「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽

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第47話:魔王から招待されたので、魔界へ行くことにした

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 聖域に、少し早めの夏が訪れようとしていた。
 俺は縁側で、冷やしたダンジョン産スイカを齧りながら、庭で遊ぶフタバ(7歳)とポチ(ケルベロス)を眺めていた。

「ポチー! とってこーい!」
「「「ワンッ!!」」」

 フタバが投げた骨(ドラゴンの食べ残し)を、ポチが3つの頭を揺らしながら追いかける。
 平和な光景だ。
 だが、ここ数日、ポチの様子が少しおかしかった。
 時折、庭の隅っこで地面を掘っては、悲しげに「クゥ~ン……」と地底に向かって鳴いているのだ。

「……ホームシックか?」

 ポチは元々、魔界原産の魔獣だ。
 フタバに拾われて幸せそうだが、やはり生まれ故郷が恋しいのかもしれない。

 そんな時だった。
 リビングに置いてあった、ローズの私物である通信魔道具――通称『魔界フォン』が、どす黒いオーラを放ちながら震え出した。

 ジジジジジジ……ッ!

「キャッ!? またお父様ですわ!」

 ローズが嫌そうな顔で受話器を取る。
 すると、スピーカーから鼓膜を破らんばかりの怒号――ではなく、猫撫で声が響いた。

『おお、ローズよ! 愛しの娘よ! 元気にしておるか? パパは寂しくて死にそうだぞ?』

 魔界の支配者、魔王ヴェルザードだ。
 彼はすっかり孫(フタバ)と娘(ローズ)の溺愛モードに入っていた。

「お父様、いちいち連絡してこないでくださいまし。今はジン様との愛の巣で忙しいんですの」
『つれないことを言うな! それより、フタバちゃんは元気か? ちゃんとご飯は食べてるか? 世界を何個か滅ぼしたりしてないか?』
「フタバなら、今そこでケルベロスと遊んでいますわ」

 ローズが窓の外へ視線を向けると、魔王の声がワントーン上がった。

『なんと! ……なぁローズよ。そろそろ一度、フタバちゃんを連れて帰ってこんか? パパ、孫に会いたくて夜も眠れんのだ。魔界の暑さも忘れるほどに』
「嫌ですわ。魔界は環境が悪いですもの。フタバちゃんの肌に合いません」

 ローズが切ろうとすると、魔王が必死に叫んだ。

『待て! 待ってくれ! タダで来いとは言わん! 今、魔界では「千年に一度の大獄炎祭り」の最中なのだ! 屋台も出るぞ! 最高級の「ドラゴン・ステーキ」や「マグマ焼きそば」も食べ放題だ!』

 ピクリ。
 庭で遊んでいたフタバの耳が動いた。

「……おにく?」

 フタバが音速で窓から飛び込んできた。
 金色の瞳をキラキラさせて、通信機に叫ぶ。

「じいじ! おにく、あるの!?」

 その声を聞いた瞬間、向こう側で「グハッ(尊死)」という音がして、魔王の声がデレデレになった。

『おお、フタバちゃんか! あるぞ! 山ほどあるぞ! じいじの城に来れば、お腹いっぱい食べさせてあげるぞ~!』
「いくー! フタバ、まかい行くー!」

 即決だった。
 フタバは俺の方を向き、期待に満ちた目で訴えかけてきた。

「パパ! まかい行こう! ポチも、おうち帰りたいって!」
「「「ワンワンッ!(里帰り!)」」」

 ポチも尻尾をブンブン振っている。
 ローズが困ったように俺を見た。

「どうされます、ジン様? 魔界は人間にとっては過酷な環境ですわ。空気は毒ですし、水は沸騰してますし……」
「うーん……」

 俺は少し考えた。
 毒や熱さは、俺の重力結界やルミナの加護があればどうにでもなる。
 それより気になったのは、以前送られてきた「魔界の食材」だ。あの『地獄大根』や『魔豚』が育つ土壌……。

「……魔界の土、か」

 俺は農家としての興味をそそられた。
 火山灰が降り積もる魔界の土壌は、ミネラル豊富な肥沃な土地である可能性が高い。
 新しい作物のヒントがあるかもしれない。

「よし。行くか」

 俺は立ち上がった。

「たまには家族旅行も悪くない。ポチの里帰りも兼ねて、魔界のじいじに会いに行くぞ」
「わーい! りょこう!」

 こうして、聖域一行による魔界ツアーが決定した。

 数分後。

 ローズが庭に巨大な魔法陣を描いた。

「では、繋げますわよ。『界渡りのゲート』・魔界接続!」

 ズゴゴゴゴ……ッ!!

 空間が裂け、赤黒い渦が現れた。
 渦の向こうからは、熱風と硫黄の匂いが漂ってくる。

「おじ様、準備はよろしくて?」
「ああ。みんな、手荷物は持ったな?」

 俺(リュックに調理器具)、フタバ(おやつ)、ローズ、アイリス、ルミナ(観光気分)、そしてペットたち。
 全員でゲートへ飛び込んだ。

 ――ヒュンッ。

 視界が一瞬暗転し、次の瞬間。
 俺たちの目の前には、この世のものとは思えない光景が広がっていた。

 空は血のように赤く、雲は黒い煤煙。
 大地はひび割れ、そこかしこから溶岩が噴き出し、川となって流れている。
 遠くには、刺々しい黒曜石で作られた巨大な城――魔王城がそびえ立っていた。

「うわぁ……本当に地獄だな」
「暑いですわ……! お肌が乾燥します!」

 アイリスが悲鳴を上げる中、俺は地面にしゃがみ込み、ひび割れた黒い土を手に取った。
 熱い。だが、指で擦り合わせると、しっとりとした感触がある。

「……ほう」

 俺の目が光った。

「素晴らしい。窒素、リン酸、カリウム……それに地熱によるエネルギー循環。ここは最高の『火山性土壌』だぞ」
「えっ、そこですの!?」
「パパ! あそこ! おにく!」

 フタバが指差した先では、全身が炎に包まれた牛(バーニング・カウ)が、溶岩の畔で草を食べていた。
 天然の調理済み食材だ。

「よし。まずは挨拶がてら、あの城まで行くか」

 俺たちは魔王城へ向かって歩き出した。
 その道中が、魔界の住人たちにとって悪夢の始まりになるとは知らずに。
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