前向きスタートダッシュ!

秋乃晃

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第十四話・早起き

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 次の日の朝。寝る頃には確かにあったはずのかけぶとんは、ベッドの下に落ちている。これはいつも通り。
「起きてください」
「ん、ん……」
 ねむい。ねむすぎる。まだ寝ていたい。
「まりあさん、朝ですよ」
 でも、起きなくちゃ。起きて、朝ご飯を食べて、歯を磨き、着替えて、学校に行こう。ジョンが起こそうとしてくれているのだ。執事らしい。
「げっ!」
 枕元にある充電中のスマホを見た。午前五時。……えっ、五時?
「早すぎない?」
「十分寝ましたよね」
 学校のある日なら、わたしは七時に起きる。スマホのアラームも七時にセットしているのに、二時間も早い。
「……ジョンくん、怒っている?」
 寝る前より声がトゲトゲしている。なんとなくだけども。人がイライラしているときの声だ。深川区民スポーツセンターでひまりを注意したときと同じ。
「ぼくがねむっていたら、上からこちらが降ってきましたので」
 ジョンは落ちているかけぶとんを拾い上げて、ベッドに置いた。わたしの寝相が悪いせいで、知らず知らずのうちに、迷惑をかけていたらしい。
「ごめんなさい」
 ベッドはひとつしかない。わたしのおとなりに――は、無理無理!
 ジョンは男の子だし、わたしはそう、寝ている間にジョンのことを蹴っちゃうかもしれないし。たとえ女の子だとしても、人が横にいたら、緊張しちゃってねむれないよお。想像しただけで、顔が赤くなっちゃう。
 かといって、おかあさんになんて言えばいいか。悩んでいたら、ジョンから「ぼくは床で寝ることに慣れているので、平気ですよ」と言ってくれた。ラグが敷いてあって、板の間ではないから、何も敷いていないよりは身体が痛くならないと思うけれども。
「いいですよ。悪気があったわけではないのはわかります。それに」
「それに?」
「こわい夢を見ていたので、起こしてもらえてよかった」
「こわい夢かあ」
 わたしなら、それこそ運動会とかマラソン大会とか、体育の授業の夢が、こわい夢かなあ。うまくできないってわかっていることを、夢の中でまでやらないといけないの、イヤだよねえ。
「まあ、大したことではないです」
 そうなのかなあ。ジョンのこわい夢って、なんだろう。ただ、ここで聞いちゃうと、思い出させちゃうよね。気になるけれども、やめておこう。
「そんなことより。これから、毎朝、走る特訓をしますよ」
 こわいことを言われた。
「毎朝!」
 毎朝、って、毎朝……毎日の、朝……。しかも、走る、特訓。
「朝と学校から帰ってきたあと、どちらがいいですか?」
「どちらもイヤだなあ」
 本心で答えたら、ジョンの口がへの字に曲がった。ジョンって意外と感情が顔に出るよね。
「運動会は五月末なのでしょう?」
「そうだけどお」
「なぜ、昨日のお夕飯を作ったのか、覚えていませんか?」
「ジョンくんが、身体作りのためって」
 そうだった。ひまりからのリスペクト、は、料理のおかげで少しだけ改善されている。あのひまりがありがとうと言ってくれたんだもの。うれしいよね。思い出すとニコニコしちゃう。
 もうひとつの、ジョンの転生のほうは、わたしがどれだけがんばって走れるかどうかだ。当日のがんばりのためにも、練習しないといけない。
「食べたなら運動しないと!」
「食べるだけで速く走れるようにならないの?」
「なりません」
「きっぱりと言うねえ」
「練習あるのみです。ほら、着替えて、行きますよ」
 イヤだけど、がんばってみよう。料理のときみたいに、ジョンといっしょなら、うまくいくような気がするんだ。
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