召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
511 / 830
第二十五章 待ちわびる人達

おとなりさん

しおりを挟む
 どうして?
 有名なグリフォンが襲ってくるのだ?
 理由が分からない。
 そのうえ、飛行島は勝手に動く。
 あいつが原因?

「ほれほれ。よそ見をしている暇はないぞ!」

 グリフォン……賢者と呼ばれるフィグトリカは、楽しげに言うと大きく金色の翼を広げ、羽ばたいた。

『ダン、ダダダダダ』

 直後、地面に羽が突き刺さる。
 羽を飛ばしてきた?
 次々と放たれる羽は、地面に突き刺さる。

「やだっ」

 まるで標準を定めるかのように、次々と突き刺ささる羽を見たカガミは、自分に向かって飛んでくる羽を飛び避けた。

「カガミ!」

 さらに追撃を考えていたのだろう、カガミに後足を突き出し、フィグトリカは上空から襲いかかる。
 茶釜に乗ったミズキが、援護に入ろうと突進するが間に合いそうにない。
 まずい。

「ヌゥ」

 だが、フィグトリカは突如身を翻し上昇した。
 よく見ると、奴にかって魔法の矢が何十本も飛んでいた。
 サッと振り返ると、両手を地面につけたノアと目が合う。

「さすが、姫様」

 そんな間も、フィグトリカは上昇する。追い縋る魔法の矢から逃れようと。
 だが、ノアの使う魔法の矢は、追尾性能が段違いだ。

『ドスッ』

 とうとう避けきれなくなり、フィグトリカに魔法の矢が突き刺さる。
 そして、耐えきれなくなった奴は、グルグルときりもみ飛行さながらに、周りながら落下した。

「ノアちゃん!」

 カガミが悲鳴のようにノアの名前を呼ぶ。
 違う。フィグトリカは落ちているわけではなかった。
 大きく体を回転させ、振り回す翼でさらに飛びかかる魔法の矢をはじきつつ、ノアへと突進していたのだ。

「姫様!」

 いち早く気付いたハロルドが駆け寄るが、間に合いそうにない。
 フィグトリカは、魔法の矢から逃げつつ術者であるノアを倒すつもりだ。
 ぶつかる。
 そう思った瞬間、ノアは大きく後にバク転して飛び避けた。さらに、体のバネを生かして、手に持った赤い剣で反撃する。

「ヌゥゥ……呪い子がぁ!」

 振り絞るようにフィグトリカは声をあげ、翼を大きく羽ばたかせ、後足も利用し急ブレーキをかける。

『ドス、ドスッ』

 だが、避けきれない。
 まだ、ノアの放った魔法の矢は残っていた。
 大きく後に逃れようとしたフィグトリカの背後から、魔法の矢は襲いかかり、音を立てグサリと突き刺さった。
 そして、奴は前のめりになる。
 加えて、カウンターとして振り抜かれたノアの一撃。
 鋭い一撃は、フィグトリカの突き出した前足の先、爪を切り飛ばした。
 だが、相手もやられるままではない。
 再び大きく羽ばたき、その風圧でノアを吹き飛ばし、さらなる追撃から逃れるべく、大きく上昇した。

「ナイス、ノアノア!」

 でも、オレ達の反撃は終わっていなかった。
 フィグトリカの逃れた先、そこには、待ち構えていたかのように大きく飛んだ茶釜の影があった。
 茶釜……あんな高さまで、どうやって飛んだのだ?

「エルフ馬、どういうことだ?」

 上空で待ち構えるように飛んでいた茶釜に、フィグトリカが驚きの声をあげる。
 さらに驚きはそれだけではない。
 茶釜の影から、矢をつがえたプレインが、ヌッと飛び出した。
 矢はフィグトリカに向かって放たれ、さらに茶釜からミズキが飛び降り、手に持った剣で斬りかかる。

『ブォン』

 風切り音が響く。
 ミズキの振り抜いた剣は、フィグトリカをすり抜けたのだ。
 プレインの放った矢も、奴の体に当たる事無くすり抜け、地面に突き刺さる。

「ヌワァハハハ。参った。参った」

 間の抜けた声がした。
 声がした方を見ると、飛行島の端からフィグトリカのよじ登る姿が見えた。
 飛行島の端にかかった前足、その右足の爪が欠けている。

「幻術でござるな」
「そこがハロルドの言う通りだ。爪を切られてしまった時、こりゃ敵わんとな。幻術を使って、飛行島の下に逃れたのだ」
「もうやめでござるか?」
「ヌハハハ。負けだ。負けだ。せっかくだから、ちょいと手合わせしたかっただけだ。それにしても、飛行島を操る者がいるとは。まだまだ知らぬことは多い。ヌハハハハハ」

 高笑いしながら、のっそりのっそりとフィグトリカは近づいてきた。
 勝手なものだ。一方的に喧嘩ふっかけておいて、勝手にやめる。
 もっとも、戦いが終わることについては願ったりなのだが。

「あの……爪」

 ノアが申し訳なさそうに、ゲラゲラと笑うフィグトリカへ声をかけた。

「ん。問題ない。それに、ワシが勝手に喧嘩を売り、勝手に怪我しただけだ。いやはや、ハロルドの指導によるものか? なかなかの手際に恐れ入ったわ」

 前足を少しあげて、フィグトリカはそう言うと、バサリと翼をはためかせ、地上へと飛び降りていった。

「まだ……上昇してるっスね」
「あぁ」

 フィグトリカが去った後も、飛行島は上昇を続けていた。
 どうしたものかな。
 次の問題は勝手に動く飛行島だ。あのグリフォン……フィグトリカは関係ないよな。
 あの言動から嘘を言っているようにも思えない。

「サムソンの所、いってみようよ」

 ミズキの提案で、2階の操縦席に行くことにした。

「操作が効かないぞ」

 お手上げとばかりにサムソンが両手を挙げて歓迎する。
 それは、そんなサムソンに、苦笑し応じていたときの事だった。
 2階の操縦席にある壁。
 プレインが、壁の一方を指さす。

「壁の色が違うっスね」
「前から?」
「いや、違うぞ。少なくとも、オレが席に座ったときは違った」
「ん……と?」

 色の違う部分を手で触れたミズキが首を傾げると、グッと手を伸ばした。

「ミズキお姉ちゃんの手が!」

 ノアが大声をあげる。
 ミズキが小さく声をあげ、首を前に突き出すと、さらに一歩踏み込んだ。
 空中でミズキの半身が消える。
 驚くオレ達に対し、一歩後に下がったミズキが、ヘラヘラと笑って振り向いた。

「なんか繋がってるっぽい」
「ぽいって……危ないだろ。触ったとたんドカンとかだったらどうするんだ?」
「へーきへーき」

 そう言って笑うミズキについて壁を通り抜けると、薄暗い場所に出た。
 足下に段差があって、一瞬焦ったが、少し進むと、そこは地下室だった。
 地面には沢山の魔法陣。
 特に、中央にある巨大な魔法陣には見覚えがある。
 ギリアの屋敷……地下室。

「ワープするんだ。へーへー」
「なるほど。あそこに飛行島をとめて、出入りはあの色の違う壁を使うのか」

 サムソンが地下室を一瞥し、オレ達が降りた階段を見て言う。
 いわゆる駐車場ならぬ、空にある駐飛行島場ってところか。

「王様に取られるとか考えると、空に置いた方が便利っスよね」
「でも、海亀は降ろさないといけないから、一旦は降りる必要があると思います。思いません?」

 確かにな。

「それじゃ、一旦戻るか……そうだ、ロンロ。隣に住んでいる人を一応確認してもらえないか」
「分かったわぁ」

 外の偵察をロンロに任せ飛行島に戻る。
 飛行島は、一旦停止したあとは、また簡単に動かせる事が分かった。
 止まるか、スピードを落とすと自動的に動く仕組みのようだ。
 そしてお隣さんも簡単に判明する。

「キンダッタ?」
「そうよぉ。他にもフェーリタ族が沢山」

 猫の獣人であり、南方で有名な戦士団である金獅子、その1人キンダッタ。
 あいつが、隣。
 ついでに同族が沢山。
 つまりは猫の群れ。
 隣に家を建てやがったのはキンダッタか。

「だったら危険じゃないっスね」
「堂々と戻るか」

 念の為、飛行島を降ろすのは後回しにして、屋敷に帰る。
 新しくできた屋敷の入り口前で、フィグトリカと何やら話をしているキンダッタを見つけた。

「キンダッタ様。お久しぶりでございます」
「これは、ノアサリーナ様」
「ギリアへ来られていたのですね?」
「まぁ……ワタクシはやめましょうと言いましたゾ。ですが……」

 何かを言いよどみ、キンダッタが、真新しい屋敷の方をちらりと見た。
 その先に、こちらに向かってくる一団があった。
 ドレス姿の猫に、メイド姿の猫がぞろぞろと続く。
 また増えた。

「これは、これは。ノアサリーナ様。初めまして、わたくし、レオパテラ獣王国公爵令嬢エスメラーニャと申します。金色彩る収穫の時はすぎ、冬の眠りを迎える頃、暖かい出会いは幸運の兆し、素敵な出会いに感謝いたしますわ」

 真っ白で、やや首の長めな猫の獣人が、スカートの端をつまみお辞儀する。

「初めまして。私も、暖炉に火を灯すより前に、暖かな出会いを得て、嬉しく感じます」

 ロンロの助言をうけて、ノアも静かにお辞儀で返した。

「先日、こちらに越して参りましたの。ふと見ると、景色が美しくて、是非ともこの地に別荘をと思いましたの。それに……ノアサリーナ様とも、お近づきになりたいと思っているのですのよ」

 そう言ってニコリと笑う。
 そして彼女は、言葉を続ける。

「ですので……今日は、旅の疲れもあるでしょうから、また日を改めてお茶会などをお誘いしてもよろしいかしら?」
「えぇ喜んで」

 そんなやり取りをして話を終わった。
 旅から戻ってきて、いきなりのお隣さんという出来事。
 最初はどうなるかと思ったが、ノアとも友好的な隣人だし、問題ないか。
 ともかく、久しぶりの屋敷だ。
 とりあえず、一休みしよう。

「そういえば上空から見たんだが……温泉への道、あいつら勝手に引いてるぞ。ロープウェイが2つに増えていた」

 そのそばから、サムソンからロクでもない報告を受ける。
 キンダッタの奴め。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界転生者のTSスローライフ

未羊
ファンタジー
主人公は地球で死んで転生してきた転生者。 転生で得た恵まれた能力を使って、転生先の世界でよみがえった魔王を打ち倒すも、その際に呪いを受けてしまう。 強力な呪いに生死の境をさまようが、さすがは異世界転生のチート主人公。どうにか無事に目を覚ます。 ところが、目が覚めて見えた自分の体が何かおかしい。 改めて確認すると、全身が毛むくじゃらの獣人となってしまっていた。 しかも、性別までも変わってしまっていた。 かくして、魔王を打ち倒した俺は死んだこととされ、獣人となった事で僻地へと追放されてしまう。 追放先はなんと、魔王が治めていた土地。 どん底な気分だった俺だが、新たな土地で一念発起する事にしたのだった。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥
ファンタジー
ある世界、ある時代、ある国で、一人の若者が領地を取り上げられ、誰も人が住まない僻地に新しい領地を与えられた。その領地をいかに発展させるか。周囲を巻き込みつつ、周囲に巻き込まれつつ、それなりに領地を大きくしていく。 ざまぁっぽく見えて、意外とほのぼのです。『新米エルフとぶらり旅』と世界観は共通していますが、違う時代、違う場所でのお話です。

処理中です...