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決戦前日
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すぐに戦になる可能性否めへんし、西軍の各々に指示を出しわいらは向かう。景勝、大丈夫か? 今助けに行くさかい。
馬にまたがり片手に行灯持ってただでさえ見通し悪い暗がりの中、わいら進んだ。半刻は進んどるが、無事なんやろか。急がなあかん。
「殿、夜が明けてきましたね」
と、左近が言うわ。
「せやな、そろそろ行灯は捨ててええやろ。見えるか? 吉継」
「ああ、案ずるな三成」
吉継は目が悪く、この霧で馬にも問題ない速さで乗りこなしついてきてくれるんわ関心や。
「吉継、ほんまに大丈夫なんか?」
「三成よ、俺は剣の腕たつことをおぬしが知っとるであろう」
吉継は盲目に近い状態になったことで剣の腕前がますます神経研ぎ澄まされとんのはわいも知っとる。
「せやな、なら馬から降りるで」
と、先頭のわいは手綱を引いた。
霧のむこうにうっすら馬上の陰が見えるわ、複数名おる。あやしいな。わい含む四人の男は馬から飛び降りると、刀の鯉口切りつつ進むわ。
「では、拙者がまず参るわ!!」
「まて! 源次郎!」
源次郎が行くのをわいが止めた。旗印はたしかに見えるが紋は見えへんし、まだ敵か味方かもわからんやろ?
「秀吉様の饅頭は」
「………」
西軍か東軍か見分ける合図や。これは決めとったわ。これにわいらの西軍であれば「餡を多めに」と答えるはずや。
一斉に散るように逃げおったわ。
「兄弟! 怪我はないか?」
景勝は
「兄弟、遅れてすまなかった」
と言ったが、なにかを迷っとるような様子は隠せへん。
ここで足止めくらっとったのはどういうわけや? あんだけ囲まれて敵中一人でおって無傷やし。
「今のどこのもんや?」
「あ、あれか? 小早川金吾だ」
なんや景勝、信じられん日本語やなそれ。考えられへんで? 奴の軍は前々からとある山で待機させるよう命じてまったく別んとこにおるよう言っとったはずやで。
「なんやて? どないしたん?」
「あいつらは俺を家康につかないか? と言いくるめようとしたぜ、兄弟」
そのありえへん景勝の返答にわいは目を剥いて充血してまうやろ。
「兄弟を……やと……?」
金吾は秀吉様の義理の息子に当たり、秀吉様の亡き後は関白になるという話をしたわ。それをあのアホンダラは家康に犬に成り下がるやと?
「あやつめ許すまじっ……! なんとしても、この俺が自ら手を下し、殺さねばならぬわ……!」
これに真っ先に怒りを一番表したのは意外にも吉継やったわ。尋常やないほどにわなわな震えとるわ。わかったわ、まかせるで吉継。
この夜仕方なく山小屋で五人で酒宴しとるわ。明日はめいめいに散らばって軍の指揮するわ。関ヶ原へはそれぞれの軍向かっとるはずやし。
「兄弟、金吾めになんと言って引き込もうとされたんや?」
わいはあの阿呆面を金吾殿と呼んでやっとったがもうええやろ。で、肝心の景勝に尋問するように訊いたわ。返答によってはここで絶好や、兄弟。否すでにそうやろ。この事態では刀抜いて殺し合いになることすら厭わんやろ。
「いやな、家康が俺につけばいい石高の領土をくれると言ってんだとよ。兄弟」
正直やな景勝は。せやけどそれすらうまい話やと思わへんか? かと言ってあの場で足止めくってその話すらほんまかわからへんし。なによりあれが敵に寝返ったとしたならば、大群に囲まれ無傷なとこが怪しいねん。
「それは迷っとる目やな? 景勝」
わいは念のためこいつをもう兄弟と呼ばへんことに決めたわ。
「目がくらんでなどいねえぜ? 兄弟」
景勝はまっすぐわいを見るわ。まるでこれまで通りのいつものお前やがわいは心を鬼にすると決めたわ。
「少しでも信用ならん奴は仲間にしとくわけにいかへんのや、景勝」
「……わかった、三成」
わいの突き放した言葉に一瞬景勝の瞳が揺れたわ。そんで目え閉じて立ち上がり袴についた藁を払うわ。そんで何も言わず去るわ。
「何処へ行く?」
わいが用心して訊ねれば景勝めは足を止めて踵を返した。知っとる。敵なら答えるわけあらへんよな。
「またいずれ信用してもらえるだろう。決着がついたときに互いの命あればまた会おうってことだ」
満面の笑みだけを残して景勝は去ったわ。せやけど姿見えへんくなったからには追うわけに行かへんし、場所も変えるしかないやろな。疑った以上は寝込んだとこいつ暗殺されるかわからへんやろ。
半刻ほどすれば酒樽は空になったわ。
わい、後悔しとんねん。兄弟疑ったことを。正直に言ってくれたのはええが、金に目がくらんで揺れたんやし。この心痛むが仕方ないやん。
「各々、無事でまた会おうな!」
「おのれ金吾、豊臣の恥知らずめがっ……! この俺が死を与えねばなるまい……!」
「拙者は秀吉様への感謝を忘れる者どもを容赦なく殺すでござる!」
「俺は必ずしも逆賊、家康の首をとる!」
円陣組んで喋ったのは順にわい、吉継、源次郎、左近や。気合入っとるでみんな、頼もしい限りやなこいつらまったく。
次に盃交わすのわ勝利の宴んときやな。
わいら四人は少し眠り、空が明るみ始めた頃にそれぞれの兵の待つ陣地へと出発した。
昨晩は一瞬完全に霧が晴れたような気ィしたし月と星空見えたんやが、また霧がかった朝や。まあええか。わいはそこまで気にせず馬の横腹蹴って走るわ。
馬にまたがり片手に行灯持ってただでさえ見通し悪い暗がりの中、わいら進んだ。半刻は進んどるが、無事なんやろか。急がなあかん。
「殿、夜が明けてきましたね」
と、左近が言うわ。
「せやな、そろそろ行灯は捨ててええやろ。見えるか? 吉継」
「ああ、案ずるな三成」
吉継は目が悪く、この霧で馬にも問題ない速さで乗りこなしついてきてくれるんわ関心や。
「吉継、ほんまに大丈夫なんか?」
「三成よ、俺は剣の腕たつことをおぬしが知っとるであろう」
吉継は盲目に近い状態になったことで剣の腕前がますます神経研ぎ澄まされとんのはわいも知っとる。
「せやな、なら馬から降りるで」
と、先頭のわいは手綱を引いた。
霧のむこうにうっすら馬上の陰が見えるわ、複数名おる。あやしいな。わい含む四人の男は馬から飛び降りると、刀の鯉口切りつつ進むわ。
「では、拙者がまず参るわ!!」
「まて! 源次郎!」
源次郎が行くのをわいが止めた。旗印はたしかに見えるが紋は見えへんし、まだ敵か味方かもわからんやろ?
「秀吉様の饅頭は」
「………」
西軍か東軍か見分ける合図や。これは決めとったわ。これにわいらの西軍であれば「餡を多めに」と答えるはずや。
一斉に散るように逃げおったわ。
「兄弟! 怪我はないか?」
景勝は
「兄弟、遅れてすまなかった」
と言ったが、なにかを迷っとるような様子は隠せへん。
ここで足止めくらっとったのはどういうわけや? あんだけ囲まれて敵中一人でおって無傷やし。
「今のどこのもんや?」
「あ、あれか? 小早川金吾だ」
なんや景勝、信じられん日本語やなそれ。考えられへんで? 奴の軍は前々からとある山で待機させるよう命じてまったく別んとこにおるよう言っとったはずやで。
「なんやて? どないしたん?」
「あいつらは俺を家康につかないか? と言いくるめようとしたぜ、兄弟」
そのありえへん景勝の返答にわいは目を剥いて充血してまうやろ。
「兄弟を……やと……?」
金吾は秀吉様の義理の息子に当たり、秀吉様の亡き後は関白になるという話をしたわ。それをあのアホンダラは家康に犬に成り下がるやと?
「あやつめ許すまじっ……! なんとしても、この俺が自ら手を下し、殺さねばならぬわ……!」
これに真っ先に怒りを一番表したのは意外にも吉継やったわ。尋常やないほどにわなわな震えとるわ。わかったわ、まかせるで吉継。
この夜仕方なく山小屋で五人で酒宴しとるわ。明日はめいめいに散らばって軍の指揮するわ。関ヶ原へはそれぞれの軍向かっとるはずやし。
「兄弟、金吾めになんと言って引き込もうとされたんや?」
わいはあの阿呆面を金吾殿と呼んでやっとったがもうええやろ。で、肝心の景勝に尋問するように訊いたわ。返答によってはここで絶好や、兄弟。否すでにそうやろ。この事態では刀抜いて殺し合いになることすら厭わんやろ。
「いやな、家康が俺につけばいい石高の領土をくれると言ってんだとよ。兄弟」
正直やな景勝は。せやけどそれすらうまい話やと思わへんか? かと言ってあの場で足止めくってその話すらほんまかわからへんし。なによりあれが敵に寝返ったとしたならば、大群に囲まれ無傷なとこが怪しいねん。
「それは迷っとる目やな? 景勝」
わいは念のためこいつをもう兄弟と呼ばへんことに決めたわ。
「目がくらんでなどいねえぜ? 兄弟」
景勝はまっすぐわいを見るわ。まるでこれまで通りのいつものお前やがわいは心を鬼にすると決めたわ。
「少しでも信用ならん奴は仲間にしとくわけにいかへんのや、景勝」
「……わかった、三成」
わいの突き放した言葉に一瞬景勝の瞳が揺れたわ。そんで目え閉じて立ち上がり袴についた藁を払うわ。そんで何も言わず去るわ。
「何処へ行く?」
わいが用心して訊ねれば景勝めは足を止めて踵を返した。知っとる。敵なら答えるわけあらへんよな。
「またいずれ信用してもらえるだろう。決着がついたときに互いの命あればまた会おうってことだ」
満面の笑みだけを残して景勝は去ったわ。せやけど姿見えへんくなったからには追うわけに行かへんし、場所も変えるしかないやろな。疑った以上は寝込んだとこいつ暗殺されるかわからへんやろ。
半刻ほどすれば酒樽は空になったわ。
わい、後悔しとんねん。兄弟疑ったことを。正直に言ってくれたのはええが、金に目がくらんで揺れたんやし。この心痛むが仕方ないやん。
「各々、無事でまた会おうな!」
「おのれ金吾、豊臣の恥知らずめがっ……! この俺が死を与えねばなるまい……!」
「拙者は秀吉様への感謝を忘れる者どもを容赦なく殺すでござる!」
「俺は必ずしも逆賊、家康の首をとる!」
円陣組んで喋ったのは順にわい、吉継、源次郎、左近や。気合入っとるでみんな、頼もしい限りやなこいつらまったく。
次に盃交わすのわ勝利の宴んときやな。
わいら四人は少し眠り、空が明るみ始めた頃にそれぞれの兵の待つ陣地へと出発した。
昨晩は一瞬完全に霧が晴れたような気ィしたし月と星空見えたんやが、また霧がかった朝や。まあええか。わいはそこまで気にせず馬の横腹蹴って走るわ。
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