28 / 39
28
目の前の扉が開き、真っ直ぐに敷かれたバージンロードを見た瞬間私の緊張はびっくりするぐらい溶けてしまった。
会場には何百もの人がこちらを注目している。
なのに私の視界にはモニータ国王とジーク様がはっきりと映る。こちらを睨むジーク様の視線に足が引っ込んでしまいそうだ。
「行こうか、ソフィア」
そう、隣にこの人が居なければ。
組んでいる腕をギュッと締め、私は自分の中で最高の笑顔を浮かべながら歩き出す。
「見てあのドレス!薔薇がついてる」
「ホント……しかもあれは生花じゃない?」
「凄く綺麗、それに香りも素敵だわ」
一歩ずつ進んでいく度に令嬢たちの称賛の声が聞こえる。
当たり前よ、だってこれはジェラルドさんが命をかけて作ってくれたドレスだもの。
あの後ジェラルドさんは一生懸命生地を縫い合わせてくれた。ただし破れた箇所はどうしても参列者から露見してしまう場所。
だが、そのタイミングで届いたのが白薔薇だった。
花が崩れないよう特殊な樹脂を使い、ジェラルドさんはまるで魔法使いのようにその部分に花をつけた。
世界にたった1着だけのウエディングドレス。
それを見に纏った今の私は何だって出来る。
優雅に、美しく、堂々と。
下を俯く事はなく私は一歩一歩前へと足を進めた。
幸せな時間が過ぎるのはとても早く、神父様のお言葉も聖歌隊の賛美歌も、誓いの言葉も全てが着々と過ぎていく。
「それでは、指輪の交換を」
神父様の言葉に控人が台座と共に指輪を持ってくる。
ベール越しではあるがロア様と向き合う。
きっと私、ニヤニヤしているに違いないわ。
締りのない顔を見られてしまうと思いながらチラッとロア様を見れば、いつもクールな顔が何処か緩んでいるような……
良かった、ロア様も嬉しくて思ってくれてるのね。
指輪を手に取り自分より太くて大きな指を手に取る。
その薬指にシルバーの指輪を嵌めれば今度は優しく手を取られる。
シルクの手袋が外されまたあの日の夜と同じダイヤモンドが薬指に帰って来た。
「ソフィア」
ふいに名前を呼ばれ顔を上げる。
そしてまた、優しくて温かい笑顔。
ゆっくりとベールが上げられ視界がクリアになる。
思わず涙が溢れた。
悲しい訳でもない、怒っている訳でもない。
私は純粋にこの人の妻になれる事が嬉しい。
『よく頑張ったな』
『一生君を大事にする。だからこれから先もずっと……、俺の1番近くにいてくれ』
『君を愛している』
ロア様に言われた言葉が脳内を反響する。
全部私の大事なもの、これがあったから今の私が存在できている。
私はそっと笑いかける。
「ロア様」
「ソフィア」
「私を、見つけてくれてありがとうございます」
そして愛してくれてありがとう。
ずっと不幸だと思っていた私を救い出してくれた貴方に出会えて本当に良かった。
小さく微笑めばロア様もつられるように微笑み、そして私の腰をゆっくり抱き寄せる。距離が近くなり頰に手が添えられて……
「俺の方こそ、一緒になってくれてありがとう」
そう呟かれた後、私達はどちらからともなくそっと唇を重ねた。
*****
「それにしても良い式だったねェ!」
控え室に戻ればガハガハと笑うジェラルドさんと式の最中から泣きっぱなしのリンデルがいた。
「ジェラルドさん、本当にありがとうございます」
「いいさいいさ!それに生花のドレスなんて作ったのは初めてだ、もう二度と再現できない貴重な一瞬だったと思うと興奮するねェ」
「おっ、奥様っ、本当にお美しかったですぅ……!」
「リンデル泣きすぎよ」
まさかリンデルがこんなにも泣く人間だったなんて。
支度を手伝ってもらいドレスを着替える。
「奥様、この後はお屋敷に戻られますか?」
「……ごめんなさい、ちょっとまだやる事があるから先に帰っていて」
身軽になった私はゆっくりと扉に近付く。
扉をあげればそこには壁に寄りかかるようにして私を待つロア様がいた。
顔は険しく、いつもの騎士服姿が少し怖く見えた。
「……いいのか」
「ええ。私が……何とかしなきゃダメですから」
私にはまだやるべき事が残っている。
フレイア=ティムレット、そしてジーク=モニータ。
逃がさない、絶対に。
私はロア様と共に彼らが居るであろう地下牢へと向かった。
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄を3時間で撤回された足枷令嬢は、恋とお菓子を味わいます。
青波鳩子
恋愛
ヴェルーデ王国の第一王子アルフレッドと婚約していている公爵令嬢のアリシアは、お妃教育の最中にアルフレッドから婚約破棄を告げられた。
その僅か三時間後に失意のアリシアの元を訪れたアルフレッドから、婚約破棄は冗談だったと謝罪を受ける。
あの時のアルフレッドの目は冗談などではなかったと思いながら、アリシアは婚約破棄を撤回したいアルフレッドにとりあえず流されておくことにした。
一方のアルフレッドは、誰にも何にも特に興味がなく王に決められた婚約者という存在を自分の足枷と思っていた。
婚約破棄をして自由を得たと思った直後に父である王からの命を受け、婚約破棄を撤回する必要に迫られる。
婚約破棄の撤回からの公爵令嬢アリシアと第一王子アルフレッドの不器用な恋。
アリシアとアルフレッドのハッピーエンドです。
「小説家になろう」でも連載中です。
修正が入っている箇所もあります。
タグはこの先ふえる場合があります。
「失礼いたしますわ」と唇を噛む悪役令嬢は、破滅という結末から外れた?
パリパリかぷちーの
恋愛
「失礼いたしますわ」――断罪の広場で令嬢が告げたのは、たった一言の沈黙だった。
侯爵令嬢レオノーラ=ヴァン=エーデルハイトは、“涙の聖女”によって悪役とされ、王太子に婚約を破棄され、すべてを失った。だが彼女は泣かない。反論しない。赦しも求めない。ただ静かに、矛盾なき言葉と香りの力で、歪められた真実と制度の綻びに向き合っていく。
「誰にも属さず、誰も裁かず、それでもわたくしは、生きてまいりますわ」
これは、断罪劇という筋書きを拒んだ“悪役令嬢”が、沈黙と香りで“未来”という舞台を歩んだ、静かなる反抗と再生の物語。
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
謹んで、婚約破棄をお受けいたします。
パリパリかぷちーの
恋愛
きつい目つきと素直でない性格から『悪役令嬢』と噂される公爵令嬢マーブル。彼女は、王太子ジュリアンの婚約者であったが、王子の新たな恋人である男爵令嬢クララの策略により、夜会の場で大勢の貴族たちの前で婚約を破棄されてしまう。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
婚約破棄される前に、帰らせていただきます!
パリパリかぷちーの
恋愛
ある日、マリス王国の侯爵令嬢クロナは、王子が男爵令嬢リリィと密会し、自分を「可愛げのない女」と罵り、卒業パーティーで「婚約破棄」を言い渡そうと画策している現場を目撃してしまう。
普通なら嘆き悲しむ場面だが、クロナの反応は違った。
義妹に婚約者を取られて、今日が最後になると覚悟を決めていたのですが、どうやら最後になったのは私ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フェリシティーは、父や義母、義妹に虐げられながら過ごしていた。
それも、今日で最後になると覚悟を決めていたのだが、どうやら最後になったのはフェリシティーではなかったようだ。
※全4話。
病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで
あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。
怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。
……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。
***
『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』