召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十四章 怒れる奴隷、東の大帝国を揺るがす

あかいちをあびて

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「アハハハハハハハハ」

 楽しそうに笑うノアと一緒に、追っ手から逃げる。
 ロンロが先行し、追っ手がいない道を選んで進む。
 まだ、混乱は続いているようで、オレ達を積極的に捕らえようとする人は少ない。

「下に降りるのは無理よぉ。なんだか追い込めってぇ、声が聞こえるわぁ」

 もしかして、やつらはオレ達を、屋上へと追い立てるつもりか。
 オレ達を放置しているのでなく、遠巻きに上へ上へと追い込む考えだと気がついた。
 屋上へ追い込んで、逃げ場をなくしてから包囲するつもりなのか。
 本当であれば下に降りて地上に出たかったが、そうはさせてもらえないようだ。

「このままじゃまずいな」
「あのね、クローヴィスにお願いしよう」

 忌々しく呟くオレに、ノアが振り返り提案する。
 確かにクローヴィスだったら何とかなりそうだ。
 クローヴィスは自慢するだけあって、空を飛ぶことに関しては、飛竜など目じゃないからな。スピードだってそうだし、飛竜が飛べない高度も飛んでいる。
 空を飛び、仲間達の迎えに期待する。
 リスティネルはオレ達を見てくれているはず。そうであれば、手を打ってくれるはずだ。

「了解。そうしよう」
「うん」

 そうと決まればクローヴィスを召喚しなくては始まらない。
 母親であるテストゥネル様は許してくれるかな……いや、試すだけ試そう。
 逃げながら落ち着いて召喚できる場所。
 すこしだけ隠れることができそうな、空き部屋はないかと、あたりを見ながら進む。
 空き部屋は比較的簡単に見つかった。
 扉が少しだけ開いている、真っ暗い部屋が視界に映ったのだ。
 目で合図をすると、ノアも頷く。

「誰もいないわぁ」

 ロンロの言葉に頷き、ノアとオレは、扉に体を滑り込ませるようにして部屋へと乗り込んだ。
 滑り込んだ跡、素早く、そして静かに扉を閉める。

「ウィルオーウィスプ、少しだけ照らしてくれ」

 お願いすると、部屋がほんのりと明るくなる。
 物置かな?
 そこは雑多に本や書類などが置いてあった。
 部屋の奥の方には本棚が並んでいて、その手前には巻物が入った子箱がいくつか転がっている。
 ノアがすぐに胸元からハンカチを取り出し、大きく広げる。
 そして、ペンダントを魔法陣の上に置き、静かに目をつぶり、早口で詠唱を始める。
 銀竜クローヴィスを呼び出す召喚魔法だ。
 さて、ここから先はノアに任せておこう。
 少しだけ距離を取ろうかと後ろに1歩下がった時だ。

「ううっ」

 オレの足が何かに当たって、呻き声が聞こえた。
 踏んだ感触で、人の手を踏んでしまった事に気がつく。
 誰かいたのか!
 外に光が漏れないように、控えめに光をつけてもらったのが仇となった。
 慌ててしゃがみ込み、足下に横たわる人を見ると、そこにはひとりの年若い男が倒れていた。

「ゴメンなさい……あの、大丈夫ですか?」

 そう言って肩を叩いた時、何かが突き刺さる。
 痛たっ。
 そして、ぬるりとした感触。
 思わず見た手には、ポタポタとしたたるほどの血がついていた。
 いや、何だこれ……。服が血に濡れている?
 よく見ると、服の襟から木の蔓が伸び首を……いや、首だけではない。
 もぞもぞと服の下を、トゲの付いた木の蔓が這い回っていた。

「ウィルオーウィスプ、この人をもう少し強く照らして」

 真っ黒い茨。
 木の蔓ではない、これは茨だ。
 服の至る所をぶち破り、血の付いたトゲをのぞかせたその姿はかなりおぞましい。
 そして、手の先まで真っ黒い茨が絡みつきうごめいている。
 これはひょっとして黒死の輪か。
 カガミが使って、ナセルディオに近づこうとした魔導具。
 遺物と言われた死を招く魔導具。
 本で読んだ通りだ、全身に茨が巻きついて死に至らしめる。
 これは黒死の輪の末期状態だ。
 助けるには魔法の剪定バサミで切り取る……幸い、オレは魔法の剪定バサミを持っている。
 だがショックで死ぬこともある……。
 いや。放っておけない。
 寝覚めが悪い。
 すぐに影の中から魔法の剪定バサミを取り出し、バチンとハサミを入れた。
 それだけで、茨はボロボロと崩れ去っていく。だが、最後の悪あがきとばかりに、茨は男を締め付けていった。

「ああぁっ!」

 叫び声をあげたので、とっさに手で口を塞ぐ。

「ゴホッ、ゴホッ」

 だが、咳き込み、吐いた血でオレの手は彼の口から外れ、バタバタと体が痙攣する。
 騒がれてしまうと、オレ達の場所まで見つかってしまう。申し訳ないと、心の中で謝りながら、体をバカつかせる彼をグッと抑える。

「うぅーっ! うぅっ!」

 彼は、うめきながらずっとオレに抱きついて耐えていた。
 そして、しばらくすると気を失った。
 カガミのドレスが真っ赤になる程、血にまみれてしまったが、彼は助かったようだ。
 だが、放置すると出血多量で死にそうなため、エリクサーを出して飲ませた。
 口に流し込むと、静かに光り、オレの体に突き立て剥がれかけていた爪も元通りになった。
 気は失っているが、大丈夫だろう。
 これで良し……と。

「あれ? ここはどこ?」

 ちょうどそこまで対処した時に、ノアもクローヴィスを呼び出すことができたようだ。
 のんきなクローヴィスの声が背後から聞こえる。

「うん、わかったよ。任せて! 飛竜なんかには追いつかれないよ。ボクは、あのジタリアにだって空では追いつかれないんだ!」

 ノアから事情を聞いたクローヴィスは自信満々だ。

「リーダも一緒に連れていって欲しいの」
「大丈夫。リーダもちゃんとつまみ上げて、連れていくよ。へっちゃらさ! でも、リーダは怖がっちゃうかも」

 なんてことも言っている、調子に乗りやがって。

「うん。お願い」
「あれ、ところで後ろにいる女の人は?」

 そこで、ようやくオレの存在に気がついたようだ。
 ふと、魔が差した。
 調子に乗ったコメントをしたクローヴィスに、悪戯心が起きた。

「私……」

 裏声を使って、クローヴィスに振り向くと、ニコリと笑い、自己紹介する。

「リーダよん」

 と言ってみた。

「リ……ィィィ」

 クローヴィスは尋常じゃ無くビックリしていた。

「冗談だよ、クローヴィス」

 クローヴィスは、尻餅をついて、ずるずると後ずさりながら腰の剣をすらりと抜いた。
 そして、剣をオレに突きつける。
 やばい、驚かせすぎた。

「クローヴィス、落ち着け」

 そう言って1歩前に踏み出す。ゆっくりと。

「リーダ?」
「そうだ。ごめん。ちょっと意地悪がすぎた」

 弱々しく答えたクローヴィスに、ことさら優しく声をかける。
 そこでまた自分のスカートを自分で踏んでしまい、よろめく。

「ヒィ……」

 よろめき前に進むオレに対して、クローヴィスは、何を思ったのか、パターンと扉を開けて逃げ出した。
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