聖女を解雇された私のハーレム奮闘記

小村辰馬

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フェンデルンの王都、セレディアは城門を抜けてすぐだ。
石造りの建造物に積もる純白の雪とのコントラストが映える、荘厳かつ儚い街並みは、年の半分以上は雪景色の、この国を象徴するようで。その物悲しい景色を彩るように飾り付けられた、星海祭の華やかな装飾品が目を引く通りを見回す。

「久々に街へ出ると、どこもかしこも華やかになってますねぇ」
「ランバルドもこの時期は賑やかでしたけれど、フェンデルンの風景は雪のお陰か、一層神秘的な美しさがありますよね」

上質なカシミア素材のロングコートを身に纏い、耳当てにミトン型の手袋を付けた、防寒対策ばっちりな愛らしい姿のナターシャ嬢が、私に微笑み掛ける。
私ももこもこ起毛素材のコートにマフラー、ロングブーツを履いて完全防備だ。

ナターシャ嬢との約束の日になり、私はナターシャ嬢、カイン、フォルトと、王都セレディアの城下町へ買い物に来ていた。
城外へ外出するのは久々なので、少しそわそわする。
フェンデルンヘやって来てすぐに、カインと探索に出掛けたことはあったけれど、フェンデルンの寒冷な気温にやられて早々に撤退したのだった。

「あまりはしゃいで転ぶんじゃないぞ」
「だ、大丈夫だよ。子供じゃないんだから」
「ははっ、まるで親子だな」
「こんなに手の掛かる歳上の子を産んだ覚えはないけどな」

フォルトの茶化しに答えるカインに、ナターシャ嬢が驚きの表情を見せる。

「カイン様の方が歳下なんですか? えっと、カイン様は今年一体おいくつに……?」
「現在23歳で、今年24になります」
「えっ、えっ、ではマナカ様は……?」
「…………現在28でございます」
「えぇ~~っ!?」

そんなこんなで、歳下だと勘違いしていたことをナターシャ嬢に謝られながら、彼女御用達の雑貨屋へやって来た。
衣類からアクセサリー、食器やインテリアなど豊富な品揃えの、お洒落な店舗である。

「お姫様って、てっきり欲しいものはお取り寄せで入手されるものと思ってました」
「そういう方もいらっしゃるかと思いますが、私は市井の雰囲気に触れるのが好きなので。ランバルドにいた時も、フォルトとこうしてよく出掛けていたのですよ」
「姫様は存外我儘だからな~。目的のものが明確でない時は、本人連れて来て直接選んでもらった方が早いんだ」

相変わらず主人に対して失礼極まりないフォルトだが、ナターシャ嬢は特に気にしていない風なので良いのだろう。
ランバルド、懐かしいな。

「私達も、ランバルドの城下町によく遊びに行ってたよね」
「そうだな。流行りの飲食店が出店した時はいち早く訪問したがったよな、お前」
「う、うるさいなぁ」

横目で私を見下ろしてきたカインの視線が、何だか甘やかで、私は目の前の商品棚へ慌てて視線を移した。

なんか、なんか、カインが格好良く見える。いや元々顔は良いんだけど何だか、あの遠乗りの日から、カインの顔が直視できない。
これがもし一線を越え掛けたからの照れなら、チョロすぎるにも程があるのだけど。
今までの私は、どうやってカインのこの視線を受け止めて来ていたのだろう。

「マナカ様、良い商品はありました?」
「あ、はい。えぇと……難しいですね……」

これまで私はカインに何を渡して来たんだっけ。
確か去年は……そうだ、私の好きなケーキ屋さんの限定クッキーの詰め合わせ缶をあげたのだ。
私がもらって嬉しいもので、たまたま星海祭限定のパッケージが販売されていたので、カインにも食べて欲しくて購入したのだ。
あのケーキ屋さん、ランバルドにしかないからもう行くことはないだろうな……。

「ナターシャ様は決められました?」
「私は……そうですね……今年はこれにしようかしら」

そう言ってナターシャ嬢が手に取ったのは、短剣用の鞘飾りだった。
ちょっと無骨な男らしいデザインが、フォルトに似合いそうだ。
フォルトがナターシャ嬢の脇から手元を覗き込んできた。

「それ、姫様が使うのか?」
「いいえ、これは父上に贈るのですよ。もうじき星海祭でしょう?」
「ふーん」

唇を尖らせて、ジト目でナターシャ嬢を見下ろすフォルト。
彼女も、彼へのプレゼントとは告げずに当日のサプライズにするつもりらしい。

「うーーん、この手袋とか良いかなぁ」

焦茶の色味がシックな、革製の手袋を手に取り、眺める。カインに似合いそうだ。今カインが着用しているものは結構年季が入っていそうだし、新しいものを渡してもいいかもしれない。

「それ、お前にはサイズが大きいんじゃないか?」
「ぎくっ」

隣に立つカインに指摘を受けて、手袋を手にしたままフリーズしてしまった。
そりゃ、男性用のだから大きめサイズだよ。

「それ、殿下へのプレゼントですよね? マナカ様」
「えっ!? ……そ、そそそう! これは私のじゃなくて殿下のなの」

ナターシャ嬢のアシストに乗っかり、いけしゃあしゃあと嘘を吐く。
カインには罪悪感だけど、これもサプライズのためだ。
反応が無いカインを恐る恐る仰ぎ見ると、彼は海色の瞳を瞠目させて、呆然としていた。

「か、カイン……?」
「え? あ、ああ。そうか。うん、いいんじゃないか。……殿下も喜ぶと思うよ」
「う、うん。じゃあこれにしよっと」

何だか歯切れの悪いカインを残し、レジへ向かう。
やっぱりカインを連れての買い物は無理があっただろうか……でも出掛けるとなると、絶対に彼が同行することになるしなぁ。

買い物を済ませ、店を出ると腹の虫が声を上げた。

「マナカさま、でっかい腹の音だな」
「いや~恐縮です」
「ふふっ、昼食にしましょうか」

私達は一本筋の入った通りにある、小洒落たカフェに入った。
大通りとは打って変わった落ち着いた静けさに、窓から朗らかな日光が差し込んでいる。調度品も品が良く、デートに打ってつけの店だと思った。客層もカップルや、若い女性同士が多く、控えめな話し声が聞こえる。

「はーー店内はあったかいな」
「いい感じのお店ですね」

各々防寒具を脱ぎ、席へ腰掛ける。
ナターシャ嬢が私の隣の席へ座ると、カインは私の正面の席へ腰掛けた。

外套を脱ぐと、カインはいつものランバルドの王宮騎士団の制服であるウール素材のジャケット姿だったが、インナーはニットのタートルネックセーターで防寒スタイルだった。
カイン、頭がちっちゃくて首が長いモデル体型だから、タートルネックが似合うなぁ。

盗み見ているのがバレたのか、カインと視線が合った。

「どうした?」
「え?」
「人のことジロジロ見て」
「あ、ごめん。見慣れない服だから、かっこいいな~って思って」
「……」

閉口したかと思うと、口元に手をやり、視線を逸らすカイン。そしてみるみる顔が赤く……

「え、なに、照れてるの、」
「……そりゃ、照れるよ。俺だって」
「……」

なんだ、このむず痒い空気は。

「おーい、いちゃつくなら他所でやれよな」
「いちゃ……!?」
「腹減ったから早く頼もうぜー」

メニューを開きながら茶々を入れて来たフォルトによって、妙な空気は霧散したが。
ちら、とメニューの陰からカインを見やると、まだ耳元が赤い。
容姿を褒められて照れるなんて、可愛いところあるんだな。容姿なんて褒められ慣れているだろうに。

程無くしてそれぞれが注文した料理が運ばれて来た。
私はつなぎを一切使っていないという、お店一押しのハンバーグだ。鉄板の器からは蒸気が上がり、肉汁が弾ける音、肉の焼ける香ばしい香りと特製デミグラスソースの芳香な香りが混ざり合って、胃袋を刺激して来る。

「んんっ! おいひい!」

お肉達が、デミグラスソースと絡み合って口の中で溶けた。噛めば噛むほど肉汁が溢れ出して来るけれど、くどく無くて、良い脂だということが分かる。

「な。すげー美味いよな、これ」
「このパスタを一口あげるので私にも一口くださいな、フォルト」
「えぇ~しょうがねーなぁ」

私と同じメニューを頼んだフォルトと、クリームパスタを頼んだナターシャ嬢がお互いのメニューを交換し合っている。
わ、私達もこれやるべきか……?
今まで普通にやって来たことが、なんだかとてつもなく恥ずかしく感じる。
ちら、とカインを見やると、彼も私の方を見ていた。
そして徐にこちらに手を伸ばして来て……

長い指の背で、口元を拭われた。

「ソース、付いてるぞ」

そう言って目を細めたカインの表情が、まるで愛しいものを見るように甘やかで。カインが触れた口元に残った熱が、じりじりと痛んで。ついでに呼応するように、何だか心臓も痛くて。

どうしよう。今まで何ともなかったカインの言動が、何故かいちいち心臓に打撃を与えて来る。
このままこれまで通りの距離感で過ごしていたら、私の心臓が持つ気がしないのだが……



そんなこんなで、和気藹々と買い物を済ませた私達は、街が茜色に染まる頃、王城への帰路に着いた。
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