残念魔族と異世界勇者

真田虫

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第一部 異世界召喚編

新兵器

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 トールと一緒に帰宅した二日後、エティリィが戻ってきた。
 その手には何も持っていない。

「申し訳……ございません……。」

 悔しそうに歯噛みして、血に染まった手を握り締める。
 よく見るとメイド服もそこかしこが土と血で汚れていた。
 いつも返り血の一滴も浴びないエティリィがここまで汚れるのは珍しい。よほど必死だったのだろう。

「ご苦労様エティリィ。報告を。」

 僕の促しにビクッと震えたあと、俯き加減で話始めた。

「はい……。あの後、二人の人間は半日ほどで目を覚ましました。彼らが出発するのを確認後、トール様の腕の捜索に向かったのですが……。森中のウェルフを殲滅し、その腹を裂いても見つけることができませんでした……。」
「そっか。まあ仕方がないね。半日もたった後じゃ、そう簡単に見つかるとも思えないし。」
「申し訳ございません……。あの、それで……トール様は……?」
「トールなら部屋にいるよ。回復薬飲んでも腕が治らないってわかって、ちょっとへこんだ感じだったけど。トールの所行く?」
「はい。やはり直接謝罪をしたいと思います。」

 エティリィは真面目だなあ。今回の件、彼女は何も悪くないと思うんだけどね。
 まあ次の手も考えてあるし、大丈夫でしょ。

 エティリィを伴ってトールの部屋へ。

「トール、起きてる?入るよー。」

 ノックしてからドアを開ける。
 トールは起きていた。立った状態で左肩を上げ、首との間に剣を挟んで構えるという、謎のポーズをとっている。
 目が合うと気恥ずかしそうに構えを解いた。

「おはようございますウィルさん。あ、エティお帰りなさい。ごめんね、こんな長時間面倒なお願いしちゃって。大丈夫だった?」
「おはようトール。どうしたのその構え。なんか格好いいんだけど。肩と首で剣を挟んで居合い抜きでもするの?」
「ふっふっふ。隻腕という現実に身を置くことでしか、手にできないものがあるハズ。俺はそれを探していたんですよ。」
「あ、あの……トール様……。」

 気軽にふざけ合う僕らを退けて、前に出るエティリィ。
 彼女は勢いよく頭を下げると。

「申し訳ございません!トール様の左腕、見つけられませんでしたっ!」

 その顔はまるで叱責に怯える子供のようで、今にも泣きそうになっている。

「いやいやいや、謝るのはこっちだよ。俺が勝手なことしたばっかりに面倒かけちゃってごめん。そんなボロボロになるまで探してくれたんだね。ありがとう。」
「ふ……ふえぇ……。ト、トール様ぁ……。」

 腕を見つけられなかったことでトールに責められる覚悟をしていたのだろうか。
 許してもらえて、ようやく緊張の糸がほどけたか、ついにその場に崩れ落ちて泣き出した。

「あ、トール泣かせた。いけないんだー。」
「え、あれ!?ご、ごめんよエティ。そんなつもりは……。ほら、エティ達が来てくれなかったらそもそも俺はもう死んじゃってたわけだし、本当に二人には感謝してるわけで……。しかもエティにはその後も色々お願いしちゃったし、えーと、うん。ありがとう!」
「うぅ……ぐすっ。も、勿体ないお言葉です……。」

 それにしてもトールは落ち着いてるなあ。
 回復薬を飲んでも治らなかったときは落ち込んでたのに。もう立ち直ってる。
 これは用意しておいた秘密兵器の出番はないかな?

「トールは随分落ち着いてるねえ。もう吹っ切れた感じかい?」
「いやあ、流石に完全に吹っ切れたってわけではないですけど。今回の件に関しては自分の判断が間違っていたとは思わないので。あの二人を助けられて良かったですよ。それにほら、隻腕って強キャラの証みたいなものだし。」
「あー、確かにね。隻眼とか隻腕の人って強いイメージはあるね。」
「あと何より、ここには魔法があるじゃないですか。それなら魔力で動く義手とかありそうな気がしません?」

 うそっ!?トールったらエスパー?
 驚かせようと思って用意しておいたのにばれちゃってる?
 まぁいいか。この性能に驚けばいいよ!

「そんなトールさんに朗報です!トール、新しい腕よ!」

 懐から用意しておいた義手を取り出す。
 金属のような光沢を持ったそれを、トールの失われた腕に押し付ける。

「うえっ!?何ですかこれ!うわ、くっついてるし!」
「ふっふー。これはね、僕が昨日夜なべして作ったトールの義手さ!マジカルパペットがまだ余ってたから、試しに腕だけに魔力を込めてみたら出来ちゃった!どう?動く?」
「え、なんの違和感も無く動くんですけど。どういう原理なんですかこれ。」
「これってば僕の自信作なのさー。トールの魔力の特徴はとっくに掴んでいるからね。あとはそれに似せて魔力を込めればご覧の通り。トールの希望した通り、魔力で動く義手の完成だよ。」

 案外落ち込んでいないトールと、既に義手を用意していた僕。
 そりゃ空気も軽くなるってもんだよね。
 そんな僕らを交互に見ながら、エティリィは複雑そうな顔をしていた。

「ほらエティ、見てよこれ。何故か触感もあるんだけど。義手なのに。しかもゴツくない?格好よくない?」
「は、はいトール様。とってもお似合いです!」
「ちなみにその腕、エティリィ程じゃないけどそれなりに魔力を込めてあるからね。性能は折り紙つきだよ。」
「も、もしかして大砲とかサイ◯ガンとか付いてたりするんですか!?ドラゴンころしくらいなら持てたりするんですか!?いや、むしろこの造形なら錬金術が使えたり!?」

 よほど嬉しいのか、興奮しなから叫ぶトール。
 手首のところをがちゃがちゃしたり、掌を合わせたりしている。

「落ち着いてトール。そんな機能はついていないよ。あ、でも武器はいけるかも。左手だけで持つなら大丈夫じゃないかな。」
「片手専用装備ってなにかありますかね。右手で触った瞬間死ぬとかおっかなくて持てませんよ。」
「そうだねえ。盾を持つくらいが精々かもしれないね。でもその腕、盾必要ないと思うよ。」
「盾が必要ないというと……まさかっ!」
「ふふふふ。そう!その腕は作るときに僕の結界魔法を仕込んでおいたよ!物理的、魔力的な防御は勿論のこと、防水防塵機能、更に防臭までついているのさ!そのままお風呂に入ってもいいし、何かで汚れたりしても軽く拭き取ればさあ元通りな優れものだよ!」
「すっげー!ウィルさんまじすっげー!てことはあれですか!?相手が魔法とか使ってきたら左腕を掲げて、『その幻想をぶち殺す!!』とかできちゃうんですか!?」
「ふふ。喜んでもらえて何よりだよ。大事に使っておくれ。」
「ありがとうございます!家宝にします!」

 当初の予定とはちょっと違っちゃったけど、喜んでもらえたみたい。
 トールも元気だし、エティリィはまだちょっと混乱してるみたいだけどまあいいや。

 マジカルパペットの一部だけをいじれることがわかったのは収穫だった。
 まだ他の部位は残ってるし、うまいことやれば色々作れるかも。楽しみだなー。
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