召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
777 / 830
後日談 その2 出世の果てに

仕事に生きる

しおりを挟む
「どうしたの?」

 困っているオレの顔を覗き込み、ノアが聞いてきた。

「なんだかお腹が痛くなっちゃったよ」

 反射的にオレはつらい状況を訴える。進退窮まる厳しい状況だと。もっとも笑いながらだけど。人間、あまりにも辛いと笑うしかないのだ。

「あっ、お薬……」

 ノアがパッと両手を口にやりキョロキョロと周囲を見渡す。

「いや、痛いってのは、比喩……」
「待っててリーダ! ママがお薬持ってるから!」

 ハッとした表情になったノアがすごいスピードで舞踏会場へかけていく。
 ちょっとした愚痴の真意について、説明する暇すらなかった。

「リーダ……」
「いや。ほら、お腹痛くなるって、マジで。あれだ、踊るんだぞ」

 呆れた顔のカガミから受けた非難に対し、身振り手振りを交えて弁明する。
 さて、どうしたものか。ノアが本気にしてしまった。とはいえ、ノアの後を追いかけて舞踏会場に行くのもつらい。
 ……戻ってきたら謝ろう。少し考えて、そう結論づけた。
 でも、本当に、どうしたものか。
 まず神々の言葉に従って信徒勧誘するのは却下だ。毎度まいど言うことを聞いていては、奴らがつけあがる。オレはそんな簡単に言うことを聞く人間ではないのだ。

「何かあったんスか?」

 考えていると、プレインとミズキが近寄ってきた。

「リーダが踊りたくないからと、ダダをこねているんです」

 舞踏会場をチラリと見て、カガミが言った。

「えー。ちょっと相手に合わせて体を揺らす程度じゃん」
「そうっスよ。創作ダンスのノリでいけるっスよ」

 半笑いのミズキに、プレインが続く。
 こいつらはちょっと自分たちが踊れるからと簡単に言う。できない人間の苦しみをわかってほしい。

「創作ダンスって何だよ」
「学校でやるやつっスよ」

 そんなの学校でやらない。何を言っているんだか。
 まったく。どうにも同僚たちは役に立ちそうにない。

「リーダ! ママを連れてきたよ」
「あの、腹痛だと聞きましたが?」

 同僚たちとウダウダ話をしていると、ノアがレイネアンナを連れて戻ってきた。
 真剣そのものの2人を見ると、何と言っていいかわからなくなる。

「リーダ、大丈夫?」
「あぁ、うん。お腹が痛いのは良くなったよ」

 とりあえずノアの質問に答えながら、思案を巡らす。
 どうしよう、マジで。
 踊れなくて泣きそうだと、正直に言うのが一番なのはわかってはいる。だけれど、真剣そのものの表情で見つめてくるレイネアンナに言い出しづらい。
 チラリと見るが舞踏会場はかわり無い。沢山の令嬢たちは、先程と同じ場所であつまり何かを語らっているままだ。

「場はエルシドラス様が対応してくださるそうです。ですので、無理をなさらないでください」

 レイネアンナが言った。
 もう一度、舞踏会場を見やると、たしかにエルシドラスが令嬢達に何かを語りかけていた。そして、そのうちの一人の手をとり、滑るような動きで踊り始めた。
 続けて歓声があがる。
 あのまま任せて良さそうだ。

「皆さんおそろいですが緊急事態ですか?」

 ホッとしたのもつかの間、今度はイオタイトが近づいてきた。
 どんどん人が増える。

「いや、ちょっとリーダが踊るのが嫌だと……」

 小声でカガミがイオタイトにチクる声が聞こえる。

「嫌って、そんなの適当に舞えばいいっしょ。王子なら簡単簡単」
「そうそう。パーッと踊ればいいんだよね」
「もし、知らぬ者と踊るが不安であれば、わたくしが……」

 もっとも踊らなくいいという話にはなりそうもない。
 外野の話は踊る前提で進んでいる。こんな事で、ウダウダ言わず、それはしょうがないね踊りは中止。それでいいのではないかと思う。人間、得手不得手というものはあるのだ。
 なんとか舞踏会場の人々に姿を現さずに切り抜けたい。

「多少間違いがあっても、我らが味方するのでアル」
「軽やかな風でふわりと衣を舞わせば、未熟な踊りも隠せるでしょう」
「そうそう、あたし達が味方なんだからさ」
「やったじゃん、リーダ。精霊たちが味方だってさ」

 ちょっとは黙っていろ、このクソ悪霊ども。それからミズキも奴らを焚きつけるな。

「そっ、そうだ。ノアにプレゼントがあったんだ!」

 なんとかこの場を逃げたいという一心で、言葉をひねり出す。

「プレゼント?」
「そう。ノアに、プレゼント。案内するね」

 とりあえず、この場から逃げる事にした。あの舞踏会は、まだ先があるような気がする。ヤバい場所からは距離を取るべきだ。可及的速やかに。
 ということで、オレは皆を連れて、飛行島へと向かう。

「まったくもぅ」
「行き当たりばったりっスね」

 背後から聞こえる同僚たちの声など無視して、トコトコと進む。
 考えながら。
 よくよく考えてみると、オレは舞踏会に参加する必要のない事に思い至る。
 更に続けて、これからの事も考える。
 考えながら歩いていると、ほどなく小さな飛行島が見えてきた。獣人たち3人と、ロンロも側にいる。

「あっ! お嬢様!」

 飛行島側にいたチッキーが、こちらに気が付いた。

「なんだ。もう連れてきたのか」

 サムソンも、地面スレスレに浮いた小さな飛行島から身を乗り出して声をあげる。

「飛行島?」
「あぁ、そうだ。実は、上にはまだ秘密がある」

 ノアの言葉に、サムソンが上をむいて答えた。
 さきほどまでオレを非難していた同僚たちも、興味が飛行島に移ったようだ。

「オレは少し席を外すよ」

 そこで、オレは同僚たちに後は任せる事にした。

「どうするんですか? 舞踏会に行くんですか? 教えてほしいと思います」
「一言断ってくる。あと準備だ」
「ちょっと、リーダ、断るって?」
「オレは仕事に生きる事にした」

 困惑したカガミに対し、端的に答え駆け出す。
 さすがに黙っていなくなるのも悪い。言い訳程度でも、一言断っておくべきだと考えたのだ。社会人として。
 それからイオタイトと一緒に、舞踏会場に戻る。
 もっとも目的は踊ることではない。

「イオタイトさん。王様が今どこにいるのかを調べておいてくれ」
「え? 王子?」
「任せた!」

 舞踏会場の裏口そばでオレはそう言うと、会場近くにある厨房へと向かう。
 城のあちこちにある厨房。オレが行くのは、立食形式で食事を提供する舞踏会のために、人が集められた厨房だ。

「王子? このような厨房まで……呼んでいただければ対応いたしましたのに」

 ガヤガヤと料理人ならではの指示が飛び交う厨房。
 慌ただしく料理人が働く厨房に行くと、舞踏会の準備を引き受けてくれていたヴェリアがいた。
 彼女が厨房の監督らしい。

「えっと、そこのテーブルにいろいろな種類の料理を載せてほしいのです。あっ、そこのケーキも」

 広い厨房にあったテーブルを指差しお願いする。
 ヴェリアも厨房の人達も優秀だ。あっという間に、テーブルの上には沢山の料理が用意された。

「これは美味しそうだ。皆さんの働きに感謝します」

 にこやかにお礼を言って、テーブルごと影に料理を落とし込む。
 これで準備完了だ。
 あとはイオタイトからヨラン王の場所を聞いて、適当に断りを入れるだけ。
 それが終われば飛行島へと戻ってとんずらだ。
 ノアの誕生日会は別でやるのだ。あんな舞踏会には用なんて無い。
 踊る時を待っている人達には申し訳なく思うが、もっと有意義な時を過ごして欲しい。
 と思ったら、厨房に駆け込んできた一人の役人により厨房は静かになった。

「王が見えられます」

 その一言で、魔導具や魔法によって動いていた各種道具は、ピタリと動作をやめた。そして、料理人のなかでも身分が高い人達がバッと出入り口へと集まってくる。
 それから程なく、黒い鎧に身を包んだ黒騎士を連れてヨラン王がやってきた。

「リーダよ。何やら急用ができたと聞いたのだが」

 ヨラン王は、背後に控える黒騎士の一人をチラリと見て言った。
 王の言葉に対して静かに頷く鎧姿……あれはイオタイトらしい。
 わざわざ来てくれたようだ。手間が省けて助かる。

「えぇ。急ぎ、向かわねばならぬところができたのです。心苦しいですが、舞踏会はお任せします。父上!」

 周りの目もあるので、かしこまった態度で訴える。
 そもそも、オレが舞踏会に参加するという事がおかしいのだ。それに、オレが王子の演説を引き受ける際も、好きにすればいいと言ったのは王様だ。
 その理屈でいけば、オレには好きに行動する権利がある。

「まぁ、好きにすればいい。後は任せておけ」

 何か言われるかなと不安だったけれど、回答はあっさりしたものだった。
 ともあれ、これで万事オッケー。
 さて飛行島に戻ろう。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」 唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。 人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。 目的は一つ。充実した人生を送ること。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...