339 / 830
第十八章 未知への道は皆で
がまんよりめいわく
しおりを挟む
月への道は、破損していた。
具体的には、真っ白い床に描かれていた魔法陣が、アレイアチの大きな爪によって削り取られていたのだ。
加えて、石や何かの骨が散らばっていて、無残な様子だ。
「ここまで酷いとは」
ヘイネルさんが、傷だらけになった真っ白い床をみて呟く。
魔法陣を構成する線が途切れ途切れになっていて、さすがにこれでは魔導具として成立しないなと感じた。
「先に、月への道に関することだと教えていただければよかったのですが」
ついつい愚痴っぽく言ってしまう。
先に教えてもらえれば、調査にしろ、修復にしろ、少しは予習が出来たと思う。
「月への道に異常があるというのは、外部に知られたくないの事柄なのだよ」
「左様ですか」
「大事な時だ。噂としてあっても困るのだが、この状況であればそうも言っていられぬか。ところで、どう思う?」
「どう……とは?」
「修復できそうかね?」
初めて見る魔導具だ。
できるかどうかも解らない。
サムソンをチラリと見るが、首を振っていた。
「少しお時間をいただかなくては、判断もつきません」
「ふむ。しばらくこの場はあずけよう。私は一旦村へと戻る。結論がでたならば報告するように」
オレの言葉を聞いても、特にヘイネルさんは態度を変えなかった。
テキパキと兵士に指示を出し、馬に乗り立ち去っていく。
しばらくすると、月への道に残されたのは、オレ達だけになった。
「なんだか、投げやりというか、期待していない感じだったっスね」
「そうだな。ところでロンロ、月への道ってなんなんだ?」
「空に浮かぶ月に、魔力を上納するための魔導具よぉ」
「魔力を上納って?」
「そうねぇ。魔法を使うと、魔力を使うでしょぉ?」
「使うね」
「全部が、使う魔法のために使われるわけじゃないのぉ。ほんの少しが、魔法の実行には使われずに、周りに飛び散るのぉ」
「10の魔力で火球を使えば、9は火球を作るために使われて、1はロスする……そんな感じかな」
「それでぇ。その飛び散った魔力はぁ。目の前にある月への道という魔導具の力によって、集められて、空に浮かぶ月へと送られるのぉ」
「魔法を使う度に、税金のように取られる魔力か。だから、魔力の上納か」
「税金というより、無駄を集めて再利用? 廃材使って箸をつくるような物だと思います」
「じゃ、月は魔力の塊なんスね」
「そうねぇ。月の魔力により、空にある極光魔法陣は光り輝くと言われているわぁ」
極光魔法陣がサーバなら、そのサーバの動力源は、月が蓄えているエネルギーということになる。
月はいうなれば、バッテリーのようなものだな。
「ところでさ、これって線を繋げればいいってことだよね」
「多分そうだろうな。だが、結構汚れていぞ。ほら、リーダが踏んでるソレ。アレイアチのフンだろ」
言われて足下をみると、白い粘土のようなものを確かに踏んでいた。
確かに、鳥のフンだと言われるとソレっぽく見える。
「やばい」
「ちょっと、近寄らないでよ。はい。バーリア」
「懐かしいっスね」
「遊んでないで……とりあえず、ここを掃除しましょう。きちんと床が見えないと、作業にならないと思います。思いません?」
「そうだが、相当広いぞ」
「ブラウニーさん達を呼びます。リーダ、お酒と果物を下さい」
カガミに言われて、そそくさとお酒と果物を取り出して渡す。
「ちょっと、そこらへん散歩してくる」
渡した後は、散歩することにした。
どうせ、ブラウニー共に悪態をつかれるのだ。
いない方がいいだろう。
「あのね、リーダ」
森を進んでいるとノアから声をかけられた。
追いかけてきたようだ。
カガミ達と一緒にあの場所に残るのだろうと思っていた。
「なんだい?」
「どこにいくの?」
「ちょっとだけ、周りをウロウロするだけだよ。あのまま残ってると迷惑というか、じゃまになるしね」
ブラウニーに悪態つかれて、オレが言い返しす。
すると、カガミとミズキから「もぅ、喧嘩しないでよ」とか言われる。先がわかりきっているのだ。
といわけで散歩。いわゆる危機管理なのだ。
「そっか」
「そうそう。というわけで散歩」
「あのね、リーダ」
「なんだい?」
「私が迷惑かけたらリーダは怒る?」
どうしたのだろう。
何かあるのかな。ノアに迷惑かけられるようなことが思いつかない。
というか、同僚達と比べてもずっとノアの方が素直で大人しい。
どこかの酒飲みや、踊り子にお金つぎ込む奴よりか、よっぽどだ。
……父親からの手紙のことかな。
「怒らないよ。皆、やりたいようにやってるしね」
だから笑顔で返事した。
やりたいようにやればいいと。
「うん」
「ノアがやりたいことを我慢するくらいなら、迷惑かけてもらったほうがいいよ」
「そうなの?」
「そっちのほうが楽しいよ。多分」
ノアはいつも遠慮している。
少しくらいは好き勝手していいと思うのだ。
「わかった」
ノアはそう小さく呟いたあと、ずっと黙っていた。
「終わったわぁ」
フヨフヨと飛びながら声をかけてきたロンロの言葉を聞いて戻ってみると、月への道は見違えるように綺麗になっていた。
床に描かれた魔法陣も、くっきりと見える。
大小いくつかの魔法陣が、線で繋がっている。
さて、アレイアチの爪痕によって失われた部分が、修復できればいいのだが。
オレは地面を見つめ、そんなことを思った。
具体的には、真っ白い床に描かれていた魔法陣が、アレイアチの大きな爪によって削り取られていたのだ。
加えて、石や何かの骨が散らばっていて、無残な様子だ。
「ここまで酷いとは」
ヘイネルさんが、傷だらけになった真っ白い床をみて呟く。
魔法陣を構成する線が途切れ途切れになっていて、さすがにこれでは魔導具として成立しないなと感じた。
「先に、月への道に関することだと教えていただければよかったのですが」
ついつい愚痴っぽく言ってしまう。
先に教えてもらえれば、調査にしろ、修復にしろ、少しは予習が出来たと思う。
「月への道に異常があるというのは、外部に知られたくないの事柄なのだよ」
「左様ですか」
「大事な時だ。噂としてあっても困るのだが、この状況であればそうも言っていられぬか。ところで、どう思う?」
「どう……とは?」
「修復できそうかね?」
初めて見る魔導具だ。
できるかどうかも解らない。
サムソンをチラリと見るが、首を振っていた。
「少しお時間をいただかなくては、判断もつきません」
「ふむ。しばらくこの場はあずけよう。私は一旦村へと戻る。結論がでたならば報告するように」
オレの言葉を聞いても、特にヘイネルさんは態度を変えなかった。
テキパキと兵士に指示を出し、馬に乗り立ち去っていく。
しばらくすると、月への道に残されたのは、オレ達だけになった。
「なんだか、投げやりというか、期待していない感じだったっスね」
「そうだな。ところでロンロ、月への道ってなんなんだ?」
「空に浮かぶ月に、魔力を上納するための魔導具よぉ」
「魔力を上納って?」
「そうねぇ。魔法を使うと、魔力を使うでしょぉ?」
「使うね」
「全部が、使う魔法のために使われるわけじゃないのぉ。ほんの少しが、魔法の実行には使われずに、周りに飛び散るのぉ」
「10の魔力で火球を使えば、9は火球を作るために使われて、1はロスする……そんな感じかな」
「それでぇ。その飛び散った魔力はぁ。目の前にある月への道という魔導具の力によって、集められて、空に浮かぶ月へと送られるのぉ」
「魔法を使う度に、税金のように取られる魔力か。だから、魔力の上納か」
「税金というより、無駄を集めて再利用? 廃材使って箸をつくるような物だと思います」
「じゃ、月は魔力の塊なんスね」
「そうねぇ。月の魔力により、空にある極光魔法陣は光り輝くと言われているわぁ」
極光魔法陣がサーバなら、そのサーバの動力源は、月が蓄えているエネルギーということになる。
月はいうなれば、バッテリーのようなものだな。
「ところでさ、これって線を繋げればいいってことだよね」
「多分そうだろうな。だが、結構汚れていぞ。ほら、リーダが踏んでるソレ。アレイアチのフンだろ」
言われて足下をみると、白い粘土のようなものを確かに踏んでいた。
確かに、鳥のフンだと言われるとソレっぽく見える。
「やばい」
「ちょっと、近寄らないでよ。はい。バーリア」
「懐かしいっスね」
「遊んでないで……とりあえず、ここを掃除しましょう。きちんと床が見えないと、作業にならないと思います。思いません?」
「そうだが、相当広いぞ」
「ブラウニーさん達を呼びます。リーダ、お酒と果物を下さい」
カガミに言われて、そそくさとお酒と果物を取り出して渡す。
「ちょっと、そこらへん散歩してくる」
渡した後は、散歩することにした。
どうせ、ブラウニー共に悪態をつかれるのだ。
いない方がいいだろう。
「あのね、リーダ」
森を進んでいるとノアから声をかけられた。
追いかけてきたようだ。
カガミ達と一緒にあの場所に残るのだろうと思っていた。
「なんだい?」
「どこにいくの?」
「ちょっとだけ、周りをウロウロするだけだよ。あのまま残ってると迷惑というか、じゃまになるしね」
ブラウニーに悪態つかれて、オレが言い返しす。
すると、カガミとミズキから「もぅ、喧嘩しないでよ」とか言われる。先がわかりきっているのだ。
といわけで散歩。いわゆる危機管理なのだ。
「そっか」
「そうそう。というわけで散歩」
「あのね、リーダ」
「なんだい?」
「私が迷惑かけたらリーダは怒る?」
どうしたのだろう。
何かあるのかな。ノアに迷惑かけられるようなことが思いつかない。
というか、同僚達と比べてもずっとノアの方が素直で大人しい。
どこかの酒飲みや、踊り子にお金つぎ込む奴よりか、よっぽどだ。
……父親からの手紙のことかな。
「怒らないよ。皆、やりたいようにやってるしね」
だから笑顔で返事した。
やりたいようにやればいいと。
「うん」
「ノアがやりたいことを我慢するくらいなら、迷惑かけてもらったほうがいいよ」
「そうなの?」
「そっちのほうが楽しいよ。多分」
ノアはいつも遠慮している。
少しくらいは好き勝手していいと思うのだ。
「わかった」
ノアはそう小さく呟いたあと、ずっと黙っていた。
「終わったわぁ」
フヨフヨと飛びながら声をかけてきたロンロの言葉を聞いて戻ってみると、月への道は見違えるように綺麗になっていた。
床に描かれた魔法陣も、くっきりと見える。
大小いくつかの魔法陣が、線で繋がっている。
さて、アレイアチの爪痕によって失われた部分が、修復できればいいのだが。
オレは地面を見つめ、そんなことを思った。
0
あなたにおすすめの小説
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜
九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます!
って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。
ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。
転移初日からゴブリンの群れが襲来する。
和也はどうやって生き残るのだろうか。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる