召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十六章 異世界のさらに先

ひとだすけ

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「ありがとうございます。本当にありがとう」

 アンクホルタが、先程からひたすらお礼を言っている。
 彼女達の故郷へ、白孔雀を使ってエリクサーを送ったのだ。

「故郷から一緒にトーク鳥を連れてきてくれたおかげですよ」
「いくら白孔雀といっても、好きなところへ飛ばせるわけじゃないっスからね」
「あの子は、小さい頃から私に懐いていて、離れようとしなかったんです」

 アンクホルタ達が、故郷からトーク鳥を持ってきていたことが幸運だった。
 白孔雀は、基本的はトーク鳥と同じように、目的地を定める。
 つまりは、魔法の笛が奏でる音を目がけて飛ばすわけだ。
 そして、その魔法の笛の音色が届く距離には限りがある。
 だから、ここからギリアの屋敷までは、トーク鳥を飛ばすことはできない。
 笛の音色が届かないからだ。
 例外としては、世界樹にあるハイエルフの里がある。
 これは、白孔雀へ行き先を示す特別な地名を使うことによって可能にしている。
 その特別な地名を使うことができれば、どこにだって白孔雀を飛ばせる。
 それぞれの場所に対応した、特別な地名が、分かれば……だ。
 実際のところ、手がかりがないのでわからない。
 ハイエルフ達の推測によると、古い時代の地名ではないかということだった。
 そんなハイエルフ達が知らないような、昔の地名なんてわかるはずもない。
 ただし、特別な地名を使う他に、もう一つ、遠方へと白孔雀を飛ばす例外がある。
 そのトーク鳥が生まれた故郷、もしくは持ち主へと、トーク鳥を戻す場合だ。
 今回は、前者が幸運にも利用できたというわけだ。

「でも、結果がこんなに早くわかってよかったと思います。思いません?」
「えぇ」

 実際には、エリクサーを送ったのは10日程度前のことだ。
 到着したかどうかを確認する方法が心配だったが、無事到着し、結界も復活することが確実だという。
 これはアンクホルタが占いによって確認した。
 ある行動が、どういった結果をもたらすのかを、見通す占い。
 この世界の占いは、本当に凄い力だ。
 というわけで、全てが無事に進むことがわかって、お礼にアンクホルタがきたというわけだ。

「そんなこと大したことじゃないっスよ」

 プレインの言葉に代表されるように、繰り返し、お礼を言う彼女に対し、皆、なんとも照れてしまった。
 これで、フェズルードで行うことは全て済んだ。
 とはいうものの、別にこの町から出る気はない。
 どうせ町の外は雪が積もり、少し離れた場所にある港は休業状態だ。
 船が出るのは、早くて2ヶ月先のこと。
 特に目指す場所はない、何か思いつくまでダラダラ過ごすということで皆の意見は一致している。
 そんなわけで皆、自由気ままにすごしている。
 サムソンは迷宮で手に入れた本を読み耽っている。
 目的の本は手に入ったのだ。
 他にも複数冊の本が手に入った。
 オレとカガミはサムソンが読んでいない本を読むことが多い。
 プレインはノームの力の検証をしている。
 ミズキといえば冒険者の登録をしたそうだ。
 大したことはやっていないらしいが、冒険者の登録をすることで、闘技場なども参加できるのだと言っていた。

「迷宮ランフィッコは、研究施設だったんですね。あのトーテムポールも何かの実験施設だったのかもと思います。思いません?」

 オレ達が本を手に入れたあの部屋は、とある獣人の研究施設だったらしい。
 知人であるウルクフラという獣人から、色々な資料を譲り受け、それを手に研究を進めているということが、あの場所で手に入れた本の一冊に書いてあった。
 著者である獣人のいる国は、他国と戦争中だったようだ。
 随分と不利な戦いで、撤退に撤退を続け、そしてついにあの部屋まで追い詰められていたということが書いてあった。
 後がないと悟った著者は、せめて自分の研究成果だけでも残そうと、本を書き記したらしい。
 ただし、内容はよく分からなかった。
 かろうじて分かったのは、この著者は純粋な魔力の塊を求めていということ。
 そして、純粋な魔力を抽出し蓄えることを研究していたということだ。

「デイアブロイねぇ」
「なんですか? それ?」
「あの部屋の主が、研究していた内容」
「魔導具の名前ですか?」
「神に近い存在デイアブロイを作って、操るんだって」
「何のために?」
「戦争で勝つためだったらしいよ。この本を書いていたときは戦争末期だったそうだ。そこで、デイアブロイで一発逆転……の予定だったらしい」
「作れたんですか?」
「この本を書いている時点では、作ってなかったようだね」

 書いてある内容によると、作れたとしても、言うことを聞かせることができないらしい。
 そこで純粋な魔力。
 デイアブロイは、純粋な魔力を渇望する性質があるのだとか。
 作り出した、この神に近い存在を、純粋な魔力を餌にして、戦わせる。
 それで一発逆転。
 本当に勝ち目がなくて、わらにもすがる思いだったことが読み取れた。
 だけど、この本を書いた人物は、少なくとも魔法を自分で作ることができていたようだ。
 オレ達が今まで信じていたものとは、随分違う。
 新しい魔法を自由に作れる人は、オレ達以外にもいたのだ。
 よくわからない理論は多かったが、興味深い内容だった。
 あそこにあった本は、読み物としても面白いものが多い。
 チマチマとプレインが、音楽を奏でる魔法陣を作ってくれたおかげでBGMにも不自由しない。
 薪がパチパチと小さな音を立てる大部屋で、ゆらゆらと椅子に揺られて読書。
 おやつはレパートリーが増えた、美味しいドーナツ。
 のんびりと、元はハロルドの別荘だった屋敷で、読書と昼寝で冬を過ごし雪解けを待つはずだった。
 そう。
 はずだったのだ。
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