だよ覚えてる?」
日向と名乗る女は私の同級生だったという。
彼女も同じように同窓会へ行くために電車に乗っていたのだ。
しかし、私は彼女のことを少しも覚えていなかった。同じクラスではなかったと思うのだが。
話を合わせながら、二人で学校へ向かう。
懐かしの通学路だ。
日向さんはよく喋った。明るくてはつらつとしている。
(もしかしたら日向さんは、学生の頃は静かだったのかな。今と雰囲気が違ったのかも)
心の中でそんなことを考える。
5分ほど歩いたころで、正門にたどり着く。
十年以上ぶりに見るその門は、記憶よりも寂れているようだった。
同窓会はそれぞれ三年生の頃の教室に集まる。
私は3-Aの教室へ向かう。そして日向さんも。
彼女も同じクラスだったようだ。全く覚えていない。
私達が着く頃には、もう殆どの人達は来ていて楽しそうに談笑していた。
隣りにいる日向さんに対しては、皆私と同じような何とも言えない反応を返していた。
皆も覚えていないんだ。
当時の担任の挨拶が終わり、自由に話し合う時間が来た。
学生時代の話をしたり、今の仕事や家庭の話、どこも同じような話題だった。
トイレに行こうと教室を出たところで、声をかけられた。
当時好きだった加藤くんだ。彼は、
「南、あの日向さんって誰だっけ?」
私も分からないの。一緒に来たのはたまたま電車で会っただけで、何も覚えていない。
そんな会話を5分ほどしていた。
彼もトイレに行くからと二人で歩く。
少し、ドキドキしていた。
「結婚してないの?」
「彼氏と別れたばっかり」
「俺もだよ」
年甲斐もなくときめいていた。
教室に帰ると、異変に気づいた。
皆が日向さんを囲うようにして話している。
皆の中心に居て、まるで昔もそうだったように。
何だかそれがとても不気味だった。
「南!私達この後日向さんの家に行こうと思うの。一緒に行く?」
恐ろしくなった。先程まで誰か分からないと言っていたのに。家に行くなんて。それに、いい大人が数人で彼女の家に?
同窓会がお開きになり、散り散りに帰る。そう思っていた。
私と加藤くんだけ残されて、他のみんなは日向さんの家に向かった。
私達は最後まで日向さんの事を思い出せなかった。
教室にポツンと残された私達は冷や汗を流しながらただ押し黙るだけ。
ふと、担任が教室に戻ってきた。
「あれ、みんな帰ったのか」
タイミング悪くやってきた担任は、当時のクラス日誌を抱えている。
「せっかくだから、これを見せようと思ったんだけど」
「クラス日誌?見たい見たい!」
二人きりで日誌を読む。何だかロマンチックだ。
ペラペラとめくり読む。クラスみんなで順々に日誌を書いている。
また、冷や汗が頬を伝う。
日向さんの日誌がない。彼女の名前がどこのページにも残っていない。
「これ、書いてない人居たっけ?」
「居ないよ。みんな書いてた」
担任はそう返す。
ページをめくる。
そこは私の日誌があった。
私も、覗くように見ていた加藤くんも目を見開き絶句してしまう。
「日向琴美を信じるな」
ただ、それだけ書いてあった。
「先生、日向琴美って誰だっけ」
担任は何も言わない。
二人で彼の方を見ると、教室を出ていくところだった。
彼は口を開くと、こう言い放った。
「今から日向さんの家に行くんだ。お前たちも行くか?」
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