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しおりを挟む目の前の扉が開き、真っ直ぐに敷かれたバージンロードを見た瞬間私の緊張はびっくりするぐらい溶けてしまった。
会場には何百もの人がこちらを注目している。
なのに私の視界にはモニータ国王とジーク様がはっきりと映る。こちらを睨むジーク様の視線に足が引っ込んでしまいそうだ。
「行こうか、ソフィア」
そう、隣にこの人が居なければ。
組んでいる腕をギュッと締め、私は自分の中で最高の笑顔を浮かべながら歩き出す。
「見てあのドレス!薔薇がついてる」
「ホント……しかもあれは生花じゃない?」
「凄く綺麗、それに香りも素敵だわ」
一歩ずつ進んでいく度に令嬢たちの称賛の声が聞こえる。
当たり前よ、だってこれはジェラルドさんが命をかけて作ってくれたドレスだもの。
あの後ジェラルドさんは一生懸命生地を縫い合わせてくれた。ただし破れた箇所はどうしても参列者から露見してしまう場所。
だが、そのタイミングで届いたのが白薔薇だった。
花が崩れないよう特殊な樹脂を使い、ジェラルドさんはまるで魔法使いのようにその部分に花をつけた。
世界にたった1着だけのウエディングドレス。
それを見に纏った今の私は何だって出来る。
優雅に、美しく、堂々と。
下を俯く事はなく私は一歩一歩前へと足を進めた。
幸せな時間が過ぎるのはとても早く、神父様のお言葉も聖歌隊の賛美歌も、誓いの言葉も全てが着々と過ぎていく。
「それでは、指輪の交換を」
神父様の言葉に控人が台座と共に指輪を持ってくる。
ベール越しではあるがロア様と向き合う。
きっと私、ニヤニヤしているに違いないわ。
締りのない顔を見られてしまうと思いながらチラッとロア様を見れば、いつもクールな顔が何処か緩んでいるような……
良かった、ロア様も嬉しくて思ってくれてるのね。
指輪を手に取り自分より太くて大きな指を手に取る。
その薬指にシルバーの指輪を嵌めれば今度は優しく手を取られる。
シルクの手袋が外されまたあの日の夜と同じダイヤモンドが薬指に帰って来た。
「ソフィア」
ふいに名前を呼ばれ顔を上げる。
そしてまた、優しくて温かい笑顔。
ゆっくりとベールが上げられ視界がクリアになる。
思わず涙が溢れた。
悲しい訳でもない、怒っている訳でもない。
私は純粋にこの人の妻になれる事が嬉しい。
『よく頑張ったな』
『一生君を大事にする。だからこれから先もずっと……、俺の1番近くにいてくれ』
『君を愛している』
ロア様に言われた言葉が脳内を反響する。
全部私の大事なもの、これがあったから今の私が存在できている。
私はそっと笑いかける。
「ロア様」
「ソフィア」
「私を、見つけてくれてありがとうございます」
そして愛してくれてありがとう。
ずっと不幸だと思っていた私を救い出してくれた貴方に出会えて本当に良かった。
小さく微笑めばロア様もつられるように微笑み、そして私の腰をゆっくり抱き寄せる。距離が近くなり頰に手が添えられて……
「俺の方こそ、一緒になってくれてありがとう」
そう呟かれた後、私達はどちらからともなくそっと唇を重ねた。
*****
「それにしても良い式だったねェ!」
控え室に戻ればガハガハと笑うジェラルドさんと式の最中から泣きっぱなしのリンデルがいた。
「ジェラルドさん、本当にありがとうございます」
「いいさいいさ!それに生花のドレスなんて作ったのは初めてだ、もう二度と再現できない貴重な一瞬だったと思うと興奮するねェ」
「おっ、奥様っ、本当にお美しかったですぅ……!」
「リンデル泣きすぎよ」
まさかリンデルがこんなにも泣く人間だったなんて。
支度を手伝ってもらいドレスを着替える。
「奥様、この後はお屋敷に戻られますか?」
「……ごめんなさい、ちょっとまだやる事があるから先に帰っていて」
身軽になった私はゆっくりと扉に近付く。
扉をあげればそこには壁に寄りかかるようにして私を待つロア様がいた。
顔は険しく、いつもの騎士服姿が少し怖く見えた。
「……いいのか」
「ええ。私が……何とかしなきゃダメですから」
私にはまだやるべき事が残っている。
フレイア=ティムレット、そしてジーク=モニータ。
逃がさない、絶対に。
私はロア様と共に彼らが居るであろう地下牢へと向かった。
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