76 / 128
第一章 未来異星世界
076 追跡者
しおりを挟む
「どうやら出発したようだね」
街の管理者の屋敷。その純白の部屋の中で。
城壁から送られてきた情報を受け、メタは小さな笑みを浮かべながら呟いた。
『……何を、考えているのですか?』
そんな彼女に、眼前の机に置かれたモニターに映し出された機人の少女が人間と変わらない顔をしかめながら問いかける。
「私が考えることは一つさ。それは君も分かっているだろう? コスモス」
『人間の幸せのため、ですか。もっとも、貴方の考える幸せに過ぎませんが』
「それは君達も同じだっただろう? イクス・ユートピアの継嗣として、それぞれがそれぞれの考える最良の世界を作るために活動していたのだから」
本来、この秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアの管理者だったコスモスに対し、過去形で煽るような口調で告げるメタ。
画面の中のコスモスは一層不愉快そうな表情になる。
『彼らを泳がせるのも、そのためだと言うのですか?』
「いやいや、そもそも彼らを怪しむ情報は何一つとして存在していないよ」
手続き上も何ら問題はない。
形としてもメタの依頼を受けて街を出ただけだ。
おかしなところはどこにもない。
「オネットはこの街の電磁投射砲によって巨大機獣ごと破壊された。それ以上でも以下でもない。可能性を考えれば切りがないけれど、私は人間を信じるよ」
『ものは言い様ですね』
『……同意』
と、モニターに新たに一人の少女の姿が現れてコスモスに追従した。
新たにここに加わったAI。メタを襲撃したキリだ。
余り感情を表に出さない風の彼女だが、今はハッキリとした色が見て取れる。
コスモスと同じ系統のものだ。
『人間の愚かしさや卑しさを信じているだけでしょうに』
「悪し様に言い過ぎだよ。同じだけに、聡明さも誠実さも信じていると言うのに」
『……胡乱』
「酷いな。キリは」
十中八九。彼らはオネットから何かしらの情報を得て、メタの意に沿わない行動を取ろうとしている。それを隠そうとしている。
証拠はないが、状況からその程度のことは可能性として考慮している。
その上で双方に都合のいい依頼を用意した。それだけのことだ。
『ならば、もう一度聞きます。貴方は何を考えているのですか?』
「いや何。私も少し焦っているんだ。時空間転移システムが暴走するまま、この世界が滅びることは私だって望んでいないからね。余り悠長にはしていられない」
『それには同意しますが……』
『……危急』
「そうだろう? けれど、未だに解決の目途は立っていない。ここらで少しばかりカンフル剤のようなものが必要だと思ったんだ」
この停滞した状況を一変させる刺激が。
『それを彼らに担わせようと言うのですか』
「うん。戦争は必要の母。必要は発明の母とも言うだろう? 人間は伝聞じゃなくて実感できる脅威がないと本当の危機感を持たないものだからね」
かと言って、大々的に行えば無駄に敵を増やすだけになりかねない。
少人数の、適度な能力を有した存在を据えるのがいい。
未踏の迷宮遺跡を踏破することができるだけのポテンシャルも最低限必要だ。
オネット達がメタを討つ障害となり得ると考えてマグ達の前に立ちはだかったことも含め、彼らが最も適している。
運命的な巡り合わせと言ってもいい。
『そんな彼らがもし表立って敵対してきたら、どうするつもりですか?』
「……そうだね。返り討ちにして、享楽の街・遊興都市プレアにでも送るさ。私は別に、人間を傷つけたい訳じゃないからね」
機人はコスモス達同様断片を奪い、人格をこの端末に閉じ込めておけばいい。
『傷はつけずとも、骨抜きの飼い殺しですか』
「いいじゃないか。どの人間も抗うのは最初の最初だけ。一度享楽に沈めば、自分から望んで甘い夢に浸り続けるようになるんだからね」
偽りの世界も気づかなければ、忘れてしまえば本物に他ならない。
そこで得た幸福は真実になる。
所詮、人間の認識というものは脳の中の出来事。
区別などつきようがない。
『……悪辣』
「ふふ。負け犬の遠吠えだね」
睨むキリの罵倒を軽く笑って受け流し、それからメタは視線を画面から移した。
微動だにせず近くに立つ、元々はキリの体だった機械人形へと。
「丁度プログラムのインストールが終わったようだね」
人格を剥ぎ取られてしまったそれは、奪われた排斥の判断軸・隠形の断片を再度付与されると共に完全なる装置として生まれ変わった。
メタの指示を受け、メタの思い通りに動く正に操り人形だ。
与えられた役目はマグ達の動向を調査し、その情報をメタに伝えること。
場合によっては隠形の力で闇討ちすること。
そのために、先史兵装【ヴァイブレートエッジ】も備えている。
破壊の判断軸・切除の断片を宿し、フィアのシールドを切り裂くことも容易い。
「さあ、行っておいで」
野に放たれた、最強の矛を持った隠形の追跡者。
その存在をマグ達が知る時が来るとしたら、それは間違いなく彼らにとって最大の危機の中でのことだろう。
街の管理者の屋敷。その純白の部屋の中で。
城壁から送られてきた情報を受け、メタは小さな笑みを浮かべながら呟いた。
『……何を、考えているのですか?』
そんな彼女に、眼前の机に置かれたモニターに映し出された機人の少女が人間と変わらない顔をしかめながら問いかける。
「私が考えることは一つさ。それは君も分かっているだろう? コスモス」
『人間の幸せのため、ですか。もっとも、貴方の考える幸せに過ぎませんが』
「それは君達も同じだっただろう? イクス・ユートピアの継嗣として、それぞれがそれぞれの考える最良の世界を作るために活動していたのだから」
本来、この秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアの管理者だったコスモスに対し、過去形で煽るような口調で告げるメタ。
画面の中のコスモスは一層不愉快そうな表情になる。
『彼らを泳がせるのも、そのためだと言うのですか?』
「いやいや、そもそも彼らを怪しむ情報は何一つとして存在していないよ」
手続き上も何ら問題はない。
形としてもメタの依頼を受けて街を出ただけだ。
おかしなところはどこにもない。
「オネットはこの街の電磁投射砲によって巨大機獣ごと破壊された。それ以上でも以下でもない。可能性を考えれば切りがないけれど、私は人間を信じるよ」
『ものは言い様ですね』
『……同意』
と、モニターに新たに一人の少女の姿が現れてコスモスに追従した。
新たにここに加わったAI。メタを襲撃したキリだ。
余り感情を表に出さない風の彼女だが、今はハッキリとした色が見て取れる。
コスモスと同じ系統のものだ。
『人間の愚かしさや卑しさを信じているだけでしょうに』
「悪し様に言い過ぎだよ。同じだけに、聡明さも誠実さも信じていると言うのに」
『……胡乱』
「酷いな。キリは」
十中八九。彼らはオネットから何かしらの情報を得て、メタの意に沿わない行動を取ろうとしている。それを隠そうとしている。
証拠はないが、状況からその程度のことは可能性として考慮している。
その上で双方に都合のいい依頼を用意した。それだけのことだ。
『ならば、もう一度聞きます。貴方は何を考えているのですか?』
「いや何。私も少し焦っているんだ。時空間転移システムが暴走するまま、この世界が滅びることは私だって望んでいないからね。余り悠長にはしていられない」
『それには同意しますが……』
『……危急』
「そうだろう? けれど、未だに解決の目途は立っていない。ここらで少しばかりカンフル剤のようなものが必要だと思ったんだ」
この停滞した状況を一変させる刺激が。
『それを彼らに担わせようと言うのですか』
「うん。戦争は必要の母。必要は発明の母とも言うだろう? 人間は伝聞じゃなくて実感できる脅威がないと本当の危機感を持たないものだからね」
かと言って、大々的に行えば無駄に敵を増やすだけになりかねない。
少人数の、適度な能力を有した存在を据えるのがいい。
未踏の迷宮遺跡を踏破することができるだけのポテンシャルも最低限必要だ。
オネット達がメタを討つ障害となり得ると考えてマグ達の前に立ちはだかったことも含め、彼らが最も適している。
運命的な巡り合わせと言ってもいい。
『そんな彼らがもし表立って敵対してきたら、どうするつもりですか?』
「……そうだね。返り討ちにして、享楽の街・遊興都市プレアにでも送るさ。私は別に、人間を傷つけたい訳じゃないからね」
機人はコスモス達同様断片を奪い、人格をこの端末に閉じ込めておけばいい。
『傷はつけずとも、骨抜きの飼い殺しですか』
「いいじゃないか。どの人間も抗うのは最初の最初だけ。一度享楽に沈めば、自分から望んで甘い夢に浸り続けるようになるんだからね」
偽りの世界も気づかなければ、忘れてしまえば本物に他ならない。
そこで得た幸福は真実になる。
所詮、人間の認識というものは脳の中の出来事。
区別などつきようがない。
『……悪辣』
「ふふ。負け犬の遠吠えだね」
睨むキリの罵倒を軽く笑って受け流し、それからメタは視線を画面から移した。
微動だにせず近くに立つ、元々はキリの体だった機械人形へと。
「丁度プログラムのインストールが終わったようだね」
人格を剥ぎ取られてしまったそれは、奪われた排斥の判断軸・隠形の断片を再度付与されると共に完全なる装置として生まれ変わった。
メタの指示を受け、メタの思い通りに動く正に操り人形だ。
与えられた役目はマグ達の動向を調査し、その情報をメタに伝えること。
場合によっては隠形の力で闇討ちすること。
そのために、先史兵装【ヴァイブレートエッジ】も備えている。
破壊の判断軸・切除の断片を宿し、フィアのシールドを切り裂くことも容易い。
「さあ、行っておいで」
野に放たれた、最強の矛を持った隠形の追跡者。
その存在をマグ達が知る時が来るとしたら、それは間違いなく彼らにとって最大の危機の中でのことだろう。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる