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しおりを挟むミシェルさんが起こした事件は、ヒューゴさんに頭を下げ何とか秘密裏にもみ消してもらった。
その代わり彼女の診察にはヒューゴさんの部下が見張りにつき、彼女は軍が管理する病院に入院することになった。
診察は今までどおり受けられるが面会は謝絶、外に出ることも出来ない。つまり、彼女はたった一人でお産を迎えるのだ。
「えっと、次はあっちの病室を回るから……」
午後回診の準備にカルテ室にやって来る。
(すごい量、さすが軍病院ね)
最近じゃ地方の診察ばかりですっかり忘れていたが、軍病院は帝国で一番患者数が多い場所だ。当然保管するカルテの数だって尋常じゃない。
「目当ての資料をかき集めるのに、どれくらい時間がかかるかしら……」
「だったら手伝いましょうか?」
「っ!リズ……」
振り替えると罰が悪そうに視線を落としたリズがそこに立っていた。
(リズから声をかけてくれるなんてあの日以来だ)
職場でも気まずい雰囲気でまともに会話なんて出来なかった。そんなリズからの申し出に私はただ黙って小さく頷く。
「………」
「………」
「………私、」
静寂を破ったのはリズからだった。
「先生のこと、勝手に自分のお姉ちゃんみたいに思ってた節がありました。優しくて頼りになって、休みの日も誘ったら一緒に遊んでくれて……すごく毎日楽しかったんです」
「リズ……」
「でも今回のことを聞かされて、なんかすごく寂しかったんです。やっぱり私は先生にとってただの部下なんだなぁって」
「そんなっ!そういうつもりじゃないわっ!」
思わず大声を出してしまい、ハッとして口元を押さえる。
(どうしよう。上手く言えない……)
今までの私ならただ黙ってリズの本音を受け止めるだけだったかもしれない。リズが決めたことに従うだけ、それが最善だって言い訳をして。でも……
「……私も、リズが大事よ」
「先生」
「初めての友人なの。ショッピングしたりカフェでお茶をしたり、貴女との時間はいつも楽しかった」
ぎゅっと拳を握り覚悟を決める。
「本当にごめんなさい。私と仲直りしましょう」
受け身でいるのはもう止めた。
大切な存在だからこそ、自分から一歩前に踏み出さなきゃ。
「……私、おしゃべりでうるさいですよ」
「リズの話は楽しいわ」
「これからも強引にショッピングに誘うだろうし」
「私はあまり外出しない方だから助かってる」
「こんな女、友達にしたらめんどくさいですよ?」
いいんですか?と、顔を上げたリズはぷるぷる震えて答えを待っている。
なんだから小動物みたいで、つい笑ってしまった。
「当たり前でしょ?むしろこちらが謝らなきゃ。……ジェイクとのこと、黙っててごめんなさい」
もう一度深く頭を下げると、リズはあたふたしながら駆け寄ってくれる。
「い、いえっ!そりゃ少し寂しかったですけど誰にでも話したくないことってあるし。というより何なんですかあの2人っ!!」
ジェイクとミシェルさんのことを思い出したリズは私以上に怒りを発散する。
「全部分かってて先生のところに通うなんて、嫌がらせどころの騒ぎじゃないです!」
「あー……まぁ、ミシェルさんは独身だって騙されてたみたいなんだけどね」
「知らなかったじゃ済まされませんよこの罪は!!」
「だ、大丈夫よ。そりゃ最初は怒りでどうにかなりそうだったけど今は何とも思ってないから」
不思議なもので今は怒りよりも無関心の方が強い。
「……それってハイアット司令官が関係してます?」
「え?なんでヒューゴさん?」
「だってだって、お2人の距離感って特殊じゃないですかぁ?先生はあちらをどう思ってるのかなーって」
(……どういう関係、か)
そう考えると確かに不思議だ。
上司と部下であることは違いないけど、それ以上の信頼感をヒューゴさんには抱いている。
……いや、これは信頼感なのかしら。
「お似合いだと思いますよ?」
「……いやいや。私なんか釣り合わないわよ」
「釣り合うどうこうじゃなくて、先生があの方とどうなりたいかが大事なんじゃないですか?」
リズの言葉に心臓がバクンと跳ねる。
ヒューゴさんとどうなりたいか、そんな事考えたことがない。このまま上司と部下を続けても問題ない。問題ないはずなのに……
(何だろう、なんかモヤモヤする)
「マトリンガー先生っ!!!」
バンっと大きく扉が開き、飛び込むように入室した人物は私の顔を見るなり焦った様子で叫ぶ。
「2508号室にいる妊婦が破水しましたっ!大至急そちらに向かってくださいっ!!」
「2508号室って……」
ミシェルさんの病室だ。
すぐに自分の診察道具を持って立ち上がる。
「リズ、分娩室の準備を。それからご家族と関係者に連絡してちょうだい」
「分かりましたっ!!」
最低限の指示を出し私たちは部屋を出る。
(ここからは時間との戦いね)
これから彼女は体験したこともない痛みに耐えなくてはならない。その1分1秒が長く、辛い時間になるだろう。
そしてそれを一番近くで支えるのが医者だ。
夫の愛人の子供、でも尊い命であることに変わりはない。
邪魔な感情は全部置いていくんだ。
■□■□■□■□■□■
クライマックス突入します!
※ここから医療シーンに入りますが、この作品はあくまでファンタジーです。実際とは異なる表現があるかと思いますが、どうぞ寛大なお心でお付き合いください(*^^*)
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