悪役令嬢の姉は、可愛い妹の不幸を絶対に許さない

柚月

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決意の狼煙

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二人が話している間に日は上っており、寝間着から着替えを終えたアイオラはモルガナの手を引いて食堂へ向かった。
そしてその扉を勢いよく開けると、そこには既に着座した父、母、兄の姿。

「おはようございます、父様。母様と兄様もおはようございます。早速ですが、一大事です。」

礼儀正しく挨拶はしたものの、その言葉はいつもより早口で。
しかも通常のアイオラの口調に比べると焦りを含んだようなその言い様に、まずは母のエメラが反応を示した。

「おはよう、アイオラ。朝からそんな殺気立ってどうしたのかしら?」

扉を開けた大きな音とアイオラの様子に父と兄が目を丸くして視線を向けるその傍らで、表情は崩さず穏やかに問いかけるエメラ。
そしてアイオラの背後にモルガナを見つけると、ふと微笑みながら言葉を続ける。

「あら、モルガナも居たのね。早起きできたなんて偉いわ。」
「おはよう、ございます・・・お母様。」
「・・・・・・アイオラ、状況を話しなさい。」

エメラに声を掛けられ、モルガナはすこし躊躇いがちに挨拶を口にする。それまでは良かった。

しかしその瞬間、エメラは気がついてしまったのだ。
モルガナの目が、赤くなっている事に。

その刹那、笑顔は崩さないまでもその目の奥が氷点下まで冷たくなるエメラ。
そして恐らく何かを知っているのであろうアイオラに向けて、鋭い目線と共に問いを口にした。

「モルガナ!?何があった!!?」

そして父のアモンドもエメラの言葉に促されるようにモルガナへと視線を移した事によりその異変に気付き声を荒らげ、更にはオニキスも慌てて立ち上がる。

「アイオラに何かされたのか!?」
「・・・オニキス兄様は、私がモルガナに何かするとお思いで?」
「あ、いや・・・そういう訳では、」

咄嗟にオニキスが口にした言葉に、アイオラの冷たい目線と口調が投げ返される。
それにオニキスが狼狽えている間にも、アモンドとエメラはモルガナの傍へと近付いていた。

「モルガナ、どうしたんだ?可哀想に、こんなに目を真っ赤にして・・・っ」
「何があったか母に教えてご覧なさい。」
「あの、っ・・・その、」

詰め寄られる勢いで問い掛けを重ねられ、思わずたじろぐモルガナ。

「父様、母様、兄様、理由は私から話しますから、一度席へ着いて頂けますか?モルガナが困っていますから。」

見かねたアイオラがモルガナと両親の間に入ると、二人を落ち着けるように元の席へと戻るよう促す。
それにはっとした様子で冷静さを何とか取り戻した三人は、アイオラに促される儘に自席へと座りなおす。

「では、朝食を頂きながらお話しましょうか。モルガナもお腹が空いたでしょう?」

両親と兄が座ったことを確認したアイオラは、モルガナにも座るように声を掛けてから、自分もまた着座して。
それから、モルガナが自分に話してくれた夢の話を、聞いたままに他の家族へと話し出した。


「・・・つまり、私達の可愛いモルガナがあの身分と顔と性格だけは良い王子から蔑ろにされて、」
「父様、全然貶せていません。」
「どこぞの誰かも分からない女の所為で冤罪をかけられて、」
「母様、殺気を仕舞って下さい。」
「挙げ句、処刑される、と?」
「兄様、顔が危険です。」

アイオラは、あくまでも夢の話だと念押しをした。まだ起こっていない、仮想の話である、と。

「しかし、モルガナはそれが自分の未来だと思えるのだろう?そしてアイオラ、お前もそれを確信していると、そういう事なのではないのか?」
「父様の言う通り、確信に近いものを感じています。でも、あくまでも夢は夢は。信に足る確証はありません。」

けれど、と続けるアイオラの目には、強い決意と焔の如く揺れる怒りの色。

「例え夢だとしても私の可愛い妹を泣かせた事実を、許す訳にはいきませんもの。」

だから、どうか協力を。

そう続けるアイオラに、家族の視線が交差する。
アイオラが何を言わんとしているのか、何をしようとしているのか、家族だからこそ察したのだろう。

「そんな夢、そんな未来を私は認めません。ですから、」
「そうね、そんな事など起こる様子さえも無くせばいい事だものね。」

アイオラが全てを口にする前に、緩く口元に笑みを浮かべながらアイオラを、そしてモルガナを見るエメラ。
その視線を受けて、モルガナの表情もまた何かを決意したような表情で家族を見回した。

「私、変わりたいと思います。お母様やお姉様みたいな立派な淑女になって、ステラ様の隣に居て相応しい人物になりたい・・・っ」

強く言葉を発するモルガナを、エメラとアイオラが思わず抱きしめる。

「私の娘がこんなにも可愛いわ」
「私の妹がこんなにも可愛い」

不意に出た二人を褒める言葉は、エメラとアイオラを骨抜きにするには足りすぎていて。
この可愛らしい子をなんとしてでも立派な淑女にしようと固く固く決意を新たにする二人。

その様子を余所に、アモンドとオニキスは貼り付けたような笑みを浮かべながら二人にしか聞こえない程度の声で言葉を交わしていた。

「・・・私の妹達が尊すぎますね、父上。ステラ王子の為にという部分だけが気に入りませんが。」
「あぁ、私の妻子が可愛すぎるな、オニキス。しかし、そうだな。本当にその部分に関しては同意見だ。」
「で、どうしますか?」
「お前は王子の周辺を探れ。私は貴族たちに探りを入れる。幸い、容姿は分かっているんだ。その“夢の女”について調べるぞ。」
「居なければ良し、居ればそれなりの警戒を・・・という事ですね?」
「ああ。」

おおよそ、妻や娘たちには見せられない殺気を込めた視線をアモンドか浮べれば、オニキスもまたアモンドと同じ表情になる。
親子とはかくも似るものなのかと、実はその様子に気付いていたエメラは少しの苦笑を浮かべた。

剣呑な様子に気付かないのは、愛され育ったモルガナと、同じく本人はそこまでとは思っていないが実はモルガナと同じ位に溺愛されているアイオラの二人の娘のみ。
そんな所まで愛おしいとアイオラとモルガナの二人をぎゅぅと抱き締めるエメラもまた、夫や息子と同じように殺気をその瞳の奥に灯していた。


さぁ、舞台は整った。
掛かってくるなら来れば良い。


誰も口にする事はなかったが、この朝、その後の国の動向を左右する一大事に向けた狼煙が静かに上げられたのだ。
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