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第1章 少女が統べる国と嘱託補導員
059 弟達のクラスメイト
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入学式が終わると、セト達を含めた新入生は再び列を作って会場を出ていった。
それぞれの教室に向かい、そこで明日からの説明を受ける予定になっているようだ。
今日は昼までと聞いているから、恐らく自己紹介をして終わりというところか。
「イサク君はこれからどうするんだい?」
「少し野暮用が。その後は弟達を連れて昼食ですね。アシェルさん達は?」
「俺達も娘と待ち合わせて昼食を取る予定だよ」
アシェルさんの返答に、だろうなと心の内で頷く。
ホウゲツ学園は全寮制なので、午後は大半の新入生が同じように家族と過ごすはずだ。
しばしの別れを惜しんで。
例外もあるだろうが、親子仲のよさそうな彼らがそうでなかったらビックリする。
「それからラクラとトコハの観光を少しして、夕食を食べたらヨツバに帰ります」
「ヨツバですか!? よくそんな遠いところから」
続いて告げられたアンナさんの言葉には、思わず驚きの声を上げてしまう。
ヨツバというのは、前世の日本で言う四国に存在する比較的大きな都市の名だ。
ここからだと、公共交通機関で行程を組むなら二日は見た方がいい。
「大変だったでしょう」
所作の端々を見ても、祈念魔法で常時身体強化をしているようには全く見えない二人。
体力的に相当きつかったはずだ。
「娘の夢のためですから」
それでも全く疲れを見せず、胸を張って言うアンナさん。
……ラクラちゃんはご両親に恵まれてるな。
勿論、俺達の両親も負けてはいないけど。
「そうだ。イサク君。一緒に昼食はどうかな? 弟さん達も」
「えっと……いいんですか? 折角の親子水入らずの時間なのに」
「夕食だけでも十分だよ。それに、もし君の弟さん達にラクラと仲よくして貰えたら、俺達も少しは安心してトコハを離れることができるからね」
そう答えたアシェルさんからアンナさんに、同じ問いを投げかけるように視線を移す。
すると、彼女は同意を示すように頷いた。
娘と離れ離れ。しかも距離は遠く、片道二日以上。
ただでさえ寮生活で心配なのに、何かあった時にすぐ駆けつけてやることもできない。
せめて傍にいる間に、友人を作る切っかけぐらい与えてやりたいのだろう。
当然、そこから本当に仲よくなれるかは当人達次第だが、俺としても否やはない。
「じゃあ、弟達と合流したら連れてきますね」
「ありがとう。娘との待ち合わせ場所は校門だから、そこに来てくれると助かるよ」
「分かりました。では」
そうして俺はアシェルさん夫妻と別れ、足早に校舎に入った。
そのままトリリス様から事前に聞いていたセト達の教室に向かう。
一年A組。入学試験で優秀な成績を収めた者が集められたクラスだ。
セト達は試験を受けていないが、ヨスキ村の子供は基本A組に入るらしい。
「さて、自己紹介をして貰いましょうか」
強化された聴覚が教室の中の音を拾う。
大人の男性の声。担任の教師のものだろう。
アシェルさん達と話をしている間に、一通り明日からの説明は終わったようだ。
とりあえず廊下と教室を隔てる壁に背を預け、中の音に耳を傾ける。
……完全に不審者だ。
いや、ちゃんと学園長であるトリリス様の許可は貰ってますからね。
今日のみならず、いつでも授業を参観して構わないゾと。
さすがに入学式の日から教室に突っ込むのはあれなので、今は廊下で我慢してるけど。
何やかんや言って弟達が心配なのだ。母さん達からもよくよく頼まれているし。
過保護と思われるかもしれないが、大目に見て欲しい。
「では、端から順に。ただし、ミドルネームは口にしないこと。いいですね」
声の響き方からして、担任の教師は教壇から全体を見回す用に言ったようだ。
そう注意をした意図は恐らく一つ。
ミドルネームがあるのは少女化魔物を母親に持つ者が基本。その少女化魔物の中には少女契約以前に大きな事件を起こした者もいる。
俺達の母さんなど最たるものだ。
その名を聞いただけで、関係がギクシャクするどころか憎まれる可能性だってある。
とは言え、少なくとも子供に罪はない。
教育機関として、そうした偏見は避けたいのだろう。
「ダン・ヨスキです。好きなことは運動です。強い少女征服者を目指してます!」
「ダニエル・タメントルです。祈念魔法が得意です。生活に役立つ技術を学びたいです」
数人の後に自己紹介したダンの次のダニエル君。
彼は新入生代表の挨拶をしていた少年だ。
しかし、今一覇気がない。学者タイプのようだ。
「レギオ・フレギウスだ。俺はお前達と慣れ合うつもりはない。以上だ」
「…………フレギウス?」
更に何人かを経て、簡潔でぶっきらぼうな自己紹介と名字が引っかかって小さく呟く。
フレギウスと言えば、いつか兄さんの目撃情報があったフレギウス王国。
もしかしたら、彼は西欧一帯を統べるかの国の王家に連なる者なのかもしれない。
留学だろうか。しかし、あの国は余りホウゲツと仲がいいとは言えないはずだが……。
「ラクラ・イファミリアです。ボクは女ですが、レスティア様のような少女征服者を目指して頑張りたいと思っています」
「はっ、女が少女征服者か」
アシェルさん夫妻の娘、ラクラちゃん。
その自己紹介をレギオが小さく鼻で笑うのが耳に届く。
一瞬、自己紹介の流れが滞る。
「次の人」
「あ、はい。セト・ヨスキです。僕は――」
担任に促され、次の番だったらしいセトが口を開いた。
注意の一つぐらいあってもいいと思うが、もしかしたら教育的見地からああいうスタンスの人間もいることを知らしめるために敢えてスルーしたのかもしれない。
……好意的な解釈が過ぎるか?
「トバル・ヨスキです。武器を使った戦いが得意です。よろしくお願いします」
「ヨスキ村の人間が三人もいて、一人も代表に選ばれなかったのか」
そのレギオ。トバルの自己紹介の後にも嫌味ったらしい言葉を吐く。
選考の真実はどうあれ、言い方が悪過ぎる。さすがに少し腹立たしい。
「貴方も代表になれなかった癖によく言えるね」
と、先程の発言が余程腹に据えかねていたのか、ラクラちゃんがチクリと刺した。
「何だと!?」
対して即座に激昂するレギオ。
他人を煽る人間は割と煽り耐性が低いものだ。
いずれにせよ、ラクラちゃんのおかげで少し留飲が下がる。
「やめなさい。新入生代表の挨拶はあくまで入学試験の結果で選ばれるもの。現時点での指標に過ぎません。これから先どうなるかは、皆さんの努力次第です」
今度は担任が止めに入った。
いくら何でも度が過ぎるし、当然だ。
「まだ皆さんは原石に過ぎません。この九年の過ごし方次第で宝石にも石ころにもなり得ます。他人との比較など時間の無駄です。自分が望む自分を目指して下さい」
声色に迫力があったのか、教室全体が静まり返る。
それから少し時間を置いてから、再び担任の教師は口を開いたようだった。
「劣等感は甘い誘惑がつけ入る隙を作ります。既に噂で聞いている者もいるかもしれませんが、実際に誘惑に負けてしまい、身を破滅させた者もいます」
噂? 誘惑に負けた? 何の話だろう。
……少し気になるな。今度トリリス様に聞いてみるか。
「己を強く持ち、勉学に励むように。では、今日はこれで終わります」
噂について考えている間に、担任の教師は締めに入る。
おっと。このままここにいるのは余りよくないな。
許可は貰っているけど、見つかるとセト達のイメージが悪くなりかねない。
一先ず保護者がいても不思議じゃない場所まで退避するとしよう。
それぞれの教室に向かい、そこで明日からの説明を受ける予定になっているようだ。
今日は昼までと聞いているから、恐らく自己紹介をして終わりというところか。
「イサク君はこれからどうするんだい?」
「少し野暮用が。その後は弟達を連れて昼食ですね。アシェルさん達は?」
「俺達も娘と待ち合わせて昼食を取る予定だよ」
アシェルさんの返答に、だろうなと心の内で頷く。
ホウゲツ学園は全寮制なので、午後は大半の新入生が同じように家族と過ごすはずだ。
しばしの別れを惜しんで。
例外もあるだろうが、親子仲のよさそうな彼らがそうでなかったらビックリする。
「それからラクラとトコハの観光を少しして、夕食を食べたらヨツバに帰ります」
「ヨツバですか!? よくそんな遠いところから」
続いて告げられたアンナさんの言葉には、思わず驚きの声を上げてしまう。
ヨツバというのは、前世の日本で言う四国に存在する比較的大きな都市の名だ。
ここからだと、公共交通機関で行程を組むなら二日は見た方がいい。
「大変だったでしょう」
所作の端々を見ても、祈念魔法で常時身体強化をしているようには全く見えない二人。
体力的に相当きつかったはずだ。
「娘の夢のためですから」
それでも全く疲れを見せず、胸を張って言うアンナさん。
……ラクラちゃんはご両親に恵まれてるな。
勿論、俺達の両親も負けてはいないけど。
「そうだ。イサク君。一緒に昼食はどうかな? 弟さん達も」
「えっと……いいんですか? 折角の親子水入らずの時間なのに」
「夕食だけでも十分だよ。それに、もし君の弟さん達にラクラと仲よくして貰えたら、俺達も少しは安心してトコハを離れることができるからね」
そう答えたアシェルさんからアンナさんに、同じ問いを投げかけるように視線を移す。
すると、彼女は同意を示すように頷いた。
娘と離れ離れ。しかも距離は遠く、片道二日以上。
ただでさえ寮生活で心配なのに、何かあった時にすぐ駆けつけてやることもできない。
せめて傍にいる間に、友人を作る切っかけぐらい与えてやりたいのだろう。
当然、そこから本当に仲よくなれるかは当人達次第だが、俺としても否やはない。
「じゃあ、弟達と合流したら連れてきますね」
「ありがとう。娘との待ち合わせ場所は校門だから、そこに来てくれると助かるよ」
「分かりました。では」
そうして俺はアシェルさん夫妻と別れ、足早に校舎に入った。
そのままトリリス様から事前に聞いていたセト達の教室に向かう。
一年A組。入学試験で優秀な成績を収めた者が集められたクラスだ。
セト達は試験を受けていないが、ヨスキ村の子供は基本A組に入るらしい。
「さて、自己紹介をして貰いましょうか」
強化された聴覚が教室の中の音を拾う。
大人の男性の声。担任の教師のものだろう。
アシェルさん達と話をしている間に、一通り明日からの説明は終わったようだ。
とりあえず廊下と教室を隔てる壁に背を預け、中の音に耳を傾ける。
……完全に不審者だ。
いや、ちゃんと学園長であるトリリス様の許可は貰ってますからね。
今日のみならず、いつでも授業を参観して構わないゾと。
さすがに入学式の日から教室に突っ込むのはあれなので、今は廊下で我慢してるけど。
何やかんや言って弟達が心配なのだ。母さん達からもよくよく頼まれているし。
過保護と思われるかもしれないが、大目に見て欲しい。
「では、端から順に。ただし、ミドルネームは口にしないこと。いいですね」
声の響き方からして、担任の教師は教壇から全体を見回す用に言ったようだ。
そう注意をした意図は恐らく一つ。
ミドルネームがあるのは少女化魔物を母親に持つ者が基本。その少女化魔物の中には少女契約以前に大きな事件を起こした者もいる。
俺達の母さんなど最たるものだ。
その名を聞いただけで、関係がギクシャクするどころか憎まれる可能性だってある。
とは言え、少なくとも子供に罪はない。
教育機関として、そうした偏見は避けたいのだろう。
「ダン・ヨスキです。好きなことは運動です。強い少女征服者を目指してます!」
「ダニエル・タメントルです。祈念魔法が得意です。生活に役立つ技術を学びたいです」
数人の後に自己紹介したダンの次のダニエル君。
彼は新入生代表の挨拶をしていた少年だ。
しかし、今一覇気がない。学者タイプのようだ。
「レギオ・フレギウスだ。俺はお前達と慣れ合うつもりはない。以上だ」
「…………フレギウス?」
更に何人かを経て、簡潔でぶっきらぼうな自己紹介と名字が引っかかって小さく呟く。
フレギウスと言えば、いつか兄さんの目撃情報があったフレギウス王国。
もしかしたら、彼は西欧一帯を統べるかの国の王家に連なる者なのかもしれない。
留学だろうか。しかし、あの国は余りホウゲツと仲がいいとは言えないはずだが……。
「ラクラ・イファミリアです。ボクは女ですが、レスティア様のような少女征服者を目指して頑張りたいと思っています」
「はっ、女が少女征服者か」
アシェルさん夫妻の娘、ラクラちゃん。
その自己紹介をレギオが小さく鼻で笑うのが耳に届く。
一瞬、自己紹介の流れが滞る。
「次の人」
「あ、はい。セト・ヨスキです。僕は――」
担任に促され、次の番だったらしいセトが口を開いた。
注意の一つぐらいあってもいいと思うが、もしかしたら教育的見地からああいうスタンスの人間もいることを知らしめるために敢えてスルーしたのかもしれない。
……好意的な解釈が過ぎるか?
「トバル・ヨスキです。武器を使った戦いが得意です。よろしくお願いします」
「ヨスキ村の人間が三人もいて、一人も代表に選ばれなかったのか」
そのレギオ。トバルの自己紹介の後にも嫌味ったらしい言葉を吐く。
選考の真実はどうあれ、言い方が悪過ぎる。さすがに少し腹立たしい。
「貴方も代表になれなかった癖によく言えるね」
と、先程の発言が余程腹に据えかねていたのか、ラクラちゃんがチクリと刺した。
「何だと!?」
対して即座に激昂するレギオ。
他人を煽る人間は割と煽り耐性が低いものだ。
いずれにせよ、ラクラちゃんのおかげで少し留飲が下がる。
「やめなさい。新入生代表の挨拶はあくまで入学試験の結果で選ばれるもの。現時点での指標に過ぎません。これから先どうなるかは、皆さんの努力次第です」
今度は担任が止めに入った。
いくら何でも度が過ぎるし、当然だ。
「まだ皆さんは原石に過ぎません。この九年の過ごし方次第で宝石にも石ころにもなり得ます。他人との比較など時間の無駄です。自分が望む自分を目指して下さい」
声色に迫力があったのか、教室全体が静まり返る。
それから少し時間を置いてから、再び担任の教師は口を開いたようだった。
「劣等感は甘い誘惑がつけ入る隙を作ります。既に噂で聞いている者もいるかもしれませんが、実際に誘惑に負けてしまい、身を破滅させた者もいます」
噂? 誘惑に負けた? 何の話だろう。
……少し気になるな。今度トリリス様に聞いてみるか。
「己を強く持ち、勉学に励むように。では、今日はこれで終わります」
噂について考えている間に、担任の教師は締めに入る。
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