ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

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第2章 人間⇔少女化魔物

148 死にたい

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 アコさんに先導されて特別収容施設ハスノハの管理棟の廊下を歩いていくと、やがて小会議室というプレートが貼られた扉の前に至った。

「……ここだよ」

 そこで立ち止まって振り返ったアコさんが、神妙な面持ちと共に告げる。
 どうやら、この中に件のルコ・ヴィクトちゃんがいるらしい。
 監房ではないのは、犯罪者ではないという理由以上に、既に理性を取り戻している状態では精神へのマイナスの影響が大きいからだろう。

「準備はいいかい?」

 そう問われて改めて意識すると、戦闘とは全く異なる緊張感が胸の内に湧く。
 この面会に彼女の人生がかかっていると言っても過言ではないのだ。
 正直なところ、ただ戦うだけの方がずっと気が楽かもしれない。
 とりあえず一つ深く呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。

「入りましょう」

 それから一拍置き、アコさんの目を見ながら言う。
 対して彼女は一つ頷くと、扉を軽くノックした。

「はい」
「エイル。入っても大丈夫かい?」

 中から聞こえてきた返事に応じてアコさんがそう尋ねると「大丈夫です」という言葉と共に、小会議室の扉が内側からゆっくりと開かれた。
 まず視界の中に、入口の傍に立つ金髪金眼の少女化魔物ロリータが映る。
 アコさんとは違って羽織を羽織ってはいないが、他の職員と同様に詰襟の制服を着ている。比較的背が高く、体つきもハッキリした格好がいいタイプの少女だ。
 エイルと言うらしい。
 少々言い方は悪いが、ルコちゃんを見張る役目を負った職員なのだろう。

「彼女の様子は?」
「一先ず小康状態というところではありますが……」

 チラッと部屋の中へと目を向けるエイルさん。
 その視線の先では、見覚えのある少女が力なく椅子に座っていた。
 あの夜。暴走を鎮静化したことによって暴走パラ複合発露エクスコンプレックス不死鎖縛ロットホラー感染パンデミック〉が解除され、腐り果てた肉体から解放された時と同じ姿。
 だが、アコさんの言葉が正しければ、その時とはまた状態が違う。
 意識を取り戻すと共に複合発露エクスコンプレックス不死鎖縛ロットホラー〉が勝手に発動し、それを腕につけられた封印の注連縄の複製品腕輪状のアクセサリーによって抑え込んでいる状態のはずだ。
 彼女の消沈した姿を見れば、それが全て事実だと分かる。

「……イサク。お願いできるかな」

 その様子を前に、アコさんは苦しげに表情を歪めながら縋るように乞うてきた。
 返事は決まっている。

「はい。やれる限りのことは、やってみます」

 俺はそんな彼女にそう応じると、小会議室に入ってルコちゃんに近づいた。
 距離的に、こちらの会話も俺の接近する足音も聞こえているはずだ。
 しかし、全く反応がない。
 机を挟んだ真正面に座っても、彼女は俯いたままだった。
 そのせいで、ただでさえ小さな体躯が尚のこと小さく見える。
 余りにも弱々しい姿に、居た堪れない気持ちが募るばかりだ。

「ええと、ルコちゃん?」

 そう呼びかけるが、これに対しても無反応。しばらく沈黙が続く。
 もう一度声をかけるべきだろうか。
 そう悩んでいると、ようやく彼女はゆっくりと顔を上げた。
 命属性を示す灰色の瞳が、俺の顔の辺りに向けられる。
 焦点が合っているような感じはしない。
 目元は泣き腫らしたように赤くなっている。

「誰?」

 ポツリと、か細い声で問うてくるルコちゃん。

「俺はイサク・ファイム・ヨスキ。どこまで聞いているか分からないけれど、暴走状態にあった君を助けた補導員の一人だ」

 この小会議室に来るまでの間に、救世の転生者と面会することはまだ伝えていないとアコさんから聞いていたので、一先ずそうとだけ自己紹介をしておく。

「君みたいな子供が?」

 それを受け、疑わしげな視線を向けてくるルコちゃん。
 ほんの少しだけ興味を持ったのか、目の焦点が僅かに俺に合う。

「まだ二次性徴前だからこんなだけど、これでも君の四歳年上だよ」

 その言葉に彼女は一層疑いを深めたような表情を浮かべつつ、俺の後方に立っているアコさんやエイルさんへと問うような視線を向けた。
 年齢はともかく、補導員とか暴走を鎮静化したとかの辺りが信じられないのだろう。

「全て本当のことです」
「そう、ですか」

 視線を受けて答えたエイルさんにルコちゃんはそう返し、しかし、もう興味が薄まってしまったかのように再び俯いてしまう。

「助けてなんて、くれなくてよかったのに」

 そうしながら彼女は、今にも消え入りそうな声で呟いた。
 幼い少女のそんな発言に、怒りと悲しみが綯い交ぜになったような感情が湧く。
 事情を何も知らなければ、己を蔑ろにするような言動に怒っていたことだろう。
 だが、今の彼女の状態を思えば、ある程度は理解ができてしまう。
 だからこそ悲しく、そのおかげで頭ごなしの言葉を口にせずに済んだ。

「どうして、そう思うんだ? あのままだったら、こうして話をすることもできなかったじゃないか。それに、君が死んでいたら大変なことになっていただろうし」

 もし彼女を殺してしまっていたとしたら。
 暴走する少女化魔物の死に伴って発現する少女ロリータ残怨コンタミネイトによって、それこそゾンビ映画のバッドエンドのような悲惨な状況になっていた可能性が高い。

「…………ごめんなさい」
「ああ、いや、責めてる訳じゃなくて――」
「分かってます。お兄さんはそうしなくちゃいけないからそうしただけってことは。だから、言い直します。その後で殺してくれれば、こんな思いをせずに済んだのにって」

 淡々と、何もかも諦めたように言うルコちゃんの姿に絶句する。
 一定の冷静さがあることが、取り返しのつかない状況を示しているようで尚のこと。

「わたしが目を覚ませば、こうなるって分かってたんですよね?」

 彼女は更にそう続けながら、封印の注連縄の複製加工品である腕輪を外した。
 その瞬間、素朴な田舎の少女然とした姿は夢幻だったかのように崩れていく。
 灰色の長い髪も抜け落ちると粒子と化して消え去り、皮膚という皮膚が腐り落ちる。
 それと共に、小会議室に強烈な死臭が漂い始めた。
 急なことに、ルコちゃんの前にも関わらず、ほんの一瞬だけ眉が反応してしまう。

「う……」

 傍にいたエイルさんも不意を打たれたせいか耐え切れずに声を漏らしてしまい、そんな俺達の反応を見たルコちゃんは下を向いてしまった。
 皮膚や筋肉が腐敗したことによって表情がほぼ分からないくらいに乏しくなっているが、彼女が深く傷つき、悲しんでいることは分かる。

「やっぱり、こんな、こんな姿……」
「ルコ。説明したと思うけど、その状態は時間と共に改善される。いずれは腕輪がなくても複合発露が勝手に発動したりしないようになるんだ」
「でも、結局リビングデッドの少女化魔物だってことは変わらないじゃないですか。それに……いずれって、いつですか? 明日ですか? 明後日ですか!?」

 宥めるように告げたアコさんの言葉は完全に逆効果だったようだ。
 ルコちゃんは一気に感情を爆発させて立ち上がり、気休めはいらないと言うように表情を怒りに染めながら声を荒げる。

「それは……分からない。一週間後かもしれない。一ヶ月後かもしれない。一年後かもしれない。その上、たとえ常時発動しなくなっても突発的に発動する可能性もある。けれど、少女化魔物は不老だ。時間がある。いつか必ず普通に暮らすことができる」
「いつかって……」

 スイッチが切れたように脱力して椅子に座り、自嘲気味に呟くルコちゃん。
 アコさんは、その言葉が幾分かの慰めになると考えたのかもしれない。
 実際、多くの少女化魔物からは一定の理解が得られる感覚に違いない。
 しかし、元々は人間だった彼女には届くまいと傍から見ていても分かる。
 種族の違いが如実に表れている。
 それでも他の七人はそれで一先ず納得したから、そう告げたのだろうが……。
 彼らよりも遥かに症状が重く、かつリビングデッドという部分がネックだ。
 そんな状態では、人間としての自意識を抑えにくい。

「……その普通は人間の普通じゃありませんよ。アコさん」

 根本的に、彼女の望みはそこにはない。
 だから、現状を受け入れさせようというアコさん達とは噛み合うはずがない。
 たとえ、それしか方法がないのだとしても。

 そうした考えを含んだ俺の言葉に、ルコちゃんは多少なりとも自分の今の気持ちを理解してくれたと思ってか、少しだけ顔を上げる。
 ……五百年生きているアコさんなら種族の違いぐらい理解しているはずだから、もしかすると俺の言葉に耳を傾け易くする意図もあったのかもしれない。
 飴と鞭を分担するような形で。

「お兄さんの言う通りです。わたしは普通に……普通に大きくなって、普通に好きな人と一緒になって、普通に子供を産んで、そうやって生きてくはずだったんです」

 恐らく、意識を取り戻してから人間に会ったのは初めてだったのだろう。
 俺という存在が呼び水になったように、ルコちゃんはポロポロと涙を流し出す。

「なのに、こんな醜くて、臭くて、気持ち悪い姿を隠しながら永遠に生きていかなきゃいけないなんて……嫌。嫌だ。嫌だよお」

 そのまま彼女はそう続けると、頭を抱えて嗚咽を漏らし始めた。
 悪し様に言われるリビングデッドの少女化魔物は可哀相だが、魔物から進化した、あるいは最初からそう生まれた者と、人間からそうなった者では全く感覚も違う。
 ましてや彼女はまだ幼い女の子なのだから。
 意識を取り戻してからそう長くない時間しか経っていないが……。
 アイデンティティが崩壊し、そうやって自己否定を繰り返していたのだろう。
 そして、その果てに――。

「もう、死にたい……」

 ルコちゃんはそう弱々しく呟くと、そのまま黙り込んでしまった。
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