歪(いびつ)

solidsmoke

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歪(いびつ)

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小学生も5年生くらいになってくると、
いろいろマセた言動が増えてくるもんで。
特におれらのクラスはセイに?ホンポー?て言うのか?
スカートはいてる女子はめくられないほうが
おかしいし、やられたほうもケラケラ笑ってて
ひどいときゃ半ズボンの男子がマトにされて、
ズボン下ろしてパンツどころかチンコ見えちゃった事件も
あったくらいで。
クラス仲は良かった。
で、そのうち誰かがどこで仕入れたネタだか、
「パイタッチ!」とか言って女子の胸をこう、
そんな強くじゃないけど掌底みたいな感じで
触り始めた。
これが流行った。
なんかスカートめくりより男子の琴線に
ふれるとこがあったんだろう。
でもコレ、女子にはちょっと評判悪かった。
そんな強くやってないのに、「痛い」つって
やけにイヤがる奴もいたり。
「ちょっと男子!」つって仕切りたがりの奴が
マジめにキレてきたりして、やいのやいの
やってもまあ最終的にはケラケラ笑ってたり
して、男子的にはスカートめくりより
盛り上がるネタだった。

夏休みに入って、リュウとかカンジとかと
ほぼ毎日遊んでバカやって真っ黒に日焼けして、
大騒ぎの毎日にふっと、静かで穏やかな
時間をくれるのが、斜向かいの平屋に
おばあさんと二人で住んでるお姉さんだった。

2年位前、やっぱり夏休みに、ずっと空き家だった
家に誰か引っ越してきたらしいてって庭から
覗きに行って、見つかって、縁側で麦茶ごちそうに
なって以来、夏休みにはたまに覗きに行っちゃあ
麦茶いただいてた。

お姉さんは歳がよく分からなくて、おれの
くだらないネタにクスクス笑ってるときなんか
そんなに歳離れてないのかな、と思ったり、
かと思えば麦茶を注いでくれるときに
すこし身体をひねって向こうを向いたときとか、
黙って少し笑うっていうかホホエンで?話聞いて
くれてるときとか、もうすっかり大人なのかな?
とか思ったり、どこかふしぎな感じだった。

先週末からリュウもカンジも家族旅行で
しばらくいなくて、チョットテンション
持て余し気味だったけど、ヒマなのは
ヤだったからお姉さんちを覗いてみた。
縁側にはいなくて、庭に入り込んで
ウロウロしてたら、後ろから「わっ!」って
言われて飛び上がった。
「門があるんだから、そっちから入ってきなさいな」
へたりこんで見上げると、白いワンピースを着た
お姉さんがにっこり笑っていた。
「あっついねー。あんまり暑いからお庭に打ち水でも
しようと思ってたの。」
そう言いながら、青いホースを振って見せたお姉さんは、
なんだかいつもよりテンションが高いように見えて。
そっかー、とか言いながら立ち上がるおれは、
内心今日はみんなテンション上がる日なんだ、
お姉さんもおれと同じとこあんだ、と
なんだか意味もなく嬉しくなったりしてた。

お姉さんが庭に水を撒き始めた。
ホースの先を潰して、広く勢いよく水が広がる。
水滴がキラキラ光って、虹がかかった瞬間、
なんだかガマンができなくなって、おれは
お姉さんが撒く水しぶきに飛び込んだ。
「いやっほーう!」
「きゃ!こ、こら!びしょ濡れになっちゃう!」
濡れた庭土で泥跳ねもかまわず、水しぶきを浴びて。
「お姉さーん、めちゃくちゃ気持ちいいぜ!ほらぁ!」
お姉さんにむかって水しぶきをかけてやれ。
「うわ!もう、きゃはは!やったな、この!」
結構びしょ濡れになったお姉さんもちょっと随分元気よく、
ホース直でびしゃーって水かけてきて、
調子に乗って、
「ぎゃーっ、やったなあ!パイタッチ!」
お姉さんのきれいな大きい左胸にえいっ!
美しく柔らかいラインが、大きくたわんで


「 っ ひい゛っ」

なんだか、誰の声か分からない、濁った声がして

お姉さんが、泥だらけの庭に
ぐしゃっ
と音を立てて
倒れた。


ホースから水が出てる。
「…えっ……」
なにか、かちゃかちゃぐちゃぐちゃと音がする。
お姉さんが震えて、泥をかき回すぐらい震えている。
言葉が出なくて、だってさっきまであんなに
楽しくて、えっ俺何やったっけ?お姉さん大丈夫かなと
一歩近づいて

「  こな゛いで  」

お姉さんの目はなんだか真っ黒で、怯えきって
ぎらぎらしていて、覗き込むのも躊躇われて、
だから、お姉さんがそんなだったから仕方なく俺は、
踵を返して一目散に逃げ出した。



数日が経って。
数日が経ってしまった。
友人達も旅行から帰ってきた様子だったが
俺は奴等と以前と同じ馬鹿をする気になれず、
唯一つの事だけを考え続けていた。

お姉さん。
大丈夫だっただろうか。
酷く、裏切られた様な顔をしていた。
まるで、信頼しきった家族に
背中からナイフで刺されたような。
心当たりは、やはり胸を触ってしまった事だけで。
そんな事が、其の程度の事が、
そんなに嫌だなんて、あるだろうか。
…でもきっとそうなんだろう、
とにかく謝らなきゃ。謝ろう、
そんなに悪いとも思ってない癖に?

ここ数日の堂々巡りの思考を持て余して
いるうちに、今日はとうとうお姉さんの
家の前まで来てしまっていた。
まだ考えも纏まって無いのに、と
踵を返そうとして、
「…コウ君。来たんでしょ。
上がっていきなさいな…」
と、声を掛けられてしまった。

今日も打ち水をしたのか、随分
ぐちゃぐちゃに濡れた庭を前に、
お姉さんは何時も通りに縁側に座って、
よく冷えた麦茶を用意してくれていた。
まるで今日俺が来る事を知っていたみたいに。
8月の日差しにコントラストが狂って
開け放した筈の部屋は真っ暗だ。
お姉さ…あの、こないだは…等と言いかける
俺に、彼女は
「少しお話ししようか」
と、隣に掛けるよう促した。

もぐもぐ言いながら、隣に座って。
これじゃ駄目だと、キリをつけて
「あの、こないだは、本当にごめん!」
と勢いよく頭を下げて、勢いのまま
よく冷えた麦茶を一気に飲み干したら、
お姉さんは少し拍子抜けする感じで、
「ああ、いいのよ、もうね。
もう大丈夫になったから。」
と言った。
「ちょっとね、理由があってね。苦手なの、
ああいうの。」
俺は何故かイヤな予感がして、その理由ってのを
敢えて聞かずに、
「ああうん、もう分かったから。もう絶対しないよ。」
と言ったのだけど、何故だろう、帰れる感じじゃない。
「あのね。キミが触った方の胸ね」
何故だろう聞きたくないききたくない
「胸の先っぽがね、無いの」

言われた事が頭に入ってこない。
いつの間にか蝉の声が全く聞こえない
「伯父さんにね、食いちぎられちゃったから」

彼女の顔からは一切の感情というものが無くなっていた。
きっと俺も同じような顔をしていた。
但し俺のそれは恐怖によるものだ
感情の一切存在しない顔を人間は顔として認識できない
「凄い音がするのよ。人間がやぶける時って」
感情の無い顔が近づいてくる
美しい瞳が、整った鼻筋が美しいくちびるがもはやただの部位にしか知覚できない
食いちぎられた
食いちぎられた彼女はもはや残渣なのだろうか
「わたしが伯父さんにされたこと。コウ君の歳なら、もうわかるかしら」
食われたのだ
何処からか血の臭いがする
俺は鼻が良いんだ
おばあさんは?おばあさんは何処にいる?
彼女か、部位か、残渣かは、凍りついている俺の
足に
太腿にそっと手を、おいて
「腹わたをね、かき回されたの」
美しい肉食の眷属の瞳に当る部位が俺の視線を捉え
血の色の唇に当る部位が、ちろりと舌舐めずりを


喰われる




どうやって自宅に帰ったか覚えていない。
がちがち震える手でなかなか施錠出来なかった。
家族が何か叫んでいたが何も判らず、ただ自室の布団に頭から包まって震えつづけた。

翌朝、初めて夢精して目が覚めた。
下半身の違和感と不快感と異臭でそのまま酷く嘔吐した

吐瀉物の中に、彼女の乳頭があった。

(了)



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