シーラの工房

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シーラは手元にあるルースの中で、エメラルドと相性の良い石がないか思い浮かべる。
お師匠様がくれたり、お土産でもらったり、シーラが自分で採集した、いくつもの石達を。

その中で、エメラルドと一緒になっても上手に過ごせるのは…。
「オニキス、ムーンストーン、かな?」
工房の奥にある、私室に行くために「少し席を外します」と断りを入れる。

2人は特に気にしていないようで、快く了承してくれた。
工房の奥の使用空間に行き、引き出しを開ける。
色とりどりの石達が、ずらっと並んでいる。

『どうしたの?』
『何かあったの?』
『用事?』
『急いでいるの?』

お喋りな石達に、「そう、急ぎの用事なの」と返答し、置いてあったオニキスとムーンストーンを手にする。
「急だけど、今すぐ会ってほしい石がいるの。良いかな?」

『分かった』
オニキスは、言葉が少ない。
どちらかと言うと、寡黙な男性のようなタイプだ。

『そうね、大丈夫よ』
ムーンストーンは、話すのがゆっくりだ。
こちらは、おっとりとした女性のようなタイプ。

他にも、オニキスとムーンストーンはいるけれど、直感で選んだ2つ。
大きさや性質を考えて、これが良いとすぐに判断できた。
石達は、ここでの生活に不満はないようだけど、加工する時には必ず了承を得るようにしている。
2つの石が納得してくれたことで、とりあえず安心した。

「ありがとう。ただ、無理にではないからね」
『えぇ、勿論よ』
ムーンストーンが優しい口調で答えてくれた。

エメラルドが元々口数が少ないので、相性としては、どちらでも大丈夫だろう。
ちなみにエメラルドは、凛々しい女性のようなタイプだろう。
そう、今工房にいる騎士様のような感じだ。

エメラルドと共に、この先の時間を過ごすことを考えてもらい、2つの石にもお伺いを立てないといけない。
実際に対面してもらう方が、きっと話は早いから。
ルースの石達は、いつ加工されても良いような状態にしてある。

いつものことだ。
石を研磨し、その後に加工しやすいように形を整えるのは。
手にした2つの石は、エメラルドに比べるととても小振りだ。

「あのね、呪いの発動で欠けてしまったエメラルドがいるの」
『呪いで?』
オニキスの言葉は、怪訝そうだ。

「そうなの、だから欠けた部分に、オニキスかムーンストーンにサポートに入ってほしいと思って」
『相手のエメラルドは、共存に賛成なの?』
ムーンストーンの言葉に、頷く。

「私の良いように加工して構わないって」
『そう』
「もう、呪いは霧散しているけれど、再度呪いがかかってもそれを跳ねのけるように加護を強くしたいなって思って」

私は少し興奮していたのだろう。
「オニキスとムーンストーンなら、どちらも加護が強いから」
そう、守ることに長けている石達。
「更に重ねて加護をかけたいの」

『どれだけ強い石を創ろうとしているの?』
ムーンストーンの言葉には、やや呆れた口調が響いていた。
「だって、また何か想定外のことがあったらって思うと、落ち着かなくて…」

『見てからだな』
オニキスの言葉に、「そうだね」と返答する。
エメラルドも、騎士様もきちんと守れるブローチに強化を。
私は、久々の加工にやる気を募らせていた。
工房に戻ると、2人は興味深そうにトパーズを覗き込んでいた。

「お待たせしました」
「ねえ?シーラはこの宝石をこれから加工するの?」
セリーヌ様の言葉に、こくりと頷く。
「はい、新しく仕入れた物ですし、相談中ですが…」

「とても良い状態ね」
セリーヌ様の言葉に、今度は強めに頷く。
「はい、加工するのが楽しみです」

トパーズは自分に視線が集まり、満更でもない様子だった。
『私のような、純度の高い石は、何に加工しても引き立つでしょうね』
声は聞こえていないだろうが、セリーヌ様も騎士様もトパーズの価値をしっかり分かっているようだった。

「シーラは、何に加工したいとか希望はあるの?」
セリーヌ様の言葉に、思わずトパーズを見る。
私のしたい加工は、シンプルにネックレスだった、はず。
『え?あなたの好きな装飾品?』

トパーズの言葉に、どう答えたら良いのだろう。
好きな装飾品と言うわけではない。
ただ、このトパーズはシンプルなネックレスが似合うと感じただけのこと。

伝えたところで何も変わらないという気持ちもあるし、わざわざ言うほどでもと思う気持ち。
言っても言わなくても、どちらでも良いが。
これは、言う方向なのだろうか?

トパーズも、何か期待しているように見える。
特別なことは、何もない加工だけれど…。
「あの、まだトパーズとは相談していないですが…」

「あら、そうなの?」
「はい、私個人としては、このままの輝きと存在感を示せるネックレスが良いのかなぁ…と」
「ステキじゃない!」
セリーヌ様の言葉は弾んでいた。

「それは、他の装飾も考えてかしら?」
「えぇと」
「何か付けたり、加えたりするの?」

ワクワクという言葉が聞こえてきそうな、セリーヌ様の表情。
『私の加工を考えているなら言ってよね』
トパーズも、意外に受け入れているような言い方だった。

あんなに、“勝手に決められたくない”という雰囲気だったのに。
「あの、シンプルにトパーズのみを主張するような、プラチナやシルバーの細い鎖で輝きを放てる留め方をしたい…かなぁ、と」

「良いわぁ!こんなに大きくて純度の高いトパーズですもの、胸元ですごく煌めくでしょうね」
まだ加工もしていないのに、セリーヌ様はとても喜んでいた。
小さく手を叩き、はしゃいでいる。

その姿はまるで、小さな女の子のように無邪気だった。
側で観ている騎士様も、心なしか顔が緩んでいる。
「ね、あなたも良いと思わない?」

後ろで控えている騎士様に、楽しそうにそう尋ねる。
「まだ、出来てもいないものですし…」
騎士様の言うことは、確かだった。

「あら?良いじゃない!女性なら、誰だってステキな装飾品に憧れを抱くでしょう?ガラスケースの向こう側で輝いている宝石も、滅多に手に入らない希少石も、ステキな加工が施された装飾品も…。自分が手にしたら、どうやって合わせようかしら?どうやったらもっとステキに見えるかしらって…」

セリーヌ様の勢いに、騎士様は苦笑を浮かべる。
「分かりました。セリーヌ様が装飾品に並々ならぬ思いを持っているということは…」
「そうでしょう?どんなふうに出来るのか考えて、デザインとかを見て手元に届くのを期待する。なんてステキなんでしょうね、待つ時間すらも楽しみで仕方ないと思うの」

「はい。しかし、まずは私のブローチのことに、職人殿の意識を持って行ってほしいのですが…」
言われた言葉にハッとする。
手にしたままのルースも、無言だったけれどきっと呆れていたのだろう。

「すみませんでした」
「いいえ、とても楽しい時間だったわ。できたら、そのトパーズが完成した所を見たかったけれど、残念だわぁ」
セリーヌ様の言葉に、申し訳ない気持ちになる。
お師匠様が持ってくる石は、すでに購入者が決まっているから。

セリーヌ様が私を知っているということは、持ち主が既にいることも知っているのだろう。
残念そうな顔に、私も申し訳ない気持ちになっていく。
セリーヌ様の期待に応えられないことが、心苦しい。

「申し訳ないです」
「いいえ。だって、巡り合える可能性があるのだもの。期待して待つわ」
朗らかに笑う顔に、私もようやく笑って頷いた。

まだ完成していないトパーズと会える楽しみ。
セリーヌ様の言葉に、私は早くトパーズと相談したい気持ちになった。
でも、まずは騎士様の言う通り、エメラルドが先だ。

エメラルドと、2つのルースをお互いが認識できるように同じ場に並べる。
『職人殿は、何をしようとしているのか』
エメラルドは、少し期待を込めたような呟きを漏らす。

『初めまして、私はムーンストーンと言うの』
『初めまして。エメラルドと申す』
『オニキスだ』

『職人殿が進めてくれるということは、共に生きる相手という認識で良いのかと思うが』
エメラルドは饒舌だった。
『呪いと聞いたが、それは今後も起こる可能性が?』

オニキスの言葉に、エメラルドが少し困っていた。
『私達は、加護の力が大なり小なり備わっているわよね。なら、今後も起こることが想像できるわねぇ』
答えないエメラルドの代わりなのか、ムーンストーンがそう言った。

『私は、出来れば平穏に暮らしたい』
オニキスは、微かな拒否を示した。
呪いという言葉が、どうにも気になっているようだ。

『そうね、気持ちが伴わない加護は、中途半端になってしまうわ』
ムーンストーンが、おっとりとした言葉を紡ぐ。
『もう少し時間をかけないと、覚悟は決まらないと思う』

オニキスは、自分でそう判断していたようだった。
この3つの中で、一番若いのはオニキスだ。
古さのみで言ったら、ムーンストーンがダントツでトップだった。

経験、その一言に尽きる。
年数の経過による、石の熟成。
ムーンストーンは、お師匠様がくれた物だ。

『よろしくね、小さな職人様』
初めて会った時から、私をきちんと職人と見てくれた。
加護を込めると、乳白色の石が透明な輝きを増していった。
子ども心に、なんて綺麗で柔らかい色なんだろうと高揚したのを覚えている。

『私にできることを、しっかり全うしたいのよ』
いつだったか、そういう話をしてくれた。
この場所への執着もなければ、新しい居場所への希望もない。

本当に、運命に委ねているような飄々とした印象なのが、彼女だった。
石なので、彼女と表現しても良いのか分からないけれど…。
でも、私にとってはずっと頼りになるお姉さんのような存在。

もしかしたら、いくつかの修羅場を潜り抜けてきた可能性だってある。
石の経過年数なんて、気にしたことがなかったけれど。
縁があったから、今この場所に留まっているだけのこと。

分かっている。
石との巡り合いも、出会いも全ては運命だ。
魔女の山で採集する石を見る度に感じること。

どこまでが、自分の手元に残るのだろう。
いつまで、この石達を留めておけるのだろう。
でも、全ては運命に導かれているのだろう。

私の手元を離れる時も、その加護が永遠に続くことをしっかりと願っている。
だからこそ、石の気持ちを優先したい。
石達のやりとりを、見届ける。

『申し訳ない。力になれなくて』
オニキスの言葉に、エメラルドが『いいや』と答える。
『まだ、力不足だと思う自分が、確かにいるんだ』

オニキスの言葉に、“自分では役に立たないのではないか?”があった。
だから、エメラルドも、無理強いをしない。
オニキスに自信があれば、また違ったのかもしれない。

自分とは異なる石を前にして、オニキスは自然と悟ったのだろう。
まだ自分では力になれないことを。
自分とは異なる力を見たのかもしれない。

『では、ムーンストーン殿は…』
『いいわ、そんな堅苦しくならないで。これから相棒になるのなら、ムーンでもストーンでも好きに呼んでくれて』
『ありがたい。これで、主をまだ守れる。本当にありがとう』

エメラルドの言葉に、ムーンストーンが笑った、気がした。
「なら、ムーンストーンを欠けた部分に嵌めるように少しだけ表面の形を整えても良い?」
私の言葉に、エメラルドは『なるべく時間をかけずに』と聞き覚えのある言葉を言った。

かつて、何度も言われた言葉。
方向が決まったら、その意思は揺るがない。
三日月模様のエメラルドは、その左端が欠けている。

欠けているというより、そこが破裂したような形状だった。
石なのに破裂。
だから、呪いなのだろう。

不測の力が働いて、石が破損したのだろう。
でもその欠けている部分に樹脂を入れ、これ以上破損が進まないように1度加護を込める。
その後で、クッション材になるような接着剤を合わせれば、丸いムーンストーンが綺麗に嵌まる。

三日月の上の部分に、乳白色のムーンストーンがすっぽりと収まる構図だ。
エメラルドの透き通った石の上部に、半透明なムーンストーン。
うん、良い感じだ。

センスがあるかないかは、置いといて。
元々、合わせたかのような誂えになることだろう。
後は今日の夜に、しっかりと加護を込める。

加護と言う名の祈り。
持つ人の、安寧と幸せを願い、込める想い。
私の中での段取りは、確実に決まり始めていた。

あとは、実行に移すのみ。
この加工は、きっと綺麗にできるだろう。
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