ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

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第4章 前兆と空の旅路

208 ジズ経由ウインテート行き

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『巡航速度に至りましたので、シートベルトを外していただいても問題ございません』

 浮かび上がった飛行機もどきマナプレーンの急加速が数分経って収まったところで、個室の隅から出ている伝声管から客室乗務員のものと思しき声が聞こえてきて少し驚く。
 これがこの世界、この時代の機内アナウンスらしい。
 一つ息を吐いて気持ちを落ち着かせる。
 そうしながら俺はシートベルトを外して立ち上がり、一つ大きく伸びをした。

「さて、と」

 それから個室を出て、一つ隣の部屋の前に。
 その扉をノックし、返事を待って中に入る。
 すると、ライムさんとルシネさんも席を離れ、同じように伸びをして体を解していた。
 彼らは俺の個室よりも少し広い二人部屋を宛がわれたらしい。
 そこに俺まで入るとさすがに狭いが、話をするならこちらの部屋の方がいい。
 ライムさんに促され、端に置かれた椅子に座ってから口を開く。

「確か、ウインテートまでは大体半日ぐらいでしたよね?」
「ああ。しかし、ジズが現れる空域までは約一時間というところだな」
「約一時間、ですか」

 割と早い……気もするが、改めて意識をすると結構時間がある感もなくはない。
 早い内に準備を整えておいた方がいいのは当然ではあるけれども、いくら何でも早々にマナプレーンの外壁にへばりついて待機している訳にもいかないだろう。
 探知系の複合発露エクスコンプレックスを持つ少女征服者ロリコン少女化魔物ロリータがいたら、間違いなく怪しまれる。
 たとえ精神干渉によって誤魔化せるにしても、俺達自身の雑な行動の結果そうするのは人道的に好ましいとは言えないし、なるべく目立つ行動を取らないように努めるべきだ。

 ……しかし、そうなると多少なり時間が余るな。どうしていようか。
 そんな益体もないことも頭の片隅で少し考えながら、とりあえずはライムさん達との簡単な打ち合わせを続けることにする。

「ウインテートまでが半日、つまり約十二時間で、ジズに遭遇するまでが一時間。と言うことは、大分ホウゲツ寄りにジズの住処があるんでしょうか」
「いや、ウインテートからホウゲツを目指しても同じぐらいだそうだから、単純にジズが縄張りとしている範囲が馬鹿みたいに広域にわたっているだけだろう」
「故に、ジズの住処は恐らくホウゲツとウインテートの中心付近にあると考えられているな。もっとも、そこまで辿り着いた者はいないから真相は分からないが」

 俺の問いに応じたライムさんに続き、補足するようにつけ加えるルシネさん。
 まあ、ジズが潜む場所を特定できずにいるのは無理もないことだろう。
 元の世界で言うところの東京に位置する学園都市トコハ。
 ロサンゼルスの辺りに位置する目的地、ウインテート首都リベランジェ。
 その間の距離はおおよそ八千八百キロぐらいだから、これまでの情報が正しければジズは直径七千キロを上回る広い領域をカバーしている計算になる。
 即ち、端から中心までは三千五百キロを超える。
 一般論として、気軽に移動できる距離ではない。
 更にはマナプレーンを使用すればジズに襲撃される以上、生身での探索が必要不可欠だが、海上で目印もない状況ではGPSでもなければ真っ直ぐに進むことすら不可能だ。
 遭難の危険性が高い。
 それならば、やはり住処を特定するよりも襲撃を待ち構えた方が遥かに現実的だ。

「…………にしても、本当に広範囲だな」

 頭の中で情報を軽く整理すると共に小さく感想を呟き、それから「いや、空を司っているのなら逆に狭いと言った方がいいのか?」と首を傾げる。
 東京(学園都市トコハ)とロサンゼルス(首都リベランジェ)を線で結んだ中点を中心に直径七千キロ以上となると、元の世界で言うアメリカのアラスカやロシアのカムチャツカ半島、チュクチ半島の一部までジズの縄張りに含まれることになるはずだが……。
 ここまで行くと、既に人間が一般的に考える縄張りなどという範疇にないレベルだ。
 が、空に紐づけされた埒外の魔物として考えると、もっと広くてもいい気さえする。
 それこそ空の全てを網羅するぐらいに。

「もしかすると……」

 マナプレーンの定期便があるのは現行ホウゲツ‐ウインテート間のみだから、太平洋上の一定の領域のみで襲撃されているように見えるだけなのかもしれない。
 この一時間という時間は、あくまでジズが対象を捕捉して飛来してくるまでの猶予に過ぎず、世界のどこであれ異物が空を侵犯すれば排除せんと追ってくる可能性もある。
 それこそ予測される住処にしても、もっと別の離れた場所。例えばニュージーランド付近ということだって十分あり得る話だ。
 トリリス様達も、その辺を考えて迂回という手段を取らなかったのではなかろうか。
 ……ただ単に時間的な余裕がなかったから、直行するしかなかったのかもしれないが。
 だが、まあ、推論に推論を重ねてもしょうがない。

「イサク。考え込んでいるところ悪いが、先にジズ補導までの手順を確認しておくぞ」
「あ、はい。分かりました。お願いします」

 ライムさんの呼びかけに余計な考察を打ち切り、彼の声に耳を傾ける。

「とは言っても、そこまで複雑な話じゃない。物見からジズ接近の連絡が来たら、イサクは即座にハッチから外に出てジズに挑む。このマナプレーンを守りながら。それだけだ」
「私達に関しても単純だ。後四十分もしたら人員は一ヶ所に集められることになっているから、そこで精神干渉を行う。戦っている者がイサクだと気づかれないようにな」

 二人の説明に深く頷く。
 このマナプレーンに乗り込んだ他の人員達と共に連携して戦う、とかではないからな。
 相手を含め、関わる人数が少なければシンプルになるのは当然のことだ。
 もっとも、シンプルだから難易度が低いかと言うと、それは全く別の話だけれども。

「しかし、今から気を張っていても仕方がない。しばらくは空の旅を堪能するとしよう」
「何なら、仮眠を取っていてもいいぞ。私が起こしてやる」
「いえ、今半端に寝ると体が鈍って戦闘に差し支えが出るかもしれませんし、後々時差ボケが酷くなるかもしれないので、それはやめておきます」
「そうか……」

 どことなく残念そうなルシネさんだが、確か到着する頃のアチラは夜明け前のはず。
 そうなるとタイミング的にジズを補導し終わってから睡眠を取り、現地に到着する直前で起きるぐらいにしておいた方がいい。
 昨日は全員で夕方から祈念魔法を利用して無理矢理眠っておいたし、そうしておけば時差ボケについてはある程度緩和できるはずだ。

「なら、機内のカフェラウンジにでも行って、外の景色でも眺めながら何かつまむか」
「カフェラウンジ、ですか?」
「ああ」

 聞き返す俺に、軽く首を縦に振りながら肯定するライムさん。
 どうやらマナプレーンには、いわゆる機内食とはまた別に、自由に飲食物を購入することができるスペースまで存在しているらしい。
 それぞれに部屋が用意されていることと言い、元の世界なら最高クラスの待遇だ。
 とは言え、それは俺が救世の転生者だから特別扱いされている訳ではない。
 まだ普及し立ての乗り物であり、一定水準以上の裕福層が利用することしか考えていないが故の画一的な対応に過ぎないだろう。
 ……しかし、いずれにしても、腹が減っては戦ができぬとも言うし、ジズとやり合う前に軽く腹に入れておいてもいいかもしれない。

「そうですね。そうしましょう」

 そうして二人の先導で廊下に出て、カフェラウンジを目指す。
 祈望之器ディザイアードヴィマナの複製改良品としての効果か、全く揺れる気配はない。
 非常に安定して水平を保っている。
 急激な方向転換でもしなければ、特に気をつけずに歩いていても問題なさそうだ。

「ここだ」
「へえ、かなり広いんですね」

 訪れたカフェラウンジは思ったよりずっと広く、街中のカフェのような雰囲気だった。
 元の世界の飛行機で言えば羽に当たる部分まで普通に座席を作れる構造だからだろう。
 その店内見渡すと、既にアルコールっぽい液体が入ったグラスを傾けている者もチラホラいて、身体強化によって自然と彼らの会話が耳に届いてくる。

「しっかし、今回の救世の転生者って一体どんな奴なんだろうな」
「ウラバ大事変を解決したり、人形化魔物ピグマリオンを討伐したり。過去の救世の転生者と遜色ない活躍を見せている訳だから、今まで通り英雄に相応しい高潔な人間のはずだ」
「いやいや。過去の奴らも含め、伝え聞いた人物像なんて当てにならねえだろ。まあ、俺らにとっちゃ、救世さえ果たしてくれりゃどんな奴だって構いやしねえけどな」

 ……シートベルトを外して間もないはずなのに、随分と酔っぱらっている感じだな。

「今回の仕事は飲み食いも国が持つから、調子に乗ってガブ飲みしているんだろう」
「ああ、成程」

 ライムさんの声量を抑えた呟きに納得する。
 しかし、これからジズの襲撃があるというのに呑気なことだ。
 まあ、救世の転生者ならジズを容易く補導してくれるという信頼故と思っておこう。
 そうして離れた席でサンドイッチとソフトドリンクを頼み、窓から(俺が空を飛ぶ時に比べると)ゆったり流れていく景色を眺めていると――。

『緊急連絡!』

 カフェにも設置されていた伝声管から、突如として緊迫した声が聞こえてきた。

『二時の方角よりジズの接近が確認されました! 至急、所定の場所に向かって下さい!』

 その言葉を受け、最終的に酒瓶を何本も空けて機嫌よさそうに大笑いしていた者達も一気に酔いが醒めたように、大慌てでカフェラウンジを出ていく。
 想定よりも随分と早い。
 予測された時間までは、まだ二十分程あったはずだが。
 あるいは度重なる異物の侵犯に、ジズもこの空域に目を光らせていたのかもしれない。

 とにもかくにも、救世の転生者の出番だ。
 速やかに最寄りのハッチへと向かう。

「イサク、頼んだぞ」
「はい」

 そして俺はアーク複合発露エクスコンプレックス裂雲雷鳥イヴェイドソア不羈サンダーボルト〉と空力制御の祈念魔法を使用すると、ハッチを開け放って空中に身を投じた。
 祈望之器の力で空気の流れが安定していた領域を抜け、一先ず姿勢を制御しながらマナプレーンの上に位置取る。
 それから機内アナウンスにあった二時の方角に目を向け――。

「なっ!?」

 目に映ったそれに、俺は思わず驚愕の声を上げてしまった。
 そちらの方角から急激に迫り来るのは巨大な鳥。
 などという表現では追いつかない、全長数キロはあろうかという超々巨大生物。

「う、嘘だろ……」

 三大特異思念コンプレックス集積体ユニークが一体、ジズ。
 空を司ると謳われるに相応しい、正に人知を超えた姿だった。
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