ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

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第3章 絡み合う道

172 ガラテアと破滅欲求

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「救世の転生者に依らずガラテアから世界を救う?」
「はい。そもそも、この世界アントロゴスの危機を異世界の人間に強制的に背負わせるなど言語道断。本来ならば、この世界に生きる人間が解決すべき話でしょう」

 レンリが告げた言葉を問い気味に繰り返した俺に対し、彼女は本心からそう思っていることを示すように至極真面目な顔で答えた。
 まあ、正論ではあるだろう。
 その正論で世の中が回ればそれに越したことはないが……。
 しかし、この世界のみで対処できなかったからこそ多くの人々が救済を望み、結果として人間原理に基づいた救世の転生者というシステムが生まれたのではなかったか。

「……そんなことが可能なのか?」
「分かりません。ですが、この世界に生きる者としての誇りを失わないためにも、それを追い求め続けることはやめてはならないと思います」
「それは、そうだろうけどな」

 実現可能かどうかはさて置き、彼女の言い分は何も間違っていないとは俺も思う。
 このシステムがなければ、前世の記憶を保ったままこの世界に生を受けることはなかった可能性が高いことを思うと複雑な気持ちが生じない訳ではないが。
 それでもやはり、健全な状態とは言えないのは間違いない。

「けど、それが目的だとして、何で第一目標が救世の転生者を探し出すことなんだ?」
「……業腹ですが、長らく救世の転生者様に頼り切りで代案など誰も考えつかなかったのが現実です。この世界に染まった考え方では、停滞した状況を打破できないのかもしれません。何か、根本から異なる考え方が必要なのだと思います」
「成程。そこで異世界の記憶を持つ俺か」
「はい。結局は救世の転生者様頼りになってしまっていることは本当に情けない限りではありますが、次代以降に負の遺産を引き継がせないためにも、異世界の知識を持つ旦那様にその方法を見つけ出す御助力をお願いしたいのです」

 そう言うと、真剣さを湛えた瞳で見詰めてくるレンリ。
 実際のところ。
 最終的にその目論見が果たせず、旧来の救世の転生者による救済をなさねばならないとしても、ガラテアから世界を救う他の方法を考えておくことは無駄ではない。
 この五百年はうまくいっていたようだが、偶然が重なって救世の転生者による救済が失敗する可能性はゼロとは言えないだろうから。
 実際にそんな方法が確立すれば救世の転生者は用済みだが、別に俺も富や名声が欲しい訳ではない。いや、貰えるなら貰うけども、対価に命懸けの戦いを要求されるぐらいなら。

 今生の目的は親孝行。それと先達として後進を導いていくような人生を歩むことだ。
 なので、救世の転生者が無用の長物となる別の救済方法がいくらあっても構わない。
 そんな思いと共に、了承の意を示そうと口を開くと――。

「それが高度に政治的な判断を要する理由は何なのでしょうか」

 俺の言葉を遮るように、イリュファが横から問う。
 トリリス様に近い彼女も予想がつかないのか、と心の中で疑問を抱く。
 あるいは、分かっていて尋ねているのか。

「ザックリ言うと、救世の転生者に依らない救済方法を確保することは、国にとって一つの外交カードとなり得るからです。もし、その手段を得られたとしても、アクエリアル帝国は勿論、ホウゲツも詳細を他国に伝えることはないでしょう」

 そんなイリュファの問いに、レンリは少々不本意そうな顔をしながら答える。
 ……まあ、それはそうだろう。
 たとえ百年に一度のみの災害のようなものだったとしても。
 自らの力でそれを乗り越えられる術を持つというのは、大きなアドバンテージだ。
 国が占有したくなるのも分かる。

「……あの、幻滅なさいましたか?」

 俺が黙っているのを見て、不安そうな上目遣いを向けてくるレンリ。
 合わせて、どうやらイリュファも俺の様子を窺っているようだ。
 もしかすると先程の問いは、そうした裏側の部分が存在することも理解した上でレンリに協力するか否か判断させようと考えてのものだったのかもしれない。
 とは言え、俺の答えは変わらないが。

「いや、国の対応としては理解できる範疇だし、さすがにそこに口を出すつもりはないよ。俺自身、秘匿されて庇護されている側だしな」

 正直なところ何も考えずに、全て詳らかにしろ、などとは言えない立場にある。

「と言うか、その辺の話は新しい方法を確立できないことには意味がないじゃないか」

 現段階では取らぬ狸の皮算用でしかない。
 あるいは世界中の人の力が必要になる可能性もあるし、逆に、隠匿して封印しなければならないような人道にもとる手段が出てきてしまう可能性だってある。
 時と場合によって対応は臨機応変になるだろうし、ここで是非を論じる意味はない。
 勿論、国の上の方では早々に話し合っておく必要はあるのかもしれないけれども。
 俺にとって、この場で判断材料とすべきことは一つだ。

「それに、最初に言っていた理由はレンリの本心なんだろ?」
「勿論です!」
「だったら、俺は手伝うよ。レンリの考えは間違ってないと思うから」
「あ、ありがとう、ございます。旦那様」

 俺の賛同を得たことが余程嬉しかったのか、安堵と共に瞳を潤ませて微笑むレンリ。
 そんな彼女と図らずも見詰め合う形になり、数秒会話が途切れる。

「そ、それはそれとして。そもそも救世の転生者による救済って、具体的にどういう形なんだ? 今まで聞いたことがなかったけど」

 何となく照れ臭くなって、俺は誤魔化すように話を戻した。
 新しい方法を探すにせよ、旧来の方法は知っておいた方がいいのは確かだ。

「それは……私にも分かりません。が、ガラテアは倒しても百年の間に蓄積された破滅欲求が存在する限り、別の物体を依り代に復活すると言われています。救世の転生者様は、蓄積された破滅欲求自体を消滅させる術をお持ちだったのではないでしょうか」
「少なくとも、俺に心当たりはないけど……イリュファは何か知らないか?」
「詳しいことは私も承知していません。しかし、思念の蓄積により、救世の転生者という属性に自然とそうした力が備わっている可能性はあります」
「成程。けど、それだと参考にはならないな……」

 先天的なガラテア特効みたいなものに頼らずに、ガラテアをどうにかしたい訳で。
 こうなると完全に一から考えないといけないようだ。
 やはり一筋縄ではいかないか。

「世界に蓄積された破滅欲求自体を消し去る方法……」

 そう思考を巡らしながら、頭の中を整理するために呟く。

「そんなもの、個々人が処理すればいいのにな」
「……そう言えば、旦那様の前世の世界では魔物や少女化魔物ロリータ人形化魔物ピグマリオンのような存在はいないんですよね?」

 俺が小さな声で更に続けると、それを聞いていたレンリが顔を上げて口を開く。

「ああ。似たような存在は架空のものとして知られてるけど、実物はいないな」

 今一質問の意図が分からないが、とりあえず答えておく。

「この世界では人間の欲望や悪意、破滅欲求が世界に放出されて蓄積され、それらの存在が生まれますけど、その機構が存在しない世界で人間はどうやって負の感情を処理していたんですか? 恐ろしく殺伐した世界になりそうですけど」
「え? いや、どうやってって言われてもな……普通に、としか言いようがないけど」

 思念を一種のエネルギーと見るなら、世界に負の感情が積み重なれば個人のそれは目減りするのは当然の帰結というものだろう。
 その事実を言い換えれば、この世界の人間はこの機構のおかげで負の感情を抱きにくくなっているということになる。
 しかしながら……。
 俺は正直、新聞などを見る限りでは犯罪率はそんなに変わらない気がしていた。

「普通に、ですか?」
「うん。敢えて言うなら忍耐力で、かな」

 と、答えてから何となく元の世界と大して変わらない理由に思い至る。
 筋肉もそうだが、精神もまた負荷がかからなければ成長はない。
 部分的にせよ、負の感情を世界に持っていかれて自力で抑え込む必要の少ないこの世界の人間は、いわゆる忍耐力が余り育っていないのではないだろうか。
 その結果として、元の世界と同程度に落ち着いてしまっているのだ。
 あくまで推測だが、一つ根拠っぽいものもある。
 この世界での俺。微妙に欲が薄い気がするのだ。
 元の世界で生きていた俺なら、もう少し富や名声への欲求もあったはずなのに。

 しかし、いずれにしても。その状態で一定の釣り合いが取れているのならば、そういうものだとして受け入れておくしかないのだろう。
 この辺はちょっと余談かもしれない。

「何はともあれ、世界に蓄積された破滅欲求をどうにかするというのが基本になるのは確かだと思います。勿論、すぐにアイデアが浮かぶとは考えていません。とりあえずは頭の片隅に置いておいて下さい」
「……分かった。皆も、何か思いついたら教えてくれ」

 レンリの言葉に頷いて、それから周りの皆を見回しながら言う。
 対して彼女達が頷いて応えてくれたのを確認してから、俺は視線を戻した。

「ありがとうございます。旦那様、皆さん」

 ほんの少しだけ肩の荷が下りたと言うように、レンリは表情を和らげて頭を下げる。
 それから姿勢を正した彼女は、しかし、一転して躊躇いがちにもじもじし始めた。

「そ、それはそれとして、一つ旦那様にお願いしたいことがあるのですが」
「何を?」
「明日は学園がお休みなのですが、その連れていって頂きたい場所があるのです。えっと、その……デートがてらに」

 おずおずと言いながら、最後に頬を赤らめて恥ずかしげにつけ加えるレンリ。
 しおらしくしていると純粋に美少女な彼女だけに、ちょっと心臓が高鳴ってしまう。
 軽く深呼吸して心を落ち着ける。

「それは構わないけど、どこに行きたいんだ?」

 そして、努めて平静を装いながら尋ねると――。

「はい。実は……この国で最も優秀な複製師の工房に、連れていって頂きたいのです」

 彼女はそう、余り可愛げのない目的地を告げたのだった。
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