あの日の誓いを忘れない

青空顎門

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第一話 大原旋風は従わない⑥

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「それで征示。いつの間に土の属性魔力を蓄えていたんだ?」

 気がつくと保健室のベッドの上。
 周囲を見回すと征示が那由多から追求を受けていた。

「まあ、それは、こんなこともあろうかと、という奴さ」

 征示はそう言うと中指で眼鏡を押し上げる。

「……しかし、何故ゲベットには使わなかった?」
「奴に土属性の魔法は効果が薄いからな。金属を射出しても回避されるのが関の山。命中してもダメージは少ない。その上、身体の物質化や属性魔力化は余りに消費魔力が大きくて短時間しか使用できない。ただでさえ燃費の悪い俺には向かない魔法だ」
「ふむ。我らが参謀殿がそう言うのであれば、そうなのだろう。だが、むう、一体誰から土属性の魔力を……」

 妙なところで納得がいっていない雰囲気の那由多だったが、旋風が目を覚ました気配を感じたのか表情を引き締めて顔を向けてきた。

「気がついたか?」
「…………うちは、負けたんやな」

 起き上がって尋ねると那由多は「そうだ」と頷いた。
 今日という一日の間に連続して経験した、人生初と二度目の敗北。
 しかし、旋風の心は澄んだ空のように穏やかだった。

「あの瞬間、あれは先輩の姿を模した人形に過ぎなかったんやな」
「ああ。魔法を発動した時点で俺もまた身体を属性魔力化させていた。あれは単なる金属の塊だ。さすがに属性魔力と化した者の位置を正確には特定できないからな」

 故に人形を操作して囮として使い、旋風が実体化するのを待った、という訳か。
 自分にできることを相手はできないと思い込んだが故の敗北、としか言いようがない。

「にしても、先輩。うちの最初の高速移動、どうやって見極めたんや」
「ああ、それは――」
「そこは私が説明しよう」

 那由多が征示の言葉を遮り、自分の存在を主張するように一歩前に出る。

「それは光の属性魔力を利用した反響定位によるものだ」
「反響定位?」
「超音波などの反射で周囲の物体との位置関係を把握することだ。自然界ではコウモリやイルカが行っているし、潜水艦のソナーなどにも使われている」
「つまり、光の反射でうちの位置を?」
「うむ。厳密には魔力で発生させた特殊な光の反射だがな。光属性の特権という奴だ。勿論、風属性でも反響定位は可能だが、あれ程の高速移動では光の速さが必要だろうな」

 そこまで語って満足気に一歩下がる那由多。
 もしかすると、話の流れ的に征示との対話が続きそうだったから、無理に会話に入り込んできたのかもしれない。

(面倒な人やな……)

「……何はともあれ、勝負は決した。これからは俺の指示に従って貰うぞ、大原さん」
「まあ、勝負は勝負やからな。しゃあないわ」

 渋々、という感じを装って旋風は呟いた。

「けど、一つ条件がある」
「ん? 何だ?」
「うちのことは下の名前を呼び捨てで呼ぶこと。ええな」

 顔を背けて不機嫌な口調で簡潔に言う。と、保健室に僅かな沈黙が下りた。

「………………うん?」
「せ、せやから、先輩は年上やし、うちより強いんやから、名字でさんづけなんてあり得へんやろ。下手な謙虚は嫌味や。そんな奴には従えへん!」

 顔が熱くなるのを自覚しながら、旋風はやや早口で捲し立てた。

「しかしな、大原さん――」
「うちは先輩を認めたんやから、あんまり他人行儀なんは嫌や……」
「む……わ、分かった。旋風」
 征示の口からフルネーム以外で初めて下の名を呼ばれ、旋風は心臓がドクンと高鳴るのを感じた。恐らく、顔ははっきりと赤くなっていることだろう。

(ちゃ、ちゃうで、そういう感情やない。そう。これは敬愛いう奴や)

 自分に言い訳しつつも、頬が妙に緩むのを抑えられない。見ると、征示もどこか気恥ずかしげに視線を逸らしていた。

「こほん。征示、これはどういうことかな?」

 咳払いと共に穏やかなはずなのに威圧感のある那由多の声が場に響く。

「い、いや、那由多。これは――」
「これは?」
「た、単純に仲間としての信頼が増しただけで、だな」

 しどろもどろに弁明をしながら、じりじりと出口へと近づいていく征示。
 しかし、その思惑は、素早く回り込んで扉の前に仁王立ちした那由多に阻まれる。

「旋風君も旋風君だ。あれだけ反発していたというのに。そもそも君は自由が信条だったのではないのか?」
「そ、そうやけど、ただ、うちは先輩になら束縛されてもええ思うただけや」
「ちょ、大原……じゃなかった、旋風、何を――」

 旋風の半分からかい気味の言葉に、那由多の顔色を窺いながら焦ったような表情を見せる征示。その様子は戦闘の時とはかけ離れていておかしかった。

「く、くくく、先輩も隊長も意外とおもろい人やなあ」

 だから、つい声に出して笑ってしまった。〈リントヴルム〉に参加している時にこんな風に楽しい気分になったのは初めてかもしれない。
 思えば、自由という言葉に囚われて、一人常に気を張っていたから。

「これから退屈せんで済みそうやわ」

 そう本心から言うと、征示と那由多は互いに顔を見合わせてから、からかわれていたと気づいたのか苦笑していた。

「なら、改めて――」

 征示は旋風の傍に来ると、優しい笑みを見せて手を差し出してきた。

「〈リントヴルム〉の仲間として、これからよろしく頼む」

 そんな彼の姿に速くなる鼓動を隠しながら、旋風はその手をしっかりと握り締めた。

「よろしく頼むで、征示先輩!」
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