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エスコートされるまま椅子に座れば、そっと肩からジャケットを羽織られる。こういう事をさり気なくしてしまうんだからロア様は罪な人だ。
「実は、式の前に君に聞いて欲しい話があるんだ」
ロア様は私の隣に腰掛けそっと天を仰ぐ。
聞いて欲しい話?
不思議そうに見つめる私にロア様は困った様に微笑む。
「出生のこと」
「!」
「グランディーノ家のこと。そして、俺のこと」
そう言えばまだちゃんと聞いた事はなかった。
確かお母様がロア様を産んですぐ亡くなったとしか……
「少し長くなるかも知れないが聞いてくれるか?」
「……はい」
私が小さく頷けばロア様はいつも以上に落ち着いた声で話し始めた。
グランディーノ帝国の先代の皇帝はロア様やシャリオン様の祖父にあたる人だった。モニータ王国の横暴なやり方に我慢できなかった先代皇帝は国民達を連れ切磋琢磨し帝国を築き上げたそうだが、これからという時に病で倒れてしまった。
思うように動けない先代に代わり跡を継いだのが息子にあたる2代目の皇帝。
だがロア様とシャリオン様のお父上である2代目の皇帝には国を引っ張っていく才能はなかったそうだ。
見様見真似で皇帝を引き継ぐも上手くいかず、それでも何とか少しずつ領土は大きくする事が出来た。
それもこれも、当時皇妃として側にいたロア様のお母様のお陰らしいが。
「父上は母上を心の底から愛していた。だから苦しい事が起きても、心が折れず皇帝の任を続けていたのだろう」
だが、そんな皇妃様はロア様を産んですぐに亡くなった。
悲しみに打ちひしがれる2代目皇帝とは裏腹に、周りの宰相や貴族達は新たな妃を迎え入れる事を提案した。世継ぎは多いに越した事はない、ロア様1人だけでは周りが不安に思ったのだ。
「そして迎えられたのがシャリオンの母親だ」
ロア様にとっては義理の母親。
彼女は帝国内でもかなり美しいと称される令嬢だった。そんな彼女は後妻の座につくと、数年後には既にシャリオン様を身篭っていた。
「シャリオンが生まれるとそれまで優しかった義母の様子が変わっていった。俺と話をする時間が減っていき、食事も一緒に取らなくなっていった。気付けば俺は……あの屋敷に1人で暮らす様になっていた」
自分と血の繋がらないロア様への愛情が無くなったのだろう。これと言った嫌がらせはしないものの義母は徹底的にロア様を無視する。
実父である皇帝はそんな状態を知りながらも、愛する後妻と生まれたばかりの我が子との時間を優先した。まるで今まで出来なかった時間を取り戻すかのように……。
そして、そんな生活が10年続いた。
皇宮にも呼ばれなくなったロア様はある日突然呼び出しを受けた。
相手は今まで自分に興味を示さなかった義母から。
「食事を共にしようと言って下さった。それまで10年顔を合わせなかった彼女に俺は会うのが不安だったが……それでも嬉しかった」
当時貴族学校に通いながら帝国騎士団への入団を目指していたロア様も立派な少年に育っていた。
そして、10年ぶりに義母との再会を果たす。
久しぶりに会う義母は不自然なくらい優しかった。
テーブルにつくなりロア様はすぐに違和感に気付く。
「当時10歳になったばかりのシャリオンや、給仕をする侍女の姿もなくただ俺と彼女だけがその部屋にいた。用意されていたのは少し冷めた食事と……赤ワインだった」
まだ成人前のロア様に出された赤ワイン。
義母はニコリと微笑みそれを勧めた。
「当然断った、騎士を目指す俺がそんなものを飲むわけない。だが彼女は頑なにワインを俺に飲まそうとしたんだ」
「まさか……」
「ああ。……貴族学校で薬学の講義を受けていたからな、そのワインに毒が入っているのは香りで察した」
血の気が引いていく。
義母である彼女は、ロア様を毒殺しようとしたんだ。
ひどい……酷すぎるわ、幾ら何でも!
「問い詰める事も出来た。だが目の前で天使のように微笑む彼女を見て無下には出来なかった。俺が死ねば彼女は救われる……それならばと、グラスに口をつけた」
自分さえいなければ彼女も父上も幸せになれる。
だがら意を決したその時だった。
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