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最終章 英雄の燔祭と最後の救世
326 呆気ない結末?
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イリュファの真・複合発露〈共鳴調律・想歌〉の二重使用。
そしてメギンギョルズを完全複製した祈望之器の複数所持。
それらによって総合的に強化されているのが、直前までの俺の状態だ。
この時点で循環共鳴を十二分に継続した程度の強さはある。はずなのだが……。
【ガラテア】の滅尽・複合発露。
それからアロン兄さんと、そのパートナーとなることを【ガラテア】に強制されたマニさんの真・暴走・複合発露〈魔王統制・蹂躙〉による強化は甚だしく。
【アイアンゴーレム】【ガーゴイル】【アイアンメイデン】。三種の人形化魔物達の無機質な装甲は、こちらの攻撃を防ぎ切る程の硬さとなっていた。
それは確かに俺達の想定を上回って厄介ではあった。
だが、正直なところ。こちらの思惑通り、全力を出しながらも苦戦している雰囲気を程よく作り出すには実に丁度いい塩梅だった。
「今更何だ。少女化魔物など出してきて。囮か盾にでも使う気か?」
実際、【ガラテア】の声は幻滅したような色を湛えている。
俺の言葉に応じて影から出てきて隣に浮かぶリクルの姿を目にしながら、そうした行動を訝しむでもなく、どこか機嫌を損ねたように問いかけてくるのみだ。
「俺が、そんな真似をする訳がないだろう」
対して俺はただ淡々と答える。
正にその瞬間、リクルは真・複合発露を発動させ、その身を液状化させた。
と同時に、彼女は一気に己の体積を膨張させて派手に破裂する。
「な」
突発的な光景に虚をつかれたように、驚愕を表す【ガラテア】。
それに応じて人形化魔物達を含む全体の動きが一瞬鈍る。
リクルはその間に肉体の一部、もとい本体で俺の体の表層を包み込んで一体化すると共に、周囲に撒き散らした欠片をデフォルメされた彼女の形に変化させた。
そして、その分身体全員が一斉に一つの歌を歌い出す。
「終わりだ」
様変わりした状況に【ガラテア】の思考が追いつく前に。
俺は、この大広間全体を対象に強固な概念を宿した風を放った。
屋内で発生した突風と呼ぶには余りにも激し過ぎる空気の流れ。
およそ自然界において発生し得ない強烈な暴風は、周囲にある全てを重力から解き放ち、各々から己の意思で自由に動かす権利を剥奪する。
「ああ。そこにいたのか」
その中心の凪いだ空間で。
マニさんとアロン兄さんの少し後ろの位置に一人の少女化魔物が存在していたことを、風に煽られて吹き飛んだ何かの感覚を以って感知する。
探知のような物理的作用の乏しい風は、彼女の真・暴走・複合発露〈生障滅障・擯斥〉の何らかの作用によってすり抜けてしまっていたのだろう。だが……。
結界や牙など歯牙にもかけない確固たる風の塊を受けては、隠れ続けることなどできるはずもなく、今や見えない物体があるとして正確に位置を把握できていた。
「君はそっちだ」
部屋の中を満たす風を操り、シャテンと呼ばれていた少女は安全圏へ。
加えてアロン兄さんも。
そして……風に流されるままミキサーにかけられるように大広間を飛ばされる中で体勢を乱され、耐えられず熊のぬいぐるみを手放すに至ったマニさんもまた。
「ば、馬鹿な」
空を舞う【ガラテア】の焦ったような声が風に紛れ、か細く聞こえてくる。
俺はそれを黙殺しながら気流の中に交えた細かい風の刃を正確に操り、まずは七十体いた人形化魔物達を一気に切り刻んでいった。
念のために隠していたのか、どこかの別の場所にある影の中から増援となる人形化魔物達が出てくるが、それらもまた末路は同じ。
なす術もなく、赤黒いヘドロのようになって世界に溶け込んでいく。
残る目標は【ガラテア】のみだ。
「その体。破壊しても意味がないんだろう? なら、凍結して封印してやる」
「や、やめろ。そのようなことをしても――」
「破滅欲求ある限り意味はない、だろう? けど、時間稼ぎにはなる。その間に俺は、救世の転生者ありきの世界を変えてみせる」
言葉を引き継ぎながら俺が続けて告げると、【ガラテア】は一瞬ぬいぐるみの体ながら息を呑んだような音を発し、しかし、即座に怒りの滲んだ声を口に出した。
「できるはずがない! 死の静寂を以ってしか、運命から逃れる術などない!」
「それは、やってみてから判断させて貰う。今はただ凍りつけ。【ガラテア】」
「ぐ……何故、何故だ。救世の転生者ばかりが、このような強さを得ることができる。余りに不条理――」
一瞬にして状況を覆され、世界そのものへと恨み言を漏らす【ガラテア】。
その言葉の途中。俺は全身全霊の力を込めた真・複合発露〈万有凍結・封緘〉を使用して、最凶の人形化魔物たるそれを氷の中に封じ込めた。
結果【ガラテア】の言葉は続くことなく、風の流れをとめた後の静寂の中に熊のぬいぐるみを内包した氷の塊が一つ床に落ちる音が、一定の重さを伴って響く。
「す、凄い……これが、イサク君の、救世の転生者の、本気」
その結末を前にして、呆然としたように呟くルトアさん。
とは言え、ここまでの力を作り出せるようになったのは、つい最近のことだ。
強い意思で運命を覆し、始祖スライムを取り込んだリクルの功績が大きい。
「リクル。助かった。ありがとう」
「いえ、ご主人様! 皆さんの力あってのこと、です!」
かねてからの念願が叶い、リクルは俺の感謝に嬉しそうな声で謙遜する。
俺と真正少女契約を結ぶことができるようになり、大幅に強化された彼女の真・複合発露〈如意鋳我・合一〉。
特異思念集積体始祖スライムの少女化魔物となったリクルは、俺が持つ複合発露を全て扱うことのできる力と共に、分裂と高次元の融合能力を得た。
それにより、始祖スライムとの戦闘時の如く多重循環共鳴を完全に再現することができるようになり、これまでの循環共鳴を遥かに上回る威力を生むに至った。
しかも、分裂体を使い捨てすることで比較的負担も小さくなっている。
この状態の俺は、かけ値なしに地上最強と言って差し支えない。
その力による凍結は、恐らく俺以外の何者も解除することはできないだろう。
内部の外界との断絶は完全なものとなり、【ガラテア】の滅尽・複合発露も機能を停止してしまっているはずだ。
それが証拠に、アロン兄さんとマニさんは気を失って倒れている。
シャテンと呼ばれていた少女化魔物もまた、複合発露が解除されたのか、その姿を現して二人の傍に倒れ伏している。
見たところ命に別条はない。
相手の奇襲から始まったことを考えると、最善の結果と言えるだろう。
勿論、もし単独で戦っていたら消耗戦を仕かけられて力を隠せず、警戒した【ガラテア】に転移で逃亡されていた恐れもあるから、陽動あっての成果だが。
いずれにしても――。
「後は、救世を果たすだけだ。……イリュファ」
頭の中で一通り今回の戦いを纏め、それから影の中の彼女に呼びかける。
「結論は、出たか?」
「イサク様……私は……」
救世の転生者に依らない救世。その方法を実行に移すか否か。
世界のあり方を一変させ、大きな十字架を背負うことになるかもしれない手段だけに、当事者となる彼女は俺の相談を受けて以来、未だに迷い続けている。
「私は――」
「イサク! テアちゃんが!!」
そのイリュファが何らかの決意と共に口を開こうとした正にその瞬間、影の中から突然サユキが大きな声を出した。直後。
「あ、あああ、嫌ああああああああああっ!!」
戦いが終わったはずの大広間に、テアの断末魔の叫びの如き悲鳴が響き渡った。
そしてメギンギョルズを完全複製した祈望之器の複数所持。
それらによって総合的に強化されているのが、直前までの俺の状態だ。
この時点で循環共鳴を十二分に継続した程度の強さはある。はずなのだが……。
【ガラテア】の滅尽・複合発露。
それからアロン兄さんと、そのパートナーとなることを【ガラテア】に強制されたマニさんの真・暴走・複合発露〈魔王統制・蹂躙〉による強化は甚だしく。
【アイアンゴーレム】【ガーゴイル】【アイアンメイデン】。三種の人形化魔物達の無機質な装甲は、こちらの攻撃を防ぎ切る程の硬さとなっていた。
それは確かに俺達の想定を上回って厄介ではあった。
だが、正直なところ。こちらの思惑通り、全力を出しながらも苦戦している雰囲気を程よく作り出すには実に丁度いい塩梅だった。
「今更何だ。少女化魔物など出してきて。囮か盾にでも使う気か?」
実際、【ガラテア】の声は幻滅したような色を湛えている。
俺の言葉に応じて影から出てきて隣に浮かぶリクルの姿を目にしながら、そうした行動を訝しむでもなく、どこか機嫌を損ねたように問いかけてくるのみだ。
「俺が、そんな真似をする訳がないだろう」
対して俺はただ淡々と答える。
正にその瞬間、リクルは真・複合発露を発動させ、その身を液状化させた。
と同時に、彼女は一気に己の体積を膨張させて派手に破裂する。
「な」
突発的な光景に虚をつかれたように、驚愕を表す【ガラテア】。
それに応じて人形化魔物達を含む全体の動きが一瞬鈍る。
リクルはその間に肉体の一部、もとい本体で俺の体の表層を包み込んで一体化すると共に、周囲に撒き散らした欠片をデフォルメされた彼女の形に変化させた。
そして、その分身体全員が一斉に一つの歌を歌い出す。
「終わりだ」
様変わりした状況に【ガラテア】の思考が追いつく前に。
俺は、この大広間全体を対象に強固な概念を宿した風を放った。
屋内で発生した突風と呼ぶには余りにも激し過ぎる空気の流れ。
およそ自然界において発生し得ない強烈な暴風は、周囲にある全てを重力から解き放ち、各々から己の意思で自由に動かす権利を剥奪する。
「ああ。そこにいたのか」
その中心の凪いだ空間で。
マニさんとアロン兄さんの少し後ろの位置に一人の少女化魔物が存在していたことを、風に煽られて吹き飛んだ何かの感覚を以って感知する。
探知のような物理的作用の乏しい風は、彼女の真・暴走・複合発露〈生障滅障・擯斥〉の何らかの作用によってすり抜けてしまっていたのだろう。だが……。
結界や牙など歯牙にもかけない確固たる風の塊を受けては、隠れ続けることなどできるはずもなく、今や見えない物体があるとして正確に位置を把握できていた。
「君はそっちだ」
部屋の中を満たす風を操り、シャテンと呼ばれていた少女は安全圏へ。
加えてアロン兄さんも。
そして……風に流されるままミキサーにかけられるように大広間を飛ばされる中で体勢を乱され、耐えられず熊のぬいぐるみを手放すに至ったマニさんもまた。
「ば、馬鹿な」
空を舞う【ガラテア】の焦ったような声が風に紛れ、か細く聞こえてくる。
俺はそれを黙殺しながら気流の中に交えた細かい風の刃を正確に操り、まずは七十体いた人形化魔物達を一気に切り刻んでいった。
念のために隠していたのか、どこかの別の場所にある影の中から増援となる人形化魔物達が出てくるが、それらもまた末路は同じ。
なす術もなく、赤黒いヘドロのようになって世界に溶け込んでいく。
残る目標は【ガラテア】のみだ。
「その体。破壊しても意味がないんだろう? なら、凍結して封印してやる」
「や、やめろ。そのようなことをしても――」
「破滅欲求ある限り意味はない、だろう? けど、時間稼ぎにはなる。その間に俺は、救世の転生者ありきの世界を変えてみせる」
言葉を引き継ぎながら俺が続けて告げると、【ガラテア】は一瞬ぬいぐるみの体ながら息を呑んだような音を発し、しかし、即座に怒りの滲んだ声を口に出した。
「できるはずがない! 死の静寂を以ってしか、運命から逃れる術などない!」
「それは、やってみてから判断させて貰う。今はただ凍りつけ。【ガラテア】」
「ぐ……何故、何故だ。救世の転生者ばかりが、このような強さを得ることができる。余りに不条理――」
一瞬にして状況を覆され、世界そのものへと恨み言を漏らす【ガラテア】。
その言葉の途中。俺は全身全霊の力を込めた真・複合発露〈万有凍結・封緘〉を使用して、最凶の人形化魔物たるそれを氷の中に封じ込めた。
結果【ガラテア】の言葉は続くことなく、風の流れをとめた後の静寂の中に熊のぬいぐるみを内包した氷の塊が一つ床に落ちる音が、一定の重さを伴って響く。
「す、凄い……これが、イサク君の、救世の転生者の、本気」
その結末を前にして、呆然としたように呟くルトアさん。
とは言え、ここまでの力を作り出せるようになったのは、つい最近のことだ。
強い意思で運命を覆し、始祖スライムを取り込んだリクルの功績が大きい。
「リクル。助かった。ありがとう」
「いえ、ご主人様! 皆さんの力あってのこと、です!」
かねてからの念願が叶い、リクルは俺の感謝に嬉しそうな声で謙遜する。
俺と真正少女契約を結ぶことができるようになり、大幅に強化された彼女の真・複合発露〈如意鋳我・合一〉。
特異思念集積体始祖スライムの少女化魔物となったリクルは、俺が持つ複合発露を全て扱うことのできる力と共に、分裂と高次元の融合能力を得た。
それにより、始祖スライムとの戦闘時の如く多重循環共鳴を完全に再現することができるようになり、これまでの循環共鳴を遥かに上回る威力を生むに至った。
しかも、分裂体を使い捨てすることで比較的負担も小さくなっている。
この状態の俺は、かけ値なしに地上最強と言って差し支えない。
その力による凍結は、恐らく俺以外の何者も解除することはできないだろう。
内部の外界との断絶は完全なものとなり、【ガラテア】の滅尽・複合発露も機能を停止してしまっているはずだ。
それが証拠に、アロン兄さんとマニさんは気を失って倒れている。
シャテンと呼ばれていた少女化魔物もまた、複合発露が解除されたのか、その姿を現して二人の傍に倒れ伏している。
見たところ命に別条はない。
相手の奇襲から始まったことを考えると、最善の結果と言えるだろう。
勿論、もし単独で戦っていたら消耗戦を仕かけられて力を隠せず、警戒した【ガラテア】に転移で逃亡されていた恐れもあるから、陽動あっての成果だが。
いずれにしても――。
「後は、救世を果たすだけだ。……イリュファ」
頭の中で一通り今回の戦いを纏め、それから影の中の彼女に呼びかける。
「結論は、出たか?」
「イサク様……私は……」
救世の転生者に依らない救世。その方法を実行に移すか否か。
世界のあり方を一変させ、大きな十字架を背負うことになるかもしれない手段だけに、当事者となる彼女は俺の相談を受けて以来、未だに迷い続けている。
「私は――」
「イサク! テアちゃんが!!」
そのイリュファが何らかの決意と共に口を開こうとした正にその瞬間、影の中から突然サユキが大きな声を出した。直後。
「あ、あああ、嫌ああああああああああっ!!」
戦いが終わったはずの大広間に、テアの断末魔の叫びの如き悲鳴が響き渡った。
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