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第十五話:敵の妨害を逆手に
「ごきげんよう、料理長。廃棄される予定の食材、我が『後宮生活改善組合』が、陛下の勅命に基づき、責任をもって引き取らせていただきますわ」
私が笑顔でそう告げると、上位妃付きの厨房の料理長は、鼻で笑って吐き捨てた。
「フン、好きにしろ。そのゴミの山をどう処理しようと、俺の知ったことではないわ」
彼の嘲笑を背に、私たちは山のような野菜や果物を荷車に乗せ、堂々と自分たちの離宮へと運び去った。
私たちの工房は、その日から野戦病院のような様相を呈した。
「総力戦よ、皆さん! 傷みやすい果物から先に加工するわよ!」
私の号令一下、組合のメンバーたちは一糸乱れぬチームワークで調理を開始した。
厨房から借りてきた大鍋では、色とりどりの果物が甘い香りを立ててジャムやコンポートに変わっていく。別のテーブルでは、野菜が手際よく刻まれ、スパイスと共に瓶に詰められ、ピクルスや酢漬けになっていく。工房中に、食欲をそそる香りと、仲間たちの活気に満ちた声が響き渡った。
私たちは三日三晩、交代で休みを取りながら作業を続けた。それは過酷な重労働だったはずなのに、誰一人として弱音を吐く者はいなかった。自分たちの手で、無駄にされるはずだった命を、新しい価値へと生まれ変わらせている。その喜びが、私たちを支えていた。
そして、全ての作業を終えた時、私たちの工房の貯蔵庫は、まるで宝物庫のように変貌していた。
棚には、ルビーのように輝く苺ジャム、太陽の色をした杏のコンポート、様々な野菜が詰められた宝石のようなピクルスの瓶がずらりと並んでいる。そして、余った小麦粉や卵で作られた、いつもよりずっとリッチな配合のクッキーやパウンドケーキの山。
「これを、どうするのですか、妃様?」
アンナの問いに、私はにっこりと笑って答えた。
「決まっているでしょう? これは、私たちの活動をいつも陰ながら応援してくれている、後宮の皆への『特別ボーナス』よ!」
翌日、後宮の各所で「組合からの特別配給」が行われた。
侍女たちは、普段は口にできないような甘いジャムが塗られたパンや、バターの香り豊かなケーキに歓声を上げた。夜勤明けの衛兵たちは、酸味の効いたピクルスが疲れを癒すと大喜びだった。
「上位妃様の厨房で捨てられるはずだった食材が、こんなに美味しいものに生まれ変わったらしいわよ」
「リディア様は、無駄なものを何一つ出さない、魔法使いのようなお方だわ!」
この一件は、私の評価を後宮内で決定的なものにした。
一方で、妨害を企んだ者たちは、手痛いしっぺ返しを食らうことになった。
上位妃付きの料理長は、大量の食材を「廃棄」として処理してしまったため、新たな食材の補充を要求できず、その日の厨房は火の車となった。結果、主である妃の食卓に並んだのは、いつもより品数も少なく、貧相な料理だけ。
「どういうことなの、これは! なぜ今日の食事はこんなに質素なのよ!」
妃の叱責に、料理長は顔面蒼白で立ち尽くすしかなかったという。
この騒動の顛末は、全て女官長と皇帝の耳にも入っていた。
女官長は、執務室で報告を聞き、深いため息と共にかぶりを振った。
「……あの娘、恐ろしい子。敵の悪意すら、自分の糧にしてしまうとは……」
その声には、もはや敵意はなく、畏怖の色さえ滲んでいた。
そして、皇帝アレクシスは、側近からの報告を聞き、心の底から愉快そうに笑った。
「面白い。実に面白いな。ただの改革者ではない。戦の駆け引きもできると見える」
彼は、自分が選んだ駒が、想像を遥かに超える打ち筋を見せたことに、満足以外の何の感情も抱いていなかった。
嵐が過ぎ去った工房で、私は完成した保存食の瓶を一つ手に取り、静かに考えを巡らせていた。
(今回の件で、後宮内に食料の備蓄がほとんどないことがわかったわ……)
それは、平時では問題なくとも、何かあった時には命取りになりかねない、システムの脆弱性。
私は新しい羊皮紙を取り出すと、さらさらとペンを走らせ始めた。
その紙の冒頭には、こう記されていた。
『後宮内非常食備蓄計画に関する提案書』
私の戦いは、まだ始まったばかりだった。
私が笑顔でそう告げると、上位妃付きの厨房の料理長は、鼻で笑って吐き捨てた。
「フン、好きにしろ。そのゴミの山をどう処理しようと、俺の知ったことではないわ」
彼の嘲笑を背に、私たちは山のような野菜や果物を荷車に乗せ、堂々と自分たちの離宮へと運び去った。
私たちの工房は、その日から野戦病院のような様相を呈した。
「総力戦よ、皆さん! 傷みやすい果物から先に加工するわよ!」
私の号令一下、組合のメンバーたちは一糸乱れぬチームワークで調理を開始した。
厨房から借りてきた大鍋では、色とりどりの果物が甘い香りを立ててジャムやコンポートに変わっていく。別のテーブルでは、野菜が手際よく刻まれ、スパイスと共に瓶に詰められ、ピクルスや酢漬けになっていく。工房中に、食欲をそそる香りと、仲間たちの活気に満ちた声が響き渡った。
私たちは三日三晩、交代で休みを取りながら作業を続けた。それは過酷な重労働だったはずなのに、誰一人として弱音を吐く者はいなかった。自分たちの手で、無駄にされるはずだった命を、新しい価値へと生まれ変わらせている。その喜びが、私たちを支えていた。
そして、全ての作業を終えた時、私たちの工房の貯蔵庫は、まるで宝物庫のように変貌していた。
棚には、ルビーのように輝く苺ジャム、太陽の色をした杏のコンポート、様々な野菜が詰められた宝石のようなピクルスの瓶がずらりと並んでいる。そして、余った小麦粉や卵で作られた、いつもよりずっとリッチな配合のクッキーやパウンドケーキの山。
「これを、どうするのですか、妃様?」
アンナの問いに、私はにっこりと笑って答えた。
「決まっているでしょう? これは、私たちの活動をいつも陰ながら応援してくれている、後宮の皆への『特別ボーナス』よ!」
翌日、後宮の各所で「組合からの特別配給」が行われた。
侍女たちは、普段は口にできないような甘いジャムが塗られたパンや、バターの香り豊かなケーキに歓声を上げた。夜勤明けの衛兵たちは、酸味の効いたピクルスが疲れを癒すと大喜びだった。
「上位妃様の厨房で捨てられるはずだった食材が、こんなに美味しいものに生まれ変わったらしいわよ」
「リディア様は、無駄なものを何一つ出さない、魔法使いのようなお方だわ!」
この一件は、私の評価を後宮内で決定的なものにした。
一方で、妨害を企んだ者たちは、手痛いしっぺ返しを食らうことになった。
上位妃付きの料理長は、大量の食材を「廃棄」として処理してしまったため、新たな食材の補充を要求できず、その日の厨房は火の車となった。結果、主である妃の食卓に並んだのは、いつもより品数も少なく、貧相な料理だけ。
「どういうことなの、これは! なぜ今日の食事はこんなに質素なのよ!」
妃の叱責に、料理長は顔面蒼白で立ち尽くすしかなかったという。
この騒動の顛末は、全て女官長と皇帝の耳にも入っていた。
女官長は、執務室で報告を聞き、深いため息と共にかぶりを振った。
「……あの娘、恐ろしい子。敵の悪意すら、自分の糧にしてしまうとは……」
その声には、もはや敵意はなく、畏怖の色さえ滲んでいた。
そして、皇帝アレクシスは、側近からの報告を聞き、心の底から愉快そうに笑った。
「面白い。実に面白いな。ただの改革者ではない。戦の駆け引きもできると見える」
彼は、自分が選んだ駒が、想像を遥かに超える打ち筋を見せたことに、満足以外の何の感情も抱いていなかった。
嵐が過ぎ去った工房で、私は完成した保存食の瓶を一つ手に取り、静かに考えを巡らせていた。
(今回の件で、後宮内に食料の備蓄がほとんどないことがわかったわ……)
それは、平時では問題なくとも、何かあった時には命取りになりかねない、システムの脆弱性。
私は新しい羊皮紙を取り出すと、さらさらとペンを走らせ始めた。
その紙の冒頭には、こう記されていた。
『後宮内非常食備蓄計画に関する提案書』
私の戦いは、まだ始まったばかりだった。
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