「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽

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第34話:聖域、ついに「神域」に昇格する

 創造神ルミナが「ここに住む!」と宣言してから数日。
 俺の拠点――『聖域』は、劇的な変化を遂げていた。

 まず、環境がバグった。

 ルミナが常時垂れ流す「神気」の影響で、畑の作物が一晩で収穫期を迎えるようになった。ダンジョン芋はカボチャサイズになり、トマトは宝石のように輝いている。

 枯れていた木々には花が咲き乱れ、聖域内だけ常春のような気候になった。

「すごい……! これが神の祝福……!」
「作物が育ちすぎて、収穫が追いつきませんわ!」

 エルフたちとローズ(魔王令嬢)が嬉しい悲鳴を上げている。
 そして、防犯面も完璧になった。
 ルミナが展開した『絶対不可侵神聖結界ゴッド・フィールド』により、邪な心を持つ者は、聖域の敷居を跨ごうとした瞬間に天罰(雷)が落ちる仕様になった。

 おかげで、しつこかったスパイや盗賊団は寄り付かなくなった。
 名実ともに、ここは人が住む場所を超えた『神域』となっていた。

「平和だなぁ」

 俺は縁側で、神気がたっぷり詰まった極上のトマトを齧りながら呟いた。
 隣では神様が「このトマト最高! 天界に輸出しよう!」とはしゃぎ、反対側では魔王の娘と王女が「おじ様の隣は私ですわ!」と定位置争いをしている。

 騒がしいが、まあ、悪くない日常だ。
 ――そんな時だった。

「お、おーい! ジン! いるかー……っ!」

 結界の外から、悲痛な叫び声が聞こえた。
 声の主は、ボロボロの鎧とマントを羽織った男たち。
 見覚えがある。いや、見間違えるはずもない。

「……勇者ライオネル?」

 かつて俺を追放した元パーティメンバーたちだ。
 リーダーのライオネルを筆頭に、魔導師のルル、剣士や聖女、全員が揃っている。

 だが、その姿は以前の栄光とは程遠かった。鎧は傷だらけ、服は薄汚れ、顔には疲労と絶望の色が濃く滲んでいる。完全に浮浪者のそれだ。

「な、なんだここは……!? 結界? 入れないぞ!?」
「おいジン! 俺たちだ! 仲間だろ! 中に入れてくれよ!」

 ライオネルが結界をバンバンと叩くが、透明な壁に阻まれて一歩も進めない。
 彼らの心に「邪な下心(ジンを利用してやろうという魂胆)」があるからだ。

「……誰ですか、あの汚い人たちは?」

 ルミナがトマトを食べる手を止めて、冷ややかに尋ねた。

「ああ、昔の知り合いだよ。俺をクビにした元上司だ」
「へぇ……」

 ルミナの目がスッと細められた。神の威圧(プレッシャー)が発動する。

「つまり、ジンさんを傷つけたアンチですね? 消します?」

 神様が指をパチンと鳴らそうとする。
 結界の外で、ライオネルたちの頭上に暗雲が立ち込め、雷鳴が轟いた。

「ひぃぃぃッ!? か、神様!?」
「それに魔王の娘まで!?」
「……ここはどうなってるんだ!?」

 勇者たちはパニックに陥り、腰を抜かした。
 世界の頂点に立つ存在が、なぜかジンの家の縁側でトマトを食っているのだ。理解が追いつかないだろう。

「……まあ待てルミナ。話くらいは聞いてやる」

 俺は立ち上がり、結界の際まで歩いていった。
 ライオネルたちは、俺を見るなり、プライドも何もかも捨てて地面に額を擦り付けた。

「ジン! いや、ジン様! 頼む! 助けてくれ!」

 ライオネルが涙ながらに訴えた。

「あの後、散々だったんだ! 飯は不味いし、野宿じゃ疲れが取れないし、荷物は重いし……。それに、国からの支援も打ち切られて、個人的に受けた依頼も失敗続きで……もう食うにも困ってるんだ!」

 自業自得だ。
 俺は冷たい目で彼らを見下ろした。そして、ふと疑問を口にする。

「……お前ら、あのあと解散したんじゃなかったのか? 森で仲間割れしてただろ」

 俺の指摘に、ライオネルが顔を歪める。

「行く当てがなかったんだよ! 世間の風当たりが強すぎて、結局こいつらと身を寄せ合うしかなかったんだ!」

 後ろに控えるルルが、気まずそうに目を逸らした。かつて俺を罵倒した彼女だが、今はボロボロのローブを纏い、痩せこけている。

「……悔しいけど、一人じゃ野垂れ死ぬし……」

 要するに、プライドよりも食欲と生存本能が勝ったわけか。
 一度は喧嘩別れしたが、貧困という現実の前に、嫌々ながらも再結成(腐れ縁)してここへ来たらしい。

 落ちぶれるところまで落ちたな。

「頼む! 俺たちを……俺たちをここで雇ってくれ! 畑仕事でも雑用でもなんでもする! だから、飯と寝床を恵んでくれぇぇぇッ!」

 かつて世界を救うと豪語していた勇者パーティが、土下座して「農作業員」への再就職を願う姿。

 これ以上の「ざまぁ」はないだろう。
 俺は少し考えた。
 こいつらを助ける義理はない。だが、畑が拡大して人手不足なのは事実だ。エルフたちは建築専門だし、ローズや王女は戦力外だ。

 腐っても元Sランク冒険者。体力と単純な戦闘力だけはある。こき使うには丁度いいか。

「……はぁ。分かったよ」

 俺はため息をつき、結界の通過権限を一時的に許可した。

「雇ってやる。ただし、条件がある」

 俺は指を三本立てた。

「一つ、給料は現物支給、三食の飯と寝床のみ。二つ、俺やここの住人の命令には絶対服従。三つ、過去の栄光は捨てろ。お前らは今日からただの『下っ端農民』だ」

 屈辱的な条件だ。だが、彼らに選択肢はない。

「あ、ありがとうございます! 一生ついていきます!」

 ライオネルたちは涙を流して感謝した。

「よし、早速仕事だ。そこの畑の開墾、今日中に終わらせろ。できなきゃ晩飯抜きだ」
「は、はいっ! 喜んで!」

 元勇者たちは、ボロボロの剣をクワに持ち替え、泥だらけになりながら畑を耕し始めた。

 その様子を見ながら、ルミナが満足げにトマトを齧った。

「ふふっ。アンチがファンに変わる瞬間ですね。ジンさん、さすがです!」

 こうして、俺の聖域に新たな労働力(元勇者)が加わった。
 神、魔王、王族、エルフ、そして勇者。
 世界中の重要人物が、一つの畑に集結してしまった。

「……本当に、ただのスローライフがしたいだけなんだけどな」

 俺のぼやきは、賑やかな喧騒にかき消された。
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