19 / 35
第十八.五話
しおりを挟む
(暗い……)
そこは真っ暗で自分の姿さえ見えない場所だった。
(そうだ、ウチは咲良の家に泊まりに来たんだった)
直前の記憶を思い出す。
(てことはここは夢の中なんやろか。……それにしても何や寒いな……)
今まで繋がっていた何かから切り離されたような、そんな孤独を感じた。
(こんな時、陽介がおったらな……)
弟の姿を思い浮かべる。
(そうや……陽介や!)
咲良と人捜しをしていたときに違和感を感じ、倒れて目が覚めたときには既に思い出していた。
(何で大事な弟のこと、忘れてたんやろうか)
少し小憎たらしいが、可愛い弟。彼と過ごした時間は日だまりのように暖かだった。
(でも、父ちゃんも母ちゃんも覚えてなかった)
陽介のことを話しても自分たちに息子はいないと言っていた。
自分がおかしくなったと思った。それに、検査が長引くのも嫌だった。だから、勘違いだということにした。
(陽介……)
心の中で、弟の名を呼んだとき。
(……!)
暗闇の中で人の姿が浮かび上がった。
(陽……介……?)
確かに、それは記憶にある陽介の姿だった。
(やっぱり、いたんや……!)
陽介に手を伸ばす。けれど。
(何でや……)
伸ばした手は弟には届かず、空を切った。
(目の前におるのに)
「それは、本当の僕じゃないよ」
声が、聞こえた。
(陽介の声?)
しかし、目の前の陽介は無表情で、何かをしゃべった様子はない。そして、聞こえた声の口調も陽介とは少し違うような気がした。
「そこにいるのはお姉ちゃんの記憶にある僕」
(じゃあ、あんたが本当の陽介?)
「それも、違う。本当の僕は七十六歳で死んじゃった」
(……何を言ってるんや?)
「お姉ちゃんも、もうお姉ちゃんじゃない。本当のお姉ちゃんは十三歳で死んじゃった」
(訳が分からん……)
「ねぇ、お姉ちゃんじゃないお姉ちゃん。僕とお話しようよ」
ちゃぷん。
水の音が聞こえた気がした。
そこは真っ暗で自分の姿さえ見えない場所だった。
(そうだ、ウチは咲良の家に泊まりに来たんだった)
直前の記憶を思い出す。
(てことはここは夢の中なんやろか。……それにしても何や寒いな……)
今まで繋がっていた何かから切り離されたような、そんな孤独を感じた。
(こんな時、陽介がおったらな……)
弟の姿を思い浮かべる。
(そうや……陽介や!)
咲良と人捜しをしていたときに違和感を感じ、倒れて目が覚めたときには既に思い出していた。
(何で大事な弟のこと、忘れてたんやろうか)
少し小憎たらしいが、可愛い弟。彼と過ごした時間は日だまりのように暖かだった。
(でも、父ちゃんも母ちゃんも覚えてなかった)
陽介のことを話しても自分たちに息子はいないと言っていた。
自分がおかしくなったと思った。それに、検査が長引くのも嫌だった。だから、勘違いだということにした。
(陽介……)
心の中で、弟の名を呼んだとき。
(……!)
暗闇の中で人の姿が浮かび上がった。
(陽……介……?)
確かに、それは記憶にある陽介の姿だった。
(やっぱり、いたんや……!)
陽介に手を伸ばす。けれど。
(何でや……)
伸ばした手は弟には届かず、空を切った。
(目の前におるのに)
「それは、本当の僕じゃないよ」
声が、聞こえた。
(陽介の声?)
しかし、目の前の陽介は無表情で、何かをしゃべった様子はない。そして、聞こえた声の口調も陽介とは少し違うような気がした。
「そこにいるのはお姉ちゃんの記憶にある僕」
(じゃあ、あんたが本当の陽介?)
「それも、違う。本当の僕は七十六歳で死んじゃった」
(……何を言ってるんや?)
「お姉ちゃんも、もうお姉ちゃんじゃない。本当のお姉ちゃんは十三歳で死んじゃった」
(訳が分からん……)
「ねぇ、お姉ちゃんじゃないお姉ちゃん。僕とお話しようよ」
ちゃぷん。
水の音が聞こえた気がした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる