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18 オルガン視点
「いやぁ素晴らしい夜だったよ。ロブス子爵」
男は満足そうに笑いながら、俺の肩をバシバシと叩く。
「恐れ入ります、アドレア卿」
「君がこれほどまでにもてなし上手だったとは。このお礼は早急にせんとなぁ」
父親と同じ年のアドレア卿は、ふむと考える素振りを見せながらハットを目深に被る。
真夜中である今、黒いハットを被るのは万が一顔がバレるのを防ぐため。
(お忍びで娼館に通っているとバレれば、間違いなく大衆新聞の一面を飾るだろうからな)
「近々、財務担当者と顔を合わせるんだ。そこで君が行っている事業の追加予算を打診してみよう」
「そんな……ありがとうございます!」
「良いんだよ。若い君には頑張って貰わんと」
(どうせまた甘い蜜を啜りたいだけだろ……)
女好きのアドレアを標的にして正解だった。2、3人女を付けてやっただけでこれほどまでに上機嫌とは。
「そういや噂に聞いたが、弟君が騎士団の学科テストを通過したそうじゃないか!」
「え、ああ。まぁ」
「兄弟揃って実に優秀だ。あの可愛らしい弟君が騎士になれるか結果を楽しみにしているよ」
「……恐れ入ります」
そう言ってアドレア卿はご機嫌に馬車に乗って帰っていった。
「あの変態ジジイ、馬鹿にしやがって」
地位がなければただの老いぼれ。まぁ見下していられるのも今のうちだ。
明日はいよいよ騎士入団の実技テスト。そしてフェルナンドの合格は確約されている。
試験官との一対一の模擬試合、フェルナンドの相手をするのは王女の息がかかった元騎士の男。王女が不自由ない生活を保証すると申し出れば喜んで頷いたそうだ。
不良債権でも騎士という箔がつけばどこかしらから縁談はやって来る。オスカート家ほどでなくても、それなりの令嬢や豪商の娘あたりに押し付ければ損はない。
(おかげであの馬鹿は騎士になれるし、俺のポジションは確実に上がっていくし……王族サマサマだな)
ハンナ=アレキウス。
王国始まって以来のバカ娘、ここで利用しない手はない。
■□■□■□■□■□
そして騎士団の入団実技テスト当日。
毎年会場はランダムで選ばれるのだが、何の因果か今年はオスカート家が所有している闘技場で行うこととなった。
実技テストは一般公開もされるため、会場にいた見物人たちはチラチラと俺やフェルナンドを気にする。
当たり前だ。婚約破棄を受けた相手の敷地内に、兄弟揃って間抜け面をさらしに来たようなもんだ。
「に、兄さん……ぼ、僕っ緊張してきたぁっ!」
「緊張?結果は決まってるだろ」
「そ、それでもぉ!」
(あぁ、うるさい……)
「手はず通りにやれ。余計なことはするな」
「う、うん」
「開会式までまだ時間があるな。俺はこれから王女殿下にご挨拶を……」
「おや、随分と珍しい顔がありますね」
鼻につくような物言いと、男にしては少し高い声にピタッと動きを止める。
周りのやつらとは比べ物にならない雰囲気を纏い、ルーシャス=ミリオンは俺たちに向かって不敵に微笑んでいた。
「ミリオン……」
「お、おじさんっ!」
「坊やが学科を通過できるとは、今年の試験官はずいぶんお優しいようですね」
見えすいた挑発にフェルナンドは顔を真っ赤にしている。が、ここで取り乱せば奴の思うつぼだろう。
(しかも人目がある。ここは冷静に……)
「久しぶりだなミリオン。君の活躍はたびたび弟から聞いているよ」
満面の笑顔を張り付けて手を差し出す。
「………」
「オルガン=ロブスだよ。今は家督を譲り受け子爵となった、まさか侯爵家に婿入りするからって身分が低い友人と握手出来ないなんて言わないだろ?」
困ったように笑ってみせる。
いずれ宰相になるのだから出来るだけこいつの株は下げておきたい。
ならばここは当たり障りのない友人として振る舞うことが双方にとって……
「……あぁ、すみません」
「え?」
「失礼を承知で申し上げますが、私は君のことを一切覚えていないんですよ」
ビキッとこめかみに青筋が浮き出る。
「クラスメイトでもなさそうですし、それ以降、貴族学園でもご一緒ではないですよね?」
「……は、ははっ!じょ、冗談が上手いな」
「?」
笑顔を取り繕うのに必死になるが、ミリオンはきょとんと間抜けな顔で凝視してきた。
(ま、まさか……本当に覚えてないのか?!)
この俺を。卒業するまでずっと、お前としのぎを削ってきたこの俺を!
「そんな事よりも」
「そんな事だとっ?!」
「候補生は整列する時間ですよ、そろそろ広場に向かった方が良いのでは?」
「えっ……あっ!じゃ、じゃあ兄さん。僕たちはもう行くね?」
ミリオンは早々に俺から視線を外し、フェルナンドと共に行ってしまった。
「ふざけるなよ………」
ギリッと奥歯を噛み締める。
家柄もいい、顔もいい、頭もいい。
全部を兼ね備えたお前に勝つために、俺がどれだけ血を吐いて努力してきたことか。
俺を忘れたことを絶対に後悔させてやる。
王女を使って、弟を使って……
「お前の人生、ぐちゃぐちゃにしてやる」
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