【完結】貴方が幼馴染と依存し合っているのでそろそろ婚約破棄をしましょう。

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ロットバレン家といえば、この国でその名を知らない者は居ないだろう。

代々受け継がれた広大な領地と手広く運用する商売の数から、間違いなくロットバレン家は国の財源を3分の1を締めていた。それ故に当主となる人物は誰よりも有能で、そして平民想いでなくてはならない。
だから私もお父様や先祖たちを見習って貧しい者や不幸な者たちに寄り添うようにして来たのだけれども……

(エマ=ラングレーは不憫とは少し違う気がする)

アルバートは言った。
エマは生まれつき身体が弱く、没落寸前のラングレー家では医者からの治療を続けるのも困難だと。そのおかげで学校にも通えなくてずっと自宅で塞ぎ込んでいると。

『だから彼女には僕しかいないんだ』

嬉しそうにアルバートは言った。今思えばその表情は異常なまでに満面の笑顔だった気がする。

(アルバートに縋るエマと、エマに頼られて幸せなアルバート。この関係は並大抵のことが起きても崩れないでしょうね)





「シャロン、聞いているのか?」

突然呼ばれた名前にハッとする。

「あ……ごめんなさい、お父様。何のお話でしたっけ」
「ずいぶん疲れているようだな。そんなに学校の課題は大変なのか」

ぼぉっとしている私を見てお父様は心配そうに眉を下げる。私はなるべく安心して欲しくてにっこりと微笑んだ。

「ううん、全く問題はないわ」
「なら良いが……仕事も大変なら休んでも構わん。身体を壊してまで手伝ってもらうつもりはないぞ」

そう、私は次期公爵としてお父様の仕事を手伝っている。
アルバートは自分が婿にくれば自然と男である自分が爵位を与えられると思っているみたいだがそれは大きな間違いで、何も努力をしない人間に対して世間はそんなに甘くない。彼にはあくまでこの家の婿として、爵位を継いだ私のサポートに回ってもらう事が父の意向だ。

「大丈夫、それくらい平気よ」
「そうか」
「それよりもアルバートの件、本当にごめんなさい」

そう謝ればお父様は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「アルバートか……また例の女のところか?」
「ええ」
「相変わらずだな、反吐が出る」

チッと舌打ちをする姿に苦笑する。
お父様は基本的にとても優しい。そんなお父様の機嫌が悪くなるのは決まってアルバートの名前が出た時だ。

「あらあら、彼はまた来ないのね」
「母上」
「ほーんとに何を考えているのかしら」

ホホホ、と笑いながらも目の奥が笑っていないお母様。明らかに怒っている二人に私も思わず苦笑する。
二人は私とアルバートの関係をよく思っていない。
元々はお父様の母、つまり私のお祖母様が持ってきた縁談の中にアルバートが候補者として上がっていた。そして祖母同士が仲良かったというのもあり、孫同士の婚約を勝手に進めてしまったんだとか。

(それがきっかけでお祖母様はロットバレン家から追い出されるし、私は子供だったけどあの修羅場は今でも覚えてるわ……)

激昂する父と静かにブチ切れる母。
それはもう地獄のような時間だったっけ。

「実はその事で少しお話が……」
「ああ。その前にそろそろ彼が来る時間だ」

彼?
不思議そうな顔をする私にお父様はニコッと笑う。

「今日はヴィンセントを呼んである」
「えっ!そうなんですか」
「ああ。アルバートには久しぶりに兄に会わせてやろうと思って呼びつけたんだが……まぁいい、今日はとことん彼と話し込もう」

アルバートの兄、ヴィンセント=キュレッドは家督を継ぐため各国を視察して回っている。だから一年のうち半分もこの国にはいない彼に会うのは親兄弟でもなかなか難しい。

(私も会うのは5年ぶりかしら……ヴィンセントのことだからきっと益々カッコ良くなってるでしょうね)

コンコン

「失礼致します。旦那様、ヴィンセント=キュレッド様がお見えでございます」
「ああ。ここに通してくれ」

侍女がそう言えばお父様は嬉しそうな顔をする。
しばらくして部屋にやって来たのは、すらっと高い身長と艶かしい黒髪の青年だった。

「お久しぶりです、ロットバレン公」
「やぁヴィンセント、ここに来るのは何年ぶりだ?」

久々に会ったヴィンセントは昔よりと格段に成長していた。昔から他の令嬢たちを虜にする容姿だったが、今は大人の色気を含んでいてまた魅力が上がっている。

「5年ぶりですね。あの頃はまだシャロンも小さく可愛らしい頃でしたので」

チラッと見たヴィンセントと目が合う。
私は思わず視線を逸らした。

「……今は可愛げがないという意味ですか」
「いや?今はとても美しくなったって事だよ」

スッと私の手を取り、その甲へと軽いキスを落とす。

「久しぶり、シャロン」

優しく微笑まれれば心臓がキュッと鳴る。

(相変わらずカッコいいな、もう……)

「おかえりなさい、ヴィンセント」
「公爵夫人もご無沙汰しております」

パッと手を離しヴィンセントはお母様の元へと歩み寄る。
言葉を交わした時間はほんの数分だけ、それなのに私の心臓はバクバクとうるさかった。

ヴィンセントは私の初恋の人だ。
アルバートとの婚約調印式で初めて出会った時、ヴィンセントを見た私は一瞬で恋に落ちた。
でも私にはアルバートがいるしヴィンセントにも婚約者がいる。勘違いで終わらせなきゃと思ってたのに……顔を見るだけで今もドキドキしてしまうなんて。

(私、最悪だわ……とっくに失恋してるくせにダラダラと未練がましい)

「さぁ、立ち話もやめて食事にしよう。ヴィンセント、旅の話を沢山聞かせてくれ」
「是非」

そう言って私たちはようやく食事の席に着いた。
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