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第1章/

第22話:ことり’s side①追想

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 私に何度も愛のなのか何のなのか分からないけれど兎に角しつこい程に何度も告白をして来ていた藤枝先輩に諦めて貰う為にまあくんに付き合っている振りをして貰って大須で一緒に遊んでいた事が何故だか校内新聞である夕陽ケ丘便りの記事になっていてそれを撤回して貰う為にまあくんと清須君と一緒に報道部の部室に行ったら昔夏休みの度にお婆さんの家に遊びに来ていて私とまあくんとの3人と偶に麻実ちゃんも一緒に遊んでいたミモちゃんとの偶然の再会を果たしたのだけれども許可を得ずに貼り出されていたその記事自体はミモちゃんの先輩が書いた物だから確認に時間が掛かるかも知れなくてそれを書いたのは藤枝先輩って言われた時にはちょっとイラっとしたんだけどそのタイミングで先輩が丁度顔を出したのでそのイライラをぶつけたら怯えた先輩が全権をミモちゃんに任せたから何も言わずにその場で撤回してくれるかと思ったらミモちゃんったらまあくんとデートしたいって言い出してあのミモちゃんの頼みならと思ってまあくんにデートする様に勧めたらそれを聞いた演劇部の部長の中村初江先輩までまあくんとデートしたいって言い出すとかどんな展開よ私の青春。

 って言うか藤枝先輩、幾ら何でも怯え過ぎじゃないかな、失礼しちゃう。
 とは言え、高校にまあくんを迎えに来ていた天使の様に可愛い私の麻実ちゃんにまで声を掛けていた人なんて、最早どうでも良いのだけれど……。

 ……なんてね。
 結局の処、私がこれまでの人生で興味を持っていたのは、後にも先にもまあくんだけなんだ。
 今のクラスメイトの美浜守君じゃなくて、物心付いた時から小学校5年生の頃まではそれこそ毎日の様に一緒に居た、斜向かいの美浜さんの家のまあくん。
 お母さん同士も古くからの親友らしいから、実際は物心が付くずっと前から一緒に居たんだろうね。

 でもまあくんは小学5年の頃、私の身体が大きく変化し出した位の頃から、何でか少しずつ素っ気無くなって行って、小学6年の中頃には、もう真面に話さない様になってしまった。
 つい最近になって、その時の事をまあくんと話し合えて、今なら私を守る為にやってくれた事なんだって理解出来るし嬉しいのだけれど、当時はそれはもう心にポッカリと大きな穴が開いたみたいになっていた。
 まあくんが動いてくれたそのお蔭で、小学校の間は身体の事を変に弄ってくる男の子は居なくなったんだけど。
 でもさ。
 話を聞いた時、「1人で抱えていないで、言ってよ」とは思ったよ、まあくん。
 ……もっとも、それまで何でも出来てカッコイイまあくんに憧れているだけだった私も悪かったって云うのは、分かっているんだけどね。

 ……その穴が大きくなるのにつれてか胸も勝手に大きくなって行って、中学の頃は私に愛なのか欲なのか何なのか分からないけれど告白をして来る男子達が、皆私の顔よりも胸を見る様になって気持ち悪かったけれど、……今でも身体を見て来る男子の視線を感じると怖くなったり気持ち悪くなったりもするけれど……、その頃には、私を守ってくれるまあくんは、もう居なかった。

 その頃のまあくんは、何だかちょっと暗くなっていて、何をやってもそこそこ。
 前はあんなにキラキラしていたのに、その片鱗も見る事は出来なくなっていた。
 馬が合ったのか、その頃に知り合った清須信行君とは今も仲良くしているみたいだけれども。
 只のクラスメイトのまあくんは、私が校舎裏に呼び出されてこの呪われたおっぱいを見ながらの愛だとかなんだとか美しい言葉で飾られた欺瞞に満ちた告白を――例えば岩崎先輩とかから――されている場面を見掛けても、陰から見守るだけで、決して手を引っ張りに来てはくれなかった。

 悲しかった。
 私のヒーローは、もう居ないんだって。

 それに気付いてからは、自分でしっかりしなくちゃって、勉強とか、スポーツとか、友達作りとか、我武者羅に頑張った。
 お蔭で勉強の成績はトップクラスになれたし、大好きな友達も沢山出来た。
 生まれ変わった私の人生は、順風満帆に思えた。

 ……ただ1つ、子供の頃からまあくんと一緒にやっていて大好きだったバスケが、この身体の所為で苦痛になって行ったのを除けば。

 高校に進学した私は、どうしてもバスケ部に入る気にならず、前に区民会館だったかで部員の作品が展示されているのを見て感動した事が有る美術部に入った。

 この高校を選んだのは、仲が良かったユズがここにするって言ったから。
 ――なんて云うのは、多分、自分自身への言い訳。
 中学の頃に仲が良かった友達なんて、ユズ以外にも何人も居て、その子達は他の高校へ進学したのだし。

 まあくん。

 小さい頃に2人だけで『冒険』と称してちょっと遠出をした時に姿を現したこの高校に心を惹かれた私とまあくんで、「将来、この学校に2人で通おうね」って指切りげんまんをした、その事が忘れられなかったから。
 ……結局のところ、私の行動原理なんて、全部まあくんなんだ。
 中学3年の時、どこの高校に行くのかって云う話を信行君としていた時にまあくんが「夕陽ケ丘高校にしない?」って言っているのが聞こえた時、誰にも見られない様に小さくガッツポーズをしたのは、絶対に、誰にも内緒なのだけれども。

 高校で、同じクラスになって、1カ月半が過ぎた頃。
 先週の火曜日に美浜守君に呼び出された時は、凄く嬉しかったのだけれど、その反面、凄く怖かった。
 今の彼に告白されて若し「付き合ってくれ」って言われたとしても、今の彼とは、付き合えないから。
 ……私が付き合いたいのは、まあくんだから。
 そんな事になったら、私はそれを拒否するしかない。
 そうなったらもう、彼との関係は完全に終わってしまう、と。
 ……色々な感情を押さえていたら態度が冷たくなり過ぎちゃって、ごめんね。

 でも、彼は言ってくれた。
「これからは、子供の頃の様に前向きに生きて行くから。その時は、もう一度考え直して欲しい!」って。
 その間ずっと、私の顔だけを真っ直ぐに見て。

 ――不器用な私を嫌わないでいてくれて、ありがとう――。


 それ以来、彼は本当に頑張っていると思う。
 表情も、中学の時とは比べるべくも無く明るくなったし。

 体育の授業で偶々体育館を男子と女子とで半々に使う事になったあの時、男性の殆ど全員が私の身体を見て来たのが気持ち悪くなって舞台に凭れながら縮こまって震えていたら、昔一緒に読んでバスケをする様になる程に大好きだった漫画の台詞で皆の気を逸らしてくれたの、嬉しかったな。
 言い終わった後、信行君がボールをパスするまで、その手が震えていたのは見逃していないよ。
 ――ありがとう。


 だから。藤枝先輩の件、美浜守君しか考えられなかった。

 まあくんの服のセンスが特殊なのは知っていたから別にそれでも良いと思っていたのだけれど、前日に麻実ちゃんと一緒に服を揃えに行ってくれていた事とか。
 私の事を、ちゃんと考えてくれていた事とか。
 昔私が膨れながら言った事を忘れずに、ちゃんと私の服を誉めてくれた事とか。
 全部が嬉し過ぎて、照れ隠しでその背中を叩いたら、思っていたよりもかなり強くなってしまって、その音に自分で驚いた。

 ……だから、「あの頃みたいに」って提案したんだ。

 そうしたら、守君は完全にまあくんを演じてくれて。
 ずっとモヤモヤしていた事を色々と話せて、嬉しかった。
 あの日の私達は、間違いなくあの頃の“”だった。

 翌日の日曜日は朱音やユズ達と一緒の特に仲の良いグループで出掛けたけれど、前日の余韻で心が何だかフワフワしたままで、ユズに「今日何だかボーっとしてる感じするけど、大丈夫?」なんて突っ込まれてしまったっけ。


 月曜日に学校に行って、守君と信行君に話を聞いて驚いた。
 土曜の大須での事が、学校新聞の記事になっているって。
 私と守君が付き合っているって書かれているって。
 ……仮にそれが事実だったとして、『別に悪い事をしている訳でも無いのに、何で騒がれなきゃならないんだろう』って。
 芸能人の醜聞を素っ破抜いている様な雑誌でも有り得ない。
 幸いにも私の周りの皆は全く信じてはいなかったけれど、仲の良い友達から守君の悪口を聞くのは、辛かった。

 報道部の部室に行く前に、昇降口の所の掲示板で記事を初めて目にして。
 私が怒り心頭に発したのは、守君の事を“陰キャ”って断定して書いていた事。
 『何も知らない癖に、彼は今頑張っているのに』、……って。
 結局それは、信行君には見抜かれていたのだけれども。

 だから、ミモちゃんや中村先輩が彼を評価してくれているのは、純粋に嬉しい。
 ……でも……。

   ▲▲▲

「ねえことり、聞いてる?」
「えっ?」
 金曜日の、お弁当を食べ終わった後の昼放課。
 教室の窓際の自分の席でグラウンドを見ながらボーっとしていた私の意識を、ユズの声がうつつに引き戻した。
「あ、ごめん、ユズ。ちょっと考え事していた。それで、何だっけ?」
「もーっ、しっかりしてよ! 昨日から変だよ? ……んでさ、最近の美浜君って、中学の時には見た事が無い位に生き生きとしていない?」
 ユズの言葉に、内心を読まれた様な気がして、思わずドキッとしてしまう。
「えーっと、……うん、そうかな?」
 動揺は、上手く隠せているかな。
「あれ? 幼馴染のことりなら、気付いているかと思ったんだけど」
「あー、私、中学の時の守は余り知らないから……」
 ……嘘だけれど。
 少なくとも、クラスが同じだった1年と3年の時は、守の方を見ない様にするのに必死だった。
「そんなもん?」
 ユズは私の顔を覗き込んで、あっけらかんと訊いて来た。
「うん、そんなもん! ……それで? 急にそんな話をしてどうしたの?」
 訊いた後、何だか心がざわっ……と騒いだ。

「私、美浜君の事、好きになったかも知れない」

 ……。

 ……。

 ……。


 …………えっ?
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