睡蓮

Lilly/カナコ

文字の大きさ
1 / 17

第1話

しおりを挟む

床についてもなかなか寝付けない夜はセンチメンタルな気分になりがちだ。

堀木はベッドの上で二転、三転寝返りを打ちながら眠れぬ夜を過ごしていた。

頭の中に浮かぶのはかつての恋人の面影だ。

彼は、隣で眠る恋人の穏やかな寝息を聞きながら眠るのが好きだった。

何も考えず、満たされた気持ちの中で漂いながら恋人の呼吸に合わせていると、徐々に意識
がとろけてゆき、いつの間にか眠りに落ちている。

俺はあいつがいなくなってから眠り方を忘れてしまった。
どうして俺を置いていってしまったの?
お前に会いたいよ、たかひろ…。

堀木はパジャマのズボンを膝まで下ろすと、ベッドの上でうつ伏せになった。

彼の恋人に対する想いが固く、大きく膨張し、震えている。

彼はペニスに手を伸ばして、ゆっくりとしごき始めた。

あぁ…たかひろ…またお前に抱かれたい。

快感の波が徐々に大きくなっていき、まさに絶頂に達しようとした時、玄関の方からガチャガチャと鍵を開ける音がした。

たかひろだ。来てくれるなら連絡ぐらい入れてくれればいいのに。

堀木はズボンを履き直してベッドから出ると、玄関へと向かった。

たかひろはスーツケースを片手に持ったまま、靴を脱いでいる。

たかひろ、ずっとお前に会いたかった。
また会えるなんて夢のようだ…。

「おかえり、たかひろ」

感極まった堀木はたかひろの手を握った。

堀木はこの上なく幸せな気持ちだった、この瞬間までは。

「イカ臭い手で触らないで下さい、サカリのついた豚野郎」

たかひろは冷たく言い放つと、堀木の手を振りほどいた。

…なんで?怒ってる?

たかひろは有無を言わさず堀木の股間に膝蹴りを加えた。

「うっ…」

くぐもったうめき声をあげながら、堀木は股間を押さえてその場にうずくまった。

「なぁ、おいあんた、浮気しただろ、大野って奴と」

「…どうして大野くんの事知ってるの?」

「質問してるのは僕の方ですよね、浮気したんでしょ?はいかいいえで答えて下さい」

たかひろは壁にもたれて腕を組んだまま、堀木を見下ろしている。

顔面は蒼白で、いつにもなく瞬きを繰り返しながらぽってりとした厚い唇を震わせている。

やばい、これは本気で怒っている。

長い付き合いの中で、彼がここまで怒っている姿を堀木は初めて目の当たりにした。

「…はい、浮気しました、ごめんなさい」

「はあ…やっぱりね。見て下さいよ、この写真」

たかひろは床にしゃがみ込んで、堀木の顔の前にスマートフォンを突きつけた。

そこに映っていたのはベッドに腰掛けて切なげな表情の堀木と、後ろから堀木を抱きしめながら勝ち誇ったような笑みを浮かべた大野の姿だった。

「先週その大野明仁さん?って方から仕事用のアドレスにメールが来てたんですよ。写真からは事後か前か分かりませんけど、寝たんですよね?その人と。どうして?」

「だって、淋しかったんだもん…。」

「寂しい?それはあなたの感想ですよね。あなたは自分の性欲に負けただけでしょ。
チンコが欲しくてたまらなかったんでしょう?
そんなに尻が淋しいなら、根菜でも挿入れてればいいじゃない。
あなたなら大根も挿入るんじゃないですか?」

たかひろは蔑んだような笑みを顔に貼りつけたまま、一方的にまくし立てた。

「ひどい!人の気も知らないで好き勝手なことばっかり言いやがって。お前だって俺のことを言えるのか?
どうせ嫁さんと毎晩やってるんだろ、ずるいよお前ばっかり。
俺だって…俺だってお前と一緒にいたかったのに、どうして俺じゃダメなの?
俺の知らない間に彼女作ったと思ったら、結婚するからって、急に出て行きやがって…。
俺のことなんてもうどうでもいいんだろ、なのになんで束縛しようとするの?」

そう言うと、堀木はうずくまったまま泣き出した。

たかひろは腕を組んで床に座り込んだまま、ずっと黙って聞いていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【完結】  同棲

蔵屋
BL
 どのくらい時間が経ったんだろう 明るい日差しの眩しさで目覚めた。大輝は 翔の部屋でかなり眠っていたようだ。 翔は大輝に言った。  「ねぇ、考えて欲しいことがあるんだ。」  「なんだい?」  「一緒に生活しない!」 二人は一緒に生活することが出来る のか?  『同棲』、そんな二人の物語を  お楽しみ下さい。

処理中です...