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旦那様が久方ぶりに屋敷に帰ってきた。
が、私は未だ一言も会話をしていない。
夕方ごろお帰りになったロア様は、帰ってくるなりヒルマンに夕食を自室に運ぶよう告げそのまま行ってしまった。どうやらまだ書類仕事が残っているらしく、ゆっくり夕食を取る時間さえも惜しいとの事で。
私も一応はお出迎えはしたけど、一言二言だけ会話しただけで……本当はもっとゆっくりお話したかった。
「でもお疲れなのだから仕方がないわよ」
そして夜になり私は自分の部屋で独り言を呟く。
……って、何急に乙女みたいな事言ってるのかしら。
急に自分の行動が恥ずかしくなってくる。
「……もう寝よ」
大人しくベッドに潜り込もうとした時、廊下から微かに音が聞こえ私の部屋の扉が控えめにノックされる。
こんな時間に一体誰……?
「ソフィア」
「っ、旦那様?!」
一瞬聞こえたロア様の声にすぐさま扉を開ける。目の前には部屋着に着替えラフな格好をしたロア様が立っていた。
「どうなさったのですか……?」
「こんな時間にすまない。君と少しだけ話をしたくて……中に入ってもいいか?」
「ど、どうぞ!」
びっくりした!
まさかロア様が部屋に来てくれるなんて。
部屋に招き入れ窓際のソファーへと案内する。
そこまでして自分が未だ寝巻きのままの格好なのを思い出し急いでストールを巻く。
こんなはしたない格好、お見せしたくなかったのに!
「ごめんなさい、この様な格好で……」
「いや、急ですまない」
「何か温かい飲み物でも用意させましょうか?」
「大丈夫だ。それよりソフィア」
ロア様は自分の隣スペースをポンポンの叩く。
お隣に座れって事かな?
近くなる距離に一瞬ドキッとするもちょこんと座る。
「俺の留守中、シャリオンが来たそうだな」
「あっ、はい!えっと……結婚式はまだかと」
真っ直ぐお顔を見れずどこか余所余所しく話す私に対し、ロア様はそれを聞くとハァと小さくため息をついた。
「すまない。忙しい時期とは言え、そこまでちゃんと考えが至らなかった」
「いえっ!その……私もあまり結婚式、乗り気じゃなくてわざと旦那様に黙っていましたので」
「……したくないのか?」
一瞬驚いた様な顔をする。
どうやらロア様は結婚式の話を持ち掛けなかった事に申し訳なく思っているみたいだけど、当の私がそこまで乗り気じゃなかった事に驚いていた。
それはそうよ、結婚式は女性の晴れ舞台だもの。
まぁ普通の家庭なら、だけど……
「……両親の事が気がかりで。式を挙げるとなればフレイアや元婚約者だった王太子殿下まで来るんじゃないかと」
いくら私が嫌われていようと、大事に思われていなくとも出生は変えられない。
次期王妃だった過去も絶対に変わらない。
それが私には何よりも重い足枷となっている。
「そうか」
「でも皇帝陛下が私とティムレット家の離縁を進めてくださいまして。これでもう、あの人たちに縛られる事はなくなったんです!」
だから心配しないで。
そう続きを言えず私はロア様の腕にそっと触れる。
だってさっきからずっと表情が暗い……。
「君の話をもっとちゃんと聞くべきだった。そうすればそんな不安をさせずに済んだのに」
「私もちゃんとお伝えすれば良かったのです。旦那様の……ロア様の負担になりたくなくて、塞ぎ込んでいるだけだったから」
そう、私達には言葉が足りなかっただけ。
自分の嫌なところも、汚い部分も、相手を信じて素直に伝えるべきだった。
それが、夫婦になる第一歩だったという事を今ようやく私とロア様は分かり合えたんだ。
ようやくロア様と視線が合う。
困ったように笑う彼を見て私もつられて笑ってしまう。
「ソフィア」
ふわりと優しく肩を抱かれ、気付けばポスンとロア様の胸に飛び込んでいた。
優しくて大きな腕に包まれるように抱きしめられながら、耳元で近くなる吐息に擽ったさを感じる。
「一生君を大事にする。だからこれから先もずっと……、俺の1番近くにいてくれ」
温かくて力強い言葉にうっすらと涙を浮かべる。
自分よりも大きな背中に手を回しながら、私も答えるようにぎゅっとその体を抱き締める。
「はいっ……一生、お側にいます!」
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