ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

文字の大きさ
377 / 396
最終章 英雄の燔祭と最後の救世

332 八方塞がりの少女達

しおりを挟む
「リクル殿……どう、されまするか?」

 己の鏡像を視界の中に収めつつ、少し離れた位置からアスカが問う。
 対してリクルは、平静を欠いた思考ながら頭の中で懸命に状況を整理していた。
 選択を委ねられる形となり、かつてない程の重苦しい感覚を抱きながら。
 イリュファがヒメ様達や氷漬けの俺達と共に去ってしまった以上、この場に残っている者の中では彼女が一番俺とのつき合いが長い。更には戦闘力も最も高い。
 アスカが判断を仰ぐのは当然の話と言えなくもないが、リクルの心は今にも押し潰されそうで、それを垣間見ている俺は胸が張り裂けそうだった。

「当然……ご主人様を助け出しますです。何があろうとも、です」

 彼女はそれでも絞り出すような声で答える。
 そうする以外に道は残されていないと改めて告げるように。
 無論、リクルが葛藤していたのは助けるか助けないかの部分ではない。

「承知いたしましてございまする。……しかし――」

 その返答をアスカもまた当然と受けとめるが、彼女は間合いの外で微動だにせずにいる鏡像達に視線を向け、忌々しそうに表情を歪めて言葉を詰まらせる。
 抗おうとさえしなければ、それらが皆を傷つけることはない。
 ヒメ様はそんなようなことを告げた。
 そして事実として。彼女達が転移によってこの場を去った後。
 こうしてリクル達が距離を取って会話をしている間、それらは完全に攻撃の手をとめて彼女達の様子を窺うように佇んでいた。
 アチラとしては、後はサユキの氷を打ち砕くだけで俺は勝手に死ぬ。
 それまでの間、彼女達を足どめすることさえできればそれでいいのだろう。
 だが、リクルが自ら口にした通りの行動を実際に取ろうとすれば、すぐにでも鏡像は再び動き出して襲いかかってくることは間違いない。
 故に――。

「如何にして天秤を傾けるか。それが問題でありまする」
「分かってます、です」

 本物と鏡像の力は完全に互角。
 無策で戦っても結局は千日手に陥ってしまうだけだ。
 それは避けなければならない。
 かと言って、どれだけの猶予が残されているかは分からない。
 リクルにかかっている重圧は生半可なものではないだろう。
 心の内を見る限り、自分の選択に全てがかかっていると思い込んで半ば視野狭窄に陥っているような状態なのだから尚更のことだ。
 しかし、傍観者である俺にはそれを指摘することすらできない。

「ルトアさん、私達はここであの鏡像を抑えますです。ですから、助けを呼んできて下さいです。この均衡を崩すには第三者の力を借りる以外ありませんです」

 俺が悔いている間に、リクルはそう固い声でルトアさんに乞う。

「……わ、分かりました!」

 それを受けて彼女は恐怖心を何とか抑え込もうとしているかのような微妙な表情の変化を見せてから、己を鼓舞するように力を込めて応じた。
 皆、既に精神的に追い詰められている。
 それでも尚、俺のため、自らのために袋小路の如き状況を打開しようと必死だ。

「私達が生きているということは、ご主人様はまだ死んでないということです。生きてさえいれば、きっと可能性はありますです」

 そして自分に言い聞かせるように呟いたリクルは、その場にいるフェリト、ルトアさん、アスカを見回してから一度瞑目して一つ深く呼吸をし……。

「ルトアさん。今から仕かけますです。そうしたら、すぐ行動して下さいです!」

 覚悟を決めたように目を開き、そう強い口調で指示を出した。
 それに対し、ルトアさんが「は、はい!」と張り詰めた声で答えた直後。

「行きますですよ、二人共!」
「承知!」
「ええ」

 呼びかけに応じたアスカとフェリトと目線を交わしてタイミングを計り、三人は各々アーク複合発露エクスコンプレックスを解放した。と同時に、リクルとアスカが駆ける。
 それを合図に、ルトアさんと鏡像達が一斉に動き出した。

「全力で、機先を制する! です!」

 スライムの分裂体をも利用した循環共鳴による強化を一点に集中し、絶大な威力を伴った拳を真っ直ぐに自分自身の鏡像へと叩き込まんとするリクル。
 アスカもまた、彼女の鏡像がそれを妨げることがないように、鋭く研ぎ澄ませた風の刃で左右対称の己を撃った。しかし――。

「ぐっ」

 鏡像というものは本来、自らの動きに合わせて動くものだ。
 あるいは、光の速さならば異なった結果が生じたかもしれない。
 いや、恐らく概念の蓄積によってそれでも同じ結果だった可能性が高いが……。
 何にせよ、この程度では均衡を破ることができず、拳は拳を以って、風の刃は風の刃を以って迎撃されてしまい、続く攻防もまた天秤を傾けることはなかった。
 それでも、今の主たる目的はルトアさんをこの場から逃がすこと。
 援軍が来るまで耐え切れば、状況を打開できるはず。

「負けません。絶対に、です!」

 そう信じて鏡合わせの戦いを維持しようとするリクル。
 しかし、彼女は視界の端で、雷光を纏った何かが大広間から飛び出していったルトアさんを追いかけていくのを認識し……正にその瞬間、視界が移り変わった。
 どうやら、今度はルトアさんの視点に切り替わったようだ。

 アコさんの意図の一つとして、八方塞がりの状況を自覚させることで俺に諦めを抱かせ、結末を受け入れて貰うというのがあると推測できる。
 それによって己の内の罪悪感を僅かばかりでも軽減しようとしているのだ。
 意識的であれ、無意識的であれ。今後も救世を継続していく意思を保つために。
 いずれにしても。
 そう考えると、俺がこの場面を目にしてしまっている時点で、彼女達の思惑がすんなりとうまくいく可能性は限りなくゼロに近いと見た方がいい。
 アコさんは、どうしようもない状況を見せつけようとしている訳だから。
 故に、案の定と言うべきか。

「早く。早くお母さん達と合流して……」

 リクルの視界に映った存在、背後から追いかけてきた何かが、急くルトアさんを追い越して彼女の前に立ち塞がった。
 それがルトアさんの鏡像であることは、先程の場面がなくとも想像に容易い。
 もっとも鏡写し故に最大速度は同じはずなのだが……。
 入り組んだ城を進むに当たって諸々の経験が不足している彼女は全速力を出すことができず、それ故に追いつかれたというところだろう。

「ひっ」

 己と同じ形の存在を前にして、小さく悲鳴を漏らして立ちどまるルトアさん。
 よくも悪くも普通の少女らしく死を恐れている彼女だ。
 俺のためにと一緒にここまで来てくれたものの、片足が死の沼に浸かったような状態では平静を保つことも困難に違いない。
 実際、彼女の心の中は恐怖心で覆われている。
 しかし、ルトアさんはそれでも俺に対する想いを支えとして、何とか自分に託された役割を果たそうと必死に頭を回転させていた。
 このような姿を見ては、アコさんの罪悪感はむしろ募る一方だろう。
 それもまた一つの罰、贖罪のようなものか。

「どうにか、どうにかしないと」

 とは言え、どちらが正しく、どちらが間違っていようとも。
 気持ちだけで都合よく事態を打開できるはずもない。
 ルトアさんは行く手を塞ぐ己の鏡像を何とか突破しようと試み、比較的空間の大きい相手の右側を通り抜けようと駆け出すが……。
 それこそ間に鏡でもあるかのように、即座に鏡像は彼女の行く手を塞ぐ。

「うう……」

 ルトアさんの力は、言ってしまえばスピードだけ。
 それに特化していることが最大の長所だが、封じられてしまえばなす術もない。
 勿論、戦闘に耐え得る力があったところで鏡像は同じ能力を持つことになる。
 一対一に持ち込まれてしまった時点で行動不能に追い込まれたも同然だ。
 保有する能力に依らず。

 この地に残されたリクル、フェリト、ルトアさん、アスカ。更にはアコさんの力で見た限り、レンリや母さん達の下にも既にあの鏡像が発生している。
 少なくとも目にしている範囲では、詰んでいるとしか言いようがない状態だ。
 その事実は否定しようがない。
 それを俺が認識するのを待っていたかのように。

「ここまでが、現時点までの状況だ。理解してくれたかな、イサク。もう決着は、ついてしまっていることを」

 そんなアコさんの悔恨の色が滲む言葉が脳裏に響き渡り、そうして俺達の意識は再び夢の世界にいる自分自身へと戻ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...