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幕間 4→5
AR27 今度こそ
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「救世の転生者というのは、どうにも巡り合わせが悪いものだ。それはもはや運命的と言っても過言じゃない。何故なら人々の思念の蓄積により、救世の転生者の行く先には救世に至るための試練が御都合主義よろしく立ち塞がってくるからだ。それを避けることは極めて難しい。だから――」
***
「うーむ。結局、イサク達は羽を伸ばすことができなかったようだナ」
「やはり仕事のついでという形では、中々難しいようなのです……」
学園都市トコハはホウゲツ学園の学園長室にて。ムニを介してアコから送られてきた報告書を前に、私はトリリスと共に頭を悩ませていた。
内容はウインテート連邦共和国からの依頼に関して。
怪盗ルエットを名乗るドッペルゲンガーの少女化魔物を捕縛し、彼女が狙う国宝アスクレピオスを守るという役割をイサクは見事果たしてくれた訳だが……。
彼はその後、もう仕事は済んだから当然のこととでも言うように再びウインテートの地を踏むことなく、ホウゲツ学園の職員寮に帰ってしまったのだった。
勿論、イリュファ達が暴走鎮静化の作戦を伝えに来た段階で出入国の手続きも代理しておいたので、その辺りのことが問題という訳ではないとは強調しておく。
同時に、それを問題視するのは浅ましい私達のエゴだということもまた。
当人がそれでいいのならば、本来は口出しするようなことではないのだから。
「イサクもそうだが、救世の転生者という存在は皆、人外ロリコンという特殊性癖の一点を除いて基本的に真面目だからナ。それに――」
「今回は特に、暴走した怪盗ルエットが想定外の強さを持っていたことも理由の一つとして挙げられるのです。本来なら、単なる盗人である彼女を簡単に捕まえて後は観光でもして貰うつもりだったのですが……」
トリリスの言葉を引き継いで告げた私に、彼女は同意を示すように一つ頷く。
加えて、あくまでも一時的なものにせよ、怪盗ルエットがホウゲツの特別収容施設ハスノハに留まることになったのも一因と言えるだろう。
虚ろな彼女の様子を目の当たりにして、最初イサクは心配して毎日面会に来そうな雰囲気だった、とはその時隣にいたアコの言だ。
一応、彼女の説得のおかげで自重してくれたようではあるけれども。
「……それにしても、アマラが出張るような状況になるとは、わたしも思わなかったのだゾ。これも救世の転生者が課せられる試練の範疇なのかもしれないナ」
元々、救世の転生者には最凶の人形化魔物【ガラテア】に挑むに足る力を得るために、様々な試練が順当に世界から与えられる。
これもまた、人々がかの存在について持つイメージが蓄積していった結果だ。
勿論、全てがそれによって支配されている訳ではないし、実際にどんな事件が起こるかまで私達に予測することができるようなものでもない。
それでも結果論として、今回の件は私達が甘く考え過ぎていた、ということになってしまうのだろうが……。
さすがに野良の少女化魔物一体が、救世の転生者に食い下がる程の力を発現させることを言い当てることなど誰にもできないと言い訳したいところだ。
「まあ、もう、そこは仕方がないのだゾ。救世が果たされるまで、今後も似たようなことは起こるだろうしナ。運が悪かったと諦めるしかないのだゾ」
実際、トリリスの言う通り、そこは完全に私達の能力を超えている。
圧倒的大多数の観測者による思念の蓄積は、世界の法則に近い挙動を示すのだから。五百年生きただけの個々に容易く解明できるものでも、覆せるものでもない。
そうなると――。
「どちらかと言うと、イサクの方をどうにかしなければナ」
結論としてはそうなるが、救世の転生者として転生してくる者は、お人好しで救世に真摯に向き合ってくれるこの世界にとってありがたい存在だ。
そういった性質の者が思念の蓄積によって選ばれる訳だが、それだけに救世という使命が頭にある限り、遊びに興じるように持っていくのは中々に難しいだろう。
トリリスもそれは分かっているはずだが……。
「一体、どうするつもりなのです……?」
「イサクは、救世の転生者としての使命と同じかそれ以上に弟達を大切に思っているからナ。ならば、彼らを出しにすればいいのだゾ」
そんな私の問いに対して自信満々に、平たい胸を張って答えるトリリス。
少々言い方が悪いが、成程と思う。
「そう言えば、丁度飛び級試験があったのです……」
六月と十一月と二月の計三回。
該当月の最終日曜日にホウゲツ学園では飛び級試験が実施される。
中間試験にてトップクラスの成績を収めるか、あるいは教師が特別に認めた者のみがそれを受ける資格を得ることができるのだが……。
今年の一年生では、イサクの弟達三人とその友人であるラクラ、それからアクエリアル帝国からの留学生たるレンリが試験を受けることになっていた。
まあ、ヨスキ村の出身者であれば当然の流れだし、実年齢二十歳を超えるレンリは当たり前として、ラクラは非常に優秀と言うことができるだろう。
ちなみに、その次の試験なら改心後のレギオ辺りは受けられるかもしれない。
ともあれ、セト達五人は試験に受かると見て間違いない。
「その合格祝いに遊びに連れていくよう仕向けるのだゾ。弟達のためなら、イサクも率先して楽しんで、皆が楽しめるようにするだろうからナ」
彼の性格、信条をうまく利用した悪くないアイデアだと思う。
「飛び級試験に受かった者は一足早く夏休みに入ることになるし、丁度いいゾ」
「トリリス。それは名目上、飛び級のための準備期間なのです……」
「ん? そうだったカ?」
惚けるトリリスに小さく嘆息する。
たとえ飛び級できるような実力者にはほとんど不要のもので、実質的に夏休みだったとしても、教育者である私達がそれでは駄目だろうに。
まして学園の責任者たる学園長と副学園長なのだから。
とは言え、丁度いい機会であることに間違いはないし、これならばイサクも今回のようなことにはならないはずだ。
何とかして弟達が楽しい思い出を得られるように努めるに違いない。
そして、それはイサクにとっても転生を肯定できる、よき記憶となるだろう。
「では、早速用意するのだゾ」
「それはいいのですが、どこに遊びに行かせるつもりなのです……?」
「そんなこと決まっているゾ、ディーム。夏と言えば海、なのだゾ!」
***
「そんなこんなで君達は海に向かうことになる訳だけど……まあ、結局のところ新しい事件に巻き込まれてしまうことは、既にそれを経験した今の君は勿論のこととして、当時の君もまたほとんど確信していたことだよね」
***
「うーむ。結局、イサク達は羽を伸ばすことができなかったようだナ」
「やはり仕事のついでという形では、中々難しいようなのです……」
学園都市トコハはホウゲツ学園の学園長室にて。ムニを介してアコから送られてきた報告書を前に、私はトリリスと共に頭を悩ませていた。
内容はウインテート連邦共和国からの依頼に関して。
怪盗ルエットを名乗るドッペルゲンガーの少女化魔物を捕縛し、彼女が狙う国宝アスクレピオスを守るという役割をイサクは見事果たしてくれた訳だが……。
彼はその後、もう仕事は済んだから当然のこととでも言うように再びウインテートの地を踏むことなく、ホウゲツ学園の職員寮に帰ってしまったのだった。
勿論、イリュファ達が暴走鎮静化の作戦を伝えに来た段階で出入国の手続きも代理しておいたので、その辺りのことが問題という訳ではないとは強調しておく。
同時に、それを問題視するのは浅ましい私達のエゴだということもまた。
当人がそれでいいのならば、本来は口出しするようなことではないのだから。
「イサクもそうだが、救世の転生者という存在は皆、人外ロリコンという特殊性癖の一点を除いて基本的に真面目だからナ。それに――」
「今回は特に、暴走した怪盗ルエットが想定外の強さを持っていたことも理由の一つとして挙げられるのです。本来なら、単なる盗人である彼女を簡単に捕まえて後は観光でもして貰うつもりだったのですが……」
トリリスの言葉を引き継いで告げた私に、彼女は同意を示すように一つ頷く。
加えて、あくまでも一時的なものにせよ、怪盗ルエットがホウゲツの特別収容施設ハスノハに留まることになったのも一因と言えるだろう。
虚ろな彼女の様子を目の当たりにして、最初イサクは心配して毎日面会に来そうな雰囲気だった、とはその時隣にいたアコの言だ。
一応、彼女の説得のおかげで自重してくれたようではあるけれども。
「……それにしても、アマラが出張るような状況になるとは、わたしも思わなかったのだゾ。これも救世の転生者が課せられる試練の範疇なのかもしれないナ」
元々、救世の転生者には最凶の人形化魔物【ガラテア】に挑むに足る力を得るために、様々な試練が順当に世界から与えられる。
これもまた、人々がかの存在について持つイメージが蓄積していった結果だ。
勿論、全てがそれによって支配されている訳ではないし、実際にどんな事件が起こるかまで私達に予測することができるようなものでもない。
それでも結果論として、今回の件は私達が甘く考え過ぎていた、ということになってしまうのだろうが……。
さすがに野良の少女化魔物一体が、救世の転生者に食い下がる程の力を発現させることを言い当てることなど誰にもできないと言い訳したいところだ。
「まあ、もう、そこは仕方がないのだゾ。救世が果たされるまで、今後も似たようなことは起こるだろうしナ。運が悪かったと諦めるしかないのだゾ」
実際、トリリスの言う通り、そこは完全に私達の能力を超えている。
圧倒的大多数の観測者による思念の蓄積は、世界の法則に近い挙動を示すのだから。五百年生きただけの個々に容易く解明できるものでも、覆せるものでもない。
そうなると――。
「どちらかと言うと、イサクの方をどうにかしなければナ」
結論としてはそうなるが、救世の転生者として転生してくる者は、お人好しで救世に真摯に向き合ってくれるこの世界にとってありがたい存在だ。
そういった性質の者が思念の蓄積によって選ばれる訳だが、それだけに救世という使命が頭にある限り、遊びに興じるように持っていくのは中々に難しいだろう。
トリリスもそれは分かっているはずだが……。
「一体、どうするつもりなのです……?」
「イサクは、救世の転生者としての使命と同じかそれ以上に弟達を大切に思っているからナ。ならば、彼らを出しにすればいいのだゾ」
そんな私の問いに対して自信満々に、平たい胸を張って答えるトリリス。
少々言い方が悪いが、成程と思う。
「そう言えば、丁度飛び級試験があったのです……」
六月と十一月と二月の計三回。
該当月の最終日曜日にホウゲツ学園では飛び級試験が実施される。
中間試験にてトップクラスの成績を収めるか、あるいは教師が特別に認めた者のみがそれを受ける資格を得ることができるのだが……。
今年の一年生では、イサクの弟達三人とその友人であるラクラ、それからアクエリアル帝国からの留学生たるレンリが試験を受けることになっていた。
まあ、ヨスキ村の出身者であれば当然の流れだし、実年齢二十歳を超えるレンリは当たり前として、ラクラは非常に優秀と言うことができるだろう。
ちなみに、その次の試験なら改心後のレギオ辺りは受けられるかもしれない。
ともあれ、セト達五人は試験に受かると見て間違いない。
「その合格祝いに遊びに連れていくよう仕向けるのだゾ。弟達のためなら、イサクも率先して楽しんで、皆が楽しめるようにするだろうからナ」
彼の性格、信条をうまく利用した悪くないアイデアだと思う。
「飛び級試験に受かった者は一足早く夏休みに入ることになるし、丁度いいゾ」
「トリリス。それは名目上、飛び級のための準備期間なのです……」
「ん? そうだったカ?」
惚けるトリリスに小さく嘆息する。
たとえ飛び級できるような実力者にはほとんど不要のもので、実質的に夏休みだったとしても、教育者である私達がそれでは駄目だろうに。
まして学園の責任者たる学園長と副学園長なのだから。
とは言え、丁度いい機会であることに間違いはないし、これならばイサクも今回のようなことにはならないはずだ。
何とかして弟達が楽しい思い出を得られるように努めるに違いない。
そして、それはイサクにとっても転生を肯定できる、よき記憶となるだろう。
「では、早速用意するのだゾ」
「それはいいのですが、どこに遊びに行かせるつもりなのです……?」
「そんなこと決まっているゾ、ディーム。夏と言えば海、なのだゾ!」
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