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しおりを挟む体温が失われてゆく……気がした。
「たった今、ラヴィエラ=ロストについての報告書を皇帝陛下にお目通しして頂こうと思っていたところです。タイミングが良いですね」
「えーっと?『ラヴィエラ=ロストという人間の出生記録は国内にはなく、又、この10年間出入国した記録もない』と」
ペラペラと紙をめくる小僧とシャルルは淡々と説明する。
が、私はもうそれどころではない。
「ラヴィエラが……存在しない、?」
「残念でしたねバレイン陛下。どうやら陛下の番殿は我が帝国の人間ではなかったようです」
「そんな訳……ち、父上は確かにこの国で見つけたとっ」
「偽りの番だったのでは?」
偽りという言葉にズキッと胸が痛む。
いや、私も最初はそう思ったさ。
でも違う、ラヴィエラは本物の番なんだ。あの時は全てを疑っていたが全部本当で……
「で、では何故シャルがここにっ……?」
状況が掴めないのはランセルも同じで、困惑しながら対面する息子の顔と私を見比べた。
「お前はあの娘の護衛だっただろ?ならば共に帝国入りしているはずだ」
「?何か勘違いなさっているようですね。あの時の条件は『侍女と護衛の身柄を引き渡せ』ですよ?シャンデラ帝国まで送り届けろ、とは命令されておりません」
平然と答えるシャルルは、きょとんとした顔つきで言う。
確かにそうだ。
ラヴィエラは「シャンデラ帝国へ戻る」とも「護衛騎士と侍女を同行させる」とも言っていない。
あくまで、国を出ていくとだけ言ったのだ。
たが普通は自国に戻ったと思うだろ?
道中の危険から身を守るために同行させると思うだろ?
それなのに何故、ラヴィエラはいない?
「そもそも、彼女は陛下に言ったのですか?自分はシャンデラ帝国の人間だと」
シンと静まり返る。
こいつはいったい何を………
「何を……だって、父上が」
「先代の国王陛下が陛下と姉上を別れさせたがっているのは有名でしたよね?その為にでっち上げた嘘では?」
「ふ……ふざけるな、」
「では、貴方様は彼女の何を知っているのですか?」
ラヴィエラの何を、だと?
そんなの決まってる。私は番なんだ。
運命の、奇跡の存在なんだ。
何でも知ってるに決まって………
……………あれ?
記憶の奥底を探してみるが、私が知っているラヴィエラの情報はこれ以上存在しない。
「ラヴィエラ……は、私の番で……と、とても美しくて、それで……」
ラヴィエラはなんだ?どんな女だった?
声は?姿は?交わした言葉はどんなだったか?
ラヴィエラは……ラヴィエラは……
「……皇帝陛下、そろそろ」
「ん?もういいのか?」
「ええ。これ以上話すことはありません」
話を切り上げようとしたシャルルに、ハッと意識が戻った。
何故私はこんな奴らに追い詰める?
私は偉大な獣王なのだ。選ばれし者だ。
「か、か、金が足りんというのか?よしよしでなら先程の倍……いやっ!お前たちの言い値で構わん!」
「そういう問題じゃ」
「そ、それとも女か?ならば特上を用意してやる!獣人は人間と違って体力があるから満足できるまで揺さぶればよいぞ!」
「うわ、最低だなぁ」
蔑む視線なんて構うものか。
「ば、バレイン様……落ち着いてくだ」
「止めるなランセルっ!そもそもお前のせいでラヴィエラを失ったのだぞこのクズが!」
「は、?」
「お前がレイチェルを王妃にしたいが為に、私からラヴィエラを引き離したのだろうがぁっ!」
ああ、今思えば全部コイツのせいだ。
コイツが余計なことをしなければ……余計なことを言わなければ、今頃ラヴィエラはあの離れにいたはずなのに。
そうすれば彼女はずっと私のモノだったのに。
「あんな不良品を押し付けおって!」
「なっ?!へ、陛下!お言葉が過ぎますよ!」
「ふんっ!本当のことだろ」
「っ私たちがどれだけ貴方に尽くしたと……」
「あのぉ~、もう良いですか?」
ヒートアップする我らに水を差す小僧は、呑気に欠伸をしながら声をかけた。
「内輪揉めなら自国に戻ってから好きなだけなさって下さい。番殿がいないことも分かりましたし、もう我々には関係ないですよね」
「なんだとっ!!」
「ゾーネシア王国の方々がお帰りだ、丁重にお見送りしろ」
この小僧、この期に及んでまだそんな態度を続けるつもりか!
すぐにでも噛み付いてやろうと思った。
が、私と小僧の間に大勢の衛兵が割り込み、無理強いはしないものの無言の圧力をかけてくる。
「陛下、ゾーネシアに帰りましょう。番様がいないと言われたらそれまでです」
「いやだ……帰らん、……、わたしは、…、っ」
ランセルの瞳は鋭く、まるで虫けらのような目で見下ろしていた。
私の味方は、いないのか?
「バレイン陛下、父上」
引きずられるように出口に向かっているとき、背中越しにシャルルの声を聞く。
「最近、私も結婚したんです。運命の人と」
意気消沈の私にはシャルルの言葉などどうでも良かった。
だが……"運命"という言葉が、何故か心に引っ掛かり力なく笑ってみせる。
「そうか……それは、めでたいな」
ボソッと呟きを残した後、私は足取り重く皇宮を出ていったのだった。
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