2 / 25
第二糞
しおりを挟む
あれから一週間がたち、「stool(ストゥール)池谷」というニックネームもすっかり定着した。因みにストゥールとは英語で大便を意味している。とてもオシャレだ。
「くそぉ……くそぉ……俺じゃないのに……俺じゃないのにぃ!」
和人は恨み節を唱えながら便所飯を決め込んでいると、ふと外に人の気配を感じた。なぜ便所の個室にこもっているはずの和人が、便所の外の気配を感じ取れたのか。それは、あれ以来他人の一挙手一投足に敏感になってしまったからだった。
今だって、なるべく人が来ない穴場の便所を使っている。掃除も行き届いていなく、臭い。
和人は弁当をかっ食らうと、偽装のために髪を整えながら便所を出た。まさか大便をしているなどど思われてはいけない。
そして、さりげなく周囲をうかがう。
すると、物陰からこちらを覗いているやつを見つけた。しかし、見つからないようにしている訳ではないのか、そこから動こうとしない。
(あれは……佐藤さん?)
それはクラスメイトの佐藤さん(女)だった。
最近、誰かに見張られているような気配を感じていたが、それは彼女だったのかもしれない。
(何のために? スパイ? それともパパラッチか? いや、これは……)
とにかく、触らぬ神に祟りなしだ。なるべく自然にやり過ごすことにした。
「あーつらいわー梅雨だから髪型決まんなくてまじつらいわー」
完璧だ。
そう思って佐藤さんの前を通り過ぎると、彼女に動きがあった。
(つけてくる……だと!?)
試しに歩くスピードを変えてみるが、彼女は機械のように誤差なくつけてくる。和人は思考する。
(最近の気配、監視、尾行……まさか!)
もう、疑う余地もない。これは。彼女は。
(俺のことが好きなんだ!)
和人は己の推理力に酔いしれた。
(どこだ、どこでフラグが立った!? ……いや、そんなことはどうでもいい。地味だと思っていたがよく見れば可愛いじゃないか。愛しの楠さんに嫌われてしまった今、このフラグを回収しない手はないはずだ)
後ろをチラ見すると、彼女はブラウスの内ポケットに手を忍ばせている。
(ラブレターか? 古風だな。だが、そこがいい!)
和人は立ち止まり、思い切って振り返った。
「佐藤さん」
突然声をかけられ驚いている佐藤さんに向かって、和人は言い放った。最高の決めポーズとともに。
「俺は、全然OKだよ」
決まった。これは完全に決まった。全米がそう確信し、彼女の言葉を待った。
「あ、あの……大丈夫ならいいんだけど。でもやっぱり心配で……」
(心配?この期に及んで何の心配があるというんだ?)
「あ、あの……これ!」
「これは?」
佐藤さんが内ポケットから取り出し、手渡してきた物を見ると、それは手のひらサイズの箱だった。パッケージには「つらい便秘に」と書かれている。
「そ、その……便秘薬なんだけど、私も、そうだから……が、頑張って!」
佐藤さんはポニーテールを揺らしながら走り去っていった。
和人は便秘薬を見つめながらそっとつぶやいた。
「佐藤さん、便秘だったんだ」
気づけば、憂鬱な梅雨の空に小さな晴れ間が覗いていた。
「くそぉ……くそぉ……俺じゃないのに……俺じゃないのにぃ!」
和人は恨み節を唱えながら便所飯を決め込んでいると、ふと外に人の気配を感じた。なぜ便所の個室にこもっているはずの和人が、便所の外の気配を感じ取れたのか。それは、あれ以来他人の一挙手一投足に敏感になってしまったからだった。
今だって、なるべく人が来ない穴場の便所を使っている。掃除も行き届いていなく、臭い。
和人は弁当をかっ食らうと、偽装のために髪を整えながら便所を出た。まさか大便をしているなどど思われてはいけない。
そして、さりげなく周囲をうかがう。
すると、物陰からこちらを覗いているやつを見つけた。しかし、見つからないようにしている訳ではないのか、そこから動こうとしない。
(あれは……佐藤さん?)
それはクラスメイトの佐藤さん(女)だった。
最近、誰かに見張られているような気配を感じていたが、それは彼女だったのかもしれない。
(何のために? スパイ? それともパパラッチか? いや、これは……)
とにかく、触らぬ神に祟りなしだ。なるべく自然にやり過ごすことにした。
「あーつらいわー梅雨だから髪型決まんなくてまじつらいわー」
完璧だ。
そう思って佐藤さんの前を通り過ぎると、彼女に動きがあった。
(つけてくる……だと!?)
試しに歩くスピードを変えてみるが、彼女は機械のように誤差なくつけてくる。和人は思考する。
(最近の気配、監視、尾行……まさか!)
もう、疑う余地もない。これは。彼女は。
(俺のことが好きなんだ!)
和人は己の推理力に酔いしれた。
(どこだ、どこでフラグが立った!? ……いや、そんなことはどうでもいい。地味だと思っていたがよく見れば可愛いじゃないか。愛しの楠さんに嫌われてしまった今、このフラグを回収しない手はないはずだ)
後ろをチラ見すると、彼女はブラウスの内ポケットに手を忍ばせている。
(ラブレターか? 古風だな。だが、そこがいい!)
和人は立ち止まり、思い切って振り返った。
「佐藤さん」
突然声をかけられ驚いている佐藤さんに向かって、和人は言い放った。最高の決めポーズとともに。
「俺は、全然OKだよ」
決まった。これは完全に決まった。全米がそう確信し、彼女の言葉を待った。
「あ、あの……大丈夫ならいいんだけど。でもやっぱり心配で……」
(心配?この期に及んで何の心配があるというんだ?)
「あ、あの……これ!」
「これは?」
佐藤さんが内ポケットから取り出し、手渡してきた物を見ると、それは手のひらサイズの箱だった。パッケージには「つらい便秘に」と書かれている。
「そ、その……便秘薬なんだけど、私も、そうだから……が、頑張って!」
佐藤さんはポニーテールを揺らしながら走り去っていった。
和人は便秘薬を見つめながらそっとつぶやいた。
「佐藤さん、便秘だったんだ」
気づけば、憂鬱な梅雨の空に小さな晴れ間が覗いていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる