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第4章 前兆と空の旅路
217 大博物館見学、ウインテート連邦共和国の成り立ち
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ホテルを出発し、貸し切りのバスもどきに揺られること十数分。
ホウゲツとも異なる百年前のアメリカな感じの街並みを眺めていると、一際異彩を放つ巨大な建築物が徐々に近づいてくるのが分かる。
あれこそが恐らく、ウインテート連邦共和国が誇る大博物館なのだろう。
それを裏づけるように――。
「ここウインテート連邦共和国大博物館の歴史は古く、その設立にはかの偉大なる大英雄ショウジ・ヨスキ様が大きく関わっています」
その近くで降車した俺達を先導し、まるで神殿のように大きな柱がいくつも立った荘厳な雰囲気を持つ入口の前で振り返った案内役兼纏め役のモリスさんがそう告げる。
と言うことは、設立自体は五百年程前のことか。
正に由緒正しき博物館と言うことができる。
……にしても、この体のご先祖様にして元異世界人の大先輩である彼は、そんなようなことまでやっていたんだな。新たな国の設立や、祈念魔法の体系化以外にも。
功績を残し過ぎていて、後身であるこちらの立つ瀬が本当にない。
その分、俺達は救世という使命にのみ専念すればいいということでもあるけれども。
「……しかし、広いな」
隣のライムさんが、体と顔はモリスさんへと向けつつも視線だけで建物を観察しながら驚愕の色濃い声と共にポツリと呟く。
それに対し、驚きの度合いには相当の差はあれ、俺もまた内心で同意した。
よく単位として使用される前世のドーム球場で言うと二、三個分の面積はありそうだ。
高さこそ控え目(勿論、この世界基準では高い方)だが、一つの構造物で、と考えると元の世界でも割と広い方になるに違いない。
であれば、この世界では尚更のことで……ライムさんやその隣のルシネさん、それから同じく見学に来た面々が圧倒されるのも当然のことだろう。
「では、入りましょうか」
柱の間を通り、それと比較すると小さめの扉の前へ。
そこから中に入ると、外と勘違いするような広大な空間が目に飛び込んきた。
「まずは一階からです」
受付を通った先で一度立ち止まり、モリスさんが案内を開始する。
外で見た全体像と高さのかなりある天井から考えると二階、三階はなさそうだが……。
「ここには歴史的に重要な遺物が保管されております」
疑問は一先ず置いておき、彼の言葉に耳を傾けながら周りを見回す。
「こちらはショウジ・ヨスキ様がこの大陸を訪れるまでの生活の風景を、現存する当時の物品を用いて再現したものです」
手で指し示された方を見ると、円錐状のテントのような移動式住居の周りでアメリカ先住民族風の装飾品を身につけた人形が武器を持って何かに挑む様が展示されていた。
狩猟の様子の再現かと思ったが、違う。
対峙しているのは、あからさまな異形。魔物だ。
「五百年以上前のことです。魔物の数が増え続け、その強さもまた増し続け……それに対応することができず、大陸に多数存在していた部族がいくつも滅び去りました」
人間原理に基づく思念の蓄積。その現実化という法則があるが故に、俺が生きた前世の世界とこの世界とでは歴史が大きく異なっている。
その事実を改めて認識させられる。
「生き延びた部族もまた困窮を極めていました。そんな状況を、この大陸に現れたショウジ・ヨスキ様とそのお仲間は救って下さいました。私達の先祖達はそんな彼らの助けを借りながら、皆の力を合わせてウインテートという国を作り上げたと伝えられています」
成程。どうやら前世のアメリカとは違い、穏便に融和していくことができたようだ。
それも偏に魔物という大きな脅威が身近に存在したおかげに違いない。
……もっとも、恐らく魔物の数や強さが増したのは他の国で人口が増えたせいだろうから、何とも微妙な気持ちにならないでもないけれども。
そんなことを考えている俺を余所に、その後もしばらく一階の案内が続く。
が、モリスさんが最初に前置きした通り、先程見た展示よりも古代、あるいは近代の生活の様子、当時の物品など歴史的な遺物ばかりだった。
いわゆる博物館の展示物としては、前世のそれと余り系統が変わらない。
異世界、それも外国の歴史に関しては興味深く感じつつも、心の片隅で拍子抜けしたような気分も同時に抱いていると――。
「では、次に地下一階に向かいましょう」
モリスさんがそう言って歩き出したため、その後に続いていく。
すると、やがて地下へ向かう階段に至った。
位置的には長めの一本道の先の突き当たり。
どうやら、別の階層は上ではなく下にあったようだ。
「セキュリティの関係上、昇り降りできるのはここからだけです」
その入口や階段の直近には警備員が複数立ち並び、鋭く目を光らせていた。
はち切れんばかりに制服を筋肉でパツパツにした男と、コスプレをしているようにしか見えない少女化魔物の姿が真っ先に目につく。
確かに、ここ一ヶ所を重点的に警備すればいいのはセキュリティ上有利かもしれない。
しかし、防災の視点だと如何なものだろうか。一応、質問しておく。
「問題ありません。この建物は、全て祈望之器ですので」
それに対して返ってきた簡潔な一言に、小さなざわめきが起こった。
まさか、この巨大な建物全体が祈望之器だったとは。
ホウゲツ学園の校舎のように、複合発露の生成物であると同時に人々の思念の蓄積によって祈望之器と化している部分があるのか、あるいは……。
「先に進みましょう」
その辺りの詳細なところは機密事項なのか、それとも後回しにするだけなのかは分からないが、モリスさんは話を切り上げると階段を降り始めた。
とりあえず大人しく彼についていく。
「地下一階には様々な祈望之器の複製品が展示されています」
どうやら、ここからが異世界要素としては本番ということになるようだ。
少しだけワクワクしてきたが、まだ複製品か。
それを展示してどうするのだろうか。
使ってなんぼ、という気がするが。
「こちらは歴史上初めて祈望之器メルカバから複製改良されて作り出され、運用されたメルカバス。そして、あちらが同じく最古のメルカトレインです」
階段を降り切って最初に俺達を出迎えたのは、何とも武骨な車と列車。
それらは外装がほとんどなく、ほぼ骨組みだけだった。
材料が足りなかったのか、イメージ力が足りなかったのか。
正直、これには乗りたくない。
勿論、身体強化状態なら事故っても怪我一つ負うことはないだろうけど、気分的に。
しかし……これがいずれ、現在使用されているバスもどきと列車もどきへと洗練されていく訳だ。複製改良にも歴史あり、というところか。
どうやら地下一階は、そうした複製改良発展の軌跡的なものが展示されているらしい。
それらの他にも、最近の話ながら世界で最初に作られたマナプレーンも置かれている。
これもまた骨組みだけだが、とりあえず飛ぶことを確認したかったのかもしれない。
「次は地下二階です。この階層には第六位階の祈望之器などが展示されています」
一通り様々な複製改良品を見終えた後、先程とは別の場所にあった一ヶ所しかない地下一階と地下二階を繋ぐ階段を降りたところで、モリスさんが表情を引き締めて告げる。
第六位階ともなれば国宝級。気張って当然だろう。
「こちらはホウゲツより寄贈されたメルカバ本体です」
「あ、これが……」
最初のフロアに入ってすぐ。
幾度となく利用したメルカバスの大元。それが目の前に現れた。
いわゆるチャリオットに分類される戦車だが、装甲が分厚く実に厳つい。
如何にも戦いに使われるために生まれたと言わんばかりの形状だ。
……こういうものには、別の意味で余り乗りたくはないな。
しかし、これがメルカバスやメルカトレインになっていく訳だ。
結局のところ、道具は使いよう、ということだろう。
「それからあちらに見えるのが、皆様がウインテートまで乗っていらしたマナプレーンの複製元、ランブリク共和国の遺構にて発見されたヴィマナの乗降口です」
モリスさんの言葉を受け、彼の視線を辿る。
しかし、視界の中に入ってきたのは、普通に別のフロアへの入り口のようなものだけ。
これが乗降口? と首を傾げていると――。
「ヴィマナの大きさはこのフロアよりも遥かに広く、大博物館全体よりも高さのある巨大な宮殿のような形をしています。ランブリク共和国では手に余るということでホウゲツを通じ、保管の委託を受けております。こちらが見取り図です」
その入口の脇には、ヴィマナを図解した絵がかけられていた。
それによると確かに全体像は宮殿、と言うか城のように見える。
空を飛ぶ城、か。合言葉で崩壊しそうだ。
複製改良品の形状を多少鳥に近いものとしたのは、あるいは、この見た目のままだと空を飛ぶイメージがし辛かったからなのかもしれない。
「展示するには大き過ぎますので、大博物館地下に隣接するような形で地面に埋めて保管する形を取っております。余程のことがない限り、掘り起こされることはないでしょう」
まあ、空を飛ぶという機能が必要なだけなら複製品でこと足りるだろうしな。
下手に露出しているよりも壊れる、壊される危険性は低いか。
とは言え……。
「複製をする時はどうするんですか?」
一応、マナプレーンの生産するのに必要なのではないか。
そう考えて尋ねる。
「メルカバスやメルカトレインもそうですが、第五位階の複製品。ヴィマナであれば縮小した複製改良品を一つの雛型として複数個作製しております。それらは現在、高名な複製師の下で管理されています」
成程。
不滅の概念でもない限りは、たとえ第六位階の祈望之器とは言っても、破壊されて失われてしまう可能性はある。
なるべくオリジナルは保存優先に保管しておくべきではあるのだろう。
「ところで、件のアスクレピオスはどこに展示されているのですか?」
そう考えていると、一緒に見学に来た誰かから質問が飛ぶ。
依頼を受けてきた身としては、それは何よりも重要な情報だ。
完全に頭から抜けていた。
見学する中で少し気が緩んでしまっていたかもしれない。
なので、割と観光気分になっていた気持ちを意識的に引き締め直し……。
俺はライムさん達を含む他の人員達と共に、モリスさんから返ってくるであろうその疑問に対する答えに耳を傾けた。
ホウゲツとも異なる百年前のアメリカな感じの街並みを眺めていると、一際異彩を放つ巨大な建築物が徐々に近づいてくるのが分かる。
あれこそが恐らく、ウインテート連邦共和国が誇る大博物館なのだろう。
それを裏づけるように――。
「ここウインテート連邦共和国大博物館の歴史は古く、その設立にはかの偉大なる大英雄ショウジ・ヨスキ様が大きく関わっています」
その近くで降車した俺達を先導し、まるで神殿のように大きな柱がいくつも立った荘厳な雰囲気を持つ入口の前で振り返った案内役兼纏め役のモリスさんがそう告げる。
と言うことは、設立自体は五百年程前のことか。
正に由緒正しき博物館と言うことができる。
……にしても、この体のご先祖様にして元異世界人の大先輩である彼は、そんなようなことまでやっていたんだな。新たな国の設立や、祈念魔法の体系化以外にも。
功績を残し過ぎていて、後身であるこちらの立つ瀬が本当にない。
その分、俺達は救世という使命にのみ専念すればいいということでもあるけれども。
「……しかし、広いな」
隣のライムさんが、体と顔はモリスさんへと向けつつも視線だけで建物を観察しながら驚愕の色濃い声と共にポツリと呟く。
それに対し、驚きの度合いには相当の差はあれ、俺もまた内心で同意した。
よく単位として使用される前世のドーム球場で言うと二、三個分の面積はありそうだ。
高さこそ控え目(勿論、この世界基準では高い方)だが、一つの構造物で、と考えると元の世界でも割と広い方になるに違いない。
であれば、この世界では尚更のことで……ライムさんやその隣のルシネさん、それから同じく見学に来た面々が圧倒されるのも当然のことだろう。
「では、入りましょうか」
柱の間を通り、それと比較すると小さめの扉の前へ。
そこから中に入ると、外と勘違いするような広大な空間が目に飛び込んきた。
「まずは一階からです」
受付を通った先で一度立ち止まり、モリスさんが案内を開始する。
外で見た全体像と高さのかなりある天井から考えると二階、三階はなさそうだが……。
「ここには歴史的に重要な遺物が保管されております」
疑問は一先ず置いておき、彼の言葉に耳を傾けながら周りを見回す。
「こちらはショウジ・ヨスキ様がこの大陸を訪れるまでの生活の風景を、現存する当時の物品を用いて再現したものです」
手で指し示された方を見ると、円錐状のテントのような移動式住居の周りでアメリカ先住民族風の装飾品を身につけた人形が武器を持って何かに挑む様が展示されていた。
狩猟の様子の再現かと思ったが、違う。
対峙しているのは、あからさまな異形。魔物だ。
「五百年以上前のことです。魔物の数が増え続け、その強さもまた増し続け……それに対応することができず、大陸に多数存在していた部族がいくつも滅び去りました」
人間原理に基づく思念の蓄積。その現実化という法則があるが故に、俺が生きた前世の世界とこの世界とでは歴史が大きく異なっている。
その事実を改めて認識させられる。
「生き延びた部族もまた困窮を極めていました。そんな状況を、この大陸に現れたショウジ・ヨスキ様とそのお仲間は救って下さいました。私達の先祖達はそんな彼らの助けを借りながら、皆の力を合わせてウインテートという国を作り上げたと伝えられています」
成程。どうやら前世のアメリカとは違い、穏便に融和していくことができたようだ。
それも偏に魔物という大きな脅威が身近に存在したおかげに違いない。
……もっとも、恐らく魔物の数や強さが増したのは他の国で人口が増えたせいだろうから、何とも微妙な気持ちにならないでもないけれども。
そんなことを考えている俺を余所に、その後もしばらく一階の案内が続く。
が、モリスさんが最初に前置きした通り、先程見た展示よりも古代、あるいは近代の生活の様子、当時の物品など歴史的な遺物ばかりだった。
いわゆる博物館の展示物としては、前世のそれと余り系統が変わらない。
異世界、それも外国の歴史に関しては興味深く感じつつも、心の片隅で拍子抜けしたような気分も同時に抱いていると――。
「では、次に地下一階に向かいましょう」
モリスさんがそう言って歩き出したため、その後に続いていく。
すると、やがて地下へ向かう階段に至った。
位置的には長めの一本道の先の突き当たり。
どうやら、別の階層は上ではなく下にあったようだ。
「セキュリティの関係上、昇り降りできるのはここからだけです」
その入口や階段の直近には警備員が複数立ち並び、鋭く目を光らせていた。
はち切れんばかりに制服を筋肉でパツパツにした男と、コスプレをしているようにしか見えない少女化魔物の姿が真っ先に目につく。
確かに、ここ一ヶ所を重点的に警備すればいいのはセキュリティ上有利かもしれない。
しかし、防災の視点だと如何なものだろうか。一応、質問しておく。
「問題ありません。この建物は、全て祈望之器ですので」
それに対して返ってきた簡潔な一言に、小さなざわめきが起こった。
まさか、この巨大な建物全体が祈望之器だったとは。
ホウゲツ学園の校舎のように、複合発露の生成物であると同時に人々の思念の蓄積によって祈望之器と化している部分があるのか、あるいは……。
「先に進みましょう」
その辺りの詳細なところは機密事項なのか、それとも後回しにするだけなのかは分からないが、モリスさんは話を切り上げると階段を降り始めた。
とりあえず大人しく彼についていく。
「地下一階には様々な祈望之器の複製品が展示されています」
どうやら、ここからが異世界要素としては本番ということになるようだ。
少しだけワクワクしてきたが、まだ複製品か。
それを展示してどうするのだろうか。
使ってなんぼ、という気がするが。
「こちらは歴史上初めて祈望之器メルカバから複製改良されて作り出され、運用されたメルカバス。そして、あちらが同じく最古のメルカトレインです」
階段を降り切って最初に俺達を出迎えたのは、何とも武骨な車と列車。
それらは外装がほとんどなく、ほぼ骨組みだけだった。
材料が足りなかったのか、イメージ力が足りなかったのか。
正直、これには乗りたくない。
勿論、身体強化状態なら事故っても怪我一つ負うことはないだろうけど、気分的に。
しかし……これがいずれ、現在使用されているバスもどきと列車もどきへと洗練されていく訳だ。複製改良にも歴史あり、というところか。
どうやら地下一階は、そうした複製改良発展の軌跡的なものが展示されているらしい。
それらの他にも、最近の話ながら世界で最初に作られたマナプレーンも置かれている。
これもまた骨組みだけだが、とりあえず飛ぶことを確認したかったのかもしれない。
「次は地下二階です。この階層には第六位階の祈望之器などが展示されています」
一通り様々な複製改良品を見終えた後、先程とは別の場所にあった一ヶ所しかない地下一階と地下二階を繋ぐ階段を降りたところで、モリスさんが表情を引き締めて告げる。
第六位階ともなれば国宝級。気張って当然だろう。
「こちらはホウゲツより寄贈されたメルカバ本体です」
「あ、これが……」
最初のフロアに入ってすぐ。
幾度となく利用したメルカバスの大元。それが目の前に現れた。
いわゆるチャリオットに分類される戦車だが、装甲が分厚く実に厳つい。
如何にも戦いに使われるために生まれたと言わんばかりの形状だ。
……こういうものには、別の意味で余り乗りたくはないな。
しかし、これがメルカバスやメルカトレインになっていく訳だ。
結局のところ、道具は使いよう、ということだろう。
「それからあちらに見えるのが、皆様がウインテートまで乗っていらしたマナプレーンの複製元、ランブリク共和国の遺構にて発見されたヴィマナの乗降口です」
モリスさんの言葉を受け、彼の視線を辿る。
しかし、視界の中に入ってきたのは、普通に別のフロアへの入り口のようなものだけ。
これが乗降口? と首を傾げていると――。
「ヴィマナの大きさはこのフロアよりも遥かに広く、大博物館全体よりも高さのある巨大な宮殿のような形をしています。ランブリク共和国では手に余るということでホウゲツを通じ、保管の委託を受けております。こちらが見取り図です」
その入口の脇には、ヴィマナを図解した絵がかけられていた。
それによると確かに全体像は宮殿、と言うか城のように見える。
空を飛ぶ城、か。合言葉で崩壊しそうだ。
複製改良品の形状を多少鳥に近いものとしたのは、あるいは、この見た目のままだと空を飛ぶイメージがし辛かったからなのかもしれない。
「展示するには大き過ぎますので、大博物館地下に隣接するような形で地面に埋めて保管する形を取っております。余程のことがない限り、掘り起こされることはないでしょう」
まあ、空を飛ぶという機能が必要なだけなら複製品でこと足りるだろうしな。
下手に露出しているよりも壊れる、壊される危険性は低いか。
とは言え……。
「複製をする時はどうするんですか?」
一応、マナプレーンの生産するのに必要なのではないか。
そう考えて尋ねる。
「メルカバスやメルカトレインもそうですが、第五位階の複製品。ヴィマナであれば縮小した複製改良品を一つの雛型として複数個作製しております。それらは現在、高名な複製師の下で管理されています」
成程。
不滅の概念でもない限りは、たとえ第六位階の祈望之器とは言っても、破壊されて失われてしまう可能性はある。
なるべくオリジナルは保存優先に保管しておくべきではあるのだろう。
「ところで、件のアスクレピオスはどこに展示されているのですか?」
そう考えていると、一緒に見学に来た誰かから質問が飛ぶ。
依頼を受けてきた身としては、それは何よりも重要な情報だ。
完全に頭から抜けていた。
見学する中で少し気が緩んでしまっていたかもしれない。
なので、割と観光気分になっていた気持ちを意識的に引き締め直し……。
俺はライムさん達を含む他の人員達と共に、モリスさんから返ってくるであろうその疑問に対する答えに耳を傾けた。
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