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第6章 終末を告げる音と最後のピース
266 状況把握
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レンリが一時的に帰郷することを告げて去っていった後、少しして。
その辺りの事情について俄然気になってきてしまった俺は、より詳細な情報を得るためにホウゲツ学園の学園長室を訪れていた。
正面には学園長のトリリス様が相変わらず体格に不釣り合いな大きい机の奥にちんまりと座り、その傍には副学園長のディームさんが立っている。
短期間で急成長しそうな二次性徴前後の幼い姿だが、それぞれミノタウロスとシルキーの少女化魔物である二人は、四か月以上前に初めて会った時と変化がない。
これから先もそうだろうし、五百年前もそうだったことだろう。
少女化魔物とはそういうものだ。だから……。
「――それで実際のところ、フレギウス王国とアクエリアル帝国の状況って今どういう風になっているんですか?」
歴史の生き証人でもあるところの二人に、俺は前置きなしに尋ねた。
「……どうなっているのかと言われてもナ。今のところは概ね新聞に書かれている通りだゾ」
対して、腕を組んで困ったような表情を浮かべながら答えたのはトリリス様。
その何とも微妙な反応に僅かな違和感を抱きつつ、彼女の言っていることが本当かどうか確かめる意図を持ってディームさんの方に視線を向ける。
「つまるところ、過去に起きたそれと何ら変わりないのです……」
と、彼女は彼女で小さく首を縦に振って肯定を示しながらも、この件は然程重要な話ではないとでも言いたげな口調で続けた。
実際、当事者の一人とも言えるレンリですらそんな感じだったが……。
この世界の人々にとって、かの二国間における戦争は一大事ではあっても、驚愕に値するような異常事態、という訳ではないのかもしれない。
それこそ五百年以上を生き、既に何度も似たような経験をしている二人にとっては尚更のことだろう。とは言え――。
「お二人共、そうやって安易な予測をして何度も失敗しているじゃないですか。暴走した少女化魔物が起こした事件ならともかく、人形化魔物絡みの問題では」
彼女達の呑気な反応に対し、呆れを色濃く声に滲ませながら言う。
ここ最近の急激な人口増加に伴い、特に人形化魔物に関連するものについては過去の知見が役に立たなくなってきていることを既に自らも体験済みのはずだ。
「それは……その通りなのだがナ」
「耳が痛いのです……」
そうした俺の指摘を受け、二人は露骨に目を逸らす。
とは言え。
たとえ五百年という月日が思考の柔軟さを奪っているのだとしても、こうも短期間に見立て違いを重ねておきながら同じことを繰り返すとは考えにくい。
彼女達は決して愚かではなく、むしろ老練な側の存在なのだから。
とすると、あるいは何かしら別の理由があるのかもしれない。
だが、まあ、今は一先ずそれはいい。
「ともかく、改めて人形化魔物【終末を告げる音】について教えて下さい」
「……分かったのだゾ」
少しばかり強制するような色合いを濃くした俺の言葉に、トリリス様は渋々という感じに応じて、一つ嘆息してから口を開いた。
「喇叭の人形化魔物であることは前にも言った通りだがナ。実のところアレは【ガラテア】よりも古くから認知されている人形化魔物なのだゾ」
「え、【ガラテア】よりも古くから、ですか?」
彼女から告げられた事実が予想外で少し驚く。
最凶などと言われる【ガラテア】こそ最古の人形化魔物と思い込んでいた。
そんな思考を伴った確認の問いに、トリリス様が一つ頷いてから答える。
「その通りだゾ。古の時代から受け継がれてきた伝承に、終末を知らせる存在として喇叭吹きが存在していてナ。そのせいか五百年前、最初に破滅欲求が臨界を迎えた時、真っ先に出現した人形化魔物こそが【終末を告げる音】だったのだゾ」
喇叭だったり、あるいは角笛だったり。
終末の合図として楽器が用いられることもまた、神話の一つの類型と言える。
そして、その名前の通り、終末が具現化した存在とも言えるドールの人形化魔物【ガラテア】の先触れとして、かの存在に先んじて出現したのかもしれない。
「まあ、だからこそ逆に、ある程度その性質は知られているのだゾ」
「特にその滅尽・複合発露〈響く音色は本性を暴き立てる〉が人々の破滅欲求を増大させ、破壊衝動のまま行動させる恐ろしい力を持つことは有名なのです……」
「それが人口増加に伴って強化されているとすれば、元々あったものを増大させるのみならず、無理矢理破滅欲求を植えつけるぐらいのことはしかねないのだゾ」
嘆息しながら厄介そうに告げるトリリス様。
やはりと言うべきか、彼女達も人口増大を前提として考察はしていたようだ。
そして聞いた限り、その推測は以前の説明よりも一層脅威に感じられる。
ならば何故、まるで重大な事態ではないかのようにトリリス様達は振る舞っていたのだろうか、と首を捻っていると――。
「だからこそホウゲツとしては、フレギウス王国とアクエリアル帝国の戦争に干渉するつもりはないのです……」
「イサクも当面は不干渉を貫いて欲しいのだゾ」
二人はそんなことを言い出し、俺は即座に「何故ですか?」と理由を問うた。
「戦争はあくまで国家間の問題であること。その原因たる【終末を告げる音】は最終局面の最大規模の戦闘を見物に来る時ぐらいしか出現を予測できないこと。そして、かの滅尽・複合発露と対峙するリスクが高過ぎること。その辺りが理由だゾ」
「人口増加によって強化された滅尽・複合発露が救世の転生者を侵してしまう可能性は、正直考えたくないのです……」
「万が一イサクの戦力で暴走されたら、目も当てられない被害が出るのだゾ」
だから、俺がこの件に首を突っ込んだりしないように、さも大した事件ではないかのように振る舞っていた訳か。
もっとも、俺がこうして強く興味を持ってしまった時点で、それも無意味な悪足掻きだったとしか言いようがないが。
彼女達自身もそう判断したからこそ、こうして正直に話し始めたのだろう。
「いずれにしても。まず【終末を告げる音】の居場所を探し出す。これを速やかに超長距離から打ち倒す。この手順が最も妥当な形だからナ」
「その辺りに関してはむしろ、これまでの実績のあるフレギウス王国とアクエリアル帝国の方が熟知しているはずなのです……」
「加えて、念のためレンリには有効な祈望之器の複製改良品をいくつか渡しておいたからナ。余程のことがなければ、十分あちらだけで処理可能なはずだゾ」
「それでも尚、イサクの手を借りなければならないとなったら必ず速やかに連絡するのです。だから今は色々と自重して欲しいのです……」
二人交互に畳みかけるように言ってから最後に軽く頭を下げて乞うたディームさんの顔には、どことなく罪悪感の気配が感じ取れる。
もしかすると、今話した理由だけが全てではないのかもしれない。
まあ、取っかかりが表情だけでは聞き出せそうにないが。
何にせよ、ここまでの話だけでも一定の理解はできなくもない内容ではある。
ただ……。
「俺が破滅欲求に侵される可能性を心配するってことは、【終末を告げる音】の滅尽・複合発露は精神干渉という訳じゃないんでしょう?」
「そうだナ。少なくとも以前は、身体強化で緩和されるということもなかったゾ」
つまりアコさんの複合発露と同じく、何かしら別の概念による干渉な訳だ。
「なら、レンリも影響を受ける可能性があるってことですよね」
「それは……その通りなのです。ですが、もしそうなったら、レンリをとめることができるのは平常状態のイサクだけなのです……」
レンリのことが心配だからと無策であちらに行って、ミイラ取りがミイラになってしまったら目も当てられない。
ディームさんは暗にそう言っているのだろう。
その理屈は間違ってはいない。
合理的に考えるなら、今の段階ではレンリを信じて待った方がいい。
「…………分かりました。この件は保留にします」
「助かるのだゾ」
俺の言葉に、安堵したように小さな胸を撫で下ろすトリリス様。
少女の姿で苦労している感を出されると弱い。
だから俺は素直に話を切り上げ、一先ず別の懸案へと話題を移し――。
「では、今日のところは失礼します」
人間至上主義組織スプレマシーの長、テネシス・コンヴェルトに関する諸々にも特に進展がないことを聞いてから学園長室を辞去することにしたのだった。
「……にしても、【終末を告げる音】か」
そして頭の中で彼女達の言葉を反芻しながら、一旦職員寮の自室に戻っていく。
すると……。
「ん?」
部屋の中に人の気配を感じ、俺は少し警戒しながら玄関の扉に近づいた。
が、扉が壊されたような形跡もなし、合い鍵を渡した誰かだろうと判断する。
それでも一応は確認しておこうと、音を立てないように扉を開けて隙間から中を覗く。と、部屋で待ち構えていたのは見覚えのある二つの人影。
「父さん、母さん?」
二人は既に強化された聴覚で(恐らく寮の通路を歩いていた時点で)俺の帰宅を把握していたようで、俺が呼びかけるまでもなく、こちらを向いていた。
そんな両親の姿を目にして通称眠り病事件以来一週間以上会ってなかったことを思い出し、部屋に入ってから少し踏ん張るように身構える。
いつぞやのように、母さんに強烈なハグをかまされるのを警戒して。
「……あれ?」
しかし、そんな俺の予想を裏切り、母さんは部屋の真ん中に立ったまま。
一体どうしたのかと顔を見れば、何とも頼りなさげな表情を浮かべている。
「え、どうしたの?」
「う、うむ、それがな……」
俺の問いに答えようとして、しかし、言葉を濁して黙り込む母さん。
火竜という強大な魔物を基にした少女化魔物ながら、体格は少女化魔物の中でも比較的小さい方であるだけに殊更弱々しい。
その様子に首を傾げつつ、不安を覚えて父さんに視線で問う。
「もしかすると、だけどな。イサク、お前に妹ができたかもしれないんだ」
「え……ええ!? 妹!?」
そして告げられた予想外の内容に一瞬思考が停止した後、俺は驚愕の余りご近所に響き渡るような大きな声を上げてしまったのだった。
その辺りの事情について俄然気になってきてしまった俺は、より詳細な情報を得るためにホウゲツ学園の学園長室を訪れていた。
正面には学園長のトリリス様が相変わらず体格に不釣り合いな大きい机の奥にちんまりと座り、その傍には副学園長のディームさんが立っている。
短期間で急成長しそうな二次性徴前後の幼い姿だが、それぞれミノタウロスとシルキーの少女化魔物である二人は、四か月以上前に初めて会った時と変化がない。
これから先もそうだろうし、五百年前もそうだったことだろう。
少女化魔物とはそういうものだ。だから……。
「――それで実際のところ、フレギウス王国とアクエリアル帝国の状況って今どういう風になっているんですか?」
歴史の生き証人でもあるところの二人に、俺は前置きなしに尋ねた。
「……どうなっているのかと言われてもナ。今のところは概ね新聞に書かれている通りだゾ」
対して、腕を組んで困ったような表情を浮かべながら答えたのはトリリス様。
その何とも微妙な反応に僅かな違和感を抱きつつ、彼女の言っていることが本当かどうか確かめる意図を持ってディームさんの方に視線を向ける。
「つまるところ、過去に起きたそれと何ら変わりないのです……」
と、彼女は彼女で小さく首を縦に振って肯定を示しながらも、この件は然程重要な話ではないとでも言いたげな口調で続けた。
実際、当事者の一人とも言えるレンリですらそんな感じだったが……。
この世界の人々にとって、かの二国間における戦争は一大事ではあっても、驚愕に値するような異常事態、という訳ではないのかもしれない。
それこそ五百年以上を生き、既に何度も似たような経験をしている二人にとっては尚更のことだろう。とは言え――。
「お二人共、そうやって安易な予測をして何度も失敗しているじゃないですか。暴走した少女化魔物が起こした事件ならともかく、人形化魔物絡みの問題では」
彼女達の呑気な反応に対し、呆れを色濃く声に滲ませながら言う。
ここ最近の急激な人口増加に伴い、特に人形化魔物に関連するものについては過去の知見が役に立たなくなってきていることを既に自らも体験済みのはずだ。
「それは……その通りなのだがナ」
「耳が痛いのです……」
そうした俺の指摘を受け、二人は露骨に目を逸らす。
とは言え。
たとえ五百年という月日が思考の柔軟さを奪っているのだとしても、こうも短期間に見立て違いを重ねておきながら同じことを繰り返すとは考えにくい。
彼女達は決して愚かではなく、むしろ老練な側の存在なのだから。
とすると、あるいは何かしら別の理由があるのかもしれない。
だが、まあ、今は一先ずそれはいい。
「ともかく、改めて人形化魔物【終末を告げる音】について教えて下さい」
「……分かったのだゾ」
少しばかり強制するような色合いを濃くした俺の言葉に、トリリス様は渋々という感じに応じて、一つ嘆息してから口を開いた。
「喇叭の人形化魔物であることは前にも言った通りだがナ。実のところアレは【ガラテア】よりも古くから認知されている人形化魔物なのだゾ」
「え、【ガラテア】よりも古くから、ですか?」
彼女から告げられた事実が予想外で少し驚く。
最凶などと言われる【ガラテア】こそ最古の人形化魔物と思い込んでいた。
そんな思考を伴った確認の問いに、トリリス様が一つ頷いてから答える。
「その通りだゾ。古の時代から受け継がれてきた伝承に、終末を知らせる存在として喇叭吹きが存在していてナ。そのせいか五百年前、最初に破滅欲求が臨界を迎えた時、真っ先に出現した人形化魔物こそが【終末を告げる音】だったのだゾ」
喇叭だったり、あるいは角笛だったり。
終末の合図として楽器が用いられることもまた、神話の一つの類型と言える。
そして、その名前の通り、終末が具現化した存在とも言えるドールの人形化魔物【ガラテア】の先触れとして、かの存在に先んじて出現したのかもしれない。
「まあ、だからこそ逆に、ある程度その性質は知られているのだゾ」
「特にその滅尽・複合発露〈響く音色は本性を暴き立てる〉が人々の破滅欲求を増大させ、破壊衝動のまま行動させる恐ろしい力を持つことは有名なのです……」
「それが人口増加に伴って強化されているとすれば、元々あったものを増大させるのみならず、無理矢理破滅欲求を植えつけるぐらいのことはしかねないのだゾ」
嘆息しながら厄介そうに告げるトリリス様。
やはりと言うべきか、彼女達も人口増大を前提として考察はしていたようだ。
そして聞いた限り、その推測は以前の説明よりも一層脅威に感じられる。
ならば何故、まるで重大な事態ではないかのようにトリリス様達は振る舞っていたのだろうか、と首を捻っていると――。
「だからこそホウゲツとしては、フレギウス王国とアクエリアル帝国の戦争に干渉するつもりはないのです……」
「イサクも当面は不干渉を貫いて欲しいのだゾ」
二人はそんなことを言い出し、俺は即座に「何故ですか?」と理由を問うた。
「戦争はあくまで国家間の問題であること。その原因たる【終末を告げる音】は最終局面の最大規模の戦闘を見物に来る時ぐらいしか出現を予測できないこと。そして、かの滅尽・複合発露と対峙するリスクが高過ぎること。その辺りが理由だゾ」
「人口増加によって強化された滅尽・複合発露が救世の転生者を侵してしまう可能性は、正直考えたくないのです……」
「万が一イサクの戦力で暴走されたら、目も当てられない被害が出るのだゾ」
だから、俺がこの件に首を突っ込んだりしないように、さも大した事件ではないかのように振る舞っていた訳か。
もっとも、俺がこうして強く興味を持ってしまった時点で、それも無意味な悪足掻きだったとしか言いようがないが。
彼女達自身もそう判断したからこそ、こうして正直に話し始めたのだろう。
「いずれにしても。まず【終末を告げる音】の居場所を探し出す。これを速やかに超長距離から打ち倒す。この手順が最も妥当な形だからナ」
「その辺りに関してはむしろ、これまでの実績のあるフレギウス王国とアクエリアル帝国の方が熟知しているはずなのです……」
「加えて、念のためレンリには有効な祈望之器の複製改良品をいくつか渡しておいたからナ。余程のことがなければ、十分あちらだけで処理可能なはずだゾ」
「それでも尚、イサクの手を借りなければならないとなったら必ず速やかに連絡するのです。だから今は色々と自重して欲しいのです……」
二人交互に畳みかけるように言ってから最後に軽く頭を下げて乞うたディームさんの顔には、どことなく罪悪感の気配が感じ取れる。
もしかすると、今話した理由だけが全てではないのかもしれない。
まあ、取っかかりが表情だけでは聞き出せそうにないが。
何にせよ、ここまでの話だけでも一定の理解はできなくもない内容ではある。
ただ……。
「俺が破滅欲求に侵される可能性を心配するってことは、【終末を告げる音】の滅尽・複合発露は精神干渉という訳じゃないんでしょう?」
「そうだナ。少なくとも以前は、身体強化で緩和されるということもなかったゾ」
つまりアコさんの複合発露と同じく、何かしら別の概念による干渉な訳だ。
「なら、レンリも影響を受ける可能性があるってことですよね」
「それは……その通りなのです。ですが、もしそうなったら、レンリをとめることができるのは平常状態のイサクだけなのです……」
レンリのことが心配だからと無策であちらに行って、ミイラ取りがミイラになってしまったら目も当てられない。
ディームさんは暗にそう言っているのだろう。
その理屈は間違ってはいない。
合理的に考えるなら、今の段階ではレンリを信じて待った方がいい。
「…………分かりました。この件は保留にします」
「助かるのだゾ」
俺の言葉に、安堵したように小さな胸を撫で下ろすトリリス様。
少女の姿で苦労している感を出されると弱い。
だから俺は素直に話を切り上げ、一先ず別の懸案へと話題を移し――。
「では、今日のところは失礼します」
人間至上主義組織スプレマシーの長、テネシス・コンヴェルトに関する諸々にも特に進展がないことを聞いてから学園長室を辞去することにしたのだった。
「……にしても、【終末を告げる音】か」
そして頭の中で彼女達の言葉を反芻しながら、一旦職員寮の自室に戻っていく。
すると……。
「ん?」
部屋の中に人の気配を感じ、俺は少し警戒しながら玄関の扉に近づいた。
が、扉が壊されたような形跡もなし、合い鍵を渡した誰かだろうと判断する。
それでも一応は確認しておこうと、音を立てないように扉を開けて隙間から中を覗く。と、部屋で待ち構えていたのは見覚えのある二つの人影。
「父さん、母さん?」
二人は既に強化された聴覚で(恐らく寮の通路を歩いていた時点で)俺の帰宅を把握していたようで、俺が呼びかけるまでもなく、こちらを向いていた。
そんな両親の姿を目にして通称眠り病事件以来一週間以上会ってなかったことを思い出し、部屋に入ってから少し踏ん張るように身構える。
いつぞやのように、母さんに強烈なハグをかまされるのを警戒して。
「……あれ?」
しかし、そんな俺の予想を裏切り、母さんは部屋の真ん中に立ったまま。
一体どうしたのかと顔を見れば、何とも頼りなさげな表情を浮かべている。
「え、どうしたの?」
「う、うむ、それがな……」
俺の問いに答えようとして、しかし、言葉を濁して黙り込む母さん。
火竜という強大な魔物を基にした少女化魔物ながら、体格は少女化魔物の中でも比較的小さい方であるだけに殊更弱々しい。
その様子に首を傾げつつ、不安を覚えて父さんに視線で問う。
「もしかすると、だけどな。イサク、お前に妹ができたかもしれないんだ」
「え……ええ!? 妹!?」
そして告げられた予想外の内容に一瞬思考が停止した後、俺は驚愕の余りご近所に響き渡るような大きな声を上げてしまったのだった。
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