「君の回復魔法は痛い」と追放されたので、国を浄化するのをやめました

希羽

文字の大きさ
3 / 8

第3話:森の隠れ家カフェ、本日オープン

しおりを挟む
 ポチ(フェンリル)が元気になってから、数日が過ぎた。

 彼は完全にこの屋敷に居着いてしまったようで、私が庭で薬草の手入れをしていると、どこからともなく現れては足元にすり寄ってくる。

「ポチ、そこは踏まないで。貴重なマンドラゴラの若芽なの」
「ワフッ!」

 ポチは賢い。私が「邪魔」と言うと、すぐにお座りをして尻尾を振る。
 その姿は完全に愛玩犬だが、時折森の奥から聞こえる熊や猪の咆哮が一瞬で止むのは、間違いなく彼がプレッシャーを放っているからだろう。

 おかげで、私のスローライフは快適そのものだった。
 屋敷の修繕も終わり、庭にはテーブルと椅子を並べた。
 今日は天気もいい。私はとっておきの再生リジェネハーブティーを淹れて、ティータイムを楽しむことにした。

「うん、いい香り」

 カップから立ち上る湯気を吸い込む。
 このハーブティーは、疲労回復効果のある薬草を独自にブレンドし、私の魔力を少しだけ込めて抽出したものだ。飲むだけで体の芯からポカポカとし、ちょっとした切り傷なら塞がってしまう優れものだ。

 私が一口飲んで寛いでいると、ポチが庭の茂みに向かって小さく吠えた。

「ワン! クゥーン!」

 何かを呼んでいるようだ。

 すると、茂みがガサガサと揺れ、そこから小さな影が次々と飛び出してきた。

「……え?」

 現れたのは、半透明に輝く小さな妖精たち――森の精霊フェアリーだった。
 一匹、二匹ではない。十、二十……あっという間に庭が光の粒で埋め尽くされる。

 さらに、木の陰からは巨大な鹿(角が宝石でできている)や、三本足の鴉(たぶん神獣の使い)まで顔を覗かせている。
 まるで百鬼夜行ならぬ、百獣夜行だ。

(なにこれ、ポチのお友達?)

 呆気にとられる私をよそに、精霊の一人が恐る恐る近づいてきた。
 そして、私が飲んでいるティーカップを指差して、キラキラした瞳で訴えてくる。

『いい匂い! それ、魔力がすごい! ちょーだい!』

 言葉は話さないが、意思が直接頭に響いてきた。
 どうやら私のハーブティーから溢れる魔力に釣られてきたらしい。

「ええと……飲みたいの?」
『飲む! 飲む!』
『私も!』
『僕も怪我してるんだ!』

 精霊たちが一斉に騒ぎ出す。
 よく見れば、彼らの羽や体には小さな傷があったり、淀んだ色が混じっていたりする。この森も、王都から流れてくる呪いの影響を受けているのかもしれない。

「仕方ないわね。ちょっと待ってて」

 私は屋敷から予備のカップや深皿を持ち出し、なみなみとハーブティーを注いで回った。
 ただし、忠告は忘れない。

「言っておくけど、私の特製ブレンドだからね。効果は保証するけど、飲むとちょっと――」

 『ピリッ』とするわよ、と言いかける前に、精霊たちは我先にとハーブティーに飛びついた。

 その直後。

『ギャアアアアアッ!!?』
『あつっ!? いや、痛っ!? 中から焼けるぅぅぅ!!』
『ビリビリするぅぅぅ!!』

 庭中が阿鼻叫喚に包まれた。
 精霊たちは空中でジタバタと暴れ、鹿は白目を剥いて地面を転げ回っている。

 やっぱり。

 私の魔力は、彼らに巣食う微小な穢れをも焼却してしまうのだ。

「だから言ったのに……」

 私はやれやれと首を振った。
 これは流石に、営業停止処分ものかもしれない。
 そう思って、お詫びの水を用意しようとした、その時だった。

『――す、すげぇ……』

 一人の精霊が、ふらりと起き上がった。
 その体は、先程までのくすみが嘘のように消え、ダイヤモンドのように眩い光を放っている。

『体が、羽みたいに軽い! 元から羽はあるけど!』
『僕の折れてた角が治ってる!』
『魔力が満タンだ! いや、上限が増えてる!?』

 精霊たちが次々と復活し、互いの体を触り合って歓声を上げ始めた。
 そして、全員の視線がバッと私に向く。

『これ、ヤバい』
『痛いけど、効く。超効く』
『あの痛み、クセになるかも……』
『もっと! おかわり!』
「ええ……?」

 まさかの大好評だった。
 どうやら魔界や自然界の住人たちは、人間よりも実利主義らしい。「痛い」ことよりも「強くなれる(治る)」ことへの評価が遥かに高いようだ。

 ポチが得意げに「ワン!(だろ?)」と胸を張っている。
 そうか、彼が宣伝したのか。「あそこの主人の茶は飛ぶぞ」と。

「はいはい、並んで。順番よ」

 私は諦めて、ポットのお代わりを用意し始めた。
 列をなす精霊、魔獣、神獣たち。
 キラキラした目でカップを差し出す彼らを見ていると、王都で「役立たず」と言われていた日々が、なんだか遠い昔のことのように思えてくる。

「……ふふっ。変なお客さんばっかり」

 こうして、看板も出していないのに、私の「薬草カフェ」は開店初日から大盛況となってしまった。

 ――なお、この時私は気づいていなかった。

 この精霊たちが森中のネットワークを使って、『北の森に、激痛と引き換えに死者すら蘇らせる黄泉がえりの魔女がいる』という、とんでもない噂を拡散し始めたことに。

 そしてその噂が、やがて人間の冒険者や、さらには世界最強の「竜王」の耳にまで届くことになるのは、もう少し先の話である。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ
恋愛
 魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。  妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。  これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。

本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?

神崎 ルナ
恋愛
このシステバン王国では神託が降りて花嫁が決まることがある。カーラもその例の一人で王太子の神託の花嫁として選ばれたはずだった。「お姉様より私の方がふさわしいわ!!」妹――エリスのひと声がなければ。地味な茶色の髪の姉と輝く金髪と美貌の妹。傍から見ても一目瞭然、とばかりに男爵夫妻は妹エリスを『神託の花嫁のカーラ・マルボーロ男爵令嬢』として差し出すことにした。姉カーラは修道院へ厄介払いされることになる。修道院への馬車が盗賊の襲撃に遭うが、カーラは少しも動じず、盗賊に立ち向かった。カーラは何となく予感していた。いつか、自分がお払い箱にされる日が来るのではないか、と。キツい日課の合間に体も魔術も鍛えていたのだ。盗賊たちは魔術には不慣れなようで、カーラの力でも何とかなった。そこでカーラは木々の奥へ声を掛ける。「いい加減、出て来て下さらない?」その声に応じたのは一人の青年。ジェイドと名乗る彼は旅をしている吟遊詩人らしく、腕っぷしに自信がなかったから隠れていた、と謝罪した。が、カーラは不審に感じた。今使った魔術の範囲内にいたはずなのに、普通に話している? カーラが使ったのは『思っていることとは反対のことを言ってしまう魔術』だった。その魔術に掛かっているのならリュートを持った自分を『吟遊詩人』と正直に言えるはずがなかった。  カーラは思案する。このまま家に戻る訳にはいかない。かといって『神託の花嫁』になるのもごめんである。カーラは以前考えていた通り、この国を出ようと決心する。だが、「女性の一人旅は危ない」とジェイドに同行を申し出られる。   (※注 今回、いつもにもまして時代考証がゆるいですm(__)m ゆるふわでもOKだよ、という方のみお進み下さいm(__)m 

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

処理中です...