【完結】貴方が幼馴染と依存し合っているのでそろそろ婚約破棄をしましょう。

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私とヴィンセントの結婚は、ある条件を飲むことで両親に許された。

一つは、絶対にこの関係をキュレッド家には知られないようにすること。
そしてもう一つは、アルバートとエマの不貞行為を掴むこと。

「この国じゃ通常は婚約破棄を申し出た側が賠償金を支払う義務になっている。しかもその額は相手の言い値……つまりこちらから婚約破棄を言い渡せば、アルバートが我々に多額の賠償金を請求する事が出来るんだ」

お父様は私に向かってそう説明した。

「でもそれには一部例外がある。それは不貞行為による婚約破棄。婚約破棄を受けた側が不貞行為をしたと認めたのなら宣告した側の賠償責任は棄却、むしろ慰謝料を貰えるんだ」
「それじゃ慰謝料のために証拠が必要ってこと?」
「それだけじゃないの。不貞行為により婚約破棄を受けた貴族は、生涯結婚する事が出来なくなるのよ」

お母様はニコッと微笑んで言った。

「貴族の結婚は家同士の繋がり。それを裏切った者はその後の伴侶はもちろん、後継者となる子供すら作る権利を奪われるの」
「そうだったんだ……」

(意外と深いわね、結婚って)

「ちゃんと手順を踏んで婚約を破談にしたり離縁したりするのは問題ないけど」

お母様はどこか楽しそうに話していた。

「アルバートが不貞行為で婚約破棄を言い渡されれば、キュレッド家の継承権は俺だけになる。もしそこで俺が継がないと言い出したら……分かるよね?」
「……うん」
「キュレッド家は爵位を王家へ返さなくてはならない。養子を取る事も出来るけど、今のキュレッド家の財政状況じゃまず無理だろう」

ハァとため息をつくヴィンセント。

(そうね。ロットバレン家に頼りっきりのキュレッド家が、そもそも自分たちの力で今から建て直すのは厳しいかも)

「あの人たちは俺が家を継いで贅沢三昧な隠居生活を送るのが夢だから、この計画が知れたらかなり荒れるだろう」
「だから内緒なの?」
「ああ、君に何をするか分からないからね」

ヴィンセントは私の顔を見れば困ったように笑う。

「大丈夫、君は俺が守るよ」

優しくて低い声に思わず顔が赤くなった。

(色んな事が起こりすぎて分かってなかったけど……私、あのヴィンセントの結婚するのよね?)

やっと落ち着いてきた私はようやく自分とヴィンセントとの結婚について自覚する。
ヴィンセントは令嬢たちの憧れの人だ。
貴族学校でも成績優秀、剣の腕もたつ、そして何よりその容姿。一言でいえば「完璧」だ。そんな彼の相手ともなれば並の令嬢じゃ恥をかかせてしまう。

(本当に私で良いのかしら……)

「では、明日よりアルバートの周辺を探らせよう。それとラングレー家の方も」
「証拠の方は任せて下さい。ちょっと面白いものを他国から持ってきてるので」

お父様に向かってヴィンセントは言う。

「そうなの?何?」
「ん?教えない、とにかく任せて」

ニッと意地悪く笑う。
そんな表情に訳が分からないまま小さく頷いた。





*****


「すまない、わざわざ見送りまでしてもらって」
「ううん。少し外の空気も吸いたかったから」

しばらくして屋敷に戻るヴィンセントを馬車まで見送りに出る。
外はすっかり暗くなって空気も少し冷たかった。

「何だか大変なことになってしまったわ」
「君が気にやむ必要はない」
「でも……私とアルバートの問題なのに自分一人で解決も出来ないなんて、公爵令嬢として失格よ」

馬車へと向かう道中、私は思わず呟いてしまう。
弱音を吐く自分すら情けない。
必死に勉強して、仕事もちょっとずつ覚えて、なのに精神はまだ子供。
俯く私の頭にポンと手を乗せられる。

「シャロン、君にとって俺はどんな風に見える?」
「えっ……と、ヴィンセントはいつも優しくて、大人で、スマートで、みんなの憧れで」
「凄く褒めてくれるんだね。……ありがとう、でもそんなに出来た人間じゃないんだよ」

温かい手が頭から頬へと滑る。

「好きな子が誰かのものになったら嫉妬するし、好きな子を悲しませる存在があるなら全力で排除する」
「ヴィンセント……」
「それが親であろうと、弟であろうと、友人であろうと手は抜かない」

スッと細くなる視線にビクッと肩が跳ねる。

(こんなヴィンセント見たことない……怒ってる、のかな?)

ヴィンセントは滅多に感情を表に出さない。
いつも穏やかな表情をしてて誰にだって優しい、私にとってはいいお兄さん的ポジションだ。

「シャロン」

指先は毛先へと移動しひとつまみ掴むとヴィンセントはそっとキスを落とす。

「好きだよ」

低く甘い声で囁かれる。その瞬間、私の顔が真っ赤に染まっていくのが分かった。

「わ、私は……っ!」
「無理して言わなくてもいいよ?正直ロットバレン公と夫人に君の気持ちを無視して先に結婚宣言したのは我ながらかなり卑怯だと分かってるから」
「っ……ヴィンセント、」
「全部終わって落ち着いてからで良い、その時に君の気持ちを聞かせて」

言葉に詰まる私を見て何かを察したのか、ヴィンセントはまた困ったように笑いポンポンと頭を撫でた。

今の私はアルバートの婚約者。
気持ちを伝える事も、受け入れる事も反則だ。
だから全部終わったら、ケジメをつけたらその時にちゃんと自分の気持ちを伝えよう。

「……ありがとう、ヴィンセント」
「こちらこそ」

そして私たちは迎えの馬車の前まで歩く。乗り込んだヴィンセントに小さく手を振った。

「おやすみなさい」
「おやすみシャロン、いい夢を」

そして馬車はゆっくりと離れていく。
私はそれを見えなくなるまでずっと見送った。


(アルバート……貴方は今、何をしているの)

彼が来なかった今日、何もかもが動き出した。
私とアルバートの関係も、ヴィンセントとの関係も、ロットバレン家とキュレッド家の関係も……

「……大丈夫、きっと全部上手くいくわ」

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