R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希

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世知辛い世の中にサヨナラを2

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「っ、はい」


(――やはり、今日の王子は)


 いつもと何かが違う、とエンケラドゥスは思う。


 それは、カノープスが醸す空気であったり。

 その言動の力強さにあるのだと、頭では分かっているのだが。


 見た目はエンケラドゥスが日頃から目にしてきた容姿、そのもので。

 寸分違わぬ立ち姿と声をしているのに、その中身となる

『カノープス=ジュール=ハインリッヒ』

 という、核となる人格に対する違和感が拭えず、思考の糸が複雑に絡み合い続けていて、冷静に考える隙を与えてもらえず、戸惑っていた。

「着いたぜ、カノー…スピカ!」

 バチンッ、という音が聞こえそうなほどのウインクをカノープスにして見せたアルデバランは、さも当たり前、と言わんばかりの仕草でカノープスに手を伸べる。


(…『お手をどうぞ、お姫さま』ってか?)


 幼馴染み、竹馬の友。


 全く一方的な話ではあるが、カノープスの自称・親友を豪語しているアルデバランなのだが。

 王族騎士として召し抱えられるに当たり、王家の遠戚に当たる侯爵家へ養子として迎え入れられたもののその態度は市井暮らしの頃から変わらず、横柄だった。


『貴族らしい振る舞いをなさい』


 家柄も考慮し、その名に相応しい言動をするようにと忠言され続けているのだが。


『おれの性に合わん』


 その一点張りを押し通し。

 今尚、

『おれが守るべき人を優先して、何が悪い』

 と言って、『王子』という敬称つきでカノープスが呼ばれるようになって以降も、こうしてべったりと貼りつくようにしてアルデバランはカノープスを護り続けていた。


(まぁ、それも)


 明日の夜会でレグルスと出会ったことで一変してしまうのだが。


「ありがとう、アルデバラン」


 楓としては、

『オンナ扱いしてんじゃねぇよ!』

 とでも言って、差し伸べられた手を拒みたい所なのだが。


 明日以降、こんな風に扱われることは二度とない、という思いから、笑顔で伸べられた手のひらに指先を委ね、力強い腕で支えてくれるアルデバランを頼り、馬車から外へ出た。


「わ、ぁ…!」


(画面越しで見てた時も思ったけど…っ)


 生き生きとした表情をした人々が行き交う街並みは美しく、道沿いに飾られた花々に彩られた景色は、とても美しかった。



.
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