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第3章 絡み合う道
166 合法ロリの実力
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「二十歳……だと」
「はい。いわゆる合法ロリというものですね」
「いや、それは自分で言うようなことじゃないだろ」
割とシリアスな場面で冗談染みたことを言い出したレンリに、思わず突っ込む。
すると、彼女は何故か顔に喜色を浮かべて一瞬「ふふ」と小さく笑った。
その控え目な笑い方は、確かに妙に大人っぽい印象を受ける。
まあ、仕草よりも実際の年齢を知ったから、という部分が大きいかもしれないが。
「って、違う。そんなことよりも、皇帝の資格を簒奪したような人間がよその国で何をしているんだ。まさか、国にいられなくなって亡命でもしようとしているのか?」
「いいえ。アクエリアル帝国において帝位は力尽くで奪い取るものですから、別に罪にはなりません。国の運営も当面は父が行うことになっていますし」
「だったら、目的は何なんだ」
「それは最初に言ったじゃありませんか。それが全てです」
第一目標は救世の転生者を探し出すこと。
最終目的はそれを前提としたものではあるものの、詳細は不明。
新たな情報を明かした後でも、そこに関しては変わりはないらしい。
レンリが次期皇帝の資格を有しているという事実を加味すると、国家の戦力として救世の転生者を求めている可能性が最も高いように思えるが――。
「それはそうと……既に戦いは始まっているはずです、よっ!!」
俺がそんな思考を脳裏で巡らしていると、彼女は気合を込めた声と共に訓練施設の床を砕かんばかりに蹴った。
音を置き去りにする速度で少女が迫る。
対して、俺は雷の如き軌道と共に間合いを離し、空中へと浮かび上がった。
真・複合発露〈万有凍結・封緘〉を破ったことに加え、この速さ。
如何に第六位階の祈望之器たるアガートラムを持つとは言え、それ一つのみによる身体強化でその二つのことをなし得たとはとても思えない。
俺の知る少女征服者の中で最も身体強化に優れたシニッドさんよりも遥かに多く、同系統の力を重ねがけしていると考えるのが妥当だろう。
とは言え、彼女を見る限り、複合発露発動に伴って現れた魔物の特徴は一つ。
竜の如き群青の鋭利な鱗のみ。
同じ種族の少女化魔物と複数契約しているのか、それとも……。
「風の根源に我は希う。『纏繞』『収束』『制御』『維持』の概念を伴い、第四の力を示せ。〈天父〉之〈天翔〉」
と、戦いのさ中に悠長に分析をすることを敵たる彼女が許すはずもなく、レンリは身体強化にものを言わせた超高速の祈念詠唱と共に、空中の俺へと一直線に翔けてきた。
風属性第四位階の力を易々と操ることができるのは、優秀な証拠ではある。
しかし、あくまでもそれは祈念魔法の範疇に過ぎず、より物理法則から逸脱する度合いが高い真・複合発露による飛行を上回ることはない。
アガートラムと謎の複合発露の力とを束ねた、氷の鎧を砕き得る威力を有する拳の一撃もまた、当たらなければ意味はない。
即座に〈裂雲雷鳥・不羈〉によって回避すると共に刹那の内に彼女の死角に回り込み、氷を棒状に成形した鈍器を彼女の肩口に叩き込まんとする。
行動後の隙を突いた反撃。
間違いなく有効打になると思われたが――。
「ちっ」
「……さすがS級補導員、ですね」
レンリは崩れた体勢から超反応を見せ、左手で掴むように攻撃を受け止めていた。
自ら氷の武器を分解して後退し、一先ず一定の距離を作る。
「配慮して肩を狙って下さったようで、ありがとうございます」
「勢い余って殺さないようにしなくちゃいけないんだから、当然のことだろう。それに補導員たる者、相手の命に配慮した戦い方ぐらいできないといけない」
「全力を出せず、ストレスが溜まりませんか?」
「面倒ではあるけど、別に俺は戦闘狂じゃないからな。と言うか、手加減していることが分かるなら、降参してくれると助かるんだが?」
「御冗談を。ルール上、全力を出せないのはお互い様ですよ」
挑むような言葉の応酬の後、一瞬、鋭く視線を交わし合う。
どうやらハッタリではないようだが……。
「試してやる」
「望むところです」
簡潔なやり取りの直後、俺は彼女から見て左下側から襲いかかった。
と見せて、真・複合発露による力任せで鋭角な方向転換を以って最初の一撃をフェイントとし、右上側から再生成した氷の棒を振り下ろす。
その瞬間。レンリは確かに初撃を意識し、視線をそちらに向けていた。
にもかかわらず、彼女は目を戻さないまま俺の攻撃に合わせて右腕を振り上げ、その前腕部分を叩きつけるようにして氷の棒を粉砕してしまった。
とは言え、この武器はあくまでも真・複合発露の所産。
瞬時に復元し、完全に開いた右脇腹に打ち込まんとするが――。
「はっ!!」
それをレンリは右膝を上げて受け止めた上、更に左の拳でカウンターを放ってきた。
対して俺は雷速を以って後方へと下がり、空気を切り裂くように迫る殴打を避ける。
また仕切り直しだ。
「……その移動方法、ちょっと反則染みていませんか?」
レンリが俺の奇妙な軌道を目の当たりにして、軽く呆れたように嘆息する。
「そっちこそ、どうしてこの速度についてこられる?」
「それは勿論、身体強化と、日頃の鍛錬の賜物です」
俺の問いには、成長前の状態に抑制された平たい胸を張りながら答えるレンリ。
「日頃の鍛錬の賜物、ね」
それを受け、俺は彼女の言葉を口の中で繰り返した。
少なくとも身体強化のみでは、こうはならないのは間違いない。
体捌きは血の滲むような努力の上に成り立つ熟練したものとしか思えないし、何より彼女は明らかに視界の外の出来事を知覚していた。
しかし、匂いや空気の流れなど人間の五感を強化して得られる情報では、まず自分に伝達される段階で遅延が生じて間に合わない。祈念魔法による探知にしても、ここまで高速の域に達すると素早く処理することは難しい。
より上位の観測。身体強化以外の複合発露を応用した探知能力を持つと見るべきだ。
日頃の鍛錬という大分曖昧な言葉には、その辺りが内包されているのだろう。
「……もう一段、ギアを上げるぞ」
「わざわざ宣言なさるとは、お優しいことですね。最初から全力で構いませんと申し上げていましたのに」
そう言いながら、地面に降り立って構えを取るレンリ。
祈念魔法を用いた空中戦よりは、地に足がついた地上戦の方がやり易いのだろう。
それを見届けてから、再び仕かける。
先程と同様、速さにものを言わせて作り出したフェイント。
それに加え、今度は全く異なる方向から拳大の氷塊を射出して攻撃の手数を増やす。
より回避は困難となるはずだが……。
「素晴らしい攻撃です!」
レンリもまた本気ではなかったらしい。称賛する余裕がある程に。
彼女はそれらを前にして尚、全ての位置、軌道を把握しているが如く最小限の動きで避け、一部、回避行動が後の動きを妨げかねないものを四肢で打ち落として防ぎ切る。
その極まった舞踊の如き無駄のない一連の流れは、気を抜けば見惚れてしまいそうな程に美しく、だからこそ、そんな彼女に心の内で舌打ちせざるを得ない。
誤魔化すように、尚も攻撃を激しくさせる。と――。
「……ん?」
その中で俺はふと、遠隔操作した氷から妙な感覚を受けた。
何かに纏わりつかれながら、それを振り解いて空間を突き進んでいるかのような……。
「そう言うことか」
もう一度、大きく間合いを取りながら呟く。
その違和感は余りにも小さなもの。
恐らく、他ならぬ遠隔操作に極々微細なものながらラグのようなものが生じていなければ、気づくことはできなかったに違いない。
「空気……だと、もっと影響が小さいだろうから、水か? 周囲に微粒子の水を放出することによって、その中を通過する全ての動きを察知していたんだな」
「見事な洞察力ですね。ご明察です」
俺の結論を受けてレンリは楽しげに微笑みながら肯定し、視覚的に分かるように薄い霧の如く僅かに白い靄を自らの周りに発生させた。
更にそこから一気に濃度を濃くして、空間を霧で真っ白に埋め尽くしていく。
ばれてしまったのなら感度を上げた方がいい、とでも言うように。
「では、そろそろ私も本気で行きましょう」
そして彼女はそう宣言すると――。
「何っ!?」
先程までとは打って変わって、細く研ぎ澄まされた水をレーザーの如く放ってきた。
大きく系統の違う攻撃に一瞬回避が遅れ、氷の鎧の表面を僅かに掠る。
その部分には、切りつけられたかのような傷が生じていた。
「これは……」
程度としては極小。
しかし、真・複合発露によって生成した氷で形成された鎧を傷つけられるということは、彼女の放った水は第六位階上位の攻撃力を持つということに他ならない。
アガートラムと、それに重ね合わせているだろう第六位階の身体強化。
更に、この水を操る真・複合発露、あるいは暴走・複合発露。
霧は後者の応用なのだろうが、身体に現れ出ている異形の特徴は変わらず一つ。
同種と複数契約しているのであれば、多様な逸話を持った魔物に違いない。
一体、どのような少女化魔物なのやら。
「余所見は厳禁ですよ!」
その正体を考察する間もなく、今度は鞭のようにいくつも束ねられた水が襲いかかってきて、俺は隙間を縫うように回避していった。
似たような攻撃を以前レギオが見せていたが、段違いに速く、何より挙動が遥かに洗練されている。威力も桁違いに強いと見て間違いない。
身体能力にものを言わせた脳筋近距離タイプかと思いきや、技にも優れ、それを活かす状況を複合発露で作る応用性もある。その上、この強力な遠距離攻撃。
バランスがよく、かつ全てにおいて高水準と言える。
ライムさんのような搦め手に特化したタイプとは異なり、シンプルで真っ当に強い。
正直、脅迫してきた事実さえなければ、好ましいとすら思う戦闘スタイルだ。
だが、この模擬戦には俺の尊厳とセト達の平穏がかかっている。
戦い方の好悪で絆され、勝ちを譲る羽目に陥るような隙を作る訳にはいかない。
敗北は許されない。勝利しなくてはならない。
とは言え――。
「さて……どうやって負けを認めさせるべきか」
事前に設定した勝利条件を考えると、それを達成するのは少々厳しい。
実力の問題ではなく。
気を失わせることなど互いに困難だし、俺達を怯ませる程の強烈な意思を持つレンリに降参を宣言させるとなれば尚更のことだ。
だから俺は、攻勢に出たレンリが放ち続ける水の乱舞を回避しながら、如何にして勝利の条件を満たそうかと頭を悩ませた。
「はい。いわゆる合法ロリというものですね」
「いや、それは自分で言うようなことじゃないだろ」
割とシリアスな場面で冗談染みたことを言い出したレンリに、思わず突っ込む。
すると、彼女は何故か顔に喜色を浮かべて一瞬「ふふ」と小さく笑った。
その控え目な笑い方は、確かに妙に大人っぽい印象を受ける。
まあ、仕草よりも実際の年齢を知ったから、という部分が大きいかもしれないが。
「って、違う。そんなことよりも、皇帝の資格を簒奪したような人間がよその国で何をしているんだ。まさか、国にいられなくなって亡命でもしようとしているのか?」
「いいえ。アクエリアル帝国において帝位は力尽くで奪い取るものですから、別に罪にはなりません。国の運営も当面は父が行うことになっていますし」
「だったら、目的は何なんだ」
「それは最初に言ったじゃありませんか。それが全てです」
第一目標は救世の転生者を探し出すこと。
最終目的はそれを前提としたものではあるものの、詳細は不明。
新たな情報を明かした後でも、そこに関しては変わりはないらしい。
レンリが次期皇帝の資格を有しているという事実を加味すると、国家の戦力として救世の転生者を求めている可能性が最も高いように思えるが――。
「それはそうと……既に戦いは始まっているはずです、よっ!!」
俺がそんな思考を脳裏で巡らしていると、彼女は気合を込めた声と共に訓練施設の床を砕かんばかりに蹴った。
音を置き去りにする速度で少女が迫る。
対して、俺は雷の如き軌道と共に間合いを離し、空中へと浮かび上がった。
真・複合発露〈万有凍結・封緘〉を破ったことに加え、この速さ。
如何に第六位階の祈望之器たるアガートラムを持つとは言え、それ一つのみによる身体強化でその二つのことをなし得たとはとても思えない。
俺の知る少女征服者の中で最も身体強化に優れたシニッドさんよりも遥かに多く、同系統の力を重ねがけしていると考えるのが妥当だろう。
とは言え、彼女を見る限り、複合発露発動に伴って現れた魔物の特徴は一つ。
竜の如き群青の鋭利な鱗のみ。
同じ種族の少女化魔物と複数契約しているのか、それとも……。
「風の根源に我は希う。『纏繞』『収束』『制御』『維持』の概念を伴い、第四の力を示せ。〈天父〉之〈天翔〉」
と、戦いのさ中に悠長に分析をすることを敵たる彼女が許すはずもなく、レンリは身体強化にものを言わせた超高速の祈念詠唱と共に、空中の俺へと一直線に翔けてきた。
風属性第四位階の力を易々と操ることができるのは、優秀な証拠ではある。
しかし、あくまでもそれは祈念魔法の範疇に過ぎず、より物理法則から逸脱する度合いが高い真・複合発露による飛行を上回ることはない。
アガートラムと謎の複合発露の力とを束ねた、氷の鎧を砕き得る威力を有する拳の一撃もまた、当たらなければ意味はない。
即座に〈裂雲雷鳥・不羈〉によって回避すると共に刹那の内に彼女の死角に回り込み、氷を棒状に成形した鈍器を彼女の肩口に叩き込まんとする。
行動後の隙を突いた反撃。
間違いなく有効打になると思われたが――。
「ちっ」
「……さすがS級補導員、ですね」
レンリは崩れた体勢から超反応を見せ、左手で掴むように攻撃を受け止めていた。
自ら氷の武器を分解して後退し、一先ず一定の距離を作る。
「配慮して肩を狙って下さったようで、ありがとうございます」
「勢い余って殺さないようにしなくちゃいけないんだから、当然のことだろう。それに補導員たる者、相手の命に配慮した戦い方ぐらいできないといけない」
「全力を出せず、ストレスが溜まりませんか?」
「面倒ではあるけど、別に俺は戦闘狂じゃないからな。と言うか、手加減していることが分かるなら、降参してくれると助かるんだが?」
「御冗談を。ルール上、全力を出せないのはお互い様ですよ」
挑むような言葉の応酬の後、一瞬、鋭く視線を交わし合う。
どうやらハッタリではないようだが……。
「試してやる」
「望むところです」
簡潔なやり取りの直後、俺は彼女から見て左下側から襲いかかった。
と見せて、真・複合発露による力任せで鋭角な方向転換を以って最初の一撃をフェイントとし、右上側から再生成した氷の棒を振り下ろす。
その瞬間。レンリは確かに初撃を意識し、視線をそちらに向けていた。
にもかかわらず、彼女は目を戻さないまま俺の攻撃に合わせて右腕を振り上げ、その前腕部分を叩きつけるようにして氷の棒を粉砕してしまった。
とは言え、この武器はあくまでも真・複合発露の所産。
瞬時に復元し、完全に開いた右脇腹に打ち込まんとするが――。
「はっ!!」
それをレンリは右膝を上げて受け止めた上、更に左の拳でカウンターを放ってきた。
対して俺は雷速を以って後方へと下がり、空気を切り裂くように迫る殴打を避ける。
また仕切り直しだ。
「……その移動方法、ちょっと反則染みていませんか?」
レンリが俺の奇妙な軌道を目の当たりにして、軽く呆れたように嘆息する。
「そっちこそ、どうしてこの速度についてこられる?」
「それは勿論、身体強化と、日頃の鍛錬の賜物です」
俺の問いには、成長前の状態に抑制された平たい胸を張りながら答えるレンリ。
「日頃の鍛錬の賜物、ね」
それを受け、俺は彼女の言葉を口の中で繰り返した。
少なくとも身体強化のみでは、こうはならないのは間違いない。
体捌きは血の滲むような努力の上に成り立つ熟練したものとしか思えないし、何より彼女は明らかに視界の外の出来事を知覚していた。
しかし、匂いや空気の流れなど人間の五感を強化して得られる情報では、まず自分に伝達される段階で遅延が生じて間に合わない。祈念魔法による探知にしても、ここまで高速の域に達すると素早く処理することは難しい。
より上位の観測。身体強化以外の複合発露を応用した探知能力を持つと見るべきだ。
日頃の鍛錬という大分曖昧な言葉には、その辺りが内包されているのだろう。
「……もう一段、ギアを上げるぞ」
「わざわざ宣言なさるとは、お優しいことですね。最初から全力で構いませんと申し上げていましたのに」
そう言いながら、地面に降り立って構えを取るレンリ。
祈念魔法を用いた空中戦よりは、地に足がついた地上戦の方がやり易いのだろう。
それを見届けてから、再び仕かける。
先程と同様、速さにものを言わせて作り出したフェイント。
それに加え、今度は全く異なる方向から拳大の氷塊を射出して攻撃の手数を増やす。
より回避は困難となるはずだが……。
「素晴らしい攻撃です!」
レンリもまた本気ではなかったらしい。称賛する余裕がある程に。
彼女はそれらを前にして尚、全ての位置、軌道を把握しているが如く最小限の動きで避け、一部、回避行動が後の動きを妨げかねないものを四肢で打ち落として防ぎ切る。
その極まった舞踊の如き無駄のない一連の流れは、気を抜けば見惚れてしまいそうな程に美しく、だからこそ、そんな彼女に心の内で舌打ちせざるを得ない。
誤魔化すように、尚も攻撃を激しくさせる。と――。
「……ん?」
その中で俺はふと、遠隔操作した氷から妙な感覚を受けた。
何かに纏わりつかれながら、それを振り解いて空間を突き進んでいるかのような……。
「そう言うことか」
もう一度、大きく間合いを取りながら呟く。
その違和感は余りにも小さなもの。
恐らく、他ならぬ遠隔操作に極々微細なものながらラグのようなものが生じていなければ、気づくことはできなかったに違いない。
「空気……だと、もっと影響が小さいだろうから、水か? 周囲に微粒子の水を放出することによって、その中を通過する全ての動きを察知していたんだな」
「見事な洞察力ですね。ご明察です」
俺の結論を受けてレンリは楽しげに微笑みながら肯定し、視覚的に分かるように薄い霧の如く僅かに白い靄を自らの周りに発生させた。
更にそこから一気に濃度を濃くして、空間を霧で真っ白に埋め尽くしていく。
ばれてしまったのなら感度を上げた方がいい、とでも言うように。
「では、そろそろ私も本気で行きましょう」
そして彼女はそう宣言すると――。
「何っ!?」
先程までとは打って変わって、細く研ぎ澄まされた水をレーザーの如く放ってきた。
大きく系統の違う攻撃に一瞬回避が遅れ、氷の鎧の表面を僅かに掠る。
その部分には、切りつけられたかのような傷が生じていた。
「これは……」
程度としては極小。
しかし、真・複合発露によって生成した氷で形成された鎧を傷つけられるということは、彼女の放った水は第六位階上位の攻撃力を持つということに他ならない。
アガートラムと、それに重ね合わせているだろう第六位階の身体強化。
更に、この水を操る真・複合発露、あるいは暴走・複合発露。
霧は後者の応用なのだろうが、身体に現れ出ている異形の特徴は変わらず一つ。
同種と複数契約しているのであれば、多様な逸話を持った魔物に違いない。
一体、どのような少女化魔物なのやら。
「余所見は厳禁ですよ!」
その正体を考察する間もなく、今度は鞭のようにいくつも束ねられた水が襲いかかってきて、俺は隙間を縫うように回避していった。
似たような攻撃を以前レギオが見せていたが、段違いに速く、何より挙動が遥かに洗練されている。威力も桁違いに強いと見て間違いない。
身体能力にものを言わせた脳筋近距離タイプかと思いきや、技にも優れ、それを活かす状況を複合発露で作る応用性もある。その上、この強力な遠距離攻撃。
バランスがよく、かつ全てにおいて高水準と言える。
ライムさんのような搦め手に特化したタイプとは異なり、シンプルで真っ当に強い。
正直、脅迫してきた事実さえなければ、好ましいとすら思う戦闘スタイルだ。
だが、この模擬戦には俺の尊厳とセト達の平穏がかかっている。
戦い方の好悪で絆され、勝ちを譲る羽目に陥るような隙を作る訳にはいかない。
敗北は許されない。勝利しなくてはならない。
とは言え――。
「さて……どうやって負けを認めさせるべきか」
事前に設定した勝利条件を考えると、それを達成するのは少々厳しい。
実力の問題ではなく。
気を失わせることなど互いに困難だし、俺達を怯ませる程の強烈な意思を持つレンリに降参を宣言させるとなれば尚更のことだ。
だから俺は、攻勢に出たレンリが放ち続ける水の乱舞を回避しながら、如何にして勝利の条件を満たそうかと頭を悩ませた。
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